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大学・研究所にある論文を検索できる 「脊椎動物の冬季うつ様表現型に関するオミクス研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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脊椎動物の冬季うつ様表現型に関するオミクス研究

沖村, 光祐 名古屋大学

2021.08.20

概要

四季がある地域に棲息する多くの脊椎動物は季節に伴う外部環境の変化に対し自らの生理機能や行動を変える。我々ヒトにおいても、気分や代謝、免疫機能などの生理機能や感染症、循環器疾患や肺がんなどの発症リスクは季節変動を示す。「冬季うつ病(winter depression)」とも呼ばれる季節性感情障害は冬にのみ不安感や焦燥感の増加、性欲や社会性の低下、摂食や睡眠の障害が現れる精神疾患である。北米や北欧の高緯度地域では人口の約10%が冬季うつ病に罹患していると推算されており、自殺の原因ともなりえることから社会問題となっている。秋から冬における日長の減少が冬季うつ病の発症の原因だと推測されているが、分子機構は解明されていない。うつ病はその発症に遺伝要因と環境要因が寄与する複雑な精神疾患であるため、発症の仕組みの解明には発見駆動型の研究が求められる。そこで、本研究では、メダカ、マウス、アカゲザルの三種の生理機能やその季節応答の特徴に着目し、オミクス解析を用いて脊椎動物が示す冬季うつ様表現型の分子機構を調べた。

メダカは繁殖や色覚、ストレス応答に明瞭な季節性がある小型魚類である。小型魚類とヒトの神経系の活動やそれらを標的とした薬の効果には高い相同性があることから、近年、欧米のメガファーマでは神経疾患のモデル動物として小型魚類が利用されている。当研究室の先行研究では、冬条件で飼育したメダカは冬季うつ様行動を示すことが明らかにされていた。また、化合物スクリーニングにより、中国伝統医薬由来成分のセラストロールがメダカの冬季うつ様行動を改善することが見つけられていたが、その分子機構は不明であった。本研究で実施したメダカの脳を用いたメタボローム解析の結果、冬の脳では抗酸化物質のグルタチオン量が夏に比べて減少していることが明らかになった。さらに、先行研究で実施されたマイクロアレイ解析の結果を用いたカノニカルパスウェイ解析の結果、メダカの脳では炎症や免疫反応に関わるパスウェイが季節間で変化していることが明らかになった。炎症はうつ病の発症に関連があると考えられている。カノニカルパスウェイ解析によりNRF2が制御する抗酸化反応は冬に活性が低下することが示されたが、NRF2はセラストロールの標的分子の一つである。以上のことから、NRF2抗酸化反応経路がメダカの冬季うつ様行動を制御していると考えられた(第I章)。

冬季うつ病患者の表現型には冬における眼の光応答性の低下がある。眼から脳への光刺激の情報伝達は気分に影響することが知られており、上述の通り日長や日照時間の減少が冬季うつ病の発症の環境要因であると考えられている。そのため、眼の機能が冬季うつ病の発症に関与する可能性が指摘されているが、眼の光応答性の季節変化の仕組みはわかっていない。近交系マウスの生殖腺の大きさには季節変化が認められないが、メラトニン産生能を有するCBA/N系統のマウスは、脳において遺伝子発現レベルで季節変化に反応することから、哺乳類の季節応答の分子機構を調べるためのモデル動物として利用されている。また、マウスは眼の光応答性を調べるための網膜電位図の記録の技術基盤が確立している。以上の特徴に着目して本研究ではマウスの眼の光応答性の季節変化とその分子機構を調べた。網膜電位図の記録の結果、CBA/Nマウスの眼の光応答性は長日条件に比べて短日条件で減弱することが明らかになった。また、マウスの眼のトランスクリプトーム解析の結果、ドパミン産生の律速酵素(tyrosine hydroxylase: TH)をコードするTh遺伝子の発現量が短日条件下で減少することが分かった。ドパミンは網膜の光応答性に影響することが知られている。さらに、薬理学的手法でドパミンシグナル経路に介入することで、眼の光応答性の季節変動を制御できることを示した。以上のことから、マウスの眼の光応答性の季節変化は日長依存的なドパミン量の変化が制御していることが示された(第II章)。

進化的にヒトと近縁なサルは、ヒトの生理機能や病態の解明に必須な役割を果たしてきた。特に、アカゲザルは短日性の繁殖を示すことに加えて、冬の環境下ではうつ様行動を示す。したがって、アカゲザルの生理状態の季節変化を調べることで、冬季うつ病を含めたヒトの生理機能の季節変化の分子機構の解明に貢献できると考えた。そこで、一年を通して京都大学霊長類研究所で野外飼育したアカゲザルの生理状態の変化を調べた。形態学的観察やホルモン濃度の測定を行った結果、アカゲザルは秋から冬にかけて繁殖機能が活性化していることがわかった。また、アカゲザルの網膜のTH遺伝子発現量は、マウスと同様に夏に比べて冬に減少していた。このことから、アカゲザルの眼の光応答性も季節間で変化する可能性が考えられた。さらに、血漿を用いたメタボローム解析の結果、うつ病のバイオマーカーで、ストレスや炎症によって産生が亢進されるキヌレニンが夏に比べて秋から冬に増加する傾向が示された。また、抗酸化反応に関与するシスチン・シスタチオニンの存在量も季節間で変動することが明らかになった(第III章)。

本研究によって、脊椎動物の冬季うつ様表現型の分子機構には、炎症反応やドパミンシグナル経路が関与することが示唆された。これらは、ヒトのうつ病にも関与することが報告されている。本研究の成果は将来ヒトの冬季うつ病の病態の解明、バイオマーカーの開発、さらには創薬に貢献することが期待される。

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