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大学・研究所にある論文を検索できる 「心房細動患者における非肺静脈起源電気的興奮と心外膜脂肪組織の領域別解析での男女差の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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心房細動患者における非肺静脈起源電気的興奮と心外膜脂肪組織の領域別解析での男女差の検討

坂井, 淳 神戸大学

2022.09.25

概要

【背景】
心房細動に対するアブレーションにおいて肺静脈隔離術は既に確立された治療法である。しかし、心房細動に対する肺静脈隔離術後の洞調律維持は、発作性心房細動では57~77%、持続性心房細動ではさらに低い。また女性患者では心房細動再発リスクが高いことが知られているが、その原因は明確となっていない。成功率を上げ、過剰な焼灼を避けるために、性別に応じた心房細動アブレーション治療戦略の確立が望まれている。

今回我々は肺静脈以外の領域から発生する非肺静脈起源の電気的興奮と心房周囲の心外膜脂肪組織に着目した。これらはそれぞれ独立して心房細動再発に関連していることが既に報告されている。しかし非肺静脈起源の電気的興奮の発生部位と局所の心外膜脂肪組織量との関連、部位による心房細動の再発への影響の違い、そしてその性差も明らかにされていない。これらを解明する事により性別に応じたアブレーション治療戦略の確立に寄与できる可能性がある。

【目的】
1)心房細動患者において非肺静脈起源の電気的興奮の発生部位、局所の心外膜脂肪量、ならびにその関係性を男女別に解析する。
2)アブレーション治療後心房細動再発に非肺静脈起源の電気的興奮の発生部位、局所の心外膜脂肪量がどのように関係しているかを検討し、その性差を明らかにする。

【方法】
当院で2009年1月から2012年12月までに心房細動に対する初回高周波カテーテルアブレーションを受けた患者304名を対象とした。術前に造影CTを撮像し、専用の画像処理ソフトウェアを用いて、左房前壁、左房後壁、心房中隔および上大静脈周囲の4領域における心外膜脂肪組織を-200~-20HUの領域と定義した(図1)。男女の体格差を考慮し、心外膜脂肪組織量は心外膜脂肪組織指数(EAT index=心外膜脂肪組織量/体表面積[ml/㎡])で表した。非肺静脈起源の電気的興奮は、肺静脈隔離後に自発的に、または高用量のイソプロテレノール投与(0.5〜20μg/kg/min)により発生したものと定義した。初回カテーテルアブレーション治療の後に、心房細動が再発した患者において希望する患者には複数回カテーテルアブレーション治療を行った。非肺静脈起源の電気的興奮を有する患者の定義としては、初回、または複数回行われた心房細動カテーテルアブレーション治療のいずれかで、非肺静脈起源の電気的興奮が同定された患者と定義した。

【結果】
合計304人の患者を登録した。年齢中央値63[57-69]歳、男性が229人(75%)、79人(26%)に非肺静脈起源の電気的興奮を認めた。非肺静脈起源の電気的興奮は女性で有意に多く(女性:28人(37%)vs男性:51人(22%),p=0.01)、部位別解析では左房後壁で男性よりも女性で有意に多く(女性:8.0%vs男性:1.7%,p=0.02)、心房中隔や上大静脈でも女性で多い傾向にあった。

男女別の非肺静脈起源の電気的興奮を認めた部位と心外膜脂肪組織指数の関係を図2に示す。女性では、左房周囲の総心外膜脂肪組織指数および局所での心外膜脂肪組織指数は、非肺静脈起源の電気的興奮の有無に関わらず差はなかった。男性においても左房周囲の総心外膜脂肪組織指数は非肺静脈起源の電気的興奮の有無に関わらず差はなかった。しかし、男性患者の左房前壁領域においてのみ、非肺静脈起源の電気的興奮を持つ患者群で左房前壁周囲の心外膜脂肪組織指数が有意に大きかった(16.4mlvs9.6ml,p=0.001)。

心房細動カテーテルアブレーション治療において、非肺静脈起源の電気的興奮を有する患者群は、有さない患者群よりも、上大静脈の電気的隔離や局所電気興奮に対するアブレーション治療手技が有意に多く行われていた。患者はアブレーション治療後、中央値27[12-95]ヶ月フォローアップされた。

肺静脈隔離術後、非肺静脈起源の電気的興奮の有無によって、初回および最終カテーテルアブレーション施行後の心房細動無病生存期間をKaplan Meier曲線で示した(図3)。男女ともに、非肺静脈起源の電気的興奮を持つ患者の方が、初回アブレーション治療後、有意に心房細動再発が多かった(図3A,図3B)。男性においては最終アブレーション後でも非肺静脈起源の電気的興奮を有する患者群で再発は有意に多いが、女性においては最終アブレーション治療後の心房細動の再発は、非肺静脈起源の電気的興奮の有無で有意差を認めなかった(図3C,図3D)。

初回のカテーテルアブレーション後の心房細動再発予測因子を検討した。患者全体で解析すると、心房細動再発の予測因子は、女性(HR:1.55,95%CI[1.03-2.32])、非肺静脈起源の電気的興奮の存在(HR:2.16,95%CI[1.52-3.06])、左房径(HR:1.03,95%CI[1.00-1.06])、左房中隔心外膜脂肪組織指数(HR:1.09,95%CI[1.01-1.18])であった。男女別の解析では左房径は男性のみ再発の予測因子であった(HR:1.05,95%CI[1.01-1.09])。非肺静脈起源の電気的興奮の存在、特に左房中隔の非肺静脈起源の電気的興奮の存在は、男女それぞれにおいて強い再発の予測因子だった(男性:HR:2.24,95%CI[1.18-4.27]、女性:HR:3.65,95%CI[1.50-8.86])。

【考察】
本研究で得られた知見は以下の3つである。

1)心房内の異なる部位における非肺静脈起源の電気的興奮の発生率には明らかな性差が認められた。特に左房後壁では、女性の非肺静脈起源の電気的興奮の発生率は男性の5倍であった。予想される機序として、エストロゲンは電気的興奮発火の傾向を高め、対照的にテストステロンは電気的興奮発火を減少させると報告されている。また、ウサギを用いた研究では、左房後壁においてイオンチャネルに有意な性差があることが報告されている。これらの知見は、左房各領域での非肺静脈起源の電気的興奮の頻度に関して我々が見出した性差を説明できる可能性がある。

2)本研究は、非肺静脈起源の電気的興奮部位と局所の心外膜脂肪組織を領域別に調べ、その性差を検討した初めての研究である。心外膜脂肪組織は電気的リモデリングを誘導し、心房の線維化を促進すると報告されており、心房細動の基質形成に寄与している可能性がある。一方で、非肺静脈起源の電気的興奮は電気的な発火であり、異なる場所で異なる要因によって引き起こされる。このため本研究では、心房のほとんどの部位で非肺静脈起源の電気的興奮部位の存在と局所の心外膜脂肪組織との有意な関係は認められなかった。

しかし、男性に限っては、左房前壁に非肺静脈起源の電気的興奮を有する群は、有さない群に比較し左房前壁の心外膜脂肪組織量が有意に多かった。そのメカニズムの一つとして、心臓神経節叢の活性化と局所心外膜脂肪組織との関連が想定された。以前に我々はカテーテルによる神経節叢への高周波刺激が隣接領域の心房細動誘発を有意に引き起こすことを報告した。また、心外膜脂肪組織内に神経節叢が存在することは以前から報告されており、解剖学的に5つの主要神経節叢領域のうち93±14%が心外膜脂肪組織を認める領域と相関していると報告されている。本研究における左房前壁の心外膜脂肪組織領域には主要神経節叢として2つの神経節叢を含んでいる。また、左房における活性化された神経節叢の増加は男性に有意であるとの報告もある。これらの結果から左房前壁領域でより多くの心外膜脂肪組織が存在することは、男性患者では同部位での活性化された神経節叢が多く認められ、結果として左房前壁での非肺静脈起源の電気的興奮部位の発生率が高くなる可能性があると推測された。

3)今回の研究で、過去の心房細動再発の予測因子として報告されているもの以外で、心房中隔領域の非肺静脈起源の電気的興奮の存在は、男女それぞれにおいて心房細動再発の強い予測因子であり、また左房中隔の心外膜脂肪組織量が患者全体においても心房細動再発の予測因子として挙げられた。心房中隔起源の電気的興奮が再発に強く関与していた理由として、上大静脈隔離や後壁隔離により、同領域の電気的興奮による心房細動発火は抑制することができるが、一方で中隔領域の電気的興奮を認める部位への正確な部位特定および治療介入は初回カテーテルアブレーションでは時間を要す可能性があり困難である。さらに心房中隔壁が厚い患者では、右房および左房両側からアブレーションによる高周波通電が必要となることもあり、この手技の難易度が中隔起源の電気的興奮の消失を困難とさせ心房細動再発の因子となった可能性がある。心房中隔の心外膜脂肪量に関しては、近年、高解像度CTで定量化した心房中隔脂肪組織量が多い患者では上室性不整脈再発が多いことが報告された。彼らは心房中隔脂肪量が経中隔伝導時間および12誘導心電図における心房興奮を示すP波の持続時間延長に関連していることを見出した。このような心房中隔脂肪量に起因する電気的異常が心房細動再発の原因となる可能性があり、当研究結果においてもこの知見を支持する結果であった。

本研究で得られた知見から、男性においては、術前CTにて左房前壁に心外膜脂肪組織を多く認めた場合、左房前壁領域に非肺静脈起源の電気的興奮を有すると想定でき、アブレーション治療部位となる可能性がある。女性では、肺静脈隔離術に加えて、上大静脈隔離と左房後壁隔離を標準治療として施行することが、非肺静脈起源の電気的興奮を排除するための有用な戦略となる可能性がある。また心房中隔の電気的興奮部位を正確に特定し治療介入することは技術的に困難であり、そのため心房中隔の電気的興奮を有する患者では男女ともにアブレーション後も心房細動再発を注意深く観察する必要がある。

【結語】
非肺静脈起源の電気的興奮の存在および局所興奮部位、局所の心外膜脂肪組織指数、またそれらの領域的な関連性および心房細動再発の予測因子には性差が認められた。心房中隔領域での非肺静脈起源の電気的興奮の存在は、男女それぞれにおいて心房細動再発の強い予測因子であった。また心房中隔の心外膜脂肪組織指数も心房細動再発の予測因子であった。

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