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大学・研究所にある論文を検索できる 「炭酸ガス経皮吸収は1型糖尿病ラット骨折モデルにおける骨折治癒を促進させる」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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炭酸ガス経皮吸収は1型糖尿病ラット骨折モデルにおける骨折治癒を促進させる

Oda, Takahiro 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景と目的】
 糖尿病 (以下 DM) 患者では、骨折後の骨癒合不全の発生頻度が健常者と比較し有意に高く、骨折治癒に長期間を要することが知られている。1 型 DM 動物モデルを用いた研究では、軟骨形成や血管新生の阻害、軟骨内骨化過程の遅延が骨折治癒を阻害する原因であると示されている。臨床の場においては、DM 患者数は 2045 年までに世界で 6 億 9,300 万人に急増すると予測されており、DM 患者における骨折治癒遅延の原因を究明し、新たな治療法を開発することは重要であると考えられる。我々は骨折治癒を促進する為の新しいアプローチとして、炭酸ガスを簡便かつ非侵襲的な方法で局所に経皮吸収させるシステムを開発し、骨折治療への臨床応用を目指して研究を進めている。ラット大腿骨骨折モデルを用いた研究では、炭酸ガスを経皮吸収させることで、局所の酸素化、血流の増加、血管新生および軟骨内骨化の促進効果が得られ、その結果として骨折治癒が促進されることを示した。前述の通り、1 型DM 動物モデルでは血管新生の阻害や軟骨内骨化の遅延が骨折治癒遅延を来す原因とされている。我々は 1 型 DM という骨折治癒に不利な状況下においても、炭酸ガスの経皮吸収を行うことで血管新生および軟骨内骨化促進を介して骨折治癒が促進されるという仮説を立てた。この仮説を検証することを本研究の目的とした。

【方法】
 10 週齢の雌の S-D ラットの腹腔内にストレプトゾトシンを投与し 1 型DM ラットを作成した (n=90)。12 週齢時、径 1.25mm のK-ワイヤーを大腿骨髄腔に挿入し、重錘を落下させて大腿骨骨幹部に閉鎖性横骨折を作成した。このモデルでは術後 6 週で骨癒合に至る。炭酸ガスを週 5 回投与する炭酸ガス群と、投与しない Control 群の 2 群に分け、炭酸ガス群には、骨折肢に炭酸ガス経皮吸収促進ゲルを塗布し、100%炭酸ガスを充満させた袋に密閉することで、1 日 1 回 20 分間炭酸ガスを経皮吸収させた。一方、Control 群には、同ゲルを骨折肢に塗布するのみとした。X 線学的評価、組織学的評価、遺伝子学的評価、骨強度評価を行い 2 群間で比較検討を行った。X 線評価 (骨折後 1,2,3,4 週) では前後、側面の 2 方向から撮影し、観察される計 4 つの皮質骨のうち、3 つもしくは 4 つに骨性架橋が観察される場合を骨 癒合とした。組織学的評価では Safranin-O/Fast Green 染色 (骨折後 1,2,3,4 週) による観察を 行い、Allen のスコアリングシステムを用いて骨癒合の進行度を定量評価した(grade 0:偽関 節形成、grade 1: 不完全軟骨性癒合、grade 2: 完全軟骨性癒合、grade 3: 不完全骨癒合、grade 4: 完全骨癒合)。また新生仮骨内の軟骨面積を Image J を用いて測定した。血管新生評価の ために、isolectin B4 を用いた蛍光免疫組織化学的染色 (骨折後 1,2,3,4 週) を行い、1mm2 あ たりの血管数を測定した。また、骨折後 2,3 週で軟骨増殖能を評価する目的で抗Ki-67 抗体 を用いた免疫組織学的染色を、破骨細胞数を評価する目的で抗Cathepsin-K 抗体を用いた免 疫組織学的染色を行った。また、骨折部周囲の新生仮骨をサンプルとし、real time PCR によ る遺伝子学的評価を行った (骨折後 1,2,3,4 週)。軟骨分化に関連する因子として Collagen Ⅱ、 Collagen Ⅹ、軟骨内骨化に必須である MMP-13、骨芽細胞の分化に関連する因子として Runx2、 Osterix、血管新生因子である VEGF、抗血管新生因子である TSP-1、血管拡張能に作用する とされる eNOS の遺伝子発現量を定量的に評価した。また DM で異常発現することにより 骨折治癒を阻害すると言われている、TNF-α、RANKL、M-CSF、ADAMTS 4 についても遺 伝子発現量を評価した。骨強度評価 (骨折後 4 週) では 3 点曲げ試験により最大荷重、剛性、 破断エネルギーを算出した。

【結果】
 骨折後 4 週の時点で、炭酸ガス群の骨癒合率は 80%で、Control 群の 20%に比して有意に高かった。骨折後早期 (1,2 週) の Safranin-O/Fast Green 染色では、Control 群と比較し炭酸ガス群で有意に広い範囲に軟骨形成を認め、骨折治癒進行過程を評価する Allen スコアは骨折後 1,2,3,4 週において炭酸ガス群で有意に高値であった。Isolectin B4 を用いた蛍光免疫組織学的染色では、骨折後 1,2,3,4 週において炭酸ガス群で有意に多くの新生血管を認めた。免疫組織化学染色では、軟骨増殖能を示す Ki-67 陽性細胞率は骨折後 2 週の時点では炭酸ガス群で有意に高かったが、骨折後 3 週の時点では 2 群間に有意差は認めなかった。破骨細胞数は骨折後 2,3 週ともに 2 群間で有意差は認めなかった。遺伝子学的評価では軟骨形成、軟骨内骨化、血管新生、骨芽細胞分化、血管拡張能に関連する遺伝子が、複数の time point で炭酸ガス群において有意に高く発現していた。また抗血管新生因子である TSP-1 の遺伝子発現量は炭酸ガス群において有意に低下していた。一方で、TNF-αおよび RANKL の遺伝子発現量は 2 群間で有意な差は認めず、M-CSF およびADAMTS 4 の遺伝子発現量は軟骨吸収の時期に一致して炭酸ガス群で有意に上昇していた。骨折後4週時の骨強度は、調査した 3 項目全てにおいて炭酸ガス群で有意に高かった。

【考察】
 1 型DM ラット骨折モデルにおいて炭酸ガス経皮吸収が骨癒合率を高め、骨折治癒を促進することが示された。DM の条件下では、持続する高血糖状態が骨芽細胞への分化に必須である Runx2 の発現を阻害することが知られている。また、軟骨細胞における VEGF 発現低下にともなう血管新生の阻害、eNOS 発現低下による血管拡張能の低下など様々な機序により骨折治癒が阻害されることも示されている。本研究では、炭酸ガス経皮吸収により、骨折後初期の軟骨細胞増生や分化の促進、軟骨形成能の改善、軟骨内骨化の促進、骨芽細胞への分化能改善、血管新生の促進、血管拡張能の改善、抗血管新生作用の抑制効果が得られたと考えられた。またこの骨折治癒促進効果は TNF-αや RANKL を介した作用ではないことが遺伝子学的評価および免疫組織学的評価の結果から示唆された。炭酸ガス経皮吸収により局所の酸素化が引き起こされ、局所の pH が低下することが知られている。また、そのようなアシドーシスの状態では VEGF の発現が増加すると報告されている。DM で発現が低下している VEGF が局所の pH 低下を介して増加し、抑制されていた血管新生が促進された結果、骨折治癒が促進されたと考察される。また、炭酸ガス経皮吸収は局所の血流を増加させることも知られており、虚血肢の治療にも用いられている。血流の増加は血管内に shear stress を発生させ eNOS の発現を増加させる。またVEGF は直接 eNOS 発現を増加させることも知られている。DM で発現が低下している eNOS が shear stress や VEGF 増加を介して発現が増加し、血管拡張能が改善した結果、骨折治癒が促進されたと考察される。本研究で、炭酸ガス経皮吸収が VEGF や eNOS を介して骨折治癒を促進する可能性が示唆された。しかし、炭酸ガス経皮吸収で軟骨形成や骨形成が促進した詳細なメカニズムについては不明な点が多く残っており、これらを解明することは今後の研究課題と考える。

【結論】
 1 型 DM という骨折治癒に不利な条件下においても炭酸ガス経皮吸収により骨折治癒過程が促進された。炭酸ガス経皮吸収は、1 型 DM を伴う骨折治療において、非侵襲的で安価なサポートツールになり得ると考える。

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