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抗MOG抗体関連疾患の診断精度の向上

松本, 勇貴 東北大学

2023.03.24

概要

1

博⼠論⽂

抗 MOG 抗体関連疾患の診断精度の向上

東北⼤学⼤学院医学系研究科医科学専攻
神経・感覚器病態学講座

神経内科学分野
松本

勇貴

2

⽬次
1

要約 ....................................................................................................................... 4

2

研究背景 ................................................................................................................ 7
1) 多発性硬化症の概要 ..................................................................................................... 7
2) 視神経脊髄炎の疾患概念の確⽴ ................................................................................ 10
3) 抗 MOG 抗体関連疾患の疾患概念 ............................................................................ 11
4) MS, AQP4-IgG 陽性 NMOSD, MOGAD の治療 ........................................................ 15
5) MS, AQP4-IgG 陽性 NMOSD, MOGAD の画像的特徴 ............................................. 17
6) AQP4-IgG 陽性 NMOSD と⽐較した MOGAD の⾎清学的診断の問題点 ............. 18

3

研究⽬的 .............................................................................................................. 19
研究①:MOGAD と AQP4-IgG 陽性 NMOSD の頭部 MRI 画像の病変分布の⽐較検
討の⽬的 ........................................................................................................................... 19
研究②:MOGAD の⾎清と髄液における MOG-IgG 検査の有⽤性の検討の⽬的.... 19

4

研究⽅法 .............................................................................................................. 19
研究①の⽅法 ................................................................................................................... 19
対象患者 ................................................................................................................................... 19
読影実験 ................................................................................................................................... 20
統計学的検討............................................................................................................................ 20

研究②の⽅法 ................................................................................................................... 21
対象患者 ................................................................................................................................... 21

MOG-IgG の評価 ..................................................................................................................... 23
統計学的検討............................................................................................................................ 24

4

結果 ..................................................................................................................... 25
研究①の結果 ................................................................................................................... 25
研究②の結果 ................................................................................................................... 27
MOG-IgG を評価した患者の特徴........................................................................................... 27

3

MOG-IgG の⾎清及び髄液抗体価の分布 ............................................................................... 29
MOG-IgG が髄液のみ陽性患者の特徴 ................................................................................... 31
MOG-IgG と AQP4-IgG の⽐較 .............................................................................................. 31
MOG-IgG の⾎清と髄液抗体価と表現型の関係 .................................................................... 32

考察 ..................................................................................................................... 32

5

研究①の考察 ................................................................................................................... 32
研究②の考察 ................................................................................................................... 34
髄液のみ MOG-IgG が陽性となる頻度 .................................................................................. 34

MOG-IgG 検査を追加する意義 .............................................................................................. 35
MS における髄液 MOG-IgG の意義 ....................................................................................... 37
MOG-IgG の中枢での産⽣ ...................................................................................................... 38
MOG-IgG と CE との関連 ...................................................................................................... 39

6

結論 ..................................................................................................................... 40

7

謝辞 ..................................................................................................................... 41

8

⽂献 ..................................................................................................................... 42

9

図 ......................................................................................................................... 60

10

図の説明 ............................................................................................................ 67

11

表........................................................................................................................ 71

4

1

要約

【背景】
抗 Myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体によって⽣じる抗 MOG 抗体関
連疾患(Myelin oligo dendrocyte glycoprotein associated disease: MOGAD)は近年明ら
かとなった中枢性の炎症性脱髄疾患であり、国際的に注⽬を浴びている疾患で
ある。同様の疾患に、特定の⾃⼰抗体が検出されない多発性硬化症(Multiple
sclerosis: MS)、主に抗 Aquaporin 4(AQP4)抗体によって⽣じる視神経脊髄炎
(Neuromyelitis optica spectrum disorder: NMOSD)がある。これらの疾患は治療も予
後も全く異なる別の疾患でありながら、しばしば鑑別が困難であり、検査結果や
画像的特徴から本疾患を疑い、⾃⼰抗体を測定することが重要である。しかしな
がら、MOGAD の画像的特徴は⼗分に明らかになっておらず、どのような画像
病変の患者に抗 MOG 抗体を検査すべきか不明である。また、抗 AQP4 抗体の場
合には⾎清と髄液を共に検査する必要はなく⾎清のみの検査で⼗分であると考
えられているが、MOGAD においては抗 MOG 抗体が髄液のみ検出される症例
が数例報告されており⾎清のみの検査では不⼗分な可能性がある。しかしなが
ら、髄液における抗 MOG 抗体の検査の有⽤性は明らかになっていない。

5

【⽬的】
MOGAD の画像的特徴及び髄液検査が、どの程度 MOGAD の診断精度を向上す
るのかを明らかにすること。
【⽅法】
東北⼤学放射線科と共同で、MOGAD 及び NMOSD 患者の頭部 MRI を脳の部位
21 ヶ所において病変頻度を⽐較し、MOGAD の画像的特徴を調査した。また、
⾎清と髄液が保存されている患者を対象に、電⼦カルテ情報から国際的な基準
に準拠して MOGAD 疑い及びそれ以外の陰性コントロールに分類し、抗 MOG
抗体を測定した。MOGAD 疑いの患者に抗 MOG 抗体が陽性となった場合は真
陽性とし、陰性コントロールの患者に抗 MOG 抗体が陽性となった場合を偽陽性
とし、陽性的中率(PPV)を計算した。
【結果】
頭部 MRI 画像の⽐較には脳病変のある MOGAD 患者 134 例、NMOSD 患者 70
例を対象とした。21 ヶ所の内、両群で有意差がみられ MOGAD に多かった病変
は、側頭葉⽪質/⽪質下⽩質(MOGAD 23%, NMOSD 0%)、⼩脳脚(MOGAD 22%,
NMOSD 4.3%)の 2 部位のみであった。また、⾎清と髄液が保存されている 405

6

例の MOGAD 疑い、及び 266 例の陰性コントロールを対象に抗 MOG 抗体を測
定した。MOGAD 疑い患者の内、⾎清と髄液が共に陽性であったのは 94 例(23%)、
⾎清が陰性で髄液が陽性であったのは 22 例(5.4%)、⾎清が陽性で髄液が陰性で
あったのが 17 例 (4.2%)、いずれも陰性であったのは 272 例 (67%)だった。髄液
のみ陽性例も⾎清陽性の MOGAD と臨床的に共通した特徴を有していた。266
例の陰性コントロールの内、⾎清陽性は 0 例 (0 %)、髄液陽性は 2 例 (0.8%)で
あった。したがって、抗 MOG 抗体の⾎清における PPV は、100% (95%信頼区間
[CI]: 97-100%)、髄液における PPV は 97% (95%CI: 93-99%)であった。⼀⼈の
MOGAD を追加で診断するために、必要な髄液検査数は 13.3 であった。
【結論】
MOGAD を疑いうるきっかけとして、側頭葉⽪質下⽩質、⼩脳脚病変は有望で
ある。MOGAD が疑われる症例については、⾎清のみならず髄液まで抗 MOG 抗
体を調べることが重要である。本研究は MOGAD の診断精度の向上に寄与する
ものと考える。

7

2

研究背景

1) 多発性硬化症の概要
中枢性の炎症性疾患の概念は⾮常に多岐にわたり、その中でも主な原因として
多発性硬化症(Multiple Sclerosis: MS)がある。MS は、1868 年にフランスの神経内
科医であるジャン=マルタン・シャルコーが最初に疾患概念を確⽴したとされる、
再発と寛解を繰り返す中枢神経系の炎症性疾患である 1。病理学的には、⾎管周
囲への主に CD8 陽性 T 細胞、CD20 陽性 B 細胞の浸潤がみられ 2、軸索の障害
というよりは髄鞘が主に傷害される脱髄を特徴とする 3–5。MS は主に 20-30 代の
若年⼥性に発症し、時期と経過によって3つ(再発寛解型、⼆次進⾏型、⼀次進
⾏型)に⼤別される。再発寛解型は主に炎症によって⽣じると考えられており、
視神経炎(Optic neuritis: ON)による視⼒障害、⼤脳や脊髄病変による⿇痺やしび
れなど様々な神経症状が出現する難病である。再発の頻度は、1 年に数回再発す
る活動性の⾼い⼈から数年に 1 回の活動性の低い⼈まで様々である。ステロイ
ド治療によって、症状は改善するものの、無治療であれば 80%の症例が⼆次進
⾏型へと⾄る。⼆次進⾏型は髄液検査や放射線学的検査によって確認しづらい
炎症や変性によって⽣じると考えられており、仮に再発がなくても徐々に症状

8

が進⾏し、無治療であれば数年で介助歩⾏や⾞椅⼦⽣活となる 6–9。まれながら、
再発寛解型を経ず、当初から徐々に進⾏する症例があり⼀次進⾏型と呼ばれ、⽇
本⼈では MS 患者の 2-3%が該当すると考えられている 10,11。MS の治療にあたっ
ては進⾏期にいたった場合には有効な治療が少なく、早期に治療を開始するこ
と、また活動性の⾼い症例についてはより強⼒な治療から開始することにより、
可能な限り進⾏期に⾄らせないようにすることが重要である 12,13。
MS の診断には単⼀のバイオマーカーは存在せず、複数の所⾒を組み合わせて
総合的に診断する。2017 年に改定された MS の診断基準である McDonald 基準
では 14、診断には時間的空間的多発を満たすことが必要である。時間的多発とは
複数回の臨床的急性増悪があること、あるいは頭部核磁気共鳴画像(Magnetic
resonance imaging: MRI) 検査でガドリニウム造影病変と⾮造影病変が混在する
こととされる。空間的多発とは、頭部 MRI 画像において異なる部位に複数の病
変を確認することとされている。詳細については後述するが、側脳室周囲の卵円
状の病変や、側脳室壁から⽪質へと伸びる Dawson’s finger と呼ばれる病変が他
の脱髄疾患との鑑別に有⽤である

15

。2017 年の改定から中枢神経の炎症を⽰唆

する MS に⽐較的特異的なマーカーであるオリゴクローナルバンド(Oligoclonal

9

band: OCB)の存在が重視されることになり、OCB が陽性の場合は時間的多発を
満たさなくても MS と診断できることとなった。その他、免疫グロブリン
G(Immunoglobulin: IgG)インデックスと呼ばれる中枢での IgG の産⽣の指標もあ
り、MS で⾼値となりやすく診断の参考となる

16,17

。後述する視神経脊髄炎

(Neuromyelitis optica: NMO)や抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋⽩抗体関連
疾患(Myelin oligo dendrocyte glycoprotein associated disease: MOGAD)とは異なり、
原因は⼗分に明らかになっておらず、⼀般に⾃⼰抗体は陰性である 18。
1950 年代までは、本邦に MS は存在しないとする論調が⼀般的であった。し
かしながら 1958 年から 1962 年にかけて、本邦で東京⼤学の冲中や九州⼤学の
⿊岩らを中⼼に MS の疫学調査が⾏われ⽇本には 10 万⼈に 2-4 ⼈の MS 患者が
存在することが明らかとなった

19

。欧⽶の MS の有病率から⽐較して⾮常に低

い有病率であり、欧⽶では珍しい視神経と脊髄に主に病変の主座がある視神経
脊髄炎型が 1/3 を占めることも同時に明らかとなった。しかしながら 2004 年ま
で NMO と MS が異なる疾患であるということが明らかになることはなく、NMO
は MS の⼀つの亜型であると考えられていた。

10

2) 視神経脊髄炎の疾患概念の確⽴
そのような状況の中、2004 年に東北⼤学神経内科のグループと Mayo clinic の
グループが共同で MS には検出されない NMO に特異的な⾃⼰抗体(NMO-IgG)を
⾒出し、MS と NMO は異なる病気であることを明らかにした

20

。2005 年から

2006 年にかけて、NMO-IgG はアストロサイトに主に発現する⽔チャネルのアク
アポリン 4(Aquaporin 4: AQP4)を標的とする⾃⼰抗体(AQP4-IgG)であることも
明らかにした 21,22。AQP4-IgG の発⾒により、これまで視神経と脊髄を主に障害
するという臨床症状のみで診断されていた NMO という病気が、⾼い特異性をも
った⾎清学的検査にて診断できるようになった。AQP4-IgG 陽性例では、MS の
ような脳病変を認めることはなく、脊髄の病変も MS とは異なり 3 椎体以上の
病変を呈することが多いことも明らかとなった。2006 年にはそれを受けて、
AQP4-IgG の存在を基本した NMO の診断基準が提案された 23。これは、ON、3
椎体以上の⻑⼤な脊髄炎(Myelitis: My)、AQP4-IgG の陽性の内、2つを満たせば
NMO と診断するという⾮常に簡便なものであった。
その後、AQP4-IgG が陽性の患者は ON や⻑⼤な My のみならず、延髄最後野
病変 24、⼤脳病変 25、間脳病変 26 もまれでないことが明らかとなり、2015 年に

11

はこれらの項⽬が核となる臨床的特徴として取り⼊れられた国際診断基準が制
定された

27

。それに伴い、NMO は病変も視神経と脊髄に限局しないことから、

病名は視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)とあらためられた。このような
AQP4-IgG 陽性の患者は、臨床表現型が MS とは異なるのみならず、MS の治療
薬であるイ ンターフェロン β やフィンゴリモドなどの疾患 修飾薬(Disease
modifying drug; DMD)が無効であるばかりか有害であることが相次いで報告され
28–30

、MS と NMO は原因の異なる疾患であるのみならず、治療⽅針の決定のた

めに鑑別診断が⾮常に重要であることが明らかとなった。NMO は無治療であれ
ば 5 年以内に 90%の患者が再発し、重⼤な後遺症を残すため

31

、早期診断、早

期治療が不可⽋であり、このように NMO の疾患概念の確⽴したことにより、実
際に東北⼤学神経内科に受診している NMO 患者においても、適切に診断される
患者が増加し予後の改善が確認された 32。しかしながら、NMO の診断基準を満
たす症例でも約 2 割は AQP4-IgG が陰性であり、これらの病態や治療をどのよ
うにするかが問題となっていた。 ...

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