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大学・研究所にある論文を検索できる 「The identification of pregnant women with severe fear of childbirth using the Japanese version of the Wijma Delivery Expectancy/Experience Questionnaire : A cross sectional study」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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The identification of pregnant women with severe fear of childbirth using the Japanese version of the Wijma Delivery Expectancy/Experience Questionnaire : A cross sectional study

臼井, 由利子 東京大学 DOI:10.15083/0002005138

2022.06.22

概要

序文
出産恐怖感(Fear of childbirth: FOC)は妊娠・出産に関連した不安や恐怖の総称であり、妊娠中の重度のFOCは医学的適応のない希望による帝王切開、麻酔・陣痛促進剤使用などと関連しており、母子の身体的リスクの増加が懸念される。妊娠中にFOCを抱えていた女性は出産体験を否定的に捉えやすく、FOCが産後の心的外傷後ストレス障害の症状や産後うつ病のリスク要因であるといった報告もある。したがって、医療者はFOCを抱える女性を特定し、妊娠期から適切なケアを行っていく必要がある。

FOCに関する研究は増えている一方、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 5 thedition(DSM-5)や疾病及び関連保健問題の国際統計分類第11回改訂版にFOCを特定する診断名は含まれておらず、合意の得られた明確な定義はない。研究により測定方法・診断基準の違いがあることから、出現割合には3.7~43%とばらつきがある。FOCを測定する標準的な基準は存在していないものの、最も一般的な測定方法として、スウェーデンで開発された自己記入式質問紙the Wijma Delivery Expectancy/Experience Questionnaire(W-DEQ)がある。W-DEQには、出産前の恐怖を測定する産前用(versionA)と、出産時の恐怖の経験を測定する産後用(versionB)がある。産前用・産後用ともに33項目で構成され、6件法(得点範囲:0~165点)で得点が高いほど重度のFOCと評価する。先行研究では妊婦に対してW-DEQ version Aを使用し、ある得点以上を重度のFOCと定義している研究が多くみられる。しかし、使用されているカットオフ値は研究によって異なり、明確なスクリーニングの基準がない。最新の研究では、DSM-5の限局性恐怖症を至適基準とし区分点を設定している研究もあるが、W-DEQで測定されるFOCには妊娠・出産に関連した異なる様々な心理的困難が含まれていると考えられ、ある特定の疾患の診断を至適基準にするのは出産恐怖の一側面しか捉えられていない可能性がある。

さらに、FOCが高くてもそれが生理的な変動の範囲のものなのか、正常とは異なる質的に逸した群を形成しているのかは明らかでない。たとえW-DEQの得点が同じであっても、正常群に分類される妊婦と、質的に異なった群に分類された妊婦とでは提供されるべきケアが異なると考えられる。一つの集団の中に質的に異なるグループが存在するか明らかにする統計的アプローチとして、最も一般的な方法の一つにクラスター分析がある。近年このアプローチは周産期メンタルヘルスの問題にも適用されており、それぞれの研究で質的に異なるグループの存在が明らかとなっている。重度のFOCを呈している妊婦が他の妊婦とは別のグループを形成することが明らかとなれば、グループに対するケアを検討していくことが可能となる。

先行研究によるとFOCの心理社会的なリスク要因として、既往精神疾患、不安・抑うつ症状などが報告され、助産師主導の継続ケアがFOCを軽減させるという報告もある。経産婦では、前回の否定的な出産体験、緊急帝王切開なども報告されている。重度のFOC群を特定するための関連要因が明らかとなれば、臨床現場で特別な介入方法を提供すべき妊婦の特定に役立つかもしれない。

本研究の目的は、初産婦・経産婦それぞれを対象に日本語版Wijma Delivery Expectancy/Experience Questionnaire(JW-DEQ)を使用し、クラスター分析によって重度のFOCを抱く女性の質的に異なるグループが存在するか明らかにすることを目的とした。さらに質的に異なるグループが明らかとなった場合、そのグループを特定するためのJW-DEQのカットオフ値を設定すること、またその関連要因を明らかにすることを目的とした。

方法
2019年5月~10月に全国にある院内助産を実施している産科医療施設25施設で、妊娠35週以降に妊婦健診を受けるために対象施設の外来を訪れた妊婦を対象に、Webを利用したアンケート調査による横断観察研究を実施した。先行研究で関連要因の一つと報告されている助産師主導の継続ケアは、本邦では院内助産に該当すると考え、変数の一つとして含むために院内助産を実施している施設を対象とした。

アンケート調査では、基本的属性、産科的属性、助産ケアに対する受け止め、JW-DEQ、機能障害を測定するSheehan Disability Scale(SDISS)、健康関連Quality of Life(HRQOL)を測定するSF-8、胎児ボンディングを測定するMother-Infant Bonding Questionnaire(MIBQ)、抑うつ症状を測定するEdinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS)、強迫症状を測定するObsessive-Compulsive Inventory-Revised(OCI-R)、首尾一貫感覚(SOC)を測定するthe University of Tokyo Health Sociology version of the Sense of Coherence Scale(SOC-3-UTHS)への回答を依頼した。経産婦には前回の出産に対する満足度、分娩方法などについても尋ねた。

JW-DEQの4下位尺度を用い、初産婦・経産婦それぞれでクラスター分析を実施した結果を至適基準とし、ROC曲線を作成し、カットオフ値を算出した。さらに、FOCの関連要因を明らかにするために、クラスター分析で明らかとなった重度のFOCのグループを従属変数とし、多変量ロジスティック回帰分析を実施した。

結果
565名を分析対象者とした(初産婦320名、経産婦245名)。クラスター分析の結果、初産婦では4クラスター、経産婦では2クラスターの存在が明らかとなった。初産婦・経産婦ともに明らかとなったクラスターのうちの一つのグループで、他のグループよりもJWDEQ・SDISSの得点が有意に高く、SF8の得点が有意に低かった。JW-DEQのカットオフ値は初産婦で77/78点、経産婦で62/63点であった。このカットオフ値で多変量ロジスティック回帰分析を実施した結果、初産婦では、不良な胎児へのボンディング(調整済みオッズ比(AOR)=1.24,95%信頼区間(95%CI):1.09–1.42,p=.001)と抑うつ症状(AOR=1.16,95%CI:1.05–1.29,p.004)がFOCと正の関連を示し、SOCが負の関連を示した(AOR=.83,95%CI:.74–.94,p=.003)。経産婦では、初産婦同様不良な胎児へのボンディング(AOR=1.24,95%CI:1.06–1.45,p=.008)と抑うつ症状(AOR=1.14,95%CI:1.04–1.25,p=.008)がFOCと正の関連を示し、さらに前回の出産への満足感(AOR=.33,95%CI:.21–.52,p<.001)、助産ケアに対するより好意的な受け止め(AOR=.95,95%CI:.92–.98,p<.001)とSOC(AOR=.77,95%CI:70–.89,p<.001)がFOCと負の関連を示した。院内助産の利用の有無はFOCと関連がみられなかった。

考察
本研究は、JW-DEQで測定したFOCを抱える女性の中に日常生活機能を損ない、健康関連QOLの低下がみられる他の女性とは質的に異なるグループの存在を明らかにした。さらにそのグループを特定するためのJW-DEQのカットオフ値を初産婦・経産婦それぞれに設定し、関連要因を明らかにした。

初産婦・経産婦ともに、FOCが高い女性の中には他の女性とは質的に異なる重度のFOC群が存在し、通常ケアとは異なる高度な介入が必要であることが示唆された。胎児に対する不良なボンディング、抑うつ症状、低いSOCは重度のFOCと関連しており、それぞれの要因に対する介入は、FOCの軽減につながる可能性がある。さらに経産婦では、前回の出産への満足感と助産ケアに対するより好意的な受け止めがFOCの低さと関連しており、出産体験をよりよくするための質の高い助産ケアの重要性が示唆された。

本研究の限界は、院内助産実施施設で調査しているため、病院が対象施設として多く含まれている。身体的・精神的問題を抱える妊婦は、診療所よりも病院で出産する可能性が高いため、研究参加者にはFOCに介入が必要と考えられる妊婦が多く含まれていた可能性が考えられる。さらにその対象者の中で考えると、回答率の低さから、重度のFOCを抱く女性や他の心理的問題を有している女性が回答していない可能性が考えられる。また本調査は妊娠期に一回のみの横断研究であるため、クラスター分析によって明らかとなった各クラスターが、分娩時や産後にどのような心理的経過を辿るのか検討できていない。今後、各クラスターに対する介入方法を検討する上でも縦断的な調査が必要である。

結論
本研究は、妊娠後期の妊婦を対象にJW-DEQを使用し、クラスター分析によって正常のグループとは質的に異なる重度のFOCを呈する女性のグループの存在を明らかにした。初産婦・経産婦それぞれで、重度のFOCを呈する女性を特定するためのJW-DEQのカットオフ値と関連要因が明らかになった。今後の研究では、出産歴ごとで最適なカットオフ値を使用し、重度のFOCの女性を特定し、それぞれに対する介入方法を検討していく必要がある。

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