重症COVID-19患者の臨床経過: 血栓性合併症を中心に(後ろ向き観察研究) (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
集中治療を要する重症COVID-19患者の臨床経過について報告する.特に重症COVID-19で発生するとされる血栓性合併症の頻度や治療内容, および患者背景や転帰を評価することで, 重症患者の第2波での診療のための基礎情報を得る.
【方法】
2020年1月1日から2020年6月30日までに東京慈恵会医科大学附属病院(当院)の集中治療室(以下ICU)に入室した,rt-PCR 検査によるCOVID-19確定全患者を対象として,後ろ向き観察研究を行った.患者背景, 及び,治療経過, 血栓性合併症を中心とした臨床転帰を記述した.
【結果】
期間中10名がICU 入室し,ICU 入室時年齢の中央値は72歳(四分位範囲[62.5,73.0]),全員男性であった.発症からICU入室までの中央値は10.5日(9.0, 14.0)であり,入室理由は全て呼吸不全であった.深部静脈血栓症(以下DVT)予防は,入室から24時間以内に全員に開始された(ヘパリン皮下注射8人,他適応によるヘパリン持続静注1人,間欠的空気圧迫1人).全患者が人工呼吸管理を受け(人工呼吸期間:16.5日[7.0, 51.0]),腹臥位療法の併用7/10人(70%),持続血液透析が5/10人(50%, 内1人が慢性維持透析)で施行された.抗ウイルス薬としてロピナビル/ リトナビルが2/10人( 20%),ヒドロキシクロロキンが2/10人(20%),ファビピラビルが9/10人(90%)に投与された.ICU 退室時転帰は,生存8/10人(80%),死亡2/10人(20%),ICU 在室日数の中央値は22.5日(9.0,53.0)であった.2020年7月18日時点で,ICU 退室後一般病棟で1人が死亡し,2人が入院継続中である.血栓性合併症は延べ5件,3/10人(30%)に発症した.内訳としては,塞栓性脳梗塞が1件,DVT が2件,肺血栓塞栓症が2件であった.この内直接の死因と考えられたのは,広範型肺血栓塞栓症の1/10人(10%)であった.
【結論】
当院のICU に入室した重症COVID-19患者全員に人工呼吸管理が行われ,70% が腹臥位療法を必要とし,長期のICU 滞在となった.血栓性合併症の頻度は30% と高く,致死的な血栓性合併症が10% に発生した.通常の重症患者に対する深部静脈血栓症予防を行いながらも,より血栓性合併症に焦点を当てた観察が重要と考えられた.