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書き出し

コケ植物の茎頂分裂組織に着目した幹細胞維持機構の進化発生学的研究

秦, 有輝 東北大学

2023.03.24

概要

論文内容要約

コケ植物の茎頂分裂組織に着目した
幹細胞維持機構の進化発生学的研究

東北大学大学院生命科学研究科
生態発生適応科学専攻

秦 有輝

コケ植物の茎頂メリステムに着目した幹細胞維持機構の
進化発生学的研究
植物発生分野
秦 有輝
1. 序 論

茎頂メリステムには未分化な幹細胞が存
在し、陸上植物の地上部の発生を支えてい
る。この成長様式は陸上植物の共通祖先で
獲得され、現生植物に受け継がれていると
考えられるが、陸上植物の共通祖先で獲得
された祖先的な幹細胞維持の仕組みがどの
ようなものだったのかはよくわかっていな
い。陸上植物において初期に種子植物につ
ながる系統から分岐したコケ植物やシダ植
物の茎頂メリステムでは、頂端細胞と呼ば
れるただ一つの細胞が幹細胞として存在す

図 1 陸上植物のメリステムの構造。
黄色で幹細胞を示す。

る 。一 方 、種 子 植 物 で は メ リ ス テ ム 内 部 に 複
数 の 幹 細 胞 が 存 在 す る (図 1)。 し た が っ て
陸 上 植 物 の メ リ ス テ ム は 単 一 の 幹 細 胞 (頂
端 細 胞 )を も つ タ イ プ か ら 複 数 の 幹 細 胞 を
もつタイプへと進化したと考えられる。本
研究では、茎頂メリステムにおける祖先的
な幹細胞維持機構を明らかにするために、

図 2 ヒメツリガネゴケのメリステムの構造。

コケ植物が単一の幹細胞である頂端細胞を

黄 色 と *で 頂 端 細 胞 を 示 す 。

維持するメカニズムを明らかにすることを
目的とした。
頂端細胞は単一の幹細胞である。したがって、その分裂は常に非対称分裂であり、1 細胞レ
ベ ル で 発 生 運 命 が 制 御 さ れ る 。コ ケ 植 物 の モ デ ル 植 物 で あ る ヒ メ ツ リ ガ ネ ゴ ケ (Physcomitrium
patens) の 茎 頂 メ リ ス テ ム に は 、四 面 体 型 を し た 頂 端 細 胞 が 存 在 し て い る (図 2)。頂 端 細 胞 は
前 回 の 細 胞 分 裂 に お け る 分 裂 面 に 対 し て 常 に 一 定 の 角 度 で 細 胞 分 裂 を 繰 り 返 す た め 、螺 旋 状 に

非 対 称 分 裂 を 繰 り 返 す 。中 央 に 存 在 す る 細 胞 は 頂 端 細 胞 と し て 維 持 さ れ 、外 側 へ 切 り 出 さ れ た
細 胞 (メ ロ フ ァ イ ト ) は 直 ち に 分 化 を 開 始 す る 。 1 つ の メ ロ フ ァ イ ト か ら は 1 枚 の 葉 と そ の 基
部 の 茎 が 形 成 さ れ る 。そ の た め 、頂 端 細 胞 の 位 置 で メ リ ス テ ム の 水 平 断 面 を 観 察 す る と 、中 央
に 三 角 形 の 頂 端 細 胞 が 存 在 し 、周 囲 に 螺 旋 状 に 配 置 さ れ た 葉 原 基 が み ら れ る 。こ れ ら の パ タ ー
ン か ら 、頂 端 細 胞 に は 頂 端 細 胞 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 促 進 す る 因 子 が 存 在 し 、メ ロ フ ァ イ ト に
は 頂 端 細 胞 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 抑 制 し 、さ ら に 細 胞 分 化 の 促 進 を 担 う 因 子 が 存 在 す る と 予 想 し
た。
先 行 研 究 で は 、コ ケ 植 物 の 頂 端 細 胞 の 維 持 に 関 与 す る 因 子 が 調 べ ら れ て き た 。ま ず 被 子 植 物
の 茎 頂 メ リ ス テ ム に お い て 幹 細 胞 の 維 持 に 重 要 な WUSCHEL

(WUS)

や SHOOT

MERISTEMLESS (STM) ホ モ ロ グ は コ ケ 植 物 の 頂 端 細 胞 の 維 持 に は 関 与 し な い こ と か ら 、 こ れ
らの因子は維管束植物の系統で幹細胞維持メカニズムに取り込まれたものであると考えられ
て い る 。植 物 ホ ル モ ン で あ る サ イ ト カ イ ニ ン は 細 胞 の 未 分 化 性 を 促 進 す る 機 能 を も つ 。コ ケ 植
物 体 に サ イ ト カ イ ニ を 投 与 す る と 異 所 的 な 頂 端 細 胞 が 形 成 さ れ る 。ま た オ ー キ シ ン は 細 胞 分 化
を 促 進 す る こ と が 報 告 さ れ て お り 、高 濃 度 の オ ー キ シ ン 処 理 は コ ケ 植 物 メ リ ス テ ム の 頂 端 細 胞
の 活 性 を 失 わ せ る 。さ ら に 、ALOG フ ァ ミ リ ー に 属 す る 転 写 因 子 は ゼ ニ ゴ ケ に お い て メ リ ス テ
ム の 維 持 に 必 須 で あ る こ と 、 AP2/ERF 転 写 因 子 に 属 す る ENHANCER OF SHOOT
REGENERATION (ESR/DRN) オ ー ソ ロ グ や APETALA PLETHORA BABYBOOM (APB) 遺 伝 子 は
メ リ ス テ ム の 形 成 を 促 進 す る 機 能 を も つ こ と が 知 ら れ て い る 。こ れ ら の 因 子 は 被 子 植 物 の メ リ
ス テ ム に お い て も 類 似 し た 機 能 を も つ こ と か ら 、陸 上 植 物 の 共 通 祖 先 で 獲 得 さ れ た 幹 細 胞 維 持
機 構 に 関 与 し て い た 可 能 性 が 高 い 。し か し な が ら 、頂 端 細 胞 と メ ロ フ ァ イ ト の 間 で 起 こ る 1 細
胞レベルでの細胞運命決定におけるこれらの因子の機能は不明であった。

2. 結 果

本 研 究 で は 、ヒ メ ツ リ ガ ネ ゴ ケ を 用 い て 、ま ず ALOG 転 写 因 子 の 機 能 解 析 を 行 っ た 。そ の 結
果 、 ALOG 転 写 因 子 TAWAWA1 (TAW1) の オ ー ソ ロ グ PpTAW2 は メ リ ス テ ム 全 体 で 転 写 さ れ た
後 、転 写 後 制 御 に よ り 頂 端 細 胞 特 異 的 に タ ン パ ク 質 の 局 在 が 抑 制 さ れ 、頂 端 細 胞 の 非 対 称 分 裂
後 に メ ロ フ ァ イ ト 側 で 発 現 し 始 め る こ と が わ か っ た 。変 異 体 を 用 い た 表 現 型 解 析 お よ び ト ラ ン
ス ク リ プ ト ー ム 解 析 に よ り 、 PpTAW2 は 微 小 管 や 細 胞 壁 制 御 因 子 な ど の 細 胞 の 形 態 形 成 に 関 わ
る 因 子 を 発 現 誘 導 し て 分 化 を 促 進 す る と 同 時 に 、 幹 細 胞 形 成 を 促 進 す る APB や ESR/DRN オ ー
ソログの発現を抑制することで、幹細胞機能を阻害する機能をもつことが示唆された。一方、

PpTAW2 の 発 現 は 幹 細 胞 形 成 を 促 進 す る サ イ ト カ イ ニ ン に よ っ て 抑 制 さ れ る こ と も 明 ら か と な
っ た 。 し た が っ て 、 PpTAW2 は サ イ ト カ イ ニ ン と 拮 抗 的 に 働 く 分 化 促 進 因 子 で あ る こ と が 示 唆
された。
ALOG 転 写 因 子 は 被 子 植 物 で は BLADE ON PETIOLE (BOP) タ ン パ ク 質 と 相 互 作 用 し て 機
能 す る 。BOP 遺 伝 子 オ ー ソ ロ グ は ヒ メ ツ リ ガ ネ ゴ ケ に も 存 在 す る こ と か ら 、ヒ メ ツ リ ガ ネ ゴ ケ
BOP 遺 伝 子 の 機 能 解 析 を 行 っ た が 、機 能 欠 損 変 異 体 に お い て 野 生 型 と の 違 い は 見 出 さ れ な か っ
た 。 し た が っ て 、 ALOG 転 写 因 子 と BOP の 相 互 作 用 は 維 管 束 植 物 の 系 統 で 進 化 し た と 考 え ら
れる。
最 後 に 、頂 端 細 胞 の 特 性 や 維 持 機 構 を 遺 伝 子 発 現 と し て 理 解 す る た め に 、茎 頂 メ リ ス テ ム に
お け る 1 細 胞 RNA-seq を 行 っ た 。そ の 結 果 、頂 端 細 胞 で は サ イ ト カ イ ニ ン の 合 成 酵 素 遺 伝 子 で
あ る LONELY GUY(LOG)や 分 解 酵 素 遺 伝 子 で あ る CYTOKININ OXIDASE (CKX)、 ESR/DRN オ
ー ソ ロ グ 遺 伝 子 群 が 特 異 的 に 発 現 し て い る こ と が わ か っ た 。ESR/DRN オ ー ソ ロ グ に は 、サ イ ト
カ イ ニ ン に よ っ て 発 現 上 昇 し PpTAW2 に よ っ て 発 現 抑 制 さ れ る 遺 伝 子 も 含 ま れ て い た 。そ の 一
方 で 、頂 端 細 胞 の 外 側 で は オ ー キ シ ン シ グ ナ ル 関 連 遺 伝 子 群 が 発 現 上 昇 し 、被 子 植 物 で 形 態 形
成 に 関 与 す る い く つ か の 転 写 因 子 が 特 異 的 に 発 現 し て お り 、こ れ ら が ヒ メ ツ リ ガ ネ ゴ ケ に お い
ても器官形成や細胞分化過程に関与している可能性が示された。

3. 考 察

以 上 の 結 果 を ま と め る と 、PpTAW の 機 能 解 析 お よ び 1 細 胞 RNAseq の 両 方 か ら 、ESR/DRN オ
ー ソ ロ グ が 共 通 の 幹 細 胞 因 子 と し て 見 出 さ れ た 。頂 端 細 胞 特 異 的 な サ イ ト カ イ ニ ン シ グ ナ ル に
よ っ て ESR/DRN オ ー ソ ロ グ の 発 現 が 誘 導 さ れ る こ と に よ り 頂 端 細 胞 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 促
進 さ れ 、 頂 端 細 胞 の 外 側 で は PpTAW2 に よ っ て ESR/DRN オ ー ソ ロ グ の 発 現 が 抑 制 さ れ て い る
と 考 え ら れ る 。ま た 、サ イ ト カ イ ニ ン シ グ ナ ル は PpTAW2 の 発 現 を 抑 制 す る こ と か ら 、サ イ ト
カ イ ニ ン に よ る 幹 細 胞 シ グ ナ ル と PpTAW2 に よ る 分 化 シ グ ナ ル は 互 い に 抑 制 し 合 い 、こ の 相 互
作用が頂端細胞とメロファイトの間に生じる 1 細胞レベルでの細胞運命決定に寄与している
と い う モ デ ル を 構 築 し た 。ESR/DRN は 被 子 植 物 に お い て も サ イ ト カ イ ニ ン に よ り 発 現 が 促 進 さ
れ る こ と が 知 ら れ て い る 。し た が っ て 、サ イ ト カ イ ニ ン -ESR/DRN 経 路 は 、WUS に よ る 幹 細 胞
維 持 経 路 に 先 立 っ て 進 化 し た 、祖 先 的 な 幹 細 胞 維 持 機 構 で あ る 可 能 性 が 高 い 。今 後 、ヒ メ ツ リ
ガ ネ ゴ ケ に お い て 実 際 に ESR/DRN オ ー ソ ロ グ が 頂 端 細 胞 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 促 進 す る 機 能 を
もつかどうかを調べることで、この可能性を検証できると期待される。 ...

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