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古典的Ullmann反応を鍵としたポリフェノール性天然物の合成研究

今井 遥 富山大学

2021.03.23

概要

近年、癌をはじめとする生活習慣病の発症と活性酸素との関与が明らかになるにつれ、抗酸化性の素材が健康食品等の分野で高い関心を集めている。ポリフェノール含有植物もその一つであり、ポリフェノールの健康効果については、現代社会において広く興味が持たれている。多くの化合物群が存在するポリフェノールの中で、エラジタンニンは加水分解性タンニンの一種として研究の対象とされてきた。これらは、抗酸化作用や抗腫瘍作用、抗菌作用などの様々な生理活性を有することから、医薬品資源として有用な化合物群と考えられている。しかしながら、植物中からこれらの化合物を単体で抽出することは困難であり、上記のような生理活性がわかっているものはごく僅かである。このことから、エラジタンニン類の生理活性をより詳細に検討するため、様々なエラジタンニン類及び関連化合物の大量供給を目的とした化学合成が行われてきた。

エラジタンニンは、構成単位がグルコースと没食子酸のみであるにもかかわらず、それらの結合様式の違いなどにより、多様な構造を成し、これまでに 1000 種以上の化合物が発見されている。特に、没食子酸同士が C-C 及び C-O 結合を介してカップリングを繰り返すことで、多くの化合物が形成される。さらに、結合位置の違い、オリゴマー化の程度によって、多彩な構造を形成し得る。よって、エラジタンニンを網羅的に合成するには、没食子酸由来の様々な部分構造の合成方法を確立する必要がある。

これまでに、ビフェニル及びジアリールエーテルの合成については、遷移金属を用いたカップリング反応や芳香族求核置換反応など多くの手法が報告されている。しかし、没食子酸のような高度に酸素官能基化された基質のカップリング反応に関しては、反応点周りの立体障害や電子的な問題のために、これらの方法による合成は困難を示す。しかしこの問題の解決が、エラジタンニン合成に必要不可欠であるため、没食子酸由来のビアリール及びジアリールエーテルの合成方法の開発が行われてきた。その中で、高度に酸素官能基化された芳香族環同士の C-C 及び C-O カップリングにおいては、古典的な Ullmann 反応が有用であることが知られている。すなわち、没食子酸から数工程でブロモ体及びフェノール体を合成し、銅粉末を用いて高沸点極性溶媒中で反応を行うことで、ビアリール及びジアリールエーテルを合成する方法である。この方法は、出発原料の合成が非常に簡単であり、高収率で目的物が得られるほか、銅粉末がろ過のみでほとんど除去できるところが利点である。よってこの方法を利用し、没食子酸誘導体の合成を試みた。まず初めに、必要となる没食子酸由来の出発原料であるフェノール体やブロモ体を数工程の官能基変換によって適宜調製した。さらに、得られたフェノール体とブロモ体を用いた Ullmann 縮合によるジアリールエーテルの合成や、異なる 2 種類のブロモ体同士の Ullmann クロスカップリングを用いた非対称ビアリールの構築により、エラジタンニンの部分構造となる様々な没食子酸誘導体の合成に成功した。すなわち、没食子酸誘導体である dehydrodigalloyl unit、valoneoyl acid dilactone unit、isodehydrodigalloyl unit 誘導体を、 Ullmann 反応の利用によって簡単且つ高収率で合成することに成功した。さらに、それぞれの没食子酸誘導体を別途調製したグルコース誘導体に縮合させることによって、上記の没食子酸誘導体を含むエラジタンニンの全合成に成功した。

また、Ullmann 反応によるビアリール合成の応用として、エラグ酸類似体である nigricanin の合成に着目した。この化合物は、Russula nigricans から単離・構造決定され、エラジタンニンの代謝産物であるエラグ酸と似た構造を示すポリフェノール性天然物である。Nigricanin の合成は、Pd 触媒による分子内ビアリールカップリング反応を鍵とした方法が報告されている。今回著者は、この方法の別法として、 Ullmann 反応と Cannizzaro 反応を組み合わせることで、従来法より短工程且つ高収率での nigricanin の合成を達成した。すなわち、isovanilin から合成したブロモ体を出発原料とし、Ullmann カップリングによってアルデヒドを有する対称ビアリールを合成した後、Cannizzaro 反応によって二つのアルデヒドを 1 級アルコールとカルボン酸へと変換することで、非対称ビアリールへの誘導に成功した。このことから、単一の化合物のみを出発原料とした Ullmann カップリングによる対称ビアリールの合成及び Cannizzaro 反応によって非対称ビアリールへと変換することで、従来法より短工程かつ高収率での nigricanin の合成を達成した。

以上のように、著者は Ullmann 反応が高度に酸素官能基化されたビアリール及びジアリールエーテルを有する化合物の簡便な合成に有用であることを示した。この反応を利用して、ポリフェノール性天然物である coriariin B、oenothein C、cornusiin B、nilotinin M3 及び nigricanin の合成を達成した。

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