リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「エヴィンキの人々の社会組織と牧畜経済:ジューに注目して」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

エヴィンキの人々の社会組織と牧畜経済:ジューに注目して

那孫 孟和 東北大学

2020.07.30

概要

開発論では共同体が分業を適切な協業関係へ調整し、組織の原理を提供しているとして積極的な役割を再評価している。速⽔佑次郎によれば、「村落や部族などの共同体は前近代的な組織として意識され、近代的発展の桎梏とみなされがちであった。だが実際に は、(中略)近代的な経済発展を⽀えるに不可⽋な組織の原理を提供している」(速⽔ 1995,254)。また、「共同体は合意に基づく協⼒により、分業を適切な協業関係へ調整する役割を担うのである」(同上,255)。速⽔のいう「共同体」とは濃密な⼈的交流によって形成される信頼関係で結ばれる集団である(同上,254)。

しかしながら、共同体即ち伝統的関係により編成される組織が具体的にどのように編成されているかは⼗分な検討がなされてはいない。本論⽂は経済発展の過程で新たに編成される共同的な集団組織というものがどのように編成されているかをエヴェンキの先⾏研究を踏まえながら検討し1 、そのうえでその集団がどのような役割を担っているのかを具体的に明らかにする。本論⽂はこのような事例の⼀つとしてジューに注⽬する2。ジューは親族関係で結ばれた数世帯からなり 、牧畜の放牧のために共同で作業する集団である
3。エヴェンキの⽣業の基本は牧畜である。本稿では、草地制度・政策の変化の下で、エヴェンキの⼈々がこのような⽣業に、どのように取り組んでいるのか、さらに急速な経済発展の中でどう変化しているのかを検討するものである。

近年、中国政府による様々な少数⺠族政策が制定され、それを背景として辺境地域で⼤規模な経済開発が進⾏している。こうした環境の中で⼩規模な家族単位の牧畜の経営に加え、村のコミュニティ内部やエヴェンキ社会の全体も⼤きく変化しつつある。マスメディアから当該⺠族の研究者まで、エヴェンキを狩猟採取⺠として位置付けてきたが、激変する現代エヴェンキ社会の実態を正確かつ⼗分には伝えていない。牧畜⽣業を始めとする社会経済的変化が著しい現代エヴェンキ社会は、伝統的な狩猟採取⺠や遊牧⺠などと⾔ったステレオタイプな⾒⽅とはかけ離れた現状にある。そこで本研究は、⽣業である牧畜の現状を詳細に検討し、エヴェンキ社会の変化を明らかにする。

現在のエヴェンキは⽣業によって、牧畜エヴェンキ(騎⾺エヴェンキ)、農業エヴェンキ、トナカイ・エヴェンキ(馴⿅エヴェンキ)に分けられる。トナカイ・エヴェンキであるオルゴヤ・エヴェンキは全⼈⼝ 300 ⼈弱で、清朝以前からトナカイを所有しつつ森
林の中で遊牧する⽣活をしている。しかし、森林の中で定住する⼈⼝は 60 ⼈だと⾔われている。牧畜エヴェンキとされるツングース・エヴェンキとソロン・エヴェンキは服装と⽅⾔が⼤きく異なるが、⽣業についてはともにモリン(⾺の意味)エヴェンキとも呼ばれることからもわかるように、現在はトナカイではなく⽜⾺⽺を主な家畜として定住牧畜を営む。エヴェンキの⽣業についての研究は、オルゴヤ・エヴェンキの⿅飼育にとどまり、⼈⼝割合が多い騎⾺エヴェンキ、農業エヴェンキ、牧畜エヴェンキについてはほとんど研究されていない。

今までの研究報告では、エヴェンキの社会では⽒族制度が 1960 年代に消え、その後は中国の社会にうまく適合できたと⾔われている。共産党の少数⺠族優遇制度による恵まれた状況の下で、エヴェンキの⼈々は幸せな現代⽣活を送っており、中国の様々な政策の実施後は⼀気に原始社会から現代社会へ移り変わった、等々と報告されている。しかし実際にエヴェンキの牧畜経営が今どのようになっているのかは明らかになっておらず、本研究は、このような問題意識に答えるべく現地調査を⾏った実証的な研究である。本研究ではエヴェンキの⽣業の変化に伴い、彼らが協⼒グループの選択をどのように⾏ったか、またその選択したグループがどう変化したかを明らかにする。その中でエヴェンキの社会を⽀えてきた「親族・集団関係」の形態とその変化の過程を観察する。

この論文で使われている画像

参考文献

中国語

吴守貴(2008)、『鄂温克族社会歴史』北京:⺠族出版社。

龔宇(2004)、「転承と流変:使⿅鄂温克の訓⿅⺠俗の機能研究」内モンゴル師範⼤学修⼠学位論⽂。

阿拉腾(アラタン)(2006)、『⽂化の変遷――ある村のストーリ』北京:⺠族出版社。

王琢、許浜(1996)、『中国農村⼟地産権制度論』北京:経済管理出版社。

韓狄「清朝⼋旗ソローン部研究-中国東北地域を中⼼に」。

毅松、涂建軍、⽩蘭等 (2007)、『達斡尓族、鄂温克族、鄂倫春族⽂化研究』。

祁惠君(2008)、『伝統と現代:エヴェンキ⺠族牧畜⺠の⽣活』。

孔繁志(2002)、『敖魯古雅鄂温克⼈的⽂化変遷』ハイラル:天津古籍出版社。

国務院法制事務室編(2012)、『中華⼈⺠共和国・⼟地法典』北京:中国法制出版社。

斯仁巴図(ダ・セレンバト)、安娜編(2008)、『鄂温克族⺠俗⽂化研究』内モンゴル⽂化出版社。

秋浦(1962)、『エヴェンキ⼈の原始社会形態』北京:中華書局。

宋洪遠、他編(1998)、『中国農業政策と渉農部署の⾏為』北京:中国財政経済出版社。

中華⼈⺠共和国農業部編(1997)、『中国農業統計資料(1996 年)』北京:中国農業出版社。

中国国家⺠委編(2009)、『鄂温克族社会歴史調査』北京:⺠族出版社。

中国社会科学院経済研究所編(2000)、『中国改⾰開放以来の経済⼤事輯要』北京:経済科学出版社。

中国少数⺠族社会歴史調査資料系書内モンゴル⾃治区編修組編修(2009)、『エヴェンキ⺠族社会歴史調査』。

中国法制出版社編(2012)、『中華⼈⺠共和国⼟地法典』北京:中国法制出版社。 中国鄂温克研究会編(2002)、『鄂温克研究』スチンフ「エヴェンキ研究の流れ①」(11): p2〜27。

張琦、⾼振南(1994)、『中国農村⼟地制度改⾰と体系建設模式』北京:中国財政経済出版社。

陳錫⽂(1993)、『中国農村改⾰−回顾と展望』天津:天津⼈⺠出版社。

杜哈拉(ドラル・ハラ)編(2008)、『鄂温克⾃治旗概況』北京:⺠族出版社。

内モンゴル⾃治区、⿊⻯江省政協⽂史資料委員会(2008)、『中国少数⺠族⽂史資料系書―エヴェンキ⺠族百年実録(上下冊)』。

包路芳(2006)、『社会変遷与⽂化調適:遊牧鄂温克社会調査研究』。

本書編委員会編(1998)、『新⼟地管理法令全書』北京:中国法制出版社。

劉雅珍、安孝義 編(1993)、『中国郷村法治通論』北京:中国政法⼤学出版社。

孛・吉尓格勒(ボ・ジルガル)羅淳、譚昕編(2004)『鄂温克族―内蒙古鄂温克族⾃治旗烏蘭宝⼒格嘎査(ウランボリガガチャー)調査』昆明:雲南⼤学出版社。

鄂温克族⾃治旗誌編纂委員会編(1996)、『鄂温克族⾃治旗誌 1958-1991 年』北京:中国城市出版社。

鄂温克族⾃治旗誌編纂委員会編(2005)、『鄂温克族⾃治旗誌 1991-2005 年』北京:中国城市出版社。

鄂温克族⾃治旗誌編纂委員会編(2008)『中華⼈⺠共和国地⽅誌系書―エヴェンキ⺠族⾃治旗誌(1991-2005 年)』。

⽇本語

B.A.トゥゴルコフ(1981)、『トナカイに乗った狩⼈たち−北⽅ツングース⺠族誌』(加藤九祚解説、⻫藤晨⼆訳)⼑⽔書房。

阿柔翰巴図(アロ−ハンバト)(2003)、「中国内モンゴルの牧畜業における草地利⽤式に関する研究」『農業経済研究報告(p35, 37〜50)』。

ウィルヘム・ワグナー(1972)、『中国農書上卷、下卷(2 冊)』(⾼⼭洋吉訳)⼑江書院。

卡麗娜(カリナ)「シベリア及び遠東地域の⺠族学研究」、「トナカイエヴェンキ⼈の樺樹⽪⽂化を論じる」。

クネヒト・ペトロ(2005)、「⼤公安嶺のトナカイ・エヴェンキの公易ボグショルについて」『アジア市場の⽂化と社会――流通・交換をめぐる学際的まなざし』⾵響社、p157〜189。

シロコゴロフ(1942)、『北⽅ツングースの社会構成』(川久保悌郎、⽥中克⼰訳)岩波書店

ヒュー O. ナース, 笹⽥友三郎訳(1975)、『地域経済学』好学社。

ボルジギン・ブレンサイン(2006)、『近現代におけるモンゴル⼈農耕村落社会の形成』。

阿柔翰巴図(アロ−ハンバト)(2003)、「中国内モンゴルの牧畜業における草地利⽤式に関する研究」『農業経済研究報告』(p35、37〜50)。

荏開津典⽣(2007)、『農業経済学(第⼆版)』(⽇本語)。

加藤弘之、陳光輝(2002)、『東アジア⻑期経済統計第 12 卷-中国』勁草書房。

河原昌⼀郎(2005)、「中国の⼟地請負経営権の法的内容と適⽤法理」『農林⽔産政策研究』第10 号:p1〜32。

⾼橋基樹、福井清⼀(2008)『経済開発論−研究と実践のフロンティア』草書房。

⾼倉浩樹(2012)、『極寒のシベリアに⽣きる−トナカイと氷と先住⺠』。

⾼倉浩樹「極北の牧畜⺠サハ―進化とミクロ適応をめぐるシベリア⺠族誌」。

佐々⽊史郎(1989)、「アムール下流域諸⺠族の社会・⽂化における清朝⽀配の影響について」『国⽴⺠族学博物館研究報告』14 巻 3 号 p671〜771。

佐々⽊史郎(2001)、「近現代のアムール川下流域と樺太における⺠族分類の変遷」『国⽴⺠族学博物館研究報告』26 巻 1 号 p1〜78。

佐々⽊史郎(2002)、「クマ祭に集まる⼈々-狩猟儀礼に表出するエヴェンキ族の社会構成原理について」『国⽴⺠族博物館研究報告』10(2)、p451〜480。

斯波義信編(2012)、『中国社会経済史⽤語解』東洋⽂庫。

児⽟⾹菜⼦(2012)、アフロ・ユーラシア内陸乾燥地⽂明研究書 1-『「脱社会主義政策」と「砂漠化」状況における内モンゴル牧畜⺠の現代的変容』名古屋⼤学⽂学研究科⽐較⼈⽂学研究室。

寺下貴美(2011)、「第 7 回質的研究法論―質的データを科学的に分析するために」『⽇本放射線技術学会誌』第67巻第 4 号 p413〜417。

⼩⽥美佐⼦(2002)、『中国⼟地使⽤権と所有権』法律⽂化社。

上牧瀬三郎(著作権者が不明)(1940)、『ソロン族の社会』⽣活社。

⻘柳⻫(2002)、『中国農村合作社の改⾰−供銷社の展開の過程』⽇本経済評論社。速⽔佑次郎(2009)、『開発経済学』創⽂社。

中根千枝(1987)、『社会⼈類学--アジア諸社会に考察』東京⼤学出版社。

潮⾒俊隆・渡辺洋三・⽯村善助・⼤島太郎・中尾英俊(1957)、『⽇本の農村』岩波書店。

鄭杭⽣、奥島孝康 編(2002)、『中国の社会−解放される 12 億の⺠』早稲⽥⼤学出版社。

天海謙三郎(1966)、『中国⼟地⽂書の研究』勁草書房。

⽥島俊雄(1996)、『中国農業の構造と変動』御茶の⽔書房。

藤⽥泉 編(2002)、『中国内陸部の農業農村構造−⽇中共同調査分析』筑波書房。

那孫孟和、⽶倉等(2017)、「ソロン・エヴェンキの⼀村(ガチャー)に⾒る請負制度導⼊後における親族集団の新たな役割と編成」『農業経済研究報告』第 48 号:p1〜23。

農林中⾦総合研究所 編(2002)、『杜潤⽣−中国農村改⾰論集』(⽩⽯和良、菅沼圭輔、浜⼝義曠、阮蔚訳)農⽂協。

⽩⽯和良(1997)、『中国農業必携−ワイドな統計、正しい読み⽅』農⽂協。

⽩福英(2012)、「牧畜社会の開発への対応−内モンゴル⻄ウジュムチン旗・S ガチャーの事例から」東北⼤学環境科学研究科修⼠論⽂(⽇本語)。

⾵間伸次郎、トヤー編(2011)、『ツングース⾔語⽂化論集 52―ソロン語基礎語彙』東京外国語⼤学アジア・アフリカ⾔語⽂化研究所、株式会社オーエム。

末成道男編(1995)、『中国⽂化⼈類学⽂献解題』(佐々⽊史郎p33〜34)、東京⼤学出版会。

末成道男編(2004)、『講座 ファーストピープルズ:世界先住⺠の現在』スチンフ、第⼀巻エヴェンキ」p48〜65、明⽯書店。

柳澤明(2007)、「清朝統治期の⿊⻯江地区における諸⺠族の形成・再編過程の研究」平成 16〜18 年度科学研究費補助⾦(基盤研究 C)研究成果報告書。

利光有紀(1983)、「“オトル”ノート―モンゴルの移動牧畜をめぐって」『⼈⽂地理』第 35 巻第 6 号。

鈴⽊榮太郎、喜⽥野清⼀(1952)、『農村社会調査』。

兪炳強、七⼾⻑⽣、⿊川功(1991)、「草原遊牧業経営⽅式の変遷過程と制度的改⾰:中国内蒙古⾃治区を対象に」。

卡麗娜(2012)、「エヴェンキとオロチョンの伝統的狩猟」『国⽴⺠族博物館研究報告』36(4), p457〜492。

モンゴル語(⽇本語訳の題⽬で記す)

スチンフ(2005)、「エヴェンキ⺠族誌の構築と今⽇の意義」『シベリア歴史・⽂化』クラスノヤルスク国⽴師範⼤学(4):p208〜217(原⽂ロシア語)。

斯仁巴図(ダ・セレンバト)、安娜(アナー)編修(2008)、『エヴェンキ族⺠俗⽂化研究』。

斯仁巴図(ダ・セレンバト)編修(2011)、『エヴェンキ族⾃治旗古籍系書(7)−エヴェンキ⺠俗誌』。

杜哈拉(ドラル・ハラ)編修(2008)、『エヴェンキ族⾃治旗古籍系書(1)−ソロン、バルガ、ダグール⼈たちのフルンボイルへ移住した源説』(グル訳、モンゴル語)。

杜哈拉(ドラル・ハラ)編修(2010)、『エヴェンキ族⾃治旗古籍系書(6)−エヴェンキ⺠族の⽂化と歴史』(モンゴル語)。

英語

Anderson, David(2000) Identity and Ecology in Arctic Siberia: The Number One Reindeer Brigade. Ox- ford University Press.

Nasunmenghe, Kohei Yagi (2020) The State of the Pastoral Economy of the Solon Evenki: Focusing on the Logic of their Communities. Vol 7 No 3 (2020): Advances in Social Sciences Research Journal (ASSRJ).

Sneath, David(2007) The Headless State: Aristocratic Orders, Kingship Society, Misrepresentation of Nomadic Inner Asia. Columbia University Press.

参考文献をもっと見る

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る