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大学・研究所にある論文を検索できる 「胃底腺型胃癌の内視鏡治療および網羅的遺伝子発現解析の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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胃底腺型胃癌の内視鏡治療および網羅的遺伝子発現解析の検討

深川, 一史 東京大学 DOI:10.15083/0002005027

2022.06.22

概要

胃底腺型胃癌(Gastric adenocarcinoma of fundic gland type)は、2007年に初めて報告され、2019年には消化器系腫瘍のWHO分類第5版においても追記され、広くその存在が知られるようになった。現在までに100例ほどの報告があるのみではあるが、その臨床病理学的特徴は次第に明らかにはなってきた。しかしながら、その分子生物学的な背景については不明な点が多く、体系的な分子生物学的解析が必要である。

胃底腺型胃癌は、胃底腺細胞への分化を伴う低異型度の分化型腺癌と認識されている。臨床病理学的特徴として、胃のU、M領域の胃底腺領域に多く存在し、平均腫瘍径は10㎜程度と小さい。また粘膜深層の胃底腺領域から発育することから、腫瘍径は小さくとも容易に粘膜下に浸潤すると言われている。しかしながら、静脈侵襲やリンパ管侵襲は稀であり、さらに初回発見時より5年近く経って治療した症例や12年経って治療した症例においても脈管侵襲、リンパ節転移もなく切除できていることなどから、通常型の胃癌と比較して低悪性度の腫瘍と考えられている。

当院での胃底腺型胃癌の臨床病理学的特徴を明らかにするため、2014年から2017年に当院において胃癌に対して粘膜下層剥離術を施行した704例について胃底腺型胃癌15例と通常型胃癌689例に分けて比較検討した。胃底腺型胃癌の腫瘍径の中央値は7mm(3-11mm)であり、通常型胃癌の中央値20mm(5-65mm)と比較し有意に小さかった(P0.001)。また病変局在についてはU領域に11/15例と最も多く、次いでM領域4/15例であり、L領域には認めなかった。さらに、U領域を細分化すると穹窿部に多く存在した(P<0.001)。深達度においては、胃底腺型胃癌では粘膜下層への浸潤症例が有意に多かった。しかしながら、静脈侵襲やリンパ管侵襲は認めなかった。以上より当院での胃底腺型胃癌の症例についても既報と矛盾しないような結果であった。

本研究では胃底腺型胃癌の分子生物学的特徴を解明すべく網羅的遺伝子発現解析を行い、バイオインフォマティクス解析を通じて、胃底腺型胃癌に発癌メカニズムに迫ることを第1の目的とした。また、免疫組織学的検討を通じて胃底腺型胃癌に特異的な遺伝子マーカーの同定を行うことを第2の目的とした。

2017年5月1日~2019年7月31日までで、東京大学医学部附属病院において消化器内科医師によってESDを施行した症例の中で、事前の生検で胃底腺型胃癌と診断された症例を前向きに集積した。全ての症例は検体採取の前に書面で同意書を取得した。期間中に5症例の胃底腺型胃癌症例の集積に成功した。新鮮凍結された内視鏡生検検体から全RNAの抽出を行った。十分な精度のRNAを抽出できなかった2例を除外し、胃底腺型胃癌の網羅的遺伝子発現解析(計58201probe)を行った。

胃底腺型胃癌3症例の腫瘍部と正常部ならびに、高分化型腺癌の腫瘍部と正常部について平均値+2SDで得られた2390probeに対してクラスター解析を行った。結果は、胃底腺型胃癌(腫瘍部+正常部)、高分化型腺癌(腫瘍部)、高分化型腺癌(正常部)の3群に明瞭にクラスタリングされた。胃底腺型胃癌の腫瘍部と正常部については、明瞭にクラスタリングされなかった。胃底腺型胃癌で腫瘍部と正常部の発現量の変化が2倍以上増加、または減少しているprobeに対する機能解析の結果、胃底腺型胃癌においてSecreted、Signal、Glycoprotein、Disulfide bond、extracellular regionが腫瘍部で有意に上昇していた(P<0.001)。KEGG pathwayにおいては、既知のoncogenic pathwayは検出できなかった。

GSEA(Gene Set Enrichment Analysis)のC2curated gene setを用いた解析で、胃底腺型胃癌とVECCHI GASTRIC CANCER EARLY UPとの相関はES(Enrichment Score)=0.32、P=0.49であり、VECCHI GASTRIC CANCER EARLY DNと正常部との相関はES=0.42、P

胃底腺型胃癌の腫瘍部で正常部と比して発現量が大きな上位30遺伝子を抽出した。抽出した30遺伝子に対して、ネットワーク解析を行い、3つのネットワークが抽出された。そのうち、胃高分化型腺癌で発現上昇がないものはNKX2-1、SFTPB、SFTPC、SCGB3A2を含むネットワークのみであった。NKX2-1、SFTPB、SFTPC、SCGB3A2はそれぞれ正常粘膜と比較して、発現量の差(log2換算)が3.31倍、5.3倍、4.37倍、3.77倍であった。このうち、SFTPB、SCGB3A2は全ての症例において腫瘍部で正常粘膜より発現が上昇していることが確認された。

SFTPB、SCGB3A2に加えて、すべての症例において正常粘膜と比較して腫瘍部で発現上昇していたSIX1、ASB4の抗体を用いて免疫組織学的評価を行った。SFTPB(P<0.001)においては腫瘍部で有意な染色が認められた。SCGB3A2、ASB4の有用性は確認できなかった。

本研究では胃底腺型胃癌において初めて網羅的遺伝子発現解析を施行し、胃底腺型胃癌における遺伝子発現プロファイルを明らかにし、その意義が高い。また、これまで指摘されていない遺伝子マーカーを同定し、免疫組織学的評価を通じてその結果を検証することに成功した。

本検討で、着目したNKX2-1は、TTF-1(thyroid transcription factor)ともよばれ、肺、気管、甲状腺に特異的に発現するホメオドメイン転写因子であり、その発生・分化に重要な役割を果たしており、末梢肺においてはSFTPA、SFTPB、SFTPC、SCGB3A2などを分泌する。肺腺癌においては、NKX2-1は特異的ながん遺伝子であり、他臓器癌との相関については甲状腺癌以外、明らかにされていない。マイクロアレイに提出した胃底腺型胃癌でNKX2-1の発現が見られなかった症例と比較し、NKX2-1の発現が見られる症例では、その下流遺伝子であるSFTPB、SFTPC、SCGB3A2の発現上昇も確認され、NKX2-1関連遺伝子が胃底腺型胃癌において重要な役割を果たしている可能性が考慮された。特にその中でも、SFTPBが胃底腺型胃癌に有用なマーカーである可能性も示唆された。

また、進行胃癌において過剰発現することが知られているSIX1も胃底腺型胃癌に有用なマーカーである可能性も示唆された。