リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「ツキノワグマの個体群内の食性の多様度に及ぼす学習の影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

ツキノワグマの個体群内の食性の多様度に及ぼす学習の影響

長沼, 知子 ナガヌマ, トモコ 東京農工大学

2021.05.10

概要

クマ類の多くは雑食性であり、植物質から動物質まで幅広い資源を季節依存的に利用する。果実や有蹄類など資源量の年変動の大きい採食物も多く含まれているが、資源量変動に対するクマ類の食性の応答の検証は不十分である。そして、クマ類は個体群内での食性の多様度が大きいことが指摘されていることから、資源量変動による食性変化も個体群内で異なる可能性がある。また、クマ類は学習能力が高いうえ、子供は母親から様々なことを学習するため、食物選択には社会学習が影響していると考えられる。さらに、クマ類は長寿命であることから、加齢に伴う個体学習も採食行動を変化させることが想定される。よって、クマ類にとって採食物に関わる両学習は、個体群内の食性の多様度を形成するうえで重要な要素となっている可能性が高い。そこで本研究では、資源量変動を考慮したうえで、雑食性のクマ類であるツキノワグマの繁殖期(6~7 月)および過食期(9~10 月)の個体群内の食性の多様度を検証するとともに、個体学習および社会学習がツキノワグマの食性の多様度に与える影響を明らかにすることを課題とした。具体的には、個体群内の食性の多様度の確認(第 3 章)、有蹄類の採食への個体学習の影響・食性と体重および栄養状態の関係の評価(第 4 章)、採食行動の個体学習と社会学習の定量化(第 5 章)を行った。

本研究では、調査地である栃木県と群馬県にまたがる足尾・日光山地(第 3 章、第 5 章)および東京都奥多摩地域(第 4 章)にて、生体捕獲されたツキノワグマの体毛を使用し、安定同位体比分析(δ13C・δ15N)による食性解析を実施した。第 3 章では、性別、年齢、ブナ科堅果の結実豊凶が、個体の食性に与える影響を検証した。第 4 章では、安定同位体比分析とともに糞内容物分析を行うことで、性クラスならびに個体群レベルでの食性情報を取得した。そして、クマ類で生存や繁殖における重要性が指摘されている有蹄類(ニホンジカ)の利用可能量の変化とツキノワグマの食性の関係を検証することで、個体学習の影響を評価するとともに、食性と体重および栄養状態の関係を比較することで、有蹄類の採食が個体の体に与える影響を評価した。第 5 章では、母子間、父子間、非血縁個体間で食性を比較するとともに、同一個体の食性の経年変化を検証することで、ツキノワグマの食物選択への社会学習と個体学習の影響を評価した。

第 3 章の結果から、個体の性別、年齢、ブナ科堅果の結実豊凶のすべてが要因となり、食性の多様度に影響していることが示唆された。繁殖期は、植物質やアリの利用はすべての性-齢クラスで同程度であったが、ニホンジカの利用は加齢とともに増加し、成獣オスで最も多かった。したがって、成獣オスはシカを多く利用する一方、他の個体は広範囲に比較的均一に分布する資源を採食することで競争を回避していることが示唆された。また、過食期は、成獣オス以外の性-齢クラスでは、堅果不作年は豊作年よりも動物質の利用が増加していたことから、堅果の結実豊凶により、個体群の多くの個体は食性を変化させたと考えられるが、成獣オスは採食戦略を変化させない可能性があった。

第 4 章の結果から、ニホンジカの利用可能量の変化に対して、繁殖期にはツキノワグマの食性の応答に性差があるが、過食期は個体群全体でシカの影響が小さいことが示唆された。繁殖期は、シカの利用可能量の増加後、オスはシカの採食を増やし、シカの減少後も利用を継続していることが示唆された一方、メスは一貫して植物食傾向の強い食性を維持している可能性があった。さらに、繁殖期の体重と食性の関係を検証したところ、オスでは体重の重い個体ほどシカを多く採食していることが示された。すなわち、オスは一度シカを採食するようになると、利用可能量の減少後も執着し、体重の重い個体ほど影響が大きい可能性があった。クマの繁殖期はシカの出産期と重なることから、個体学習を通してシカの新生児を捕食するようになったことが考えられた。

第 5 章の結果から、繁殖期は父子間および非血縁個体間よりも母子間で類似している割合が高いが、過食期はこうした傾向がなく、堅果の結実豊凶と同調している個体が多いことが示された。したがって、繁殖期は母親からの社会学習が食性に影響する可能性がある一方、過食期は学習より資源量変動の影響が強い可能性が考えられた。また、繁殖期、過食期ともに、多くの個体の食性が変化していたことから、個体学習が食物選択に影響している可能性があった。一方で、母親とすごした期間に動物質を多く摂取したと考えられる個体の繁殖期の食性は、親離れ後も変化していなかったことから、採食物の性質によって学習の影響が異なることが示唆された。

以上から、ツキノワグマの個体の属性や季節などが個体群内の食性の多様度に影響するとともに、食性への学習の影響は採食資源の季節性や性質によって異なる可能性が明らかとなった。特に、ニホンジカをはじめとする動物質の利用に関しては、経験を伴う個体学習が影響するほか、母親からの社会学習が存在すると親離れ後も利用し続ける可能性があった。日本ではニホンジカの分布拡大や生息数増加が生じているが、栄養価の高いシカは潜在的にオスのクマを引き付けるだけでなく、クマによるシカの利用は学習によって相乗的に拡大していく可能性がある。これまでの日本の野生動物管理は種ごとに行われてきたが、ニホンジカの管理(個体数調整や残滓処理)はツキノワグマの保護管理に深く関連するため、今後は互いの影響を考慮して実施していく必要がある。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る