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大学・研究所にある論文を検索できる 「植込み型心臓デバイスポケット部の皮膚の菲薄化要因」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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植込み型心臓デバイスポケット部の皮膚の菲薄化要因

矢冨, 敦亮 神戸大学

2022.09.25

概要

【背景】
高齢化社会に伴い、洞不全症候群や房室ブロックによるペースメーカを必要とする患者は増加している。また、植込み型除細動器や心臓再同期療法は突然死予防や重症心不全患者の予後改善に効果があり、これらの植え込みデバイスの適応が拡大すると共に植込み件数も増加している。

一方、心臓デバイス植込み患者における深刻な合併症としてデバイス感染が挙げられる。デバイス感染のリスク因子は複数報告されているが、皮膚疾患もポケットの局所感染に関連する要因の一つである。デバイス植込み後にポケット部の皮下組織が薄くなることがある。これらは痛み、不快感などの症状や美容上の問題となりうるだけでなく、皮膚の圧迫壊死を起こしデバイス感染へ発展する可能性もある。しかしながら、デバイス上の皮膚の厚みにどのような因子が関与するかはまだ分かっていない。

【目的】
植込み型心臓デバイス患者において、デバイス植込み部の皮膚の厚みを測定し、その厚みに関連する因子を調べる。

【方法】
当院外来通院あるいは当院入院中の、左または右前胸部にデバイスが留置されている101人の患者を対象とした。体表エコーを用いてデバイスポケット部の皮膚の厚みの測定を行った。デバイス留置周辺部位の17か所の皮膚の厚みをリニア型プローブを用いたエコーで測定し、特に体表からデバイス平面までの距離の平均値を皮膚の厚みと定義した(図1)。またデバイスポケットの外観を3つのグレード(Grade1:デバイスの輪郭がほぼ見えない、Grade2:デバイスの輪郭が一部見える、Grade3:デバイスの輪郭が完全に見える)に分類した(図2A)。

個々の患者について、性別、デバイス植込み時および研究登録時の年齢、体重、body mass index(BMI)、心エコー図検査上の左室駆出率(LVEF)、血液検査結果および併存疾患を調査しデバイス上の皮膚の厚みとの関連を調べた。また、デバイスの種類や本体の重量、体積、厚み、留置されているリードの本数なども関連がないか検討した。またデバイス上の皮膚の厚みが、今回の登録患者の25パーセンタイル以下の患者群を「極めて皮膚が薄い群」と定義し、その特徴を検討した。

【結果】
平均年齢は76±11歳で、女性が26人、平均体重は58±11kg、植込みからの期間の中央値は95ヶ月(53~148)であった。植込み型除細動器を植込まれた患者が半数(50%)含まれていた。

デバイス上の皮膚の厚みの中央値は4.1mm(3.3~5.9)であった。デバイスポケットの外観と皮膚の厚みについては有意な相関が認められた(Grade1:6.6mm[6.1~7.4]、Grade2:4.4mm[3.6~5.5]、Grade3:3.1mm[2.4~3.8],p<0.001)(図2B)。

基礎疾患と皮膚の厚みを検討したところ、悪性疾患、慢性心不全患者は有意にデバイス上の皮膚が薄かった(悪性疾患:あり3.9mm[2.6~4.7]vsなし4.3mm[3.6~6.2],p=0.016、慢性心不全:あり3.8mm[3.0~5.1]vsなし5.2mm[4.1~6.6],p=0.030)。また、デバイス上の皮膚の厚みと有意な相関を認めたのはBMI、LVEF、血中ヘモグロビン値(Hb)、血中クレアチニン値(Cre)、estimated glomerular filtration rate(eGFR)であった(BMI:p=0.001,r=0.38、LVEF:p=0.001,r=0.34、Hb:p=0.004,r=0.36、Cre:p=0.025,r=-0.27、eGFR:p=0.043,r=0.242)。一方、年齢、性別、デバイス植込みからの期間、デバイスの種類(ペースメーカまたはICD、CRTまたは非CRT)、リード本数、デバイス交換回数についてはデバイス上の皮膚の厚みとの有意な相関は認めなかった。

「極めて皮膚の薄い群」(3.3mm以下、n=26)に関与する因子について、多変量ロジスティック回帰分析を行ったところ、慢性心不全(オッズ比[OR]6.74[95%信頼区間(CI);1.41-32.14],p=0.017)、初回のデバイス植込みから研究登録時までのeGFRの変化量(OR0.97[95%CI;0.94-1.00],p=0.037)、およびBMIの変化量(OR0.80[95%CI;0.65-0.98],p=0.031)が独立した予測因子であった。

【考察】
本研究で得られた主な知見は以下の3つである。1)エコーによりデバイスポケット部の皮膚の厚みを評価することができ、外観とも良い相関を示した。2)デバイス上の皮膚の厚みはBMIだけでなく、Hb、Cre、LVEFと有意な相関があった。3)本体の体積・重量・厚みあるいはリード本数はデバイス上の皮膚の厚みと相関はなかった。

皮下脂肪組織の局所的な厚みとBMIとは正の相関があり、また表皮から真皮層の厚みに関してもBMIと相関があることが報告されている。これらはBMIがデバイス上の皮膚の厚みと正の相関を示したことと矛盾しない。また、貧血は鉄欠乏と関連している。鉄欠乏になると上皮細胞の代謝サイクルが早まり、皮膚の乾燥や肌荒れを引き起こし皮膚の厚みを減少させる。また慢性心不全や腎不全はフレイルに関連する慢性炎症や酸化ストレスを誘発する。慢性炎症は皮膚の老化を促進させる効果がある。皮膚の老化に伴い、皮膚の血流低下と真皮の萎縮、間質・弾性繊維の密度低下が生じ、皮膚を乾燥させる。また、加齢に伴い白色脂肪組織が減少し脂肪組織の菲薄化が認められる。つまり心不全や腎不全は、低栄養やサルコペニアを包括するフレイルサイクルを経て皮膚の老化と、表皮・真皮層・皮下脂肪層すべてにおいて菲薄化を引き起こすと考えられる。

デバイスによる異物反応として、急性の炎症反応とそれに引き続く肉芽組織、さらに瘢痕組織と繊維性被膜に徐々に置換わり、炎症が収まるが、繊維性被膜がデバイスポケットの血流低下につながることが報告されている。またデバイス植込み後5年以上経過しても慢性炎症が認められる例も報告されている。慢性炎症や繊維化が皮膚の老化と菲薄化につながる可能性がある。

【結語】
低BMI、貧血、慢性心不全、慢性腎臓病、悪性疾患がデバイス上の皮膚の厚みと関連していることが分かった。一方、デバイスの大きさは皮膚の厚みに影響を与えなかった。これらの結果はデバイス植込み手技、デバイス選択や植え込み後の患者フォローアップに影響を与え、デバイス部の皮膚の圧迫壊死の予防につながる重要な知見と考えられた。

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