Tリンパ球の分化と機能におけるIL-7受容体シグナルの役割
概要
1. はじめに
インターロイキン7(IL-7)は初期リンパ球の分化、成熟T細胞の維持、リンパ器官の形成に必須のサイトカインであり、免疫系の恒常性維持を担うサイトカインと考えられる。筆者らはこれまで、B細胞・T細胞・自然リンパ球などの免疫細胞におけるIL-7の機能に注目して研究を行ってきた1)。免疫細胞に発現するIL-7受容体(IL-7R)はIL-7Rα鎖と共通γ鎖(γc)の2量体からなり、転写因子STAT5とPI3キナーゼの2つのシグナル分子が重要な役割を果たしている2,3)。IL-7がIL-7Rに結合するとチロシンキナーゼのJAK1とJAK3が活性化し、IL-7Rα鎖の449番目(マウス)のチロシン残基をリン酸化する。これが引き金になり、SH2ドメインを持つSTAT5とPI3キナーゼがこのリン酸化チロシンに結合する。STAT5はJAKによりそのチロシン残基がリン酸化され2量体を形成し、核内に移行して標的遺伝子の転写を誘導し、リンパ球の増殖や分化を促進する。一方、IL-7Rα鎖に結合したPI3キナーゼは細胞膜のイノシトールリン脂質をリン酸化し、AktやmTORなどの下流シグナル分子を活性化することで、細胞増殖や代謝などの細胞活動を引き起こす4)。本稿では、リンパ球におけるIL-7Rシグナルのさまざまな機能について新たな知見を紹介する。
2. IL-7R下流シグナル伝達におけるSTAT5とPI3キナーゼの競合
IL-7Rの下流でSTAT5とPI3キナーゼの二つのシグナル系が活性化されるが、それらの特異的な機能や相互の関係性は明らかにされていなかった。筆者らはIL-7Rαの449番目のチロシン残基がSTAT5とPI3キナーゼの両方との結合に必要であること、452番目のメチオニン残基がPI3キナーゼとの結合に必要であることに着目し(図1A)、IL-7R-Y449FマウスとIL-7R-M452Lマウスの二つの変異マウスを作製し、IL-7Rシグナル伝達におけるSTAT5とPI3キナーゼの機能と相互の関係性を解析した5)。
活性化したPI3キナーゼは、PHドメインを持つAktを細胞膜近傍へとリクルートしリン酸化することで活性化する4)。IL-7R-Y449FマウスのΤ細胞をIL-7で刺激すると、リン酸化Akt(pAkt)とリン酸化STAT5(pSTAT5)のレベルが正常T細胞より著しく低下したことから、PI3キナーゼとSTAT5の両方のシグナル経路が障害されていることが確認された。一方、IL-7R-M452LマウスのT細胞をIL-7で刺激すると正常T細胞よりpAktが低下したが、pSTAT5は増加していた。したがって、IL-7R-M452LT細胞においてはPI3キナーゼのシグナル経路が障害されたが、STAT5のシグナル経路は亢進していることがわかった。以上の結果から、STAT5とPI3キナーゼがIL-7Rαと結合する際に競合しており、この競合関係によって各シグナル経路が適切な強度になるように制御されていると考えられる5)。
3. IL-7R下流のSTAT5とPI3キナーゼの競合によるT細胞の制御
IL-7R-Y449FマウスではIL-7Rα欠損マウスと同様にT細胞数が劇的に減少したことから、STAT5とPI3キナーゼのシグナル経路がT細胞の分化に重要であることがわかった。一方、IL-7R-M452Lマウスの胸腺T細胞では、STAT5シグナルが亢進するとともにPI3キナーゼシグナルが低下することで、転写因子TCF-1の発現誘導が遅れT細胞の初期分化が障害された。逆に、リンパ節において、IL-7R-M452Lマウスのリンパ節においてはSTAT5シグナルが亢進することで細胞内の抗アポトーシス活性が高くなり、ナイーブT細胞数が増加した。また、IL-7R-M452Lマウスにおいて、IL-17を産生し炎症性免疫応答を担うTh17細胞への分化が抑制されていた。さらに、リステリア菌の感染後に、細菌特異的な記憶CD8T細胞への分化が障害されていた。すなわち、IL-7R-M452LマウスではT細胞の生存が亢進することでナイーブT細胞が増加する一方で、免疫応答に重要なエフヱクターT細胞と記憶T細胞への分化が障害され、免疫応答能が低下していた。これらの結果から、IL-7R下流におけるSTAT5とPI3キナーゼのシグナルの競合関係がT細胞の分化と維持を制御し、適切な感染免疫応答を誘導すると考えられる5)(図1B)。
4. IL-7RシグナルとγδΤ細胞の分化
γδΤ細胞はαβΤ細胞と同様に胸腺で分化する。IL-7やIL-7Rの欠損マウスの胸腺では、αβΤ細胞の細胞数が大きく減少するのに対し、γδΤ細胞は完全に消失する6)。筆者らは、IL-7RシグナルによるγδΤ細胞の分化の制御機構を明らかにしてきた7-9)。Τ細胞受容体(T cell receptor, TCR)γ遺伝子座のJγ遺伝子プロモーターにはSTAT結合配列が存在し、IL-7Rシグナルで活性化したSTAT5が結合する。STAT5はヒストンのアセチル化を介してクロマチン構造を開き、TCRγ遺伝子のV-J組換えを誘導する。一方、Jγ遺伝子プロモーターのSTAT結合配列に変異を入れたマウスでは、V-J組換えが障害される9)。マウスのTCRγ遺伝子座には、Εγ1からΕγ4までの4つの相同性が高いエンハンサー領域(Εγ)が存在する(図2)。筆者らは、ΕγにもSTAT結合配列が存在し、IL-7Rシグナルで活性化したSTAT5が結合してエンハンサー活性を上昇させることを示してきた10,11)。TCRや免疫グロブリンなどV(D)J組換えをおこす遺伝子座のエンハンサーには、組換えや組換え後の転写を促進するが、Εγ1欠損マウスの胸腺のγδΤ細胞ではV-J組換えとその後の転写にほとんど影響がないことが報告されていた12)。しかし、筆者らがΕγ4欠損マウスを作製して解析したところ、Εγ4は近位のTCRΓ遺伝子のV-J組換えに必須であり、また、遠位のTCRγΜ伝子の組換え後の転写も促進していることが明らかになった13)。
5. IL-7Rシグナルと末梢γδΤ細胞の恒常性維持
γδΤ細胞は産生するサイトカインによってIL-17A産生型(以下、γδΤ17)とIFN-γ産生型(以下、γδΤ-IFNγ)の2種類に大別される。γδΤ17細胞はCD27-、IFN-γ産生型はCD27+である。IFN-γ産生型γδΤ細胞はCD45RBの発現によって、さらにconventional(通常型)(以下、conv. γδΤ-ΙΡΝγ)とinnate-like(自然免疫様)(以下、innate-like γδΤ-ΙΡΝγ)の2つのタイプに分けられる14,15)(図3Α)。conv. γδΤ-ΙΡΝγ糸田胞はTCR応答性が高く、一方、innate-like γ5T-IFNγ細胞はTCR応答性は低いが、サイトカインIL-12とIL-18に反応してTCR刺激がなくてもIFN-γを産生する。
末梢組織でのαβT細胞の恒常性維持にIL-7Rシグナルが必須である。一方、IL-7やIL-7Rの欠損マウスではγδΤ細胞が完全に消失するため、末梢組織のγδΤ細胞の恒常性維持にIL-7Rシグナルが必要か否かは近年まで明らかでなかった。Corpuzらの報告によると、γδT細胞サブセットにおけるIL-7R発現は、高い順からγδΤ17、innate-like γδΤ-ΙΡΝγ、conv. γδΤ-ΙΡΝγとなる。マウスにIL-7を投与すると、γδΤ17糸田胞に強い増殖が誘導され、innate-like γ5T-IFNγ細胞もIL-7に応答して増殖するが、conv. γδΤ-IFΝγ細胞はほとんど応答しない。また、IL-7投与により、抗アポトーシス分子のBcl-2とBcl-xLの発現がいずれのサブセットでも上昇する。さらに、γδΤ17細胞とγδΤ-ΙFΝγ細胞(innate-likeとconv.の両方を含む)を放射線照射したIL-7欠損マウスに移植すると、γδΤ17細胞はほとんど増殖せず、γ5T-IFNγ細胞も野生型マウスに移植した時より回収率が低下する。IL-15もγδΤ細胞の生存維持を促進するが、IL-15欠損マウスではγ5T-IFNγ細胞のみが減少し、γδΤ17細胞は増加する。これらのことから、γδΤ17の末梢組織での恒常性維持はIL-7に強く依存しており、γδΤ-ΙFΝγ細胞の恒常性維持はIL-15とIL-7の両方に依存している可能性が示唆される15)(図3)。
αβΤ細胞の末梢組織での恒常性維持にはIL-7Rシグナルに加えて、TCRからのシグナルが必須である。しかし、γδΤ細胞の末梢組織での恒常性維持にTCRシグナルが必要かどうかは不明であった。筆者らが作製したΕγ4欠損マウスでは遠位のTCRΓ遺伝子(νγ2)の転写が低下するが、胸腺のνγ2+γδΤ細胞数は変化しない。一方、Εγ4欠損マウスのリンパ節や脾臓のVγ2+γδ Τ細胞数が減少していた。減少したのはinnate-like γδΤ-ΙFΝγのVγ2+γδ Τ細胞だけであり、このサブセットではTCRの発現とその下流シグナルが低下していた(図3Β)。さらに、野生型マウスならびにΕγ4欠損マウスのinnate-like γδΤ-ΙFΝγ Vγ2+γδ Τ細胞を、リンパ球を持たないRag2欠損マウスに移植すると、Εγ4欠損マウス由来の細胞は野生型由来に比べて生存維持が低下していた。これらの結果から、少なくとも二次リンパ組織のinnate-like γδΤ-ΙFΝγ細胞はその恒常性維持にTCRシグナルを必要としている可能性が示唆された13)。
6. おわりに
筆者らの研究により、IL-7R下流でSTAT5とΡΙ3キナーゼのシグナルが競合的に働き、そのバランスがΤ細胞の分化と機能において重要な働きをしていることが明らかになった。さらに、IL-7Rシグナルの強さや質が、γδΤ細胞を含めた末梢組織のT細胞の機能に大きな影響を与えていることが判明した。免疫系の恒常性維持を担うIL-7による、組織常在性Τ細胞サブセットの組織特異的な機能獲得の制御に関して、今後さらなる研究が必要であると考えられる。