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独自低分子化合物の解析に基づくシロイヌナズナ胚軸の新規成長制御機構の研究

村尾, 瑞基 名古屋大学

2023.12.14

概要

学位報告4

別紙4
報告番号





















論 文 題 目 独自低分子化合物の解析に基づく
シロイヌナズナ胚軸の新規成長制御機構の研究


名 村尾 瑞基

論 文 内 容 の 要 旨
固着生物である植物は、周囲の環境変化に応じて自身の成長を柔軟に調節する能力を発
達させてきた。伸長成長制御は生育に適さない環境から脱するための重要な生存メカニズ
ムである。胚軸は観察が容易であり環境に応じて顕著な成長変化を示す組織であることか
ら、伸長成長制御機構研究のモデル組織として用いられてきた。現在まで、主に遺伝学的
手法に基づく研究により、胚軸の成長制御にはエチレン、オーキシン、サイトカイニンな
どの植物ホルモンが関与することが明らかになってきた。しかしながら、生物には冗長的
に働く遺伝子が多く存在し、そのような因子の関わる現象については遺伝学的手法では発
見することが困難であるという課題があった。そこで本研究では、化合物を用いるケミカ
ルバイオロジーの手法を取り入れることで、過去に行われた研究とは異なる切り口で植物
の成長制御機構に迫ることをめざした。
本研究では、シロイヌナズナ胚軸の伸長と肥大を同時に促進するというユニークな作用
を示す新規低分子化合物 HYGIC(HG)に着目した。植物の伸長成長と肥大成長は一般に
トレードオフの関係にあり、HG 処理時のような太く長い成長を示す化合物や変異体の報
告が過去になかったことから、この化合物の作用機序解明を通じて、これまで発見されて
こなかった植物の成長制御に関わる現象や分子メカニズムの解明につながると期待した。
まず、HG の作用を明らかにするため、HG 処理時の胚軸サイズの計測、微分干渉観察
や核染色試薬を用いた解析を行った。その結果、HG 処理によって胚軸の長さは約 3 倍、
太さは約 1.5 倍になること、HG 処理時に胚軸の皮層細胞のサイズが顕著に増大すること
が明らかとなった。また HG によって肥大した皮層細胞はその核のサイズが大きくなって
いた。これらの結果から、HG は主に核の肥大を伴う皮層細胞の肥大によって胚軸の伸長、
肥大を促進することが明らかとなった。
次に、HG の作用と既知の植物内シグナル経路との関係を探索した。エチレンシグナル
抑制変異体 ein2 および ein3eil1 に対する HG とエチレン前駆体 ACC の作用の比較、エチ

学位関係

レンシグナル経路の阻害剤である AgNO3 および AVG と HG の同時処理実験を行った。
その結果、HG の作用発揮には内生のエチレンがエチレン受容体を活性化させること
が重要であることが示唆された。HG がエチレンの生合成に関わるかを調べるため、
ガスクロマトグラフィを用いて HG 処理時のエチレン合成量を解析した結果、ACC
添加時にはエチレン合成量が大きく増加する一方で、HG 処理時には無処理時と有意
な差は検出されなかったことから、HG はエチレンの生合成量には影響しないことが
明らかとなった。また、エチレン応答レポーターライン EBS:GUS を用いて HG 処理
時のエチレン応答パターンを解析すると、ACC 処理では応答しない胚軸の表皮細胞と
皮層細胞において、HG 処理によって EBS:GUS が活性化していた。この結果から、
植物には普段はエチレンに応答しない細胞にエチレン感受性を与えるメカニズムが存
在することが示唆され、HG はこの未解明のメカニズムを作動させた可能性が考えら
れた。
HG 処理後の早期に誘導される応答を探索するため、RNA-seq 解析および GO 解析
を行った結果、HG の作用には低酸素応答が関わる可能性が示唆された。自然界で起
こりうる代表的な低酸素状況として降雨時などの水没がある。そこで、野生型を冠水
処理し胚軸を測定すると、冠水処理によって胚軸の伸長と肥大が促進されることが明
らかとなった。また、冠水処理時には、胚軸の細胞の肥大、核の肥大、EBS:GUS の
異所的活性化など、HG 処理時と同様の現象が引き起こされたことから、HG と冠水
処理は共通のメカニズムを介して胚軸の伸長と肥大を促進することが示唆された。
HG の化学構造の中で活性に重要な部位を明らかにするため、HG 類縁体群を用い
た構造活性相関解析を行った。その結果、用いたすべての類縁体が HG よりも低い胚
軸伸長活性を示したことから、HG の作用にはその構造が全体的に重要であることが
示唆された。また、部分的に活性を維持していた類縁体の構造から、HG の構造の中
でもヘキサフタルイミド部分には活性を比較的残したまま構造を改変する際に利用で
きる一定の自由度があることが示唆された。構造活性相関解析の知見を踏まえて、HG
の標的同定へ向けた取り組みも進め、HG 類縁体の1つを固相化したアフィニティ精
製により、HG の標的候補タンパク質を 3 つ同定した。
本研究によって、新規低分子化合物 HG が胚軸の表皮と皮層において異所的なエチ
レン応答を誘導し、核の肥大を伴う皮層細胞の肥大によって胚軸の伸長と肥大を同
時に促進することが明らかとなった。また、HG の作用機序解明を通じ、植物が普
段はエチレンに応答しない細胞にエチレン応答能を付与するメカニズムを提唱し、
このメカニズムが冠水に代表される低酸素状況において活性化する可能性を見出
した。本研究は、遺伝学的アプローチでは見過ごされてきた新しい生命現象の発見
と理解を目指すにあたって、過去に報告のない作用を持つ化合物の同定とその作用
メカニズムの解析が有用な戦略となることを示すものである。

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