ファブリー病に対する造血幹細胞を標的とした遺伝子治療の新規前処置法の開発 (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
ファブリー病に対し造血幹細胞(HSC)を標的とした遺伝子治療の臨床試験が開始されているが,まだ実用化には至っていない.その要因の1つとして貧血や感染症などの合併症を引き起こす移植前の強力な前処置が挙げられる.ファブリー病の様な非悪性の疾患では,強力な前処置は避ける必要があり,代替となるより安全性の高い前処置の開発が必要である.我々は,新規前処置法として,イミュノトキシンに注目している.イミュノトキシンとは抗体と毒素を人工的に結合させた複合蛋白であり,抗体が標的とする細胞に対しその毒性を発揮することで効果を示すものである.ファブリー病モデルマウスに対しHSC を標的とした遺伝子治療を行う際,HSC に発現している蛋白に対する抗体を使用したイミュノトキシンによる前処置を行い,レシピエントのHSC を排除する方法の安全性及び有効性について明らかにすることが本研究の目的である.
【方法】
ファブリー病モデルマウスに,CD45に対するイミュノトキシン3 mg/kg を経静脈的に投与し,1週間後にドナーマウスよりHSC を採取して,ファブリー病の欠損酵素もしくはEGFP 遺伝子を搭載したレンチウイルスベクターを感染させ,ファブリー病マウスもしくはワイルドタイプマウスに移植した.その後,1 ヵ月おきに血中での酵素活性を評価すると伴に,EGFP の発現細胞を指標とした末梢血での遺伝子導入効率を検討した.
【結果】
まず生着率を検討する目的で抗CD45イミュノトキシン投与後に遺伝子導入を行っていない,骨髄移植を行った.6 ヵ月後77.2±14.3%の生着率を認めた.また,同前処置後にEGFP を導入したHSC を移植し,遺伝子導入効率も検討したが6か月後には33.0±7.3%まで上昇を認めた.ファブリー病モデルマウスへ欠損遺伝子導入HSC 移植した場合,移植群で未治療群と比較し血清中で約260倍の酵素活性の上昇を認めた.
【結論】
抗CD45-イミュノトキシンによるHSC 標的遺伝子治療における前処置は有効であると考えられた.今後は,骨髄を含めた各臓器での酵素活性,及び蓄積物質の評価をしていく.