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大学・研究所にある論文を検索できる 「末梢血中間型単球・TLR4と左心房電気的リモデリングの関連性に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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末梢血中間型単球・TLR4と左心房電気的リモデリングの関連性に関する研究

Suehiro, Hideya 神戸大学

2020.09.25

概要

はじめに
心房細動は日常診療で最も頻繁に遭遇する不整脈であり、高齢化社会の到来とともにその有病率は年々高まり、2050 年には全人口の 1.1%に増加すると予測されている。心房細動は動悸や心機能の低下によって QOL を低下させるとともに、心原性脳梗塞や心不全発症のリスクを著しく高めるため、治療の必要性は極めて高い。

近年、心房細動の病態における免疫の役割が注目されている。血中の IL-6、IL-8、TNF-α や MCP-1 など炎症性サイトカイン濃度が心房細動の発症や病期、さらには予後とも関連することが報告された。炎症性サイトカインは心筋のアポトーシスを惹起し心筋の線維化を引き起こすことが報告されている。これらの炎症性サイトカインは主に単球やマクロファージによって産生される。心臓術後患者において、周術期、単球の活動性が術後の心房細動発症と相関するという報告がある。さらに、心臓手術を受けた患者の左心耳検体において、心房細動患者では洞調律患者と比較して、活性化した単球が心内膜へ付着し、さらに心内膜下へマクロファージが遊走していることが確認された。これらの結果から、末梢血中の単球が心内膜下に遊走し局所の炎症性免疫反応を起こす事によって、左心房心筋のアポトーシス、線維化(左心房のリモデリング)が起こり、心房細動基質が形成される可能性が考えられる。

単球は表面抗原 CD14 と CD16 の発現により CD14++CD16-単球と CD14+CD16++単球に大別される。近年、両者の中間型サブセットである CD14++CD16+単球(中間型単球)と様々な疾患との関連性が報告された。この中間型単球は、単球の中で最も少ないサブセットであるが、TLR4のアゴニストであるリポ多糖類の刺激で高容量の TNF-α を産生し炎症を誘発する。TNF-α の催不整脈作用が動物実験で報告されている。

しかし、ヒトにおける中間型単球と心房細動との関連についての報告は多くない。以前、我々は「心房細動患者では末梢血中の中間型単球が健常人と比較して多く見られる。病期の進行した持続性心房細動患者では、発作性心房細動患者と比較し、末梢血中の中間型単球の割合が高い。さらに、末梢血中の中間型単球割合の増加は、左心房の機能的リモデリングと相関している。」と報告した。

他・自施設からの報告に基づき、我々は「中間型単球を介した炎症性免疫反応が心房の電気的・構造的リモデリングを惹起し、心房細動基質形成の一因となる」との仮説を立てた。

一方、心房細動基質となる心房の電気的リモデリングは、異常な心房局所電位として検出される。局所の低電位は異常電位の簡便かつ代表的な指標とされる。心房低電位領域は心筋間の電気的な結合が疎で、刺激伝導が不連続で不均一な異方向性の組織を反映し、心房の線維化によって引き起こされると考えられる。

心房細動患者において、末梢血中の中間型単球と中間型単球上の TLR4 発現強度と左心房低電位領域との関連性を調べることで、上記仮設を検証するため本研究を立案した。

方法
2017 年 5 月から 2019 年 3 月の間、当科で心房細動に対するカテーテルアブレーション治療を予定する 119 人の患者を選定した。器質的心疾患、肝疾患、腎機能低下(血清クレアチニン>1.5mg/dl)、膠原病、悪性新生物、未知の炎症(CRP>0.3mg/dl)を有する患者は除外した。また抗不整脈薬は心房電位の性質に影響を与えるため、術前、半減期 5 倍超の期間休薬した。半減期が非常に長いアミオダロンとベプリジル内服患者は除外した。最終的に計 78 人が本研究の対象者となった。

カテーテルアブレーション治療前 1 週間以内に末梢血を採取し、CD14 および CD16 抗体を用いて、単球の 3 つの亜分画をフローサイトメトリーにより解析した。さらに、TLR4 抗体を用いて、それぞれの単球亜分画の蛍光強度の中央値を評価した。

カテーテルアブレーション治療の際、洞調律下で 3 次元マッピングシステムを用いて voltage map を作成し左房低電位領域の有無とその領域を定量評価した。左心房の低電位領域は肺静脈前庭部、左心耳開口部、僧帽弁輪部を除いた左心房体部で評価した。これまでの報告に沿って低電位領域が左心房体部の表面積の 5%以上を占める場合に低電位領域ありと判定した。

結果
図 1 に本研究の代表的な 2 症例の voltage map(上段)とフローサイトメトリーの散布図(下段)を提示する。図 1(a)の voltage map で低電位領域を認めない患者では中間型単球の割合が低く、(b)の低電位領域を認める患者では中間型単球の割合が高かった。

本研究の対象者 78 人のうち 39 人(50%)の患者で左心房の低電位領域を認めた。低電位領域の有無で臨床的背景を比較すると、低電位領域を認める患者は低電位領域を認めない患者と比べて、年齢が高く女性の割合が多かった。さらに低電位領域を認める患者は血清 BNP値や CRP 値が高く、eGFR や左心耳血流速は低かった。フローサイトメトリーによる解析では、低電位領域を認める患者は、低電位領域を認めない患者と比較して顕著に末梢血中の中間型単球の割合が増加していた(図 2)。低電位領域の存在を予測する因子に関する多変量解析では、他の要因をコントロールしてもなお、末梢血中の中間型単球の割合は低電位領域の存在を予測する因子であった(表 1)。

中間型単球上の TLR4 の発現強度は他 2 つの単球亜分画と比較して顕著に強かった。さらに中間型単球上の TLR4 の発現強度は低電位領域を認める患者で強く、TLR4 の発現強度と低電位領域の面積に正の相関を認めた。この相関関係は持続性心房細動患者と比較して発作性心房細動患者でより強かった。

考察
・本研究の主要な知見
左心房の低電位領域を認める心房細動患者では、低電位領域を認めない患者に比して末梢血中の中間型単球の割合が高かった。中間型単球の割合が高いことは、低電位領域の存在を予測する因子であった。さらに、中間型単球に発現し炎症を促進させる TLR4 の発現強度と低電位領域の程度に正の相関を認めた。

・中間型単球と左心房低電位
以前、我々は末梢血中の中間型単球が健常人と比較して心房細動患者で増加しており、さらに心房細動患者の中でも、発作性から持続性へと心房細動の病態が進行するにつれ中間型単球の割合が増加している事を報告した。本研究では、発作性心房細動と比較して持続性心房細動患者の方がより広い低電位領域を有しており、さらに低電位領域を認める患者の中間型単球の割合が顕著に高かった。これらの事実は中間型単球、左心房の低電位領域と心房細動の発症・維持との密接な関連を示唆する。

これまでの多くの研究で心房細動患者の心房筋生検で炎症細胞浸潤を伴う線維化が見られ、さらに血中の炎症性サイトカインが高値であることから、心房線維化の伸展に炎症反応が関与していると考えられる。心房線維化は心房細動の発症・持続に必要な回路となりうる。

・TLR4 発現と左心房低電位
中間型単球の役割に関してはまだ不明な点が多い。本研究では中間型単球に発現し炎症を促進させる TLR4 発現強度に注目し、TLR4 発現強度と低電位領域の程度に正の相関を認める事を示した。TLR4 のアゴニストであるリポ多糖類によって刺激された中間型単球は TNF-αを多く産生し、この TNF-αが組織の炎症、そしてアポトーシスを誘導するとされる。これらの反応が左心房の線維化を誘導し、結果として心房細動を発症・持続させる基質となると考えられる。

・臨床応用
心房細動のカテーテルアブレーション治療として、肺静脈隔離は確立された治療法である。しかし、その侵襲的な性質から適切な患者選択が重要となる。術前に末梢血の中間型単球やTLR4 から左心房の線維化の程度を推測できれば、肺静脈隔離術の有効性と、肺静脈隔離術以外の追加アブレーション治療の必要性を考慮する指標となりうる。この事は有効で安全なアブレーション治療を行うために、また適切な治療方針を決定するために重要となる。さらには中間型単球や TLR4を制御する事で心房線維化を制御できるのであれば、中間型単球や TLR4 をターゲットとした治療が心房細動の発症や持続を抑制できる可能性がある。

・本研究の制約
本研究は観察研究であり中間型単球や TLR4 と左心房低電位領域の因果関係は不明である。今後、心房線維化に対するこれらの炎症が果たす役割と誘導機構を明らかにする必要がある。

結論
左心房低電位を認める心房細動患者では、中間型単球の割合が有意に高く、中間型単球の割合が高いことは、低電位領域の存在を予測する因子であった。さらに、中間型単球上の TLR4 発現強度と低電位領域の程度に正の相関を認めた。本研究から得られた知見は、中間型単球を介する炎症性免疫反応と心房電気的リモデリングの関連を示唆する所見と考える。

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