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大学・研究所にある論文を検索できる 「En face slab OCT imagingは糖尿病眼における網膜最内層の進行性変性をモニタリングできる」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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En face slab OCT imagingは糖尿病眼における網膜最内層の進行性変性をモニタリングできる

Katsuyama, Atsuko 神戸大学

2020.03.25

概要

糖尿病の罹患率が世界的に上昇している中で、糖尿病関連合併症をいかに減らすかが注目されている。糖尿病網膜症は糖尿病合併症において最も頻度が高く、重篤な視機能障害をきたす主因である。糖尿病網膜症で認められる病的変化は不可逆的であると考えられていることから、その予防と早期発見、早期治療が糖尿病患者における視機能維持のために重要と思われる。糖尿病眼では臨床的に血管障害を認める以前に組織学的かつ/または機能的な網膜変化が生じていることを示す報告は多数あるが、現在の糖尿病網膜症の診断は網膜血管障害が進行した結果生じる眼底所見が基準となっており糖尿病発症早期の網膜神経変性を適切に評価できていない可能性がある。

糖尿網膜神経変性では網膜内層が早期に障害されやすいとされている。多局所網膜電図などの他覚的機能検査は糖尿網膜神経変性を客観的に評価する理想的な手段の一つであるが、時間と侵襲の問題がありルーチンの検査として行うのは難しい。一方、スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)では素早く非侵襲的に詳細な網膜 3 次元画像が取得できることから臨床で広く使用されている。SD-OCT を用いて糖尿病網膜神経変性における構造変化を評価した報告ではすべて網膜の厚みに注目しているが、厚みとは異なる光学特性の変化に着目した報告はこれまでになかった。

SD-OCT では網膜における一定の厚みの光学特性を画像化する en face slab OCT imaging が可能である。我々を含めて複数のグループが緑内障や硝子体手術後の黄斑部網膜最内層の評価における en face slab OCT imaging の有用性を報告しており、en face slab OCT imaging が糖尿病網膜神経変性の評価にも応用できるのではないかと考え本研究を計画した。

方法
神戸大学病院を 2008 年 9 月から 2014 年 9 月までに受診し、糖尿病または糖尿病網膜症と診断された患者のうち、3 年以上経過観察でき、ベースラインと最終受診時の Cirrus-HD光干渉断層計 (OCT)画像が取得できた 72 例 72 眼を対象とした。除外基準は糖尿病黄斑浮腫がある症例(中心網膜厚>350μm)、硝子体手術既往、経過観察期間中の内眼手術歴、糖尿病網膜症を除く眼底疾患を有する症例、OCT 画像の質が不良であるもの、とした。患者の年齢、性別、糖尿病網膜症ステージ(国際基準)、最高矯正視力(logMAR 視力)、Cirrus HD-OCT 画像の情報、経過観察期間、経過観察期間中の糖尿病網膜症に対する治療、を診療録より抽出し後ろ向きに解析した。

Cirrus HD-OCT で内境界膜から 20μm 厚の en face slab OCT 像(黄斑部の中心を中心とした 200×200 ピクセルから成る疑似カラー像で、各ピクセルはその箇所の網膜最内層 20 μm 中の平均OCT 反射強度を示す)を取得した。我々は、en face slab OCT 像における暗色領域の割合に応じてグレード分類を行った。すなわち、グレード 0: <1/4、グレード 1: ≥ 1/4 and <1/2、グレード 2: ≥1/2 and <3/4、グレード 3: ≥3/4 と定めた。より詳細な解析のために、Image J を用いて en face slab OCT 像に含まれる赤、緑、青の割合を計測し、color area ratio と定めた。正常網膜の網膜最内層では高反射成分が多く含まれることから en face slab OCT 像では赤の成分が多く、網膜内層障害が生じると青の成分が増えることが予想される。本研究では糖尿病ステージ毎に color area ratio の平均値を比較した。また同一眼における 3 年以上の長期経過における color area ratio の経時的変化も併せて評価した。

動物実験では、膵β細胞特異的に Pdk1 が欠損し、インスリン分泌不全から高血糖に至る糖尿病モデルマウス(InsPr-CreTg/+; Pdk1flox/flox [βPdk1–/–])のオスを用いた。20 週時に眼球を摘出し網膜伸展標本及び凍結切片を作成し、β3-tubulin、Laminin、CD31、αSMA、GFAP、Fibronectin、Type4 collagen について免疫染色を行った。

結果
糖尿病患者 72 例のベースラインデータは、平均年齢 62.2±12.5 歳、男性 46 例(64%)、2 型糖尿病 69 例(96%)、糖尿病の平均罹病期間 15.3±8.5 年、糖尿病網膜症の平均罹病期間 4.4±4.1 年、平均 HbA1c(NGSP) 7.37±1.23%であった。糖尿病症腎症はステージ 1 が 6 例(8%)、ステージ 2 が 27 例(38%)、ステージ3が11例(15%)、ステージ4が5例(7%)、ステージ5が1例(1%)、不明が22例(23%)であった。糖尿病網膜症のステージは網膜症なし22例(31%)、軽症非増殖糖尿病網膜症9例(13%)、中等症非増殖糖尿病網膜症13例(18%)、重症非増殖糖尿病網膜症8例(11%)、増殖糖尿病網膜症17例(24%)、不明3例(4%)であった。平均logMAR 視力は0.036±0.159、平均中心網膜厚は260.9±35.4μm、平均黄斑体積は10.46±1.05mm3、汎網膜光凝固術の既往ありが18例(25%)であった。

ベースライン時の en face slab OCT グレードは糖尿病網膜症ステージの進行とともに有意に増加した(p=0.018)。Color area ratio については、糖尿病網膜症の進行とともに「赤」が有意に減少し(p=0.006)、「青」が有意に増加した(p=0.003)。「緑」については網膜症ステージ間で有意な変化を認めなかった(p=0.295)。平均 4.6±1.5 年の経過観察後、糖尿病腎症及び網膜症のステージは有意に進行し、中心網膜厚と黄斑体積は有意に減少した。HbA1c と logMAR 視力については有意な変化を示さなかった。経過観察期間中、72 眼中 30 眼(42%)に汎網膜光凝固が施行され、9 眼(13%)は黄斑浮腫を合併した。経過観察中に治療を行わなかった 42 眼では、en face slab OCT グレードの割合(グレード 0/1/2/3)はベースラインの 28%/42 % /26 % /4% から経過観察後の 15%/46%/26%/13% へと有意に悪化した(p<0.001)。ベースラインと比較し、経過観察後のcolor area ratio は「赤」が有意に減少し (p=0.001)、「緑」に有意な変化がなく(p=0.057)、「青」は有意に増加した(p<0.001)。ベースラインの logMAR 視力と color area ratio との相関解析では、「赤」と有意な負の相関、「青」と有意な正の相関をそれぞれ認めた(暖色が多いほど視力が良好であることを示している)。

次に、en face slab OCT 像が描出する異常の病態を探索する目的で、糖尿病モデルマウス(βPdk1-/-)の網膜を解析した。20 週齢では糖尿病マウス(βPdk1-/-)はコントロールマウスと比較し、β3-tubulin で免疫染色される神経節細胞軸索束の有意な狭細化と、網膜最内層の Laminin 厚の有意な菲薄化を呈していた。網膜伸展標本の免疫染色では、CD31 陽性血管内皮細胞、αSMA 陽性壁細胞、そして GFAP 陽性アストロサイトについて、コントロールマウスと DM マウスとの間に顕著な差はみられなかった。また、糖尿病マウスの凍結切片免疫染色において、その他の細胞外マトリックス(Fibronectin、Type4 collagen)に明らかな変化を認めなかった。

考察
糖尿病眼における網膜神経変性を捉える方法はいくつかある。例えば、Pinilla らは糖尿病網膜症のない 1 型糖尿病患者について OCT で網膜厚を測定し、8 年後の網膜内層の菲薄化の程度が健常コントロールと比較し顕著であったと報告している。我々は糖尿病患者の
en face slab OCT 像を 3 年以上フォローアップしたところ、OCT グレードと色分布の解析のどちらにおいても統計学的に有意な変化(悪化)を認めた。この結果からは en face slab OCT imaging が網膜神経変性の経過観察に有用であると思われる。

中心視力及び中心網膜厚は網膜硝子体疾患の評価において広く用いられている。そこで、 en face slab OCT 像とこれらの相関を調べたところ、logMAR 視力は「赤」の color area ratioと弱い負の相関を示したものの中心網膜厚は en face slab OCT 像と有意な相関を示さなかった。このことは en face slab OCT 像が視機能をある程度反映するが網膜厚とは異なる指標であることを示唆している。OCT で視力との相関が報告されているのは ellipsoid zone(EZ)、外境界膜(external limiting membrane: ELM)、disorganization of retinal inner layer(DRIL)である。EZ と ELM は網膜外層の視細胞の健常性の指標であり、DRIL は網膜内層の構造障害を示している。いずれも視力とよく相関するが、それゆえに重篤かつ不可逆的な網膜障害のマーカーであるともいえる。一方、本研究での平均 logMAR 視力が 0.036 と良好なことからも分かるように、en face slab OCT 像における色分布は糖尿病網膜症早期の網膜神経変性を反映する新しい指標であると思われる。

我々は、糖尿病モデルマウス(βPdk1-/-)を用いて、糖尿病網膜症早期の網膜内層変化を調べた。20 週齢で、βPdk1-/-マウスはコントロールマウスと比較し神経節細胞軸索束の狭細化、網膜最内層の Laminin 厚の菲薄化を認めたが、網膜血管、壁細胞、アストロサイトには明らかな変化を認めなかった。糖尿病モデルマウスを用いた既報では網膜神経変性の発症に関して一貫性がないが、我々の糖尿病モデルマウスは表現型に再現性があり個体差が少なかった。Laminin は網膜最内層を構成する細胞外マトリックスの主成分であることが人眼を用いた既報で示されている。脳では Laminin は壁細胞の分化を制御することで血液脳関門の正常状態を維持している。壁細胞の喪失や血液網膜関門の破綻は糖尿病網膜症発症の一因であることから、本研究でみられた Laminin 厚の菲薄化は糖尿病網膜症の早期に生じていると思われる。視覚光学的には、神経節細胞軸索も Laminin も OCT では高反射を呈し、en face slab OCT 像で高反射領域として描出されると思われる。したがって、en face slab OCT 像で暗色としてみられる領域では神経節細胞軸索や Laminin が減少していると思われる。構造と機能の解離は緑内障や視神経炎といった眼疾患で時折みられるが、本実験では神経節細胞軸索束の狭細化と Laminin の菲薄化が同時に生じていることから、現在の臨床でよく用いられている「厚み」のみに基づいた構造変化の評価には限界があると思われる。

本研究のlimitation は後ろ向き研究であること、糖尿病眼の網膜最内層の神経の状態に影 響を与えうる眼局所、全身の因子が含まれていること、サンプルサイズが小さいことである。要約は以下のとおりである。En face slab OCT imaging は糖尿病眼における網膜最内層の微細な変化を捉えることができた。En face slab OCT 像の変化は糖尿病網膜神経変性のバイオマーカーとして有用であるかもしれない。糖尿病網膜神経変性では細胞外マトリックスと神経の両方に障害が生じていると思われる。

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