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大学・研究所にある論文を検索できる 「温度環境が農耕地土壌の繊毛虫群集の生態に及ぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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温度環境が農耕地土壌の繊毛虫群集の生態に及ぼす影響

大島, 崇彰 名古屋大学

2021.08.20

概要

1. 背景と目的
繊毛虫は、海、河川、土壌などの様々な環境に生息する原生生物の一群である。土壌に生息する繊毛虫の多くは細菌、糸状菌および他の原生生物を餌として利用する捕食者であり、捕食を介して餌微生物の生態に影響を及ぼすとともに、土壌物質循環の促進にも寄与する。また、繊毛虫は土壌環境の状態を反映する指標生物として有用とされており、土壌環境の変化に鋭敏に応答を示す微生物群であると考えられる。
ところで、温度は生物の生育や生残に影響を与える最も基本的な環境要因の一つである。温度の重要性は繊毛虫にとっても例外でなく、生育可能な温度範囲内では環境温度の上昇に伴って繊毛虫の増殖速度や捕食速度が増加することが明らかになっている。このような先行研究では、比較的低温が特定の分離株に及ぼす影響を解析している。しかし、農耕地では農業活動により土壌は高温になるうえ、温度が種間の相互作用を変化させることにより、他の種が存在するか否かで、温度に対して異なる応答を示す場合がある。このため、農耕地土壌に生息する繊毛虫に対する温度の影響を解析する際には、広範な温度域が繊毛虫に及ぼす影響を、個体群レベルのみならず群集レベルでも解析する必要がある。
本研究では、農耕地土壌の温度環境が土壌繊毛虫群集の生態に及ぼす影響を、群集レベルの解析と個体群レベルの解析から明らかにすることを目的とした。

2. 温度環境に対する繊毛虫群集の感受性と回復力
温度環境に対する繊毛虫群集の感受性と回復力を把握することを目的として、異なる温度条件 (10- 60℃ ) で土壌を培養した後、土壌間隙水中の繊毛虫の栄養細胞を計数するとともに、土壌から DNA を抽出し、PCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)を用いて繊毛虫の群集構成を解析した。明らかになった温度環境に対する繊毛虫群集の感受性と回復力を他の微生物群のものと比較した。
繊毛虫の栄養細胞数は、培養 14 日目では 10℃、20℃ で検出されたが、30℃ 以上の条件ではほとんど検出されず、培養 28 日目にはいずれの土壌でも栄養細胞はほとんど観察されなかった。DGGE バンドの数から推定された繊毛虫の多様性は、50℃以上で培養 14 日目に大きく減少し、30℃と 40℃でも培養 28 日目に 10- 20℃に比べて少なくなった。DGGE バンドパターンに基づくクラスター解析では、培養 14 日目、培養 28 日目とも、10-20℃ , 40℃ , 50℃ , 60℃ の各条件で異なる群集を形成した。30℃培養の群集は、培養 14 日目では 10-20℃の群集に類似し、培養 28 日目には 10-20℃の群集とはやや異なる傾向を示した。高温処理後の繊毛虫群集の回復力を調査するために、40℃および 60℃ で培養した土壌を 20℃に移して静置したところ、40℃ で培養した土壌では 90 日後に DGGE バンドの数の増加が認められ、20℃で培養を続けた土壌の群集に類似した。一方、60℃ で培養した土壌では回復は認められず、繊毛虫群集が致命的なダメージを受けたと推察された。繊毛虫の温度に対する応答は糸状菌群集のものと類似した一方、繊毛虫の主要な餌微生物である細菌群集はより高い耐熱性と回復力を示した。
以上より、温度環境が繊毛虫群集を制御し、微生物食物連鎖の構造や機能に影響を与え得る重要な環境要因であることが示唆された。

3. 温度環境が細菌を捕食する繊毛虫群集に及ぼす影響 - DNA-SIP による解析-
異なる温度条件で捕食に関与する繊毛虫を特定するとともに、その群集構成に及ぼす温度の影響を明らかにするために、13 C で標識した大腸菌を利用した DNA-SIP 法による解析を行った。土壌に 13 C で標識した大腸菌あるいは非標識の大腸菌を接種し、 20、30、40℃で 1 週間培養した。培養後の土壌より抽出した DNA を CsCl 密度勾配遠心により分画し、PCR-DGGE およびアンプリコンシーケンスにより大腸菌由来の炭素を取り込んだ繊毛虫群集を解析した。
分画前の DNA を用いた DGGE 解析では、大腸菌の接種による群集構成の変化は認められなかった。一方で、20℃と 30°C で培養した土壌と 40°C で培養した土壌とで異なる群集が形成されており、繊毛虫の群集構成は 1 週間で温度環境に応答して変化したと考えられた。分画後の DNA を用いた解析から、いずれの温度条件でも繊毛虫が大腸菌由来の炭素を取り込んでいることが確認され、おそらく繊毛虫群集が大腸菌の捕食に関与したと考えられた。13C で標識された群集と分画前の群集の主要なメンバーは概ね一致しており、各温度条件下で優占する繊毛虫が大腸菌の捕食に関与したと推察された。13C で標識された群集を温度条件間で比較した結果、20°C と 30°C では Colpodea 綱や Spirotrichea 綱の繊毛虫をはじめとした多様な繊毛虫に近縁な配列が得られた一方で、40°C では Cyrtolophosididae 科の繊毛虫に近縁な配列のみが得られ、限られた繊毛虫が 40℃に適応していると推察された。
以上より、温度環境は捕食に関わる繊毛虫群集の構成に影響を与えること、40°C のような比較的高温条件下でも捕食を行う繊毛虫が存在することが示された。

4. 土壌より分離した繊毛虫の温度環境に対する応答
繊毛虫の温度環境に対する応答をより詳細に明らかにするために、20℃と 40℃で培養した土壌から分離した繊毛虫それぞれ 3 株を異なる温度条件下 (10- 45℃ ) で 1 週間培養を行い、経時的に顕微鏡観察を行うことで分離株の生育を追跡し、培養終了時に分離株の増殖の程度を把握するため細胞数の計数を行った。また、分離株を混合し、異なる温度条件下で培養を行い、PCR-DGGE による群集構成解析を行った。
40℃ で培養した土壌からの分離株は、いずれも 40℃付近の温度で増殖およびその後のシスト化の進行が早く、40℃付近の温度に適応していると推察された。一方で、20℃で培養した土壌からの分離株は、30℃付近の温度で増殖およびその後のシスト化の進行が早く、30℃付近に適応していると推察された。培養終了時の分離株の細胞密度を比較すると、40℃で培養した土壌からの分離株は 15℃では増加しなかったのに対し、20℃で培養した土壌からの分離株は増加した。高温側については、40℃で培養した土壌からの分離株は 40℃以上で増殖したのに対し、20℃で培養した土壌からの分離株は 40℃ 以上では増殖しなかった。また、同じ温度で培養した土壌からの分離株の間にも増殖の最高温度に差異が見られた。異なる温度条件下で分離株を混合培養し、 DGGE により解析した結果、45℃で輝度の高かったバンドは 35℃以下では検出されなかった。45℃ で増殖可能だった分離株は、35℃ 以下でも増殖可能だったため他の分離株によって増殖を阻害されたと考えられた。
以上より、農耕地土壌の繊毛虫群集は、異なる生育温度範囲を持つメンバーから成ることが示されるとともに、増殖可能な温度範囲であっても他の繊毛虫が存在によってある繊毛虫の増殖が阻害される場合がある可能性が示唆された。

5. 本研究により得られた成果
本研究では、これまで十分に解析されてこなかった高温を含む広範な温度環境が土壌繊毛虫群集に及ぼす影響を明らかにした。繊毛虫の多様性は、環境が高温となるほど低下することが明らかになった。しかし、40℃ 程度の高温は、必ずしも全ての繊毛虫を死滅させるわけでなく、生き残った繊毛虫の一部は温度環境が好適になれば再び増殖できるが、60℃ ではそのような回復は見られず繊毛虫にとって致命的な温度であると考えられた。捕食に関与する繊毛虫群集の多様性も 20℃や 30℃ と比較して 40℃で大きく低下したが、高温に適応した種が捕食に関与し、全ての繊毛虫が高温で抑制されるわけではないことが明らかになった。さらに、分離株の解析により、土壌には異なる生育温度範囲を持つ繊毛虫が同所的に存在することが明らかになった。

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