リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「ヒト冠状動脈硬化症に対してFURIN SNP rs17514846が与える影響: 106剖検例の法医病理学的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

ヒト冠状動脈硬化症に対してFURIN SNP rs17514846が与える影響: 106剖検例の法医病理学的研究

山崎, 元太郎 神戸大学

2022.03.25

概要

【背景】
冠動脈疾患は法医学において最も頻度の⾼い死因の⼀つである。時にその死後診断には、冠状動脈狭窄だけでなく、冠危険因⼦の考慮や除外診断といった総合的な判断が必要となる。

FURIN は特定のアミノ酸配列でタンパク質を切断するセリンプロテアーゼであり、様々な組織や細胞で発現し、主にトランスゴルジ網に存在する。近年ゲノムワイド関連解析によって冠動脈疾患のリスクとなる⼀塩基多型(以下 SNP)が研究されており、FURIN の染⾊体 15q26.1 に存在する SNP である rs17514846 が冠動脈疾患のリスクであるという報告がなされた。rs17514846 のマイナーアレル A は、in vitro においてヒト臍帯静脈内⽪細胞 (HUVEC)や単球/マクロファージにおいて FURIN の⾼発現と関連していることが報告されている。FURIN は、マトリックスメタロプロテアーゼ-1 や TGF-β1、エンドセリン-1 の活性化を通じて動脈硬化を促進する。冠動脈疾患は多くが冠状動脈硬化症によって引き起こされることから、rs17514846 は冠動脈疾患の潜在的なリスクになると考えられている。⼼臓は冠状動脈硬化症の主座であるため、⼼臓における FURIN が冠状動脈硬化症に影響を与えると思われるが、実際のヒト試料を⽤いた rs17514846 と FURIN に関する研究は殆どない。

本研究では、ヒト剖検試料を⽤いて、rs17514846 の遺伝⼦型を特定するとともに、⼼臓における FURIN を定量し、各症例における冠状動脈硬化症の程度を⾁眼的および病理組織学的に分類することによって、それぞれの関係を統計学的に調べた。

【⽅法】
2020 年から2021 年の間に神⼾⼤学⼤学院医学研究科法医学分野で法医解剖を⾏った133症例のうち、死後 72 時間以内で完全な剖検データが得られた 106 症例を対象とした。

冠状動脈硬化症の程度には、剖検時に⾁眼的に観察して決定した狭窄度 4 群[〜25%未満、〜50%未満、〜75%未満、75%以上]を⽤いた。病理組織学的分類には Stary 分類を⽤い、初期病変であるタイプⅠから最も進⾏病変であるタイプⅥまでの 6 分類とした。

rs17514846 の遺伝⼦型は、剖検時に採取した⾎液から DN♙ 抽出キットを⽤いて DN♙を抽出し、TaqMan プローブによるリアルタイム PCR 法で検出を⾏った。

FURIN 定量は、剖検時に採取した左冠状動脈前下⾏枝および左⼼室⼼筋に対して⾏った。冠状動脈および⼼筋組織をそれぞれ 40mg にトリミングし、PBS 100mL を加えてホモジナイズした上で遠⼼し、得られた上清に対し ELIS♙ 定量を⾏った。それぞれの FURIN 定量値は、Bradford 法によって測定した総タンパクによって補正した。またホモジネート中に FURIN が適切に抽出されているかを確認するためにウエスタンブロットを⾏った。

⼼臓組織に対して免疫組織化学検査を⾏い、マクロファージについては CD68 と FURINの⼆重免疫染⾊を⾏い、FURIN の局在を観察した。

rs17514846 遺伝⼦型と FURIN 定量値との相関関係はフィッシャーの正確検定とクラスカル・ウォリス検定で解析し、多重⽐較にはスティール・デュワス法を⾏った。また⾁眼的な冠状動脈狭窄度や Stary 分類、各種剖検データ(年齢、性別、BMI、死後経過時間、⼼臓重量、HbA1c、LDL、HDL、中性脂肪、前室間溝脂肪厚、腹部脂肪厚)と FURIN 定量値との相関関係の解析にはクラスカル・ウォリス検定、マン・ホイットニーの U 検定、スピアマンの順位相関係数を⽤いた。いずれも有意⽔準は p<0.05 として解析を⾏った。

【結果】
106 症例のうち、AA は 5 例、AC は 19 例、CC は 82 例であった。
ウエスタンブロットでは FURIN 抗体を⽤いて単⼀なバンドが確認された。

遺伝⼦型と FURIN 定量値の解析では、⼼筋組織において有意差を持って相関関係を認め (クラスカル・ウォリス検定, p=0.0130)、多重⽐較では AA は AC や AC よりも⾼値であり、AA と CC の間には有意差を認めた(スティール・デュワス法, p=0.0123)。冠状動脈では遺伝⼦型と FURIN 定量値の間に有意差はなかったが(クラスカル・ウォリス検定, p=0.317)、⼼筋組織と同様に AA は AC や CC よりも FURIN 定量値が⾼い傾向にあった。冠状動脈硬化症の程度と FURIN 定量値との解析では、⼼筋組織において有意差を認め(クラスカル・ウォリス検定, p=0.0469)、Stary 分類タイプⅡやタイプⅢといった⽐較的早期の病変群で FURIN 定量値が⾼く、タイプⅡとタイプⅤの FURIN 定量値に有意差を認めた(スティール・デュワス法, p=0.0416)。冠状動脈においても有意差を認め(クラスカル・ウォリス検定, p=0.0296)、多重⽐較では⼼筋組織よりもさらに早期病変であるタイプⅠにおいて最も FURIN 定量値が⾼く、動脈硬化が進⾏するにつれてFURIN 定量値は低下する傾向にあり、タイプⅠとタイプⅤの FURIN 定量値間に有意差を認めた(スティール・デュワス法, p=0.0262)。⼀⽅で rs17514846 は冠状動脈の⾁眼的な狭窄度や Stary 分類と統計学的な相関関係を認めず、各種剖検データと FURIN 定量値との相関関係においてもいずれも有意差は認めなかった。

免疫染⾊および⼆重免疫染⾊では、⼼筋組織や⾎管平滑筋細胞、⾎管内⽪細胞、脂肪細胞、マクロファージで陽性像が認められた。

【考察】
本研究では以下の 2 点が明らかとなった。⼀点⽬は、rs17514846 のアレル A がアレル Cに⽐べて⼼筋組織における FURIN の発現を増加させることである。この結果は、 rs17514846 のアレル A が HUVEC や単球/マクロファージで FURIN の⾼発現に関係するという過去の報告に⼀致しており、冠状動脈や⼼筋組織でも同様の傾向であることを⽰した。

⼆点⽬は、⼼臓組織において冠状動脈硬化の進⾏病変よりも初期病変で FURIN 定量値が⾼値であることである。以前の報告では、冠状動脈硬化症が進⾏するにつれて、マクロファージで FURIN が⾼度に発現するとされている。本研究においても、進⾏病変で FURIN の⾼発現を伴うマクロファージが確認されたが、マクロファージだけでなく、⾎管内⽪細胞や⾎管平滑筋細胞、⼼筋細胞にも広く FURIN 発現が観察されていることから、それらが冠状動脈硬化症の早期病変において FURIN の⾼発現により強く関係していると考えられる。また動物実験ではあるが、⾎流による剪断⼒によって⾎管内⽪細胞の FURIN 発現が増加し、⼼不全の初期において⼼筋細胞の FURIN ⾼発現が認められたという報告がある。これを参考にすると、本研究結果は、剪断⼒によって⾎管内⽪細胞でFURIN が⾼発現となり、それに続いて⼼筋細胞で FURIN の発現が増加するというダイナミクスを⽰している可能性が⽰唆された。

【結論】
剖検試料による分析であるので、死後変化胃の影響は避けられないが、本研究では rs17514846 の A アレルが⼼臓組織において FURIN の⾼発現と関連しており、冠状動脈硬化症の進⾏病変よりも初期病変で FURIN がより⾼いことを明らかにした。また SNP が⼼臓組織における FURIN 発現に及ぼす影響に加え、冠状動脈硬化症が⽐較的早期病変の場合に、冠状動脈と⼼筋組織の FURIN 発現は有意に⾼く、冠状動脈や⼼筋組織の FURIN 発現が冠状動脈硬化症の進⾏に伴って変化する可能性が⽰唆された。本研究結果は、冠状動脈硬化症の進⾏メカニズムに対する理解を深めるものと考えられた。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る