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大学・研究所にある論文を検索できる 「単純ヘルペスウイルス1型による細胞間感染の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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単純ヘルペスウイルス1型による細胞間感染の解析

渡邉, 瑞季 東京大学 DOI:10.15083/0002002344

2021.10.13

概要

本研究の研究対象である単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1: Herpes Simplex Virus1)は、ヘルペスウイルス科のαヘルペスウイルス亜科に属し、約150kbpの直鎖状2本鎖DNAをゲノムとして有するDNAウイルスである。HSV-1はヒトに脳炎、角膜炎、皮膚炎、口唇ヘルペスおよび性器ヘルペスなどの様々な病態を引き起こす。HSV感染症には、アシクロビルなどの抗HSV薬が存在するが、脳炎患者の約70%は社会復帰できないか、死亡する。また、再発を繰り返し、特に水平・垂直伝播する性器ヘルペスは、患者にとって大きな精神的苦痛を伴う。既存の抗HSV薬では、HSV感染症の根治は不可能であることから、HSVを体内から排除できるような新たな治療薬および治療法の確立が望まれており、HSVの増殖、生体内伝播、潜伏感染機構に関する詳細は依然として解析する必要がある。

 HSV-1には、細胞間感染という特徴的な感染様式がある。HSV-1の細胞間感染では、細胞内で感染性を獲得した成熟ウイルス粒子が直接細胞間を介して、効率良く、隣接する標的細胞に感染する。特に生体内では、HSV-1は細胞外に放出されるウイルス粒子をほとんど形成せず、主に細胞間感染を介して拡散すると考えられている。また、細胞間感染では、宿主免疫機構がウイルス粒子にアクセスしづらいため、免疫回避にも有利であるとされている。したがって、細胞間感染のメカニズムを解明することは、ヘルペスウイルスの病態の理解や感染制御に必要不可欠な要素であると考えられる。

 HSV-1がコードする膜糖タンパク質の一つにglycoprotein E(gE)がある。gE欠損は、single stepでのウイルス増殖自体は変化させず、プラークサイズを大幅に低下させることなどから、gEは細胞間感染に関与すると考えられてきた。また、αヘルペスウイルス亜科の一つである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)では、培養細胞でのウイルス伝播のほぼ100%を細胞間感染に依存するとされている。VZVの増殖にはgEが必須であることからも、gEの細胞間感染における重要性が想像される。実際に、HSV-1感染細胞においてgEは細胞膜近傍に集積する。重要なことに、電子顕微鏡下での解析において、野生型HSV-1を感染させた極性細胞ではウイルス粒子は細胞間に蓄積するが、gE欠損ウイルスを感染させた場合は細胞間のウイルス粒子がほぼ認められなくなる。すなわち、gEはHSV-1粒子の細胞内輸送を制御していることが想像される。しかし、現在までにgEが細胞間感染を促進するメカニズムを具体的に説明する報告はない。本研究では、i)gE/gI複合体を質量解析に供することで、gE/gIと相互作用する宿主因子を網羅的に同定し、ii)HSV-1感染時に小さなプラークを形成する細胞と、大きなプラークを形成する細胞と比較解析することで、プラークサイズに影響を与える宿主因子を探索した。これら2種類のスクリーニングから、HSV-1細胞間感染を促進する宿主因子として”Ge binding protein(以下EBPと記す)”に着目した。gE/gIがEBPとどのように相互作用し、細胞間感染を促進しているかを明らかにすることによって、HSV-1が効率よく細胞間感染を引き起こす分子メカニズムを解明することを目的として本研究を遂行した。

 EBPとgEは共沈降し、また、HSV-1感染細胞でEBPとgEは共局在した。さらに、EBPの外来性発現により、gE依存的にHSV-1の細胞間感染が促進された。一方、EBPの発現抑制により細胞間感染が阻害され、また、細胞表面のウイルス粒子の減少、細胞質における成熟ウイルス粒子の蓄積が認められた。これらのことから、EBPはHSV-1の細胞間感染を促進することが示唆された。

 EBPは一部の細胞内カスケードの活性化に必須であるとされている。EBPに結合し、細胞内カスケードを阻害する低分子化合物であるEBP阻害剤の処理は、HSV-1の細胞間感染を阻害した。また、細胞内カスケードの活性化因子は、野生型HSV-1のプラークサイズには影響を与えなかったが、一方で、gE欠損型HSV-1のプラークサイズを増大させた。EBP阻害剤と細胞内カスケードの活性化因子の同時処理は、いずれのウイルス感染においても活性化因子のみの処理に比べてプラークサイズが有意に低下した。すなわち、活性化因子処理によりgEの機能は代替され、また、その機能の代替は、EBPおよびこの細胞内カスケードに依存していると考えられる。

 本研究では、gEと相互作用し、細胞間感染を促進する宿主因子としてEBPを同定した。gE欠損、EBPの発現抑制およびEBP阻害剤処理がいずれもHSV-1の細胞間感染を抑制したため、gEとEBPの相互作用は、成熟ウイルス粒子が細胞内を輸送される過程に寄与していると考えられる。また、gE欠損時のプラークサイズの低下は、細胞内カスケードの活性化によって補われることから、HSV-1感染細胞ではgEとEBPの相互作用により、細胞内カスケードが活性化することによって、成熟ウイルス粒子の細胞内輸送が促進されていることが想像される(図1)。

 HSV-1感染細胞では非感染細胞と異なり、gEが、何らかのユニークなメカニズムで細胞内カスケードを活性化しているのではないかと考えられる。また、EBPやこの細胞内カスケードは真核細胞や脊椎動物に広く保存されている。したがって、これらの阻害剤は、HSV-1をはじめとした、細胞間感染によって伝播するウイルス感染症の治療薬になり得ると考えられる。

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