母親の乳がんへの罹患が思春期の子どものPosttraumatic Growthに及ぼす影響と母親とのがんに関するコミュニケーションとの関連
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名 大城 怜
本研究は乳がんに罹患した母親をもつ思春期の子どもが経験する PTG の実態とその
関連要因を明らかにするため、乳がんに罹患した女性(乳がんサバイバー)と 12-18 歳
の子どもを対象に質問紙調査による横断的観察研究を実施したものであり、下記の結果を
得ている。
1.
PTGI-C-R 得点を解釈するための参考値として、震災を経験した子どもの得点と 1 標
本 t 検定を実施したところ、乳がんサバイバーの子どもの PTG は低いことを明らか
にした。PTG とストレス症状は逆 U 字の曲線的な関係にあり、本研究の子どものス
トレス症状を測定した PCL-5 合計得点は高くなかったことから、母親の乳がんへの罹
患というトラウマティックな出来事の強度が低かったことが影響を与えた可能性が示
された。また、母親の乳がんへの罹患を知らされた時点から現在まで、子どもは入院
や治療に伴う生活の変化を経験し、現在進行形の出来事として捉えながら、漠然とし
た不安を抱いている可能性が示された。
2.
PTG の 5 つの領域のうち、「他者との関係」「人生に対する感謝」の領域が高い得点で
あることを明らかにした。がんサバイバーの家族員を対象とした先行研究と同様であ
ることから、家族員ががんに罹患したことによって経験する思春期の子どもの PTG
は、この 2 つの領域が特徴的であることが示された。
3.
子どもの PTG の関連要因について重回帰分析を実施したところ、 母親の乳がんへの
罹患に対するストレス症状の強さ、家族からのサポート、母親の乳がんへの罹患を告
知されてからの期間、母親である乳がんサバイバーの年齢、乳がんサバイバーが経験
する PTG の高さが関連したことを明らかにした。
4.
子どもの PTG と母親とのがんに関するコミュニケーションとの関連について階層的
重回帰分析を実施したところ、PTG と母親とのがんに関するコミュニケーションは関
連することを明らかにした。中でも、情報の伝達・共有に関するコミュニケーション
が行われているほど、PTG は高まったことを明らかにし、母親が乳がんに関する正し
い情報を子どもに伝えることができるように支援する重要性を示した。一方で、否定
的感情の表出に関するコミュニケーションが行われているほど、子どもの PTG は低
い結果となった。子どもが抱える感情の表出の仕方を確認しながら、状況や性格に合
わせた支援が必要であることを示した。
以上、本論文は乳がんサバイバーの思春期の子どもにおいて、質問紙調査による横断的
観察研究から、PTG の実態と関連要因を明らかにした。これまで調査されてこなかった、
がんサバイバーの子どもの PTG とコミュニケーションの関連を本研究は初めて明らかに
した。子どもの PTG を検討する上で、母親とのがんに関するコミュニケーションが重要
であることを示し、乳がんサバイバーやその子どもに対する看護実践に重要な貢献をなす
と考えられる。
よって本論文は博士(保健学)の学位請求論文として合格と認められる。