Usefulness of positron emission tomography for differentiating gliomas according to the 2016 World Health Organization classification of tumors of the central nervous system.
概要
【緒言】
陽電子放出断層撮影(PET:Positron Emission Tomography)は,脳腫瘍の非侵襲的検査法として重要な役割を担っている。Glioma に対する PET 検査の有用性については過去に数多くの報告がなされてきたが,いずれも 2007 年の WHO 脳腫瘍分類に基づく報告であった。2016 年に WHO の脳腫瘍分類が改訂され,新たに遺伝子変異の有無が分類に必須となった。Glioma においては IDH1/2 変異例(IDH- mut:IDH mutant)は野生型(IDH-wt:IDH wildtype)に比較し予後が良好であることが知られており,遺伝子診断の臨床現場における重要性が増している。また,近年画像検査や組織学的には低悪性度の glioma であっても,IDH-wt の遺伝子型を持つ場合は,悪性 glioma として集学的治療を行うことが推奨されている。本研究では,11C-methionine(MET),11C-choline(CHO),18F-fluorodeoxyglucose(FDG)を核種として用いた脳腫瘍の PET 検査を行った症例を後方視的に検討し,glioma の鑑別診断,特に 2016 年 WHO 分類で新たに導入された IDH 遺伝子変異の有無の鑑別に対する有用性について検討を行った。
【対象と方法】
2013 年 4 月~2018 年 2 月までに木沢記念病院・中部療護センターにおいて上記 3 核種 PET 検査と MRI 検査を実施した初発脳腫瘍症例のうち,後に病理診断で glioma と診断され,かつ遺伝子分類の確定診断が得られた 105 症例を対象とした。病理診断別,遺伝子診断別に分類し,3 核種の集積(SUV: Standardized Uptake Value)を算出した。正常脳皮質の平均 SUV と,腫瘍部分の最大 SUV の比(T/N比:Tumor/Normal 比)を算出し,その平均を比較した。遺伝子診断別に 3 核種の T/N 比の平均値を比較し,Receiver Operating Characteristic(ROC)解析により感度・特異度が最大となる点をカットオフ値として算出した。
【結果】
IDH 変異の有無で比較検討した結果,3 核種ともに有意差を持って IDH-wt が IDH-mut より高い集積を示した(p<0.001)。ROC 解析において,3 核種各々の集積のカットオフ値,感度,特異度,Area under the curve(AUC)は MET ではそれぞれ 2.69, 71.8%, 92.2%, 0.877,CHO では 4.07, 76.9%, 90.2%, 0.906,FDG では 0.85, 87.2%, 80.4%, 0.867 だった。各症例において,3 核種のうちカットオフ値を超える集積がみられる核種の数で 4 群に分類すると,3 核種の集積がともカットオフ値以下の群, 3 核種のうち何れか 1 核種がカットオフ値以上の群,3 核種のうち何れか 2 核種がカットオフ値以上の群,3 核種ともカットオフ値以上の群の中で遺伝子型が IDH-wt である glioma の割合はそれぞれ,4.4%,31.6%,57.1%,85.2%であった。
各病理組織別の比較では,Grade Ⅱでは 3 核種ともに IDH-mut/IDH-wt の間にそれらの集積に有意差は見られなかった。Grade Ⅲでは,3 核種ともに有意に IDH-wt が高い集積を示した(MET: p=0.002, CHO: p=0.001,FDG: p<0.001)。Grade Ⅳでは,MET(p=0.034)と CHO(p=0.01)において IDH-wt が有意に高い集積を示したが,FDG については集積に有意差は見られなかった。
【考察】
IDH-wt の glioma は IDH-mut に比較し予後不良であることが知られている。本研究では,IDH-wt の glioma は IDH-mut の glioma と比較し MET,CHO,FDG の集積が高くなることが明らかとなった。また, 3 核種各々の集積のカットオフ値を超えた核種数が多いほど,IDH-wt glioma の可能性が高くなることが示された。
IDH 変異は glioma や白血病細胞に見られる遺伝子変異で,遺伝子産物として 2-hydroxyglutarate(2-HG)が産生され,その機序などは未だ充分に解明されていないものの,この 2-HG が腫瘍細胞抑制作用をもつと考えられている。そのため,2-HG が産生されない IDH-wt の腫瘍は,腫瘍細胞抑制機能が弱いため強い増殖能を持つと考えられる。従って,2HG が産生されない IDH-wt glioma では PET核種の集積も高くなると考えることができる。
脳腫瘍の治療において,WHO Grade Ⅱの低悪性度 glioma は,症状や腫瘍の部位,患者背景により経過観察も含めて治療方針が一定していない。一方で,Grade Ⅲ~Ⅳの悪性 glioma は手術,放射線,化学療法を含む集学的治療の適応となる。近年 the Consortium to Inform Molecular and Practical Approaches to CNS Tumor Taxonomy(cIMPACT-NOW)update 3 の報告のなかで,Grade Ⅱ~Ⅲの astrocytic tumors のうち,IDH-wt に加えて glioblastoma と同様の遺伝子変異を併せ持つものは Grade Ⅳとして扱い,積極的な手術切除および放射線化学療法を行うことが推奨された。すなわち,画像診断や組織学的には低悪性度の glioma と考えられる症例でも,遺伝子学的に高悪性度を示唆する所見が得られた場合は,遺伝子型を優先して治療を進めることを推奨するものである。しかし,病理組織診断および遺伝子型は手術標本から得られる情報であり,治療前の予後の予測,外科的介入が不都合な症例の治療方針の決定には従来の MRI による術前画像診断のみでは適切な治療計画をたてることは困難である。本研究の結果をもとに,術前画像診断として PET 検査を活用し,高悪性度の glioma を高い信頼度で鑑別できれば,予後の予測,治療計画の決定に大きく貢献できると考えられる。
【結論】
MET,CHO,FDG-PET は glioma の IDH 変異の有無を非侵襲的に高い精度で鑑別でき,予後の予測,治療方針の決定に貢献できる。