大腸癌のTumor buddingにおけるTumor-associated macrophagesの役割の解析
概要
〈背景〉大腸癌におけるTumor buddingは、高いリンパ節転移、生存率の悪化などと関連し、予後不良因子として認識されている。一方で、腫瘍周囲に存在するマクロファージ(Mφ)はtumor-associated Mφ(TAM)と呼ばれ、ヒトの悪性腫瘍の増殖に中心的な役割をしている。しかし、Mφの各々のサブタイプがどのようにbuddingに関わり、さらに大腸癌の予後に影響を与えるのかは、まだ明らかになっていない。本研究では、大腸癌の腫瘍辺縁におけるbuddingの存在状況を正確に評価し、その周囲に現れるTAMのサブタイプを網羅的に調べることで、buddingと関わりの深いTAMを同定し、大腸癌の予後との関連を検証した。
〈対象と方法〉山形大学医学部附属病院で切除術を施行した大腸癌患者102例のホルマリン固定・パラフィン包埋組織(formalin-fixed paraffin embedded; FFPE)を使用した。Buddingと各種細胞マーカーを発現しているMφを検出・計測するため、免疫組織化学染色を実施した。
〈結果〉Budding high群(>20個/200倍視野)はBudding low群(≦20個/200倍視野)と比較して、予後不良であった(全生存期間, P=0.0035)。Budding low群はBudding high群と比較して、M2b(LIGHT+)TAM数(P=0.0113)、Mox・Mhem(HO-1+)TAM数(P=0.0119)、そしてM2d(VEGF+)TAM数(P<0.0001)が有意に多かった。これらのTAM(M2b, M2d, Mox, Mhem)数とbudding数は、負の相関関係にあった(M2b;rs=-0.2248, P=0.0238、M2d;rs=-0.3780, P<0.0001、Mox・Mhem;rs=-0.1745, P=0.0810)。M2b(LIGHT)low群(≦14.2個/200倍視野)はM2b(LIGHT)high群(>14.2個/200倍視野)と比較して予後不良であった(全生存期間;P=0.0479、無再発生存期間;P=0.0982)。また、Mox・Mhem(HO-1)low群(≦17.0個/200倍視野)はMox・Mhem(HO-1)high群(>17.0個/200倍視野)と比較して、予後不良な傾向にあった(全生存期間;P=0.0616)。つまり、M2b(LIGHT+)TAM、Mox・Mhem(HO-1+)TAMの数が少ないほど、予後は不良な傾向にあった。全生存期間、無再発生存期間について、Cox比例ハザード回帰分析を用いて多変量解析したところ、StageⅢ・Ⅳのみが独立した予後不良因子であった。
〈考察〉大腸癌において、buddingは予後不良因子であった。そして、budding数とTAM数(M2b, M2d, Mox, Mhem)が負の相関関係にあることを、はじめて明らかにした。また、M2b(LIGHT+)TAM、Mox・Mhem(HO-1+)TAMの数が少ないほど予後は不良な傾向にあることを、はじめて明らかにした。これらのTAMはbuddingに関わる重要な因子と考えられる。今後、これらのTAMの具体的なメカニズムについて、明らかにしていく必要がある。