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大学・研究所にある論文を検索できる 「正常血管壁における動脈硬化初期進展に関する検討:Optical coherence tomography (OCT)を用いた長期後ろ向き観察研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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正常血管壁における動脈硬化初期進展に関する検討:Optical coherence tomography (OCT)を用いた長期後ろ向き観察研究

Takeshige, Ryo 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景と目的】
虚血性心疾患に対する治療は日々進歩しているが、冠状動脈における動脈硬化進展の過程は依然、不明な点が多い。これまでの冠動脈硬化を評価した多くの研究は、数年程度の短い観察期間で、その進行過程を評価してきた。しかし、冠状動脈硬化の進行は緩徐に進行する慢性的なプロセスで、その進展には数十年かかるとされている。そのため、動脈硬化の進行を詳細に検討するには、長期の観察期間を設け、評価する必要がある。また、過去の研究の多くは動脈硬化がすでに進行している領域で更なるプラークの進行を評価していたが、正常な血管壁から動脈硬化プラークに至る初期段階を評価した研究はない。

光干渉断層撮影法(OCT)は優れた解像度を備えた冠動脈内イメージングであり、正常な血管壁の描出に加え、内膜肥厚やマクロファージ浸潤などの微細な初期動脈硬化性変化や、進行した動脈硬化プラークの検出を可能とすることが報告されている。我々は、2005 年世界に先駆けて OCT を臨床に導入し、以来多くの虚血性心疾患患者に対し冠状動脈の評価を行ってきた。この蓄積された OCT 画像データを後ろ向きに調査することで、長期の観察期間を要する正常冠状動脈から動脈硬化性変化を認めた症例を評価することが可能となると考えた。そこで我々は、5 年以上の期間を経て OCT を連続的に行った患者の長期追跡データを用いて、正常血管壁から初期動脈硬化病変への進展を観察し、その進行に関連する因子を検討する本研究を行った。

【方法】
研究デザインと患者群
本研究は、2005 年 4 月から 2019 年 6 月までに神戸大学医学部附属病院でOCT を用いて冠状動脈の評価を行った患者のうち、5 年以上の期間をあけて、再度同一部位に対し OCT で評価し得た患者を対象とした後ろ向き観察研究である。これらの対象患者のうち、ステント断端から 5mm 以上離れた部位で、冠動脈造影での狭窄度が 30%以下のものを今回の解析の対象病変とした。除外基準は、1)バイパスグラフト手術を受けた患者、2)標的血管内に慢性完全閉塞病変がある患者、3)OCT 画像が不良である患者、4)追跡期間中に同一血管内で冠動脈血行再建術を受けた患者とした。

OCT 画像解析と動脈硬化進行
OCT 画像収集は、全例専用のシステムと専用のカテーテルを使用し、標準的手法に基づいて実施した。また、解析は専用のワークステーションを用いて行った。

まず初回観察時の OCT 画像(ベースライン OCT 画像: BL OCT)を 1mmごとに評価した。次に、長期フォローアップ時の OCT 画像(フォローアップ OCT: FUP OCT)を種々のランドマークに基づいて一致させ、同様の評価を行った。正常血管壁は OCT で検出可能な 3 層構造を有し、内膜厚が 300µm 以下のものと定義した。動脈硬化性プラークは、局所的な内膜厚が 300µm 以上または血管壁の層構造の消失したものと定義した。BL OCT から FUP OCTまでに、正常血管壁が 30°以上減少し、動脈硬化性プラークに変化した場合、その断面は「動脈硬化の進行」と診断した。

定量的評価として正常血管壁の内膜厚を測定し、内膜厚の最大値、最小値を測定した。定性評価として、1) マイクロチャネル、2) 凸状動脈硬化プラーク、3) 石灰化沈着、4) 動脈硬化プラークの偏心分布、5) マクロファージ、6) 脂質沈着を評価した。

同一部位での内膜厚を連続的に評価するために、BL OCT 画像で 12 時の方向から 60 度毎に 6 点の内膜厚を測定した。また断面内の最も厚い部分と最も薄い部分の内膜厚も測定した。次に、一致させた FUP OCT 画像で、対応する 8 点の内膜厚を測定し比較検討した。

【結果】
患者背景
対象期間に 95 例が、BL OCT から 5 年以上経過して FUP OCT を施行した。除外基準に該当する 46 例を除外し、最終的には 49 例(54 血管)の 617断面を解析対象とした。BL から FUP OCT までの平均期間は 2,511 日(平均6.9 年)であった。

BL OCT 所見と動脈硬化の進行
対象となった 617 断面のうち、40.8%に正常血管壁から動脈硬化プラークへの進行を認めた(進行群)。長期追跡期間にも関わらず、59.2%の断面で正常血管壁の範囲は維持されていた(非進行群)。

定量評価では、BL OCT における正常血管壁の最大内膜厚(280 [220-300]μm vs. 250 [190-330]μm, p<0.001)、最小内膜厚(140 [110-180]μm vs.120 [90-170]μm, p=0.001)、平均内膜厚(205 [176-235]μm vs. 185 [146-220]μm, p=0.001)は、進行群の方が非進行群よりも有意に大きかった。また、進行群では非進行群よりも、BL OCT でのマイクロチャネルの発生(7.1% vs. 2.3%, p=0.029)、プラークの偏心分布(25.0% vs. 12.6%, p<0.001)が有意に高率であった。多変量解析では、BL OCT における正常血管壁の平均内膜厚(Odds ratio[OR]: 1.008, 95% CI: 1.004–1.011; p<0.001)、マイクロチャネル(OR: 2.27, 95% CI: 1.04–4.97; p=0.037)、動脈硬化プラークの偏心性分布(OR: 2.90, 95% CI: 1.86–4.53; p<0.001)は動脈硬化の進行の独立した危険因子であった。

長期追跡期間における内膜厚の連続的な変化
6 点の平均内膜厚は、BL から FUP までの間に有意に増加した。また、BLの断面における最も厚い点の内膜厚は、追跡期間で有意に増加した(280 [208-350]μm vs. 360 [280-460]μm, p<0.001)。一方、BL の断面における最も薄い点の内膜厚は、追跡期間で有意に変化しなかった(130 [80-170]μm vs. 130 [90-160]μm; p=0.28)。BL 時の最も厚い内膜点の内膜厚における絶対的な変化量が最も大きく、最も薄い内膜点の内膜厚における変化量が最も小さかった。全ての測定点において、内膜厚変化の絶対値は、BL の内膜厚
と正の相関があった(R=0.252, p<0.001)。

【論考】
本研究では、以下の新しい知見が得られた。1)中央値 6.9 年の長期追跡期間中に、登録断面の 40.8%で正常血管壁から動脈硬化プラークへの進行が認められたが、正常血管壁の範囲は 59.2%で維持されていた。2) BL 時の正常血管壁の内膜厚が大きいこと、マイクロチャネルの存在、動脈硬化性プラークの偏心分布は、正常血管壁から動脈硬化プラークへの動脈硬化の進行と独立して関連していた。3)BL 時の最も厚い内膜点での内膜厚は、FUP までの間に有意に増加したが、BL 時の最も薄い内膜点での内膜厚は、有意な変化は見られなかった。

びまん性内膜肥厚(DIT)は、動脈硬化が進行する前の肥厚した内膜のことで、冠動脈圧や流れに対する適応反応と考えられている。本研究では BL の正常血管壁の平均内膜厚は、進行群で非進行群よりも有意に厚いことが明らかになった。さらに多変量解析では、BL 時の正常血管壁の内膜厚が大きいことが、動脈硬化進行と独立して関連していた。これらのデータは、正常な内膜肥厚の範囲内であっても、内膜厚が厚い DIT は、動脈硬化進行の温床となる可能性を示している。

本研究でマイクロチャネルの存在は、その後の動脈硬化進行と関連していた。過去の研究で、マイクロチャネルがプラークの脆弱性および進行に関連することが示されている。これらのデータは動脈硬化が進行した病変に限られていたが、本研究では動脈硬化の初期段階から関与していることが示された。

また今回の研究では、動脈硬化プラークの偏心分布が初期の動脈硬化進行と関連することが明らかになった。これまでの報告では、ずり応力に代表される局所的な血行動態環境が、偏心プラークの進行に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている。故に動脈硬化プラークの偏心分布は、ずり応力の低さや不均一性の影響を介して初期の動脈硬化進行に関連していると推測している。

OCT による内膜厚の連続評価では、BL の最も厚い内膜点での内膜厚は、BL から追跡期間中に有意に増加したが、最も薄い内膜点での内膜厚は変化を認めなかった。また内膜厚の変化量は、BL 時の最も厚い内膜点で最大で、最も薄い内膜点で最小であった。注目すべきことに、内膜厚変化の絶対値はBL の内膜厚と正の相関があった。これらのデータは、動脈硬化が経時的に進行しやすい場所が存在し、様々な要因と関連して適応的な内膜肥厚が動脈硬化性病変へ変化していることを示唆している。BL の内膜厚は、特にその初期
段階において、将来のアテローム性動脈硬化の変化を予測する重要な因子となりうる。

本研究の limitation として後方視的な観察研究であることが挙げられる。また冠動脈疾患と診断された患者を対象としているため、選択バイアスの存在が挙げられる。また本研究は断面レベルの解析が中心で、プラークや患者レベルの解析は行っていない。そのため、初期の動脈硬化進行の臨床的な影響は不明である。この点を明らかにするために今後、より症例数が多く観察期間の長い研究が必要であると考える。

【結論】
本研究で、正常血管壁の内膜厚が厚いこと、マイクロチャネルが存在すること、動脈硬化プラークが偏心して分布していることは、正常血管壁から動脈硬化プラークへの進行に関連することが示された。内膜の肥厚は、仮に正常範囲内であったとしても、動脈硬化進行の初期段階で重要な役割を果たしていると考えられた。

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