3位修飾型擬シアロ糖鎖の効率的合成法開発とシアリダーゼ阻害活性
概要
九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
3位修飾型擬シアロ糖鎖の効率的合成法開発とシアリ
ダーゼ阻害活性
上薗, 慶也
https://hdl.handle.net/2324/6787546
出版情報:Kyushu University, 2022, 博士(創薬科学), 課程博士
バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
(様式5)
氏
名
:上薗
慶也
論文題名
:3 位修飾型擬シアロ糖鎖の効率的合成法開発とシアリダーゼ阻害活性
区
:甲
分
論
文
内
容
の
要
旨
本博士論文では、直接的なシアル酸 3 位修飾法を開発し、3 位修飾型 DANA 誘導体と 3 位修飾型
シアロ糖鎖アナログの合成を達成した。また、創薬標的酵素 X のメカニズムを考慮し、X の阻害剤
候補である新規化合物 A を論理的に設計し、これを合成した。さらに、その優れた阻害効果を確認
した。
以下に各章の要約を示す。
第一章では、擬糖鎖の定義、シアル酸およびシアリダーゼの生物学的機能、従来のシアリダーゼ
阻害剤、本研究の背景や合成における問題点、既知のシアル酸 3 位修飾法をまとめた。
第二章では、3 位修飾型シアロ糖鎖合成を志向した効率的なシアル酸 3 位修飾法の開発を検討し
た(図 1)。種々検討した結果、酢酸マンガン(III)を用いた酸化的ラジカルカップリングによる直接
3 位修飾法を見出した。また、反応溶液の変色が再現性安定のポイントであり、異なる保護基を有
するシアル酸誘導体や、様々なマロン酸エステル誘導体が適用可能であった。直接的な酢酸等価体
の導入も検討したが、反応が進行しない、または複雑化したため困難であった。シアル酸 3 位の炭
素鎖導入例は少ないため、これら 3 位修飾体の生物活性はほとんど評価されていない。本修飾法が
3 位修飾型シアル酸誘導体の研究分野を発展させ、新たな知見の獲得に貢献することが期待される。
P1O
OP1
CO2Me +
O
P2N
P1O OP1
3
CO2R
CO2R
Mn(OAc)3
·2H
2O
KOAc, AcOH
95 °C
OP1
CO2Me
CO2R
O
OAc
P2N
3
CO2R
OP
PO
P1 O
図 1. 酸化的ラジカルカップリングによるシアル酸 3 位修飾法
第三章では、3-エキソメチレン型シアル酸誘導体の合成ルート開拓にむけたドナー合成、および
グリコシル化、脱炭酸的オレフィン形成反応を検討した(図 2)。本合成法では、酸化的ラジカルカ
ップリングによって導入した 3 位置換基が隣接基関与または立体障害となり、グリコシル化の立体
選択性制御を実現した。さらにこの部位は、光反応による脱炭酸的なエキソメチレン基構築におけ
る足掛かりとして機能した。したがって本質的にシアル酸保護基の変換を必要としない、効率的な
短段階合成を実現することに成功した。本合成ルートによって、3-エキソメチレン型シアル酸単糖
誘導体を 8 工程、および 3-エキソメチレン型シアル酸 2 糖誘導体を 10 工程で合成することに成功
した。
n
Bu
α-selective
glycosylation
O
O
O
OAc
O
O
CO2Me
CO2TCE
Donor
OAc
3
Decarboxylative
Reaction
CO2Me
CO2Me
OR
CO2Me
R
HO
O
OAc
OR
CO2TCE
O
OAc
OR
O
CO2Me
OR
CO2NPhth
OAc
R=Cy; 8 steps in total
R=Gal; 10 steps in total
図 2. 3-エキソメチレン型シアル酸誘導体の新規合成ルート
第四章では、ある種の感染症の治療標的として考えられている酵素 X に対する阻害剤創製を志向
し、本研究を展開した。酵素 X の特徴に着目し、新規化合物 A を提案した。種々検討の結果、化合
物 A を合成することに成功した。さらに、化合物 A が酵素 X に対して阻害活性を示すことを見出
した。本結果は、これまでに報告されている阻害剤と比較しても強力な阻害活性を示しており、化
合物 A が、本感染症の治療薬候補となり得る結果を得た。なお本章は、非公開としている。
第五章では、インフルエンザグループ 1 シアリダーゼに特有の開放的な活性部位(150-cavity)に
着目し、3 位修飾型 DANA 誘導体の合成、および阻害活性評価を検討した(図 3)。本研究で開発
した酸化的ラジカルカップリングを活用し、新規誘導体として、3-CH2COONa-DANA を提案し、合
成を検討した。ジカルボン酸体から 3-CH2COONa-DANA の合成を試みたが、ESI-MS 測定から
3-CH2COOH-DANA が生成したことを確認した。3-CH2COONa-DANA の合成には強塩基を用いる必
要があり、脱塩操作が煩雑になる可能性があった。したがって、3-CH2COOH-DANA を用いて阻害
活性を評価したが、ほとんど阻害活性を示さなかった。ドッキング計算より、導入した 3 位カルボ
キシレートが酵素への親和性を低下させていることが示唆された。今後、本化合物を基盤とした構
造展開(3 位カルボン酸のエステル・アミドへの変換、または脱炭酸的反応による置換基導入など)
によって様々な知見を得ることが期待される。
HO
OH
O
AcHN
HO OH
CO2H
CO2H
HO
OH
CO2Na
O
AcHN
CO2H
HO OH
3-CH2COOH-DANA
HO
OH
CO2Na
O
AcHN
CO2Na
HO OH
3-CH2COONa-DANA
not obtained
図 3. 3-CH2COONa-DANA および 3-CH2COOH-DANA