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大学・研究所にある論文を検索できる 「脱ユビキチン化酵素TRE17/USP6によるCD147の輸送制御を介した腫瘍細胞の浸潤促進機構」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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脱ユビキチン化酵素TRE17/USP6によるCD147の輸送制御を介した腫瘍細胞の浸潤促進機構

小倉, 由希乃 筑波大学

2022.11.24

概要

目的:細胞表面上に発現する膜タンパク質を介したシグナル伝達の調整は細胞機能と生命活動において重要であり、この調節異常は腫瘍を含む様々な疾患に関わる。膜タンパク質の細胞表面上における発現量は、細胞内への取込み(エンドサイトーシス)とその後の細胞内輸送により厳密に制御されている。取り込まれた膜タンパク質はリソソームに運ばれ分解を受けるか、膜へとリサイクリングされて再利用される。これまでに著者の所属する研究室では、脱ユビキチン化酵素TRE17/USP6が、クラスリン非依存性エンドサイトーシス(clathrin-independent endocytosis: CIE)によって取り込まれる細胞膜タンパク質(CIEカーゴ)を脱ユビキチン化することにより、リサイクリングを促進することを明らかにした。TRE17はEwing肉腫により同定された癌遺伝子であり、浸潤能の高い癌や腫瘍性病変に高発現することが報告されている。しかしながら、腫瘍細胞の浸潤におけるTRE17の輸送制御の機能は不明であった。最近新たに報告されたCIEカーゴであるCD147は、細胞外マトリックスを分解する酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の産生誘導を介して腫瘍の浸潤・転移の中心として働く膜タンパク質である。本研究では、TRE17がCD147をターゲットとして輸送を制御する可能性に着目し、腫瘍細胞の浸潤におけるTRE17を介した輸送制御の機能を明らかにすることを目的とした。

対象と方法:TRE17の高発現は間葉系由来の腫瘍において多く報告されていることから、本研究では間葉系腫瘍に由来し高い浸潤能を有するヒト肉腫細胞株HT-1080細胞を用いて、腫瘍細胞の浸潤におけるTRE17の機能を解析した。TRE17による輸送制御の標的となり、細胞の浸潤能亢進に寄与するCIEカーゴを同定するにあたり、TRE17が細胞表面のCD147発現レベルに与える影響を蛍光免疫染色とビオチンラベルによる生化学的手法により評価した。また、TRE17がCD147の細胞内輸送に与える影響を抗体取込みアッセイにより、輸送の変化が細胞表面CD147の安定性に影響するかをパルスチェイス解析により評価した。TRE17によるCD147の脱ユビキチン化への影響は、抗CD147抗体による免疫沈降後の沈殿サンプルを用いて解析した。

結果:HT-1080細胞において、TRE17は脱ユビキチン化(DUB)活性依存的に腫瘍細胞の浸潤を促進した。TRE17による浸潤促進機構を解明するにあたり、TRE17の標的となる因子としてCD147に着目した結果、蛍光免疫染色においてTRE17の過剰発現は細胞表面CD147のシグナルを増加させた。一方で、TRE17のノックダウンはビオチンラベルにより検出された表面CD147の発現を減少させ、これに伴いCD147の下流のMMP発現を減少させた。また、CD147特異的阻害剤を用いた処理により、TRE17による浸潤促進が減弱した。これらのことから、TRE17による細胞表面CD147レベルの増加が浸潤シグナルを増強し、その結果MMPの産生が誘導されるというモデルが考えられた。CD147を特異的抗体でラベルし、CD147の細胞内輸送を追跡した結果、TRE17の過剰発現によりCD147のリソソームへの輸送が抑制された。これはTRE17のDUB活性に依存していた。さらに、パルスチェイス解析によりTRE17の過剰発現は細胞表面CD147の安定性を増加させることが明らかとなったことから、TRE17はCD147のリサイクリングを促進する結果、細胞表面における半減期を延長させることが示唆された。抗CD147抗体を用いた免疫沈降により単離したCD147のユビキチン化レベルは、TRE17の過剰発現により減少した。

考察:腫瘍細胞において、TRE17は細胞表面CD147レベルを増加させ、浸潤シグナルを増強する結果、MMPの産生が誘導されるというメカニズムを示した。TRE17の過剰発現ではCD147のユビキチンレベルが減少し、CD147のリソソームへの輸送が抑制され、細胞表面におけるCD147の発現が増したことから、TRE17によるCD147の脱ユビキチン化はCD147のリソソームでの分解を抑制し、その結果細胞表面のCD147レベルが増加することが示された。これらの結果より、TRE17はDUB活性を介してエンドソーム上におけるCIEカーゴの選別に関与することで、細胞表面上におけるCD147の安定性を上昇させ、腫瘍の浸潤シグナルを増強するというTRE17による腫瘍細胞の浸潤促進モデルが提唱される。

結論:本研究では、TRE17を介した腫瘍細胞の浸潤において、TRE17による輸送制御の標的となるCIEカーゴとしてCD147を同定した。これにより、TRE17によるCD147の輸送制御を介した新たな腫瘍の悪性化メカニズムが明らかとなり、TRE17による膜タンパク質の翻訳後修飾制御の重要性が示された。さらに、今回初めてCD147を標的として輸送制御を担う脱ユビキチン化酵素を同定したことは、CD147が関与する多くの腫瘍においても新たな病態メカニズムの解明に繋がる可能性が考えられる。このように本研究では、TRE17による新たな腫瘍悪性化メカニズムを示したことに加え、腫瘍細胞の浸潤におけるTRE17を介した輸送制御の機能を明らかにした。