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Disparity of performance measure by door-to-balloon time between rural and urban area for management of patients with ST-segment elevation myocardial infarction

福井, 健人 東北大学

2023.03.24

概要

Page 1

博士論文

Disparity of performance measure by door-to-balloon time between rural
and urban area for management of patients with ST-segment elevation
myocardial infarction

(ST 上昇型心筋梗塞患者における door-to-balloon time が予後に与える
影響の地域差に関する検討)

東北大学大学院医学系研究科医科学専攻
内科病態学講座循環器内科学分野
福井

健人

Page 2

目次

ページ

1. 要約

……4

2. 略語

……6

3. 研究背景

……7

3.1 急性心筋梗塞の病態とこれまでの疫学的検討
3.2 急性心筋梗塞の治療と Door-to-balloon time
3.3 日本社会の高齢化と急性心筋梗塞診療の地域差
3.4 日本急性心筋梗塞レジストリー研究
4. 研究目的

……12

5. 研究方法

……13

5.1 日本急性心筋梗塞レジストリーの詳細
5.2 対象患者
5.3 定義
5.4 解析方法
6. 研究結果
6.1 患者背景
6.2 地域別の再灌流療法における時間経過
6.3 Door-to-balloon time と院内死亡率
6.4 来院時 Killip 分類によるサブグループ解析

……18

Page 3
7. 考察

……22

7.1 本研究結果のまとめ
7.2 日本における Door-to-balloon time と院内死亡率の地域差
7.3 心原性ショック患者における院内死亡率の地域差
7.4 今後の研究課題
7.5 本研究の限界
8. 結語

……31

9. 謝辞

……32

10. 参考文献

……33

11. 図の説明

……44

12. 表 (1-4)

……51

13. 図 (1-26)

……56

Page 4

1.

要約

【背景】急性心筋梗塞症(Acute myocardial infarction; AMI)は現代においても罹患者
の約半数が死亡に至る急性疾患である。貫壁性梗塞を示唆する ST 上昇型心筋梗塞
(ST-Elevation Myocardial Infarction; STEMI)においては急性期の冠動脈血行再建術
(Primary percutaneous coronary intervention; PPCI)による再灌流の達成が院内死亡率
低下のために必須である。近年のガイドラインでは来院から再灌流までの時間
(Door-to-balloon time; D2B time)を 90 分以内にすることが推奨されているが、D2B
time が予後に与える影響の地域差については十分検討されていない。
【方法】日本全国 10 地域の既存 AMI レジストリーから構成された 2011 年から 2016
年の 6 年間に登録された STEMI 患者 17,167 例(平均年齢;68 歳、男性;77.6%)を
日本急性心筋梗塞レジストリー(Japan acute myocardial infarction registry; JAMIR)と
して統合し解析対象とした。2010 年の国勢調査による人口密度の中央値 1,147 人
/km2 をカットオフとして地方群(n=6,908 例)と都市部群(n=10,259 例)とに分け、
D2B time が院内死亡率に与える影響を比較検討した。
【結果】都市部と比較して、地方では D2B time が延長しており(地方 70 分 vs. 都
市部 62 分, P<0.01)、D2B time 90 分以下の達成率も低かった(地方 70.7% vs. 都市
部 75.4%, P<0.01)。地域に関わらず、D2B time が 90 分以上の患者よりも 90 分以下
の患者では院内死亡率が有意に低かったが、多変量解析を行ったところ、遅延した
D2B time が院内死亡率と関連していたのは地方のみであった[調整オッズ比(95%

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信頼区間) 1.57(1.18-2.09)]。Killip 分類によるサブグループ解析では院内死亡率
に地域差が認められたのは Killip 分類 IV 度(心原性ショック)のみであり(地方
38.0% vs. 都市部 29.5%, P<0.01)、特にこの地域差は D2B time が 90 分以上に延長し
ている患者にのみ認められ(地方 47.2% vs. 都市部 33.3%, P<0.01)、D2B time が 90
分以下の心原性ショック患者では地域差は認められなかった(地方 31.9% vs. 都市部
27.3%, P=0.16)。
【結語】本邦の STEMI 患者において、D2B time が予後に与える影響には地域差があ
り、特に心原性ショックを合併し D2B time が 90 分以上に遷延した患者群において
顕著であることが明らかになった。

Page 6

2.

略語

AMI

; acute myocardial infarction

aOR

; adjusted odds ratio

CI

; confidence interval

D2B time

; door-to-balloon time

JAMIR

; Japan acute myocardial infarction registry

O2B time

; onset-to-balloon time

O2D time

; onset-to-door time

PCI

; percutaneous coronary intervention

PPCI

; primary percutaneous coronary intervention

STEMI

; ST-elevation myocardial infarction

WHO

; world health organization

Page 7

3.

研究背景

3.1 急性心筋梗塞の病態とこれまでの疫学的検討
急性心筋梗塞症(Acute myocardial infarction; AMI)とは、冠動脈に形成された粥腫
(プラーク)の破綻や、それに伴う血栓形成、冠攣縮、血栓塞栓などによって冠動
脈が急速に狭窄または閉塞し、心筋壊死が起こる致死的な病態である 1)。AMI は急
性心不全や心室性不整脈、心破裂などといった致死的合併症を伴うことから、日本
を含め、先進国を中心に世界中の主要な死因の一つであり、その予防と治療は公衆
衛生上の重要な課題といえる 2)-3)。2014 年の米国における AMI 新規発症は 55 万人に
達しており、さらに 20 万人が再発しており、平均発症年齢は男性が 65.1 歳、女性が
72.0 歳であると報告されている。さらに AMI による死亡者数は約 11 万 7 千人で、
AMI を発症した患者の 5 人に 1 人は死亡していることになる 4)。我が国において
も、心疾患は悪性腫瘍に次ぐ主要な死亡原因であるが(図 1)、心疾患死亡の中でも
AMI はその死亡原因の多数を占めている 5)(図 2)。従来、我が国における AMI 発
症率は欧米諸国と比較して低く、世界中の AMI 発症率の比較検討を目的とした
WHO-MONICA-project によると、1985 年から 1987 年における日本の AMI 発症率は
10 万人あたりで男性 30〜60 人/年、女性 10〜20 人/年であり、欧米諸国の 10〜20 分
の 1 程度であった 6)。しかし、近年、日本人における食生活やライフスタイルの欧
米化が進み、AMI を含めた心血管病の発症率増加に大きな影響を及ぼしている可能

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性が高いことが指摘されている。実際に、我が国における AMI 発症率の経時変化を
検討した滋賀県高島町研究では、1990 年から 2001 年の間に AMI 発症率は男性で年
間 7.6%、女性で 8.3%増加していることが報告されている 7)。

3.2 急性心筋梗塞の治療と Door-to-balloon time
近年、冠動脈治療に関連する様々な分野における技術革新により冠動脈疾患の予
後は劇的に改善した 8)。特に AMI の急性期治療におけるカテーテルを用いた再灌流
療法であるプライマリー冠動脈インターベンション(Primary percutaneous coronary
intervention; PPCI)(図 3)は予後改善効果が複数の大規模臨床研究で示され、現在
では治療法として成熟し、各国のガイドラインにおいて標準治療として推奨される
ようになった 9)-12)。AMI において心電図上、ST 上昇を伴うものは ST 上昇型心筋梗
塞(ST-elevation myocardial infarction; STEMI)と分類される。STEMI は貫壁性梗塞
が示唆され、梗塞範囲が広く重篤な病態であることが多いため、PPCI による早期再
灌流が急性期死亡率低下のために欠かせない。我が国における STEMI に関するガイ
ドラインにおいて、発症 12 時間以内の症例には PPCI を行うことは推奨クラスⅠとな
っている 9)。PPCI 実施施設に来院してから再灌流までの時間(Door-to-balloon time;
D2B time)は早期再灌流の指標、さらには STEMI 診療の質の指標となっており、
D2B time が短いほど院内死亡率が低下することが示されている 13)(図 4)。米国心
臓病学会の 2013 年 STEMI ガイドラインでは、D2B time を 90 分以下にすることが推

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奨され、D2B time の短縮は国家プロジェクトとなった 12)。これに応じて近年、米国
における D2B time を 90 分以下とする達成率は 80%を超えるようになった 14)(図
5)。D2B time 短縮は STEMI 診療の質の指標でもあり、近年米国においては研究参
加施設が診療レベルの高いと考えられる病院が主体であることなどが関係し、D2B
time は経年的に短縮しているにもかかわらず、院内死亡率は限定的とも報告されて
いる 14)。わが国においては、D2B time が 90 分以下であっても予後改善が見込まれ
るのは発症から 2 時間以内に来院した症例に限定されるとする報告が存在するが、
症例数が 3391 例と比較的少数でかつ中核病院を主体とする研究であった 15)(図
6)。現在の我が国における STEMI 診療において、D2B time を 90 分以下とすること
が院内死亡率の低下にどの程度寄与するかについて十分なエビデンスを得るため
に、より大規模なリアルワールド研究が望まれていた。

3.3 日本社会の高齢化と急性心筋梗塞診療の地域差
日本は小さな島国で高い人口密度を有し、社会全体の高齢化を迎えている。人口
の高齢化は世界規模で進行しているが、特に日本においては先進国の中で最も高齢
化が顕著である 16)。高齢化は地域にかかわらず進行しているが、高齢化がより進行
している地方において、AMI 発症頻度の増加が顕著である 17)。日本の冠血行再建術
の実施施設は 1,108 あり、単位面積あたりの施設数は米国の 10 倍以上存在する一方
で 18)、AMI の発症後、都市部と比較して地方在住の患者は PPCI 実施施設に直接搬

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送される割合が少なく、早期再灌流の機会を失う原因となっていた 19)(図 7)。さ
らに急性期予後に関しても、人口密度の低下は AMI による院内死亡率の増加と有意
に関連していた 20)(図 8)。AMI による死亡率の地域格差は日本だけでなく、韓国
や米国など他国でも報告されており、ガイドラインに基づいた診療が広く行われて
いる現代においても診療上の地域格差は今後解決しなければならない問題といえる
21)-22)

。しかしながら、現代の超高齢化社会における D2B time の地域格差および D2B

time が予後に与える影響の地域差は未だ十分解明されていない。

3.4 日本急性心筋梗塞レジストリー研究
緊急性が高く、公衆衛生上も重要な AMI の我が国における実態を明らかにするた
め、全国規模で AMI 患者を対象とした多施設後向き登録研究として日本 AMI レジ
ストリー(Japan acute myocardial infarction registry; JAMIR)研究は行われた。このレ
ジストリーは全国 10 地域の既存 AMI レジストリーから構成され(図 9)、1 型心筋
梗塞患者を 2011 年から 2016 年の間に 4 万人以上登録した 1)。1 型心筋梗塞とは冠動
脈硬化による狭窄や破綻によって自然発生したものであり、心筋トロポニンが健常
人の 99%値を超える一過性の上昇・下降を示し、さらに以下のうち 1 つ以上を満た
すものと定義される;①急性心筋虚血の症状、②新規の心電図変化、③異常 Q 波の
出現、④生存心筋の消失や新規壁運動異常を示す画像所見、⑤冠動脈造影や剖検に
よる冠動脈血栓の同定。

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これまでも JAMIR からは多数のエビデンスが報告されている。まず、日本の AMI
患者において、24%が 80 歳以上の高齢者であることを示し、高齢者においても PCI
の施行は院内死亡率を有意に低下させることを示した 23)。また、左冠動脈主幹部を
責任病変とする AMI とその他の部位に責任病変を有する AMI を比較した研究も行
われた。左冠動脈主幹部に責任病変を有する AMI 患者は、発症年齢がより高く、
STEMI の割合が低く、Killip 分類でより重症の症例が多く存在することが明らかに
された 24)。加えて、心不全兆候を有する STEMI 患者と非 ST 上昇型心筋梗塞患者
を比較した研究もなされており、80 歳未満の若年群では院内死亡率に有意差は認め
られなかったが、80 歳以上の高齢群では STEMI 患者の院内死亡率の方が高いこと
が示された 25)。さらに、AMI 発症後、退院時に抗血小板薬をプラスグレルからク
ロピドグレルに変更された患者と変更されなかった患者を解析し、変更された群で
は心不全の発症や脳血管疾患の既往が多く、機械的循環補助の使用率や経口抗凝固
薬の内服率が高値であったが、虚血イベント、出血イベントの発生率に有意差がな
かったことが示された 26)。JAMIR 研究は質の高いリアルワールドデータとして
様々な切り口で AMI 診療の実態・課題を可視化してきたが、AMI 急性期診療にお
ける地方と都市部における地域差という観点では、その他の先行研究を含めても十
分解析されていない。特に D2B time の地域格差および D2B time が予後に与える影
響の地域差は未だ十分解明されていない。

Page 12

4.

研究目的

本研究の目的は、JAMIR のデータベースを用いて、STEMI 患者における D2B time
の地域差と D2B time が予後に与える影響の地域差を明らかにすることとした。

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5.

研究方法

本研究はすべての患者個人情報を匿名化して行った。また、ヘルシンキ宣言を遵
守し、それぞれの参加施設の研究倫理審査委員会から承認(2019-1-809)を受けた。

5.1 日本急性心筋梗塞レジストリーの詳細
JAMIR は 10 地域の AMI レジストリーから構成された後向き観察研究である(図
9)。データベース構築のため、札幌 ACS ネットワーク、岩手 ACS レジストリー、
宮城 AMI レジストリー、山形 AMI レジストリー、自治医科大学 AMI レジストリー
(栃木県)、東京 CCU ネットワーク、横浜心血管ワークショップ、三重 ACS レジ
ストリー、NCVC AMI レジストリー(大阪府吹田市)、熊本急性冠症候群研究会か
らデータが提供された。レジストリー構築と運用のための資金には文部科学省から
の研究助成を一部充てた。各団体においてすでにバリデーション済みのデータが後
ろ向きに収集され、国立循環器病研究センター内の JAMIR 研究事務局で管理され
た。個人情報は完全に匿名化され登録データとの紐づけは行われておらず、データ
収集後に追加調査を行うことは不可能であった。データ利用の際はあらかじめ
JAMIR 研究事務局に研究計画書を提出し、事務局と運営委員によって吟味され、研
究内容と統計解析方法について承認を得る必要があった。データ解析は筆者も含め
JAMIR 研究チームで行った。

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AMI の診断基準として、心筋トロポニン値が健常人の 99%値を超える一過性の上
昇または下降を示すことをもって診断する universal definition に則った 1)。心筋トロ
ポニン値が不明な場合は WHO-MONICA 基準に準じて、狭心痛と随伴する虚血性心
電図変化と心筋逸脱酵素(creatinine phosphokinase, aspartate aminotransferase, lactate
dehydrogenase)の上昇によって診断した 27)。PPCI を含めた急性期の再灌流療法の適
応については各施設の循環器内科医の判断に委ねられた。登録項目については、年
齢、性別、発症年月日、AMI 発症から PPCI 実施施設来院までの時間(Onset-to-door
time; O2D time)、来院から再灌流までの時間(D2B time)、AMI 発症から再灌流ま
での時間(Onset-to-balloon time; O2B time)、来院方法(自己来院または救急車の使
用)、梗塞部位、冠血管危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症の罹患、喫煙
歴)、来院時 Killip 分類 28)-29)(図 10)、再灌流療法(血栓溶解療法、または PPCI
など)、院内死亡に関する情報が含まれた。

5.2 対象患者
2011 年 1 月から 2016 年 12 月の期間に JAMIR 研究に登録され、O2B time が 24 時
間以下である AMI 患者 45,471 名のうち、非 ST 上昇型心筋梗塞患者(9,263 名)や
ST 変化が不明な患者(4,603 名)を除外し、STEMI 患者 31,605 名を抽出した。さら
に D2B time が 6 時間を超える患者(2,612 名)と D2B time が不明な患者(11,826
名)を除外し、最終的に D2B time が 6 時間以下である STEMI 患者 17,167 名(男性/

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女性 13,324/3843 名)を対象とした。解析対象患者と比較して、除外した患者群は年
齢が高く、女性の割合、冠血管危険因子、左主幹部病変、Killip 分類 II 度以上を多く
有し、また院内死亡率が高値であった(表 1)。2010 年の国勢調査による日本の人
口密度の中央値は 1,147 人/km2 であり 30)、先行研究と同様にこの値に基づいて、対
象患者を地方群(6,908 名)、都市部群(10,259 名)に分類した 20)(図 11)。個人
情報は匿名化され、登録データとの紐づけはされておらず、個々の症例の各自治体
内における詳細な居住区までは同定不能であった。このため本研究では各症例が入
院した施設の自治体レベルで地方群と都市群に分類した。構成団体 10 地域における
地方自治体レベル(都道府県もしくは市)の人口密度に基づき、岩手県(87 人
/km2)、宮城県(322 人/km2)、山形県(125 人/km2)、栃木県(797 人/km2)、三
重県(321 人/km2)、熊本県(245 人/km2)が地方群に分類され、札幌市(1,707 人
/km2)、東京都(6,017 人/km2)、横浜市(8,434 人/km2)、吹田市(9,853 人/km2)
が都市部群に分類された(図 9)。

5.3 定義
STEMI は心電図上、少なくとも 2 つの連続した誘導で 0.1mV 以上の ST 上昇、新
規左脚ブロックもしくは新規 Q 波を伴う時に診断された。PPCI は発症から 24 時間
以内に施行された PCI と定義した。O2D time は心筋虚血症状の発症から PPCI 実施
施設に到着するまでの時間、D2B time は PPCI 実施施設に到着してから冠動脈責任病

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変に初めてバルーン拡張またはデバイスを使用(再灌流)するまでの時間、そして
O2B time は心筋虚血症状の発症から再灌流するまでの時間(総虚血時間)とそれぞ
れ定義した。D2B time と O2D time のカットオフ値は STEMI のガイドラインや先行
研究を参考にそれぞれ 90 分、120 分とした 12), 31)-33)。来院時の STEMI 重症度を評価
する際、Killip 分類を用いて以下の 3 グループに分類した。
(1)心不全の所見がない群(Killip 分類 I 度)
(2)心不全の所見を有する群(Killip 分類 II-III 度)
(3)心原性ショックを呈する群(Killip 分類 IV 度)
高血圧・糖尿病・脂質異常症などの冠血管危険因子については下記の診断基準に
あてはまる、もしくは内服加療を行っている場合に冠血管危険因子合併ありと定義
した。
・高血圧:収縮期血圧 140mmHg または拡張期血圧 90mmHg 以上(WHO &国際血圧
ガイドライン)34)
・脂質異常症:低密度リポ蛋白コレステロール 140mg/dl 以上、トリグリセライド
150mg/dl 以上または高密度リポ蛋白コレステロール 40mg/dl 以下(2007 年高脂血症
ガイドライン)35)
・糖尿病:空腹時血糖値 126mg/dl 以上または食後血糖値 200mg/dl 以上、かつ①典型
的な糖尿病症状、または②HbA1c6.5 以上、または③糖尿病網膜症がある、または④
血糖値が基準値を著しく超えている 36)。

Page 17
主要評価項目は院内死亡とした。

5.4 解析方法
連続変数は平均値±標準偏差または中央値(第 1 四分位数-第 3 四分位数)とし
て、カテゴリー変数はパーセントとして示した。群間比較の際、連続変数に対して
は Mann-Whitney U 検定(片側仮説検定)、カテゴリー変数に対しては χ2 検定(片側
仮説検定)を行い、多重検定を行う際は Bonferroni 法を用いた。D2B time の遅延と
院内死亡を予測する独立した因子を明らかにするため、多変量解析を行った。臨床
的に関連のある因子や地域差がある変数を多変量ロジスティック回帰分析の共変量
として選択し、強制投入法とステップワイズ法で解析した。D2B time と O2D time を
共変量として選択する際、いずれもガイドライン 12)や先行研究 31)-33)においてそれぞ
れ 90 分、120 分という達成目標が掲げられており、これらのカットオフ値に基づく
カテゴリー変数として投入した。なお、多重共線性を確認するため分散拡大因子を
計算し、いずれも 10 未満であった。 ...

この論文で使われている画像

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Page 44

11.

図の説明

図 1: 死亡総数に占める各死因の割合

我が国において、心疾患は悪性新生物に次ぐ死亡死因である。

図 2: 心疾患による死亡例における各循環器疾患の割合

心疾患による死亡のなかで急性心筋梗塞(AMI)は心不全、不整脈に次ぐ主

要な死因である。

図 3: プライマリー冠動脈インターベンションの詳細

プライマリー冠動脈インターベンションは AMI に対する標準治療であり、カ

テーテルを用いて、閉塞病変にワイヤーを通しバルーンで拡張しステントを

留置する治療である。

図 4:ST 上昇型心筋梗塞(STEMI)における Door-to-balloon time(D2B time)と院

内死亡率の関係

D2B time が短くなるほど院内死亡率が低くなることが示された。

Page 45

図 5: 米国 STEMI 患者における D2B time が 90 分以下となる割合の推移

近年では 90 分以下の D2B time を達成する割合が 80%を超えるようになっ

た。

図 6:STEMI 患者における D2B time で分類した長期予後

D2B time が 90 分以下であっても予後改善が見込まれるのは発症から 2 時間以

内に来院した症例に限定され、発症 2 時間以降に来院した症例では予後改善

効果は認められなかった。

図 7:AMI 発症後の地域別搬送経路

都市部と比較して、地方において急性期冠動脈血行再建術(PPCI)の実施施

設に直接搬送される割合は有意に低値であった。

図 8: AMI 患者における人口密度と院内死亡率の関係

人口密度が低いほど院内死亡率が高いことが示された。

図 9: 日本急性心筋梗塞レジストリーにおける参加地域

2010 年国勢調査による人口密度の中央値 1,147 人/km2 をカットオフとして

地方と都市部に分類した。赤字が地方、青字が都市部を示している。

Page 46

図 10: Killip 分類

本研究では STEMI の重症度を来院時 Killip 分類を用い、(1)心不全の所見が

ない群(Killip 分類 I 度)、(2)心不全の所見を有する群(Killip 分類 II-III

度)、(3)心原性ショックを呈する群(Killip 分類 IV 度)の群に分類した。

図 11: 研究対象患者のフローチャート

Onset-to-balloon time が 24 時間以下である AMI 患者 45,471 名のうち、STEMI

患者 31,605 名を抽出し、D2B time が 6 時間以下である STEMI 患者 17,167 名

(男性/女性 13,324/3843 名)を対象とした。2010 年の国勢調査による日本の

人口密度の中央値 1,147 人/km2 に基づいて、対象患者を地方群(6,908 名)、

都市部群(10,259 名)に分類した。

図 12:D2B time の分布

D2B time は都市部と比較して地方の方が遅延しており、90 分以下の達成率も

地方で低値であった。30 分以下の割合に特筆すべき地域差があった(地方

5.1% vs. 都市部 15.1%, P<0.01)。

図 13:Onset-to-door time の分布

Onset-to-door time は都市部と比較して地方の方が遅延しており、120 分以下の

割合は地方で低値であった(地方 44.1% vs. 都市部 53.2%, P<0.01)。

Page 47

図 14:地方と都市部における院内死亡率

院内死亡率は都市部より地方の方が高い傾向があった(地方 6.2% vs. 都市部

5.5%, P=0.051)。

図 15:地方と都市部における D2B time 別の院内死亡率

どちらの地域でも D2B time が 90 分を超える患者と比較して、90 分以下の患

者は院内死亡率が低値であった(地方 D2B time≤90 分 5.0% vs. 地方 D2B time>90 分

8.9%, P<0.01;都市部 D2B time≤90 分 4.6% vs. 都市部 D2B time>90 分 8.0%, P<0.01)。

また、D2B time が 90 分を超える患者と 90 分以下の患者に分けてそれぞれの

地域における院内死亡率を比較したところ、いずれも有意差は認められなか

った(地方 D2B time≤90 分 5.0% vs. 都市部 D2B time≤90 分 4.6%, P=0.69;地方 D2B time>90

8.9% vs. 都市部 D2B time>90 分 8.0%, P=0.55)。

図 16:Killip 分類別の院内死亡率

院内死亡率に地域差があるのは Killip 分類 IV 度のみであった(地方 38.0% vs.

都市部 29.5%, P<0.01)。一方で Killip 分類 I 度(地方 1.7% vs. 都市部 2.1%,

P=0.23)、Killip 分類 II-III 度(地方 8.9% vs. 都市部 7.9%, P=0.41)では地域

差は認められなかった。

Page 48

図 17:Killip 分類 IV 度の患者における Door-to-balloon time 別の院内死亡率

院内死亡率の地域差は D2B time が 90 分以上である患者群に認められ(地方

47.2% vs. 都市部 33.3%, P<0.01)、90 分以下の患者群では地域差が認められ

なかった(地方 31.9% vs. 都市部 27.3%, P=0.36)。

図 18: Killip 分類別の院内死亡率推移

D2B time を 4 つに区切った際(0-45 分、46-90 分、91-180 分、181-360 分)、

地方の Killip 分類 IV 度では院内死亡率は有意な上昇傾向が認められた(傾向

検定 P<0.01)。一方で、都市部の Killip 分類 IV 度では院内死亡率は有意な上

昇傾向は認められず(傾向検定 P=0.13)、結果として 90 分を超える D2B

time において院内死亡率の地域差が形成されていた。¶は地方と都市部の院内

死亡率を χ2 検定で比較した際、有意差があったことを示している。

図 19:Killip 分類別の Onset-to-door time が 120 分以下となる割合

早期来院を示す 120 分以下の Onset-to-door time の達成率はいずれの Killip 分

類でも都市部の方が高値であった。Killip 分類 I-III 度や地方の Killip 分類 IV

度と比較して、都市部の Killip 分類 IV 度における達成率は特筆すべき高い割

合であった(Killip 分類 IV 度:都市部 69.6% vs. 地方 58.2%, P<0.01)。

Page 49

図 20:米国における地方と都市部の AMI に対する心臓カテーテル検査と PPCI の

実施率および 30 日死亡率

近年の米国 AMI 患者が心臓カテーテル検査や PPCI を施行される割合が地方

で低値となっており(心臓カテーテル検査:地方 49.7% vs. 都市部 63.6%,

P<0.01;PPCI:地方 42.1% vs. 都市部 45.7%, P<0.01)、また AMI による 30

日死亡率は都市部よりも地方において高値であった(地方 12.9% vs. 都市部

11.6%, P<0.01)。

図 21:人口密度別の AMI による院内死亡率の調整オッズ比

人口密度を 4 分割し、人口密度の最も高い都市部のハイボリュームセンター

の院内死亡率を比較対照とすると、人口密度の低い地方であっても、ハイボ

リュームセンターであれば都市部と同等の院内死亡率であることが示され

た。

用語説明:PPCI を年間 115 件以上行っている施設をハイボリュームセンター

と定義されている。

図 22:D2B time と STEMI による 30 日死亡率の推移

D2B time が 90 分以下であっても、短ければ短いほど死亡率が低下することが

示された。

Page 50

図 23:Killip 分類別の院内死亡率と 6 ヶ月後死亡率

心不全の程度や心原性ショックの有無で評価する Killip 分類は AMI 患者の短

期および長期のリスク層別化に有用であることが示された。

図 24:病院前診断の有無で分類した STEMI 患者の救急隊接触から再灌流までの時間

病院前診断が行われ、PPCI 実施施設に直接搬送される患者群において、救急

隊接触から再灌流までの時間は短縮されることが示された。

図 25:岩手県における心電図伝送の有無で分類した STEMI 患者の D2B time

地方に分類される岩手県において、心電図伝送を利用した群の D2B time が

最も短く、D2B time 90 分以下の達成率も最も高かったことが示された。

図 26:搬送経路別の救急隊接触から再灌流までの時間と D2B time

モバイル遠隔診療システムによる搬送は、一般的な救急車による搬送と比較

して救急隊接触から再灌流までの時間と D2B time を短縮することが示され

た。

Page 51

12.

Page 52

表1

除外した患者と研究対象患者の背景比較

Page 53

表2

地域別の STEMI 患者の背景比較

Page 54

表3

D2B time>90 分に対する多変量解析

Page 55

表4

院内死亡に対する多変量解析

Page 56

13.

Page 57

図1

死亡総数に占める各死因の割合

(出典:令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況)

Page 58

図2

心疾患による死亡例における各疾患の占める割合

心不全

不整脈

42%

急性心筋梗塞

その他の

虚血性心疾患

17%

14%

15%

(出典:令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況)を改変

Page 59

図3

プライマリー冠動脈インターベンション

経皮的冠動脈形成術 カテーテルを用いた血行再建術

矢印部:

左前下行枝における完全閉塞

カテーテルを用いて細いワイヤーを

冠動脈に通し、バルーンを閉塞部

にて拡張

点線部:バルーン拡張後

左前下行枝の血流が回復した

(Iakovis N, et al. Case Reports in Cardiology. 2020;2020:1–5.) より引用し改変

Page 60

図4

ST上昇型心筋梗塞(STEMI)における

Door-to-balloon time (D2B time)と院内死亡率の関係

P for trend <0.001

D2B time(分)

(McNamara RL, et al. J Am Coll Cardiol. 2006;47:2180–2186.) 文献13より引用し改変

Page 61

図5

米国STEMI患者における

D2B time ≤90分の割合の推移

P<0.01

D2B time ≤90分

の割合 (%)

年代

(Menees DS, et al. N Engl J Med. 2013;369:901–909.) 文献14より引用し改変

Page 62

図6

STEMI患者におけるD2B timeで分類した長期予後

D2B time

>90分

≤90分

(A) 発症2時間以内に来院

観察期間(日)

(B) 発症2時間以降に来院

観察期間(日)

(Shiomi H, et al. BMJ. 2012;344:1–14.) 文献15より引用し改変

Page 63

図7

急性心筋梗塞(AMI)発症後の地域別搬送経路

直接搬送

施設間搬送

自己来院

院内発症

P<0.001(χ2検定)

地方

都市部

患者 (%)

(Masuda J, et al. Circ J. 2018;82:1666–1674.) 文献19より引用し改変

Page 64

図8

AMI患者における人口密度と院内死亡率の関係

人口密度(人/km2)

(Matsuzawa Y, et al. Circ J. 2020;84:1140–1146.) 文献20より引用し改変

Page 65

図9

日本急性心筋梗塞レジストリーにおける参加地域

北海道札幌市

岩手県

山形県

宮城県

大阪府吹田市

栃木県

東京都

神奈川県横浜市

熊本県

三重県

赤字:地方

青字:都市部

Page 66

図10

Killip分類:急性心筋梗塞における心機能障害の重症度分類

クラス Ⅰ

クラス Ⅱ

クラス Ⅲ

クラス Ⅳ

心不全の兆候なし

軽度〜中等度心不全

ラ音聴取領域が全肺野の50%未満

重症心不全

肺水腫,ラ音聴取領域が全肺野の50%以上

心原性ショック

血圧90mmHg未満,尿量減少,チアノーゼ,

冷たく湿った皮膚,意識障害を伴う

Guidelines for treatment of acute heart failure (JCS 2011). Circ J. 2013;77:2157-2201.) 文献29より引用し改変

Page 67

図11

研究対象患者のフローチャート

AMI患者 (n=45,471)

総虚血時間 <24時間

除外

NSTEMI患者 (n=9,263)

ST変化不明 (n=4,603)

STEMI患者 (n=31,605)

除外

D2B time不明 (n=11,826)

D2B time >6時間 (n=2,612)

STEMI患者 (n=17,167)

D2B time ≤6時間

人口密度

≤1,147 人/km2

>1,147 人/km2

地方群

(n=6,908)

都市部群

(n=10,259)

Page 68

図12

D2B timeの分布

D2B time

地方群

都市部群

One-tail P値

中央値 (分)

70

62

<0.01

≤90分達成率 (%)

70.7

75.4

<0.01

35

地方群

都市部群

30

25

20

One-tail P<0.01

15

10

0-30

31-60

61-90

91-120

D2B time(分)

121-150

151-180

181-360

Page 69

図13

Onset-to-door timeの分布

30

25

20

15

10

10

11

12

13

14

15

16

17

Onset-to-door time(時間)

18

19

20

21

22

23

24

Page 70

図14

地方と都市部における院内死亡率

10

One-tail P=0.051

地方群

都市部群

Page 71

図15

地方と都市部におけるD2B time別の院内死亡率

One-tail P=0.55

One-tail P=0.69

10

One-tail P<0.01

10

D2B ≤90分

D2B >90分

地方群

One-tail P<0.01

D2B ≤90分

D2B >90分

都市部群

Page 72

図16

Killip分類別の院内死亡率

<Killip分類I度>

50

<Killip分類II-III度>

50

50

One-tail P=0.23

<Killip分類IV度>

One-tail P=0.41

One-tail P<0.01

40

40

40

30

30

30

20

20

20

10

10

10

地方群

都市部群

地方群

都市部群

地方群

都市部群

Page 73

図17

Killip分類IV度の患者における

Door-to-balloon time別の院内死亡率

One-tail P<0.01

50

One-tail P=0.36

One-tail P<0.01

50

40

40

30

30

20

20

10

10

D2B ≤90分

D2B >90分

地方群

One-tail P=0.12

D2B ≤90分

D2B >90分

都市部群

Page 74

図18

Killip分類別の院内死亡率推移

<Killip分類I度>

<Killip分類II-III度>

*P=0.04

(地方群)

*P=0.58 (都市部群)

*P=0.15

*P=0.17

(地方群)

(都市部群)

60

60

<Killip分類IV度>

*P<0.01

*P=0.13

60

地方群

50

50

40

40

40

30

30

30

20

20

20

10

10

10

0-45

46-90

91-180 181-360

D2B time (分)

都市部群

50

(地方群)

(都市部群)

0-45

46-90

91-180 181-360

0-45

D2B time (分)

46-90

91-180 181-360

D2B time (分)

*P値

:Cochran-Armitage検定

: One-tail P値<0.05 (χ2検定)

Page 75

図19

Killip分類別のOnset-to-door time ≤120分の割合

地方群

都市部群

80

Onset-to-door

time ≤120分

の割合 (%)

One-tail P<0.01

One-tail P<0.01

One-tail P<0.01

Killip分類I度

Killip分類II-III度

Killip分類IV度

70

60

50

40

30

20

10

Page 76

図20

米国における地方と都市部のAMIに対する心臓

カテーテル検査とPPCIの実施率および30日死亡率

地方群

都市部群

P<0.01

16

14

12

(%)

70

12.9

P<0.01

63.6

PPCI

50

10

40

P<0.01

60

60

11.6

70

49.7

50

(%)

42.1

45.7

40

(%)

30

30

20

20

10

10

(Loccoh EC, et al. J Am Coll Cardiol. 2022;79:267–279.) 文献39より引用し改変

Page 77

図21

人口密度別のAMIによる院内死亡率の調整オッズ比

非ハイボリュームセンター

ハイボリュームセンター

人口密度(人/km2)の四分位

(Matsuzawa Y, et al. Circ J. 2020;84:1140–1146.) 文献20より引用し改変

Page 78

図22

D2B timeとSTEMIによる30日死亡率の推移

90

D2B time (分)

(Park J, et al. JAHA. 2019;8:e012188.) 文献41より引用し改変

Page 79

図23

Killip分類別の院内死亡率と6ヶ月後死亡率

P<0.05

Killip分類I度

Killip分類II-III度

Killip分類IV度

P<0.05

Killip分類I度

Killip分類II-III度

Killip分類IV度

(DeGeare VS, et al. Am J Cardiol. 2001;87:1035-1038.) 文献42より引用し改変

Page 80

図24

病院前診断の有無で分類したSTEMI患者の

救急隊接触から再灌流までの時間

病院前診断なし

病院前診断あり、搬送先変更なし

病院前診断あり、搬送先変更あり

都市部群

地方群

救急隊接触から再灌流までの時間

救急隊接触から再灌流までの時間

(Sørensen JT, et al. Eur Heart J. 2011;32:430–436.) 文献51より引用し改変

Page 81

図25

岩手県における心電図伝送の有無で分類した

STEMI患者のD2B time

D2B timeの中央値

救急車

救急車

救急車 利用あり

利用あり

利用なし 心電図伝送 心電図伝送

(n=19)

利用なし

利用あり

(n=15)

(n=15)

D2B time≤90分達成率

救急車

救急車

利用あり

利用なし 心電図伝送

(n=19)

利用なし

(n=15)

救急車

利用あり

心電図伝送

利用あり

(n=18)

(Sakai T, et al. J Cardiol. 2018;72:335-342.) 文献53より引用し改変

Page 82

図26

搬送経路別の救急隊接触から再灌流までの時間とD2B time

救急隊接触から再灌流までの時間 (分)

モバイル遠隔診療

システムによる搬送

一般的な

救急搬送

D2B time (分)

モバイル遠隔診療 一般的な

システムによる搬送 救急搬送

病院間搬送

(Kawakami S, et al. Circ J. 2016;80:1624–1633.) 文献54より引用し改変

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