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In-hospital mortality among consecutive patients with ST-Elevation myocardial infarction in modern primary percutaneous intervention era : Insights from 15-year data of single-center hospital-based registry

髙木, 健督 名古屋大学

2022.07.27

概要

【緒言】
ST 上昇型心筋梗塞(STEMI)は、ある特定の患者群において経皮的冠動脈インターベンション(primary PCI)を行っても院内死亡が高い事が知られている。今までの報告では、STEMI の院内死亡は、Killip 分類、収縮期血圧、心拍数、心停止、高齢、心不全入院歴、心筋梗塞の既往、末梢動脈疾患、慢性腎臓病、初期血清クレアチニン値の上昇、さらに動脈硬化に関連する併存疾患や血液検査値が影響を与える事が報告されている。しかしながら、今までの報告には、冠動脈血管造影の詳細なデータは含まれておらず、冠動脈情報を含めたデータを用いて包括的に評価した報告は限られている。また、primary PCI が普及する以前の報告が多い。本研究では、primary PCI 時代における STEMI 患者を対象に、冠動脈血管造影所見と院内死亡の関連性を評価し、及び過去に報告されている因子が院内死亡に与える影響を評価した。

【対象および方法】
本研究は単一施設における後ろ向きレジストリーを利用し、試験実施計画書はヘルシンキ宣言に基づいて作成された。本研究は、大垣市民病院の研究倫理審査委員会で承認された。2004 年 1 月から 2018 年 12 月末までに、primary PCI を受けた STEMI 患者のレジストリーデータベースから抽出した。その中から、①発症から治療までの時間が 24 時間以上経過した症例、②発症時間が不明な症例、③責任病変があるが PCI を行わなかった症例、④PCI の代わりに冠動脈バイパスグラフト術（CABG)を行った症例、⑤血栓溶解療法を行った症例、⑥責任病変がバイパスグラフトにある症例は除外した。
入院時の診療記録に基づく臨床データと PCI 時の血管造影データを収集し、フォローアップデータは病院カルテから情報を得た。

エンドポイント
本試験のエンドポイントは、30 日死亡率と院内死亡率とした。さらに各血管造影所見の 30 日死亡率および院内死亡率へ与える影響を評価した。

機械的合併症は、心室中隔穿孔(VSP)および左心室自由壁破裂(LVFWR)と定義し、心血管死亡には、心臓突然死、急性心筋梗塞、心不全、脳卒中、心血管処置が必要な合併症、心血管からの出血、その他の心血管が原因となる死亡を含む。30 日以内の死亡は、心血管死に分類した。非心血管死亡には感染症、敗血症、消化管出血、窒息、肺疾患などが含まれた。

統計解析
院内死亡により患者背景を、グループ変数はカイ二乗検定にて比較した。正規分布する連続変数は Student's t-test を用い、非正規分布する連続変数は Mann-Whitney U-test用いて比較した。院内死亡と各変数を単変量解析で解析し p＜0.05 の値を示した変数及び年齢と性別を用いて、STEMI に対する primary PCI 後の院内死亡率の独立予測因子を特定するために、強制エントリー法によるロジスティック回帰分析を行った。調整済みオッズ比(aOR)と 95%信頼区間(CI)を推定した。統計解析には、IBMSPSS ソフトウェアのバージョン 26(IBM Corporation, Armonk, NY, USA)を使用した。いずれの解析も P<0.05 を統計学的な有意差とした。

【結果】
1,735 人の STEMI 患者が本研究の対象となった（図 1)。平均年齢は 68.5 歳で、患者の 24.6%は女性であり、入院時に Killip クラス IV の基準を満たした患者は 7.7%あった。糖尿病と慢性腎臓病は、それぞれ 34.0%と 39.1%の患者に認められた。94.4%の患者が右支配優位な冠動脈であり 12.0%の患者に完全閉塞性病変を認めた。入院中に経皮的心肺補助装置(PCPS)と大動脈内バルーンポンプ(IABP)が必要となった患者はそれぞれ 4.9%と 29.3%であった(表 1)。

30 日死亡率は 7.7%、院内死亡率は 9.2%であった。院内死亡率は対象期間の 15 年間の前半が 10.4%、後半が 7.5%であった(p＝0.02)(図 2-a）。機械的合併症は 1.4%発生し、院内死亡は 70.8%と高かった。機械的合併症の内訳は、LVFWR が 0.8% (Oozing 型 0.3%、Blowout 型 0.5%)、VSP は 0.6%であった(表 2-a,b)。院内死亡の主な原因は心筋梗塞(49.1%)、機械的合併症(9.4%)、致死性不整脈(6.9%)であった(表 3)。

院内死亡患者を生存退院患者と比較すると、高齢、女性、BMI＜22kg/m2、虚血性脳卒中、高血圧、慢性腎臓病の既往、Killip クラス IV、PCPS や IABP が必要な症例、3枝病変が多く認められた。院内死亡率は、責任病変によって異なり、左主幹部(LM)で最も高く、次いで左回旋動脈(LCx)、左前下行動脈(LAD)、右冠動脈(RCA)の順であった。LM、LCx、LAD のオッズ比は RCA に比べて 16.298(p＜0.001)、2.212(p＝0.008)、 2.165(p＜0.001)であった(図 2-b)。左冠動脈に責任病変を有する患者は、右冠動脈が責任病変である場合と比較しオッズ比は 2.526(p＜0.001)と高かった。さらに、院内死亡患者において、初回 TIMI(Thrombolysis in Myocardial Infarction)および最終 TIMI グレードが低く、側副血行路が未発達である割合が多かった(表 1)。

ロジスティックモデルを用いた院内死亡の独立予測因子は、駆出率(EF）＜40%(aOR、 4.446、p＜0.001)、左冠動脈が責任病変(右冠動脈を基準として)(aOR、2.940、p＜0.001)、 Killip クラス＞II(aOR、7.438; p<0.001)、慢性腎不全(aOR, 4.056; p<0.001)、最終 TIMI グレード 0/1/2(aOR, 1.809; p=0.03)、未発達な側副血行路(Rentrop0,1,2)(aOR, 17.309; p=0.01）、高血圧(aOR, 0.449; p=0.01)であった(表 4)。

【考察】
本研究では、STEMI 患者の 9.2%に院内死亡を認めた。その中でも、1.4%に機械的合併症を生じ、1 割の患者は血行動態が不安定であったが、ともに院内死亡率は高かった。本研究では、STEMI 患者の院内死亡は、EF＜40%、Killip クラス＞II、慢性腎不全、左冠動脈が責任病変、発達が不十分な側副血行路、最終 TIMI グレード＜3 といった因子の影響がある事が示された。

STEMI に対する primary PCI 後の院内死亡率は、日本で 2.5%～9.4%、欧州心臓病学会ナショナルレジストリーで 2.2%～7.9%、米国レジストリーで 4.6%～6.3%と報告されている。本研究では、院内死亡は 9.2%と高かった。

その理由として、STEMI 患者の約 10%がショックを呈すると報告されているが、本研究でも、7.7%は Killip クラス IV であり、4.6%は心肺停止で来院されており、4.9%で PCPS サポートが必要であった。その為、ショックの患者群は primary PCI を行なっても、状態が悪く院内死亡率が高くなる可能性が考えられた。さらに、本研究では械的的合併症は 1.5%の患者に発生し、その患者において院内死亡率が高かった。械的合併症は primary PCI 時代でも 1%程度報告され院内死亡率が高いと報告されているが、本研究においても同様の結果であった。最後に，我々の施設は地域の中核病院であり広域をカバーする必要がある。Door to balloon(中央値 85 分)であり、JCS ガイドラインで推奨している 90 分以内を満たしていない症例が多く認められた。その為、STEMIへの体制を再構築し、地域全体で冠動脈疾患に対する意識を高めていく必要があると考えられる。

今回の解析では、血管造影で得られる情報を含め解析を行っており院内死亡に与える影響を明らかにする事ができた。十分に発達した側副血行路の存在、最終 TIMI grade3、RCA が責任病変である場合は予後が良い事が示された。その中でも LM、LADだけでなく LCx も含め左冠状動脈が責任病変であった場合、院内死亡リスクが上昇する可能性があるという報告は新規性がある。LM と LAD 近位部は灌流する心筋領域が広いため、予後不良である事はよく知られているが、LCx に関する報告は限られている。LCx の急性閉塞は我々が予想していたよりも大きな影響を与える可能性があり、心電図の診断の遅れや、左冠動脈支配が優位な症例における LCx の影響が大きいと推測するが、その正確なメカニズムはまだ明らかになっていない。したがって、LCx を責任病変とする STEMI の院内死亡への影響を明らかにするためにさらなる研究が必要である。

研究の限界
本研究にはいくつかの限界を認めている。第一に比較的少数のレトロスペクティブな研究であった。第二に、本研究では STEMI 患者のうち、primary PCI を行わなかった患者、すなわち保存的治療を選択した患者との比較データがない。高血圧が予後改善因子として示されたが、機序が不明である。また、冠動脈造影所見について、QCAデータがない為、客観的評価ができていない可能性がある。

【結語】
STEMI 患者におけるプライマリーPCI 後の院内死亡率は研究期間の後半に有意に改善した。慢性腎不全、Killip クラス＞II、EF＜40%といった従来の報告されていた因子だけでなく、左冠動脈が責任病変、不十分な発達の側副血行路、最終 TIMI グレード＜3 といった血管造影所見も、院内死亡リスクの上昇と関連していた。

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