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新規ジゲルメンの合成と反応性

百瀬 俊平 中央大学

2022.07.06

概要

1.緒言
炭素-炭素二重結合化合物であるアルケンは有機化学において重要な役割を果たしている。そのためアルケンの高周期類縁体であるジメタレンの性質、反応性にも興味がもたれたが、高周期元素の多重結合化学種は不安定であり、容易に自己多量化してしまうため、合成が困難であると考えられてきた。しかし 1976 年にLappert らは、かさ高い置換基を用いた速度論的安定化によって初めてジゲルメン・ジスタンネンの単離に成功した 1。それ以降、多くのジメタレンが合成され、それらの興味深い反応性や性質が解明されてきた。また、これまでに合成されたジゲルメンには溶液中で解離する例が多数報告されており 2、ゲルミレンとしての反応性を示した例も報告されている 3。

一方、芳香族化合物の骨格炭素を高周期 14 族元素に置き換えた、重い芳香族化合物に関する研究も広く行われており、三員環から六員環まで多種多様の化合物が合成されてきた 4。しかし、七員環の重い芳香族化合物については、その合成例は小松らによるシラトロピリウムイオンに限られている 5。そこで本研究では、シクロヘプタトリエンに二価のゲルマニウムを組み込んだ、6π電子系の重い七員環芳香族ユニットをもつ新規ジゲルメンを設計・合成し、その性質および反応性の調査を目的とした。

2.実験
反応は全てシュレンク管を用いて、アルゴン下で行った。生成物は各種 NMR (1H, 13C{1H})および単結晶X線構造解析より同定した。

3.結果及び考察
速度論的安定化のため、TMS 基を導入したジブロモスチルベン 1 を用いることでジゲルメン 2 の合成を行った(Scheme 1)。

ジエチルエーテル中ジブロモスチルベン 1 を t-BuLi でリチオ化した後、GeCl2·dioxane を作用させ、精製することで黄色粉末(収率 65%)を得た。 1H NMR および単結晶 X 線構造解析の結果から、生成物はゲルミレンが二量化したジゲルメン 2 と同定した(Fig. 1)。2 は一般的なジゲルメンと同様の trans 折れ曲がり構造を有していた。また、 Ge−Ge 結合長(2.3427(10) Å)は、通常の Ge−Ge 単結合長( 約 2.7 Å) よりも短く、DSi2Ge=GeDSi2 (DSi = CH(SiMe3)2 )の値(2.347(2) Å)6 と近い値であることから、二つの Ge 間には二重結合性があることがわかった。

またヘキサン溶液中の紫外可視吸収スペクトルにおいて、416 nm に Ge=Ge に特徴的な吸収 (408–440 nm)7 を観測したことから、生成物は溶液中においても二量体 2 として存在していることが示唆された。

次にジゲルメン 2 とルイス塩基である PMe3 との反応を検討した(Scheme 2)。

ジゲルメン 2 のトルエン溶液に PMe3 (2 equiv)を作用させ、乾固することで黄色粉末(収率 100%)を得た。1H NMR によりゲルミレンユニットと PMe3 は 1:1 の積分強度で観測されたことから(δ 6.65 (s, 2H, CH=CH), 0.67 (d, 2JPH = 9.0 Hz , 9H, PMe3))これらのユニットが 1:1 で錯形成をしてい ることが示唆された。最終的に単結晶 X 線構造解 析の結果から、生成物は PMe3 によって配位安定 化を受けたゲルミレン 3 であると同定した(Fig. 2)。 PMe3 が 2 の Ge 原子へ配位することで、ジゲルメ ンが 2 つのゲルミレンへと解離したと考えられる。

続いてジゲルメン 2 の反応性を調査するため、N2O との反応を検討した(Scheme 3)。

ヘキサン中 2 に N2O を作用させ、精製することで白色粉末(49%)を得た。1H NMR および単結晶X線構造解析の結果から、生成物は 2 に酸素原子がO–O 結合部分を形成しながら 2 つ付加した 4 であると同定した(Fig. 3)。

この結果から 2 は溶液中でもジゲルメンとしての反応性を示すことが確認された。他のジゲルメンの酸化反応では、Ge2O 三員環または Ge と Oが交互に配列した Ge2O2 四員環化合物が生成し、 4 とは異なっている 8, 9。ゲルマニウム上の置換基のかさ高さがジゲルメンの反応性に影響を及ぼしたことが異なる選択性の原因と考えられる。

最後に 2 に過剰量の Li を作用させることで、 Ge=Ge 結合の切断、続く還元により 8π電子系を 有する反芳香族化合物の合成を試みた(Scheme 4)。

ジゲルメン 2 の THF 溶液に Li を加え、室温でかくはんすると黄色溶液から赤色溶液に変化した。この反応液の 1H NMR を測定したがシグナルが観測されなかったことから、ジゲルメンラジカルアニオン 5 が生成したことが示唆され、ジアニオンまでの還元は進行しなかったと推測される。

4.結論
重い芳香族ユニットをもつ新規ジゲルメン 2 の合成に成功し、その構造を明らかにした。2 の溶液中における紫外可視吸収スペクトルおよび反応性から、溶液中での解離はなく、ジゲルメンとしての反応性を示すことが明らかとなった。

この論文で使われている画像

参考文献

(1) Lappert, M. F. et al. J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1976, 261–262.

(2) Tokitoh, N. et al. Chem. Rev. 2009, 109, 3479–3511.

(3) Tokitoh, N. et al. Polyhedron, 2002, 21, 563–577.

(4) Sekiguchi, A. Angew. Chem., Int. Ed. 2007, 46, 6596–6620.

(5) Komatsu, K. et al. Tetrahedron 2001, 57, 3645–3656.

(6) Lappert, M. F. et al. J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1984, 480–482.

(7) Stibbs, W. G. et al. Adv. Organomet. Chem., 1996, 39, 275–324.

(8) Masamune, S. et al. J. Am. Chem. Soc. 1989, 111, 1888–1889.

(9) Tokitoh, N. et al. Organometallics 2012, 31, 3904−3910.

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