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書き出し

Study on Gibberellin Signaling and Transport in Rice

杉原, 諒彦 名古屋大学

2023.06.02

概要

報告番号



















Study on Gibberellin Signaling and Transport in Rice

論文題目




(イネにおけるジベレリンのシグナル伝達および輸送に関す
る研究)

杉原

諒彦

論 文 内 容 の 要 旨
ジ ベ レ リ ン( GA)は 、黒 沢 栄 一 に よ り 馬 鹿 苗 病 の 原 因 物 質 と し て 発 見 さ れ 、藪 田 貞
治郎により単離・命名された植物ホルモンである。現在では、植物、菌類、細菌から
130 種 以 上 の GA が 同 定 さ れ 、 茎 の 伸 長 、 種 子 の 発 芽 、 開 花 な ど 、 植 物 の 様 々 な 生 理
作 用 に 関 わ る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 そ の た め 、 農 業 に お い て も GA は 植 物 成 長 調 節
物 質 と し て 種 な し ブ ド ウ の 作 出 な ど に 広 く 利 用 さ れ て い る 。な か で も 、1940 年 代 か ら
1960 年 代 に か け て 穀 物 の 増 産 を 成 し 遂 げ た「 緑 の 革 命 」で は 、複 数 の 穀 物 に て GA 関
連遺伝子の半矮性変異体品種が耐倒伏性を向上させるため利用された 。
GA は 植 物 体 内 に お い て 多 段 階 の 酵 素 反 応 に よ っ て ゲ ラ ニ ル ゲ ラ ニ ル 二 リ ン 酸
( GGDP)か ら 合 成 さ れ る 。GGDP は 、 ent -copalyl diphosphate synthase( CPS)と

ent -kaurene synthase( KS)、ent -kaurene oxidase( KO)、ent -kaurenoic acid oxidase
( KAO) に よ る 多 段 階 の 反 応 を 経 て 活 性 型 GA 前 駆 体 で あ る GA 12 へ と 変 換 さ れ る 。
そ の 後 の 生 合 成 経 路 は 、13 位 非 水 酸 化 経 路 と 13 位 水 酸 化 経 路 に 分 岐 す る 。前 者 で は 、
13 位 の 炭 素 に 水 酸 基 を 持 た な い GA 12 が GA20 酸 化 酵 素 ( GA20ox) に よ り GA 15 、
GA 2 4 、GA 9 に 変 換 さ れ 、GA 9 が GA3 酸 化 酵 素( GA3ox)に よ り 活 性 型 GA で あ る GA 4
が 合 成 さ れ る 。 後 者 の 経 路 で は 、 GA 1 2 の 13 位 の 炭 素 が 水 酸 化 さ れ GA 5 3 へ 変 換 さ れ
た の ち 、 GA20ox を 介 し た 反 応 に よ り GA 44 、 GA 19 、 GA 2 0 に 順 次 変 換 さ れ 、 GA 20 は
GA3ox に よ っ て 活 性 型 GA で あ る GA 1 に 変 換 さ れ る 。
2 つの生合成経路のうち、どちらが主に働くかは植物種によって異なる。シロイヌ
ナ ズ ナ で は 13 位 非 水 酸 化 経 路 が 主 に 働 き 、エ ン ド ウ で は 13 位 水 酸 化 経 路 で あ る 主 に
用 い ら れ る 。一 方 で 、イ ネ は 栄 養 成 長 期 に は 13 位 水 酸 化 経 路 を 、葯 な ど の 生 殖 器 官 で
は 13 位 非 水 酸 化 経 路 を そ れ ぞ れ 利 用 し 、 2 つ の 経 路 を 器 官 に よ り 使 い 分 け て い る 。
活 性 型 GA が 受 容 体 で あ る GIBBERELLIN INSENSITIVE DWARF1( GID1)と 結
合 す る こ と で GA の シ グ ナ ル 伝 達 は 始 ま る 。 GID1-GA 複 合 体 は 、 GA シ グ ナ ル 抑 制 因

子 で あ る DELLA タ ン パ ク 質 と 結 合 す る 、 DELLA タ ン パ ク 質 と SCF 複 合 体 の 相 互 作
用 を 促 進 す る 。 そ の 結 果 、 DELLA タ ン パ ク 質 は SCF 複 合 体 に よ り ポ リ ユ ビ キ チ ン 化
さ れ 、 最 終 的 に 26S プ ロ テ ア ソ ー ム 系 に よ っ て 分 解 さ れ る 。 こ の DELLA タ ン パ ク 質
の 分 解 、 つ ま り 、 GA シ グ ナ ル 抑 制 因 子 の 分 解 に よ り 、 GA 応 答 が 起 こ る 。
上 記 の よ う に 、DELLA は GA シ グ ナ ル の 重 要 な 制 御 因 子 で あ り 、そ の 配 列 は 高 度 に
保 存 さ れ て い る 。N 末 端 側 に は DELLA モ チ ー フ と TVHYNP モ チ ー フ を 含 む DELLA
ド メ イ ン を 持 ち 、GA 依 存 的 に GID1 と 結 合 す る 。C 末 端 側 は GRAS ド メ イ ン を 持 ち 、
様 々 な 転 写 因 子 と 相 互 作 用 し GA 応 答 の 抑 制 に 関 与 し て い る と さ れ る 。
DELLA に は 、 2 種 類 の 転 写 調 節 機 構 が 知 ら れ て い る 。 第 一 に 、 DELLA タ ン パ ク 質
が PIF( PHYTOCHROME INTERACTING FACTOR) や MYB な ど の 様 々 な 転 写 因
子 と 相 互 作 用 し 、 こ れ ら の 転 写 因 子 の DNA へ の 結 合 と 転 写 活 性 を 阻 害 す る 機 構 で あ
る 。第 二 に 、DELLA タ ン パ ク 質 が INDETERMINATE DOMAIN( IDD)を 介 し て DNA
と 結 合 し 転 写 の コ ア ク テ ィ ベ ー タ ー と し て 働 く 機 構 で あ る 。 DELLA タ ン パ ク 質 の
DELLA/TVHYNP ド メ イ ン は 強 い 転 写 活 性 を 持 つ 。 こ の 転 写 活 性 に よ り 、 DELLA は
GA フ ィ ー ド バ ッ ク 制 御 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ て い る 。
GA の ト ラ ン ス ク リ プ ト ー ム 解 析 は 数 多 く 報 告 さ れ て い る が 、GA に よ る シ ュ ー ト 伸
長 の メ カ ニ ズ ム は い ま だ 解 明 さ れ て い な い 。Claeys H.ら( 2014)は シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に
て シ ュ ー ト や 根 の GA に 関 連 す る ト ラ ン ス ク リ プ ト ー ム デ ー タ に つ い て メ タ ア ナ リ シ
ス を 行 っ た と こ ろ 、 共 通 し た 発 現 変 動 遺 伝 子 は 少 な く 、 そ の 多 く は GA の フ ィ ー ド バ
ッ ク 遺 伝 子 で あ っ た と 報 告 し て い る 。 そ こ で 、 私 は GA に よ る 伸 長 機 構 を 解 明 す る た
めには、各発生段階に分けてトランスクリプトーム解析を行う必要があると考えた。
第 二 章 で は 、GA 生 合 成 遺 伝 子 OsKO2 の ウ ィ ー ク ア リ ル を 持 つ 短 銀 坊 主 の 第 二 葉 鞘
を実験に使用し、分裂帯、伸長帯、成熟帯を分けてトランスクリプトーム解析を行っ
た 。 こ の 際 に 、 第 二 葉 鞘 の 各 部 位 を 各 発 生 段 階 に 区 分 す る た め 、 X 線 マ イ ク ロ CT
( computed tomography) ス キ ャ ン を 利 用 し た 。 こ れ に よ り 、 第 二 葉 鞘 を 非 破 壊 的 に
三次元構造と縦断面の解析することに成功し、第二葉鞘は、基部に分裂帯を持ち、上
部 へ 向 か う に つ れ て 細 胞 が 伸 長 す る こ と が 分 か っ た 。 X 線 マ イ ク ロ CT ス キ ャ ン の 結
果 と RNA-seq 解 析 に よ る マ ー カ ー 遺 伝 子 の 発 現 と 合 わ せ て 分 裂 帯 、伸 長 帯 、成 熟 帯 に
分 け KEGG Pathway 解 析 を 行 う と 、 GA が 糖 代 謝 、 細 胞 壁 合 成 、 TCA サ イ ク ル な ど
に関わるパスウェイの遺伝子の発現を誘導することが分かった。また、葉鞘のグルコ
ー ス 、ス ク ロ ー ス 、デ ン プ ン の 定 量 分 析 を と お し て 、GA 処 理 区 で は デ ン プ ン と ス ク ロ
ー ス の 量 が 少 な く 、分 解 さ れ て い る こ と が 確 認 さ れ た 。こ れ ら の 結 果 は 、GA が 糖 代 謝
を調節することにより、植物の成長を促進することを示唆している。
第 3 章 で は 、 イ ネ の DELLA タ ン パ ク 質 ( SLENDER RICE1 (SLR1)) に つ い て の
ウェスタンブロッティングおよびトランスクリプトーム解析を用いて、イネ第二葉鞘
に お け る GA シ グ ナ ル 伝 達 に つ い て 報 告 し て い る 。 ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ で は 、
イ ネ 第 二 葉 鞘 で は 分 裂 帯 と 伸 長 帯 に お い て SLR1 タ ン パ ク 質 が よ り 分 解 さ れ 、 成 熟 帯
で は 蓄 積 し て い た 。こ れ は 、成 熟 帯 で は SLR1 タ ン パ ク 質 の 分 解 を 受 け に く く 、GA シ

グ ナ ル が 流 れ づ ら い た め と 考 え ら れ る 。 こ の よ う な 成 熟 帯 で の GA シ グ ナ ル の 弱 さ は
主 成 分 分 析 で も 認 め ら れ 、 GA 処 理 区 の 成 熟 帯 の サ ン プ ル は GA 無 処 理 区 の 成 熟 帯 の
サンプルと近しい性質を示した。
GA の 局 在 と 輸 送 は 生 合 成 や シ グ ナ ル 伝 達 と 合 わ せ GA 応 答 に お い て 重 要 で あ る 。
近 年 菅 野 ら ( 2016) は 、 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に て 糖 輸 送 体 で あ る SWEET タ ン パ ク 質 が 、
ジ ベ レ リ ン を 輸 送 し て い る こ と を 報 告 し た 。 第 4 章 で は 、 イ ネ に お い て も SWEET タ
ン パ ク 質 が ジ ベ レ リ ン の 輸 送 に 関 わ る か 16 種 類 の イ ネ の SWEET フ ァ ミ リ ー タ ン パ
ク 質 に つ い て yeast three-hybrid 法 と LC-MS/MS 法 に て 調 べ た 。そ の 結 果 、グ ル コ ー
ス 輸 送 体 で あ る OsSWEET3a が GA の 輸 送 活 性 を 持 つ こ と を 明 ら か に し た 。 と り わ
け 、 OsSWEET3a は 13 位 に 水 酸 基 を 持 つ GA に 高 い 輸 送 活 性 を 有 し た 。 さ ら に 、

ossweet3a ノ ッ ク ア ウ ト 変 異 体 を 作 出 し 、 そ の 表 現 型 を 野 生 型 と す る と 幼 苗 期 の 生 育
に 遅 延 が み ら れ 、こ の 生 育 の 遅 延 は 地 上 部 へ の GA 処 理 、特 に 前 駆 体 で あ る GA 20 の 投
与 に よ り 回 復 し た 。 OsSWEET3a が 13 位 水 酸 化 型 の GA に 高 い 輸 送 活 性 を 示 す 点 と
幼 苗 期 の 生 育 に 遅 延 が み ら れ る 点 は 、 イ ネ が 栄 養 成 長 期 に 主 要 な 活 性 型 GA の 合 成 経
路 と し て 13 位 水 酸 化 経 路 を 利 用 し て い る 知 見 と も 一 致 す る 。ま た 、ossweet3a 変 異 体
と野生型の茎頂付近のデンプンの蓄積をヨウ素デンプン反応にて確認したところ、

ossweet3a 変 異 体 で は 維 管 束 周 辺 の デ ン プ ン 蓄 積 が 少 な か っ た 。 こ の こ と は
ossweet3a 変 異 体 で は グ ル コ ー ス の 輸 送 が 妨 げ ら れ て い る こ と を 示 唆 し て い る 。
つ ぎ に 、OsSWEET3a の 遺 伝 子 発 現 を quantitative real-time reverse transcription
PCR 法 と in situ hybridization 法 に て 調 べ た と こ ろ 、OsSWEET3a の 発 現 は 、幼 苗 の
基 部 に 位 置 す る メ ソ コ チ ル の 維 管 束 組 織 で 高 い 発 現 を 示 し た 。 併 せ て GA 前 駆 体 合 成
酵 素 で あ る OsGA20ox1 と 活 性 型 GA の 最 終 合 成 酵 素 で あ る OsGA3ox2 の 遺 伝 子 発 現
部 位 を in situ hybridization 法 に て 調 べ た 。 す る と 、 OsGA20ox1 の 遺 伝 子 発 現 が

OsSWEET3a と 重 な る 一 方 で 、活 性 型 GA の 最 終 合 成 酵 素 で あ る OsGA3ox2 の 遺 伝 子
発現は葉原基と若い葉で見られた。
以 上 の 結 果 か ら 、 OsSWEET3a が 幼 苗 の 基 部 に お い て OsGA20ox1 に よ り 合 成 さ れ
た GA 前 駆 体 合 GA 20 の 葉 原 基 や 若 い 葉 へ の 輸 送 を 行 い 、 OsGA3ox2 が 活 性 型 GA で
あ る GA1 に 変 換 す る 。 併 せ て 、 OsSWEET3a は グ ル コ ー ス の 輸 送 に 関 わ る こ と で 、
GA と エ ネ ル ギ ー 源 で あ る 糖 の 共 輸 送 体 と し て 機 能 し 、 イ ネ の 初 期 成 長 を 促 進 し て い
ることが分かった。
さらに、他のイネ科植物(パイナップル、オオムギ、ウマゴヤシ、ソルガム、トウ
モ ロ コ シ )の SWEET3 タ ン パ ク 質 に つ い て 、yeast three-hybrid 法 を 用 い て GA の 輸
送 活 性 を 調 べ た が 、 GA 輸 送 活 性 を 持 つ も の は ソ ル ガ ム の SWEET3a の み で あ っ た 。
ま た 、 ソ ル ガ ム の SWEET3a は 13 位 非 水 酸 化 型 の 活 性 型 GA で あ る GA 4 の 輸 送 活 性
を 示 し 、 OsSWEET3a と は 輸 送 す る GA の 種 類 が 異 な っ た 。 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に て GA
輸 送 活 性 が 報 告 さ れ た AtSWEET13, 14 が ス ク ロ ー ス の 輸 送 体 で あ る こ と を 考 慮 す る
と 、 SWEET タ ン パ ク 質 の GA 輸 送 活 性 は 植 物 が 進 化 の 過 程 で 散 発 的 に 獲 得 し て き た
と考えられる。

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