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大学・研究所にある論文を検索できる 「スフィンゴシン1リン酸の脈絡膜新生血管への影響検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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スフィンゴシン1リン酸の脈絡膜新生血管への影響検討

寺尾, 亮 東京大学 DOI:10.15083/0002005121

2022.06.22

概要

滲出型加齢黄斑変性症(AMD)は脈絡膜新生血管(CNV)による網膜出血や漿液性網膜剥離など引き起こす。AMDは加齢、環境因子、遺伝的要因などを含めた様々な因子がAMD発症の要因と関連があるとされており、特に光線暴露、酸化ストレスなどにより引き起こされると言われている。血管内皮増殖因子(VEGF)や低酸素誘導因子(HIF)などを含めた血管新生増殖因子や炎症性サイトカインがCNV形成に関与していると言われている。しかしAMD病態の主因やCNVの発症機序については未だ解明されていない箇所も多いため、更なる病態解明と治療応用への検討が必要であると考えられる。

S1Pは多彩な生理活性を有するリゾリン脂質メディエーターである。S1Pはsphingosinekinase(SphK;SphK1、SphK2)によりsphingosineから生成される。S1Pのキャリア蛋白にはAlbuminまたはapoliporotein M(ApoM)の2種類があり、血液循環内ではS1Pはそれらのキャリア蛋白に結合している。S1PはG蛋白共役受容体であるS1P受容体(S1P1-S1P5)に作用し多彩な細胞機能に関与する。S1Pが慢性疾患としてのAMDの病態機序に関与しており治療ターゲットの一つとして見込まれているがS1Pの詳細なCNV形成病態機序への関与メカニズムについては明らかにされていない。

本検討の目的はS1PのAMDを始めとした網膜疾患への関与を探ることである。AMDの発症ないし進行させる因子としてのS1Pの可能性を検討する。具体的には、加齢や様々な網膜ストレスによりS1Pが増加していること、そしてS1Pそのものが血管新生などのCNV病態形成に関与していることを検証する必要があると考えられる。

はじめに網膜へのストレスとしての光刺激と網膜内S1Pの関連について検証した。invitroでは光刺激が視細胞でS1Pの産生酵素を活性化させ、視細胞内S1Pを増加させていた。またinvivoの検討からSphK1、SphK2は網膜全体に発現するが、光刺激により視細胞外節でSphK1の発現が上昇するということを発見した。そのメカニズムとしてビジュアルサイクルの中間産物で視細胞やRPEに対し毒性があり、Stargardt病、AMDを引き起こすall-trans-retinalが視細胞のSphK1発現を増強させたことから、SphK1がatRALの下流シグナルに存在することが示唆された。またS1PはAktのリン酸化を抑制することで、cleavedcaspase-3を発現させ、S1Pは視細胞のApoptosisを誘導していた。以上の結果から、光刺激が視細胞のSphK1発現を上昇させ、増加したS1Pが視細胞死を引き起こしたと考えられた。invivo光誘導網膜障害モデルでSphK阻害剤の硝子体内投与がLEDによる網膜内S1Pの上昇を抑制し、かつ網膜障害を形態学的、機能的に抑制していたことから、光刺激により視細胞内のS1P産生が亢進し、生理的レベルを超えたS1Pが視細胞死を誘導すること、SphK阻害によるS1P産生阻害が光誘導網膜障害の治療としての可能性を有していることが明らかになった。

次章の検討としてS1Pの網膜色素上皮細胞への作用およびCNV病態形成の関与を検証した。網膜の恒常性維持機能を有しているRPE細胞由来の炎症性サイトカインやケモカイン、血管新生誘導因子が一因としてCNV形成に関与している。生体内ではRPE細胞は細胞間でtight junctionを形成しており、網膜内のバリア関門としての重要なblood retinal barrier(BRB)の一部となっている。そのためRPE機能異常をきたす因子は滲出型AMDを発症させる要因と考えられている。RPE細胞にAlbuminに溶解し結合させたS1P(Albumin-S1P)を投与したところ、IL-8、C-Cmotifchemokine-2などのケモカインやVEGFの発現が増加した。そしてそれらの変化はS1P2を介していた。S1P/S1P2の下流にVEGFという血管新生や血管透過性亢進の病態に大きな影響を及ぼす因子や、炎症反応に強く関与するケモカインが存在することが示唆された。またAlbumin-S1PはS1P2およびS1P3を介してHIF-1αの発現を上昇させた。S1Pが低酸素非依存性のHIF-1α活性化因子としてHIF-1による細胞応答を制御しており、S1P/S1P2とS1P/S1P3ともにHIF-1α発現に関与していると考えられた。本章ではRPE細胞間バリア機能に対する影響についても検討した。Albumin-S1PはS1P2を介してRPEの細胞間接着を有意に減弱させ、バリア破綻を引き起こしていた。この変化はZO-1とN-cadherinの細胞間接合部における発現低下、β-cateninの核内移行誘導によるものと考えられた。またAlbumin-S1PによるN-cadherinとβ-cateninのチロシンリン酸化がみられた。これらの結果から、Albumin-S1PがNcadherinとβ-cateninのチロシンリン酸化によりcadherin-β-catenin複合体解離を引き起こすことで細胞間バリア機能低下とβ-cateninの核内移行を生じさせたと考えられた。invivoではマウスレーザー誘導CNVモデルを用いて評価した。その結果、S1P2がCNV形成または病的新生血管からの血管漏出に関与していることが明らかになった。これらの検討から、S1PはS1P2、S1P3を介してCNV形成を促進させることが明らかになり、特にS1P/S1P2が滲出型AMDを含めた網膜内血管新生疾患に関与している可能性があると考えられた。

最後にS1Pのキャリア蛋白であるApoMの作用について検討した。近年、Albuminに結合したS1PとApoMに結合したS1P(ApoM-S1P)は作用が異なると報告されている。特にApoMはS1Pシャペロンとして働き、ApoM-S1PはS1P受容体への作用選択性が変化しS1P1に特異的に作用する。本検討でRPE細胞にApoM-S1Pを投与したところ、血管新生誘導因子やケモカインの発現を上昇させなかったことから、ApoM-S1PはAlbumin-S1Pとは異なりCNV形成を促進する因子の発現に関与しないと考えられた。またApoM-S1PはS1P1を介して、接合部でのZO-1発現を制御することでRPE細胞のバリア機能を増強させていた。更にApoM硝子体投与にCNVモデルを有意に抑制する効果が認められたことから、ApoMがCNV病態に対し抑制作用があることが明らかなった。

本検討を通して、AMD発症の環境要因としての光線暴露が網膜内でS1Pを増大させること、S1Pの産生を抑制することでその光線暴露による網膜障害を抑制することを明らかにした。そしてその増加したS1PのRPEやCNVへの生理活性作用を評価した。その中で特に血管新生や炎症反応促進、細胞間バリア機能変化作用に焦点を絞り、RPE細胞内でそれら誘導することでCNV病態形成に関与することを証明した。更に、S1PシャペロンであるApoMのS1P受容体選択性に着目した。ApoMがS1PによるRPE細胞由来の血管新生誘導や炎症反応、バリア機能破綻を抑制し、CNV形成を抑制することを示した。S1P受容体特異的阻害ないしApoMによるS1P制御がCNVを本態とする滲出型加齢黄斑変性症の治療になり得ると考えられた。

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