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Role of arginine methylation in the intercellular transmission of FUS

渡邊, 成晃 東京大学 DOI:10.15083/0002007131

2023.03.24

概要

審 査 の 結 果 の 要 旨
氏 名

渡邊

成晃

病因タンパク質の細胞内凝集体を病理学的特徴とする様々な神経変性疾患において、病因タンパク質が神経
細胞間を移行し、病態の進展に寄与する伝播現象が注目されている。筋萎縮性側索硬化症 (amyotrophic lateral
sclerosis; ALS)は上位・下位運動ニューロンが進行性に変性脱落する神経変性疾患である。FUS (fused in
sarcoma)は常染色体優性遺伝性の家族性 ALS 病因遺伝子として同定され、孤発例を含む ALS や、精神症状や
認知症を呈する神経変性疾患である前頭側頭葉変性症 (frontotemporal lobar degeneration; FTLD)において、FUS
陽性神経細胞質封入体が同定されている。これらの知見から、FUS が何らかの機序で異常性を獲得して細胞質
封入体を形成し、神経変性の原因となる可能性が示唆されている。近年、FTLD 患者大脳皮質神経細胞に、ア
ルギニン残基が非メチル化された FUS (unmethylated arginine-FUS; UMA-FUS)の蓄積が同定された。そこで申
請者は、アルギニン残基の非メチル化が FUS の封入体形成と伝播に関与する可能性を想定し、FUS 伝播現象

可視化マウスモデルと培養細胞を用いた FUS 伝播測定系を構築し、検証を行った。
1. アデノ随伴ウイルスベクターを用いたマウス大脳皮質における FUS の神経細胞間伝播の解析

FUS の神経細胞間伝播を可視化するため、アデノ随伴ウイルスベクターを利用し、神経細胞特異的に駆動
するヒト synapsin I プロモーター下で、核移行シグナルを付加した蛍光タンパク質 dTomato と FLAG 標識した
ヒト FUS を自己開裂配列 P2A で連結させた融合タンパク質を発現するコンストラクトを作出した (AAV9FUS)。AAV9-FUS 感染細胞 (ドナーニューロン)は dTomato と FUS を共発現するのに対し、FUS が神経細胞
間を伝播すると、FUS 陽性だが dTomato 陰性の細胞 (レシピエントニューロン)が出現すると想定される。
出生 1 日齢 C57BL/6J 野生型マウスの側頭静脈より AAV9-FUS を導入し、1 ヶ月後に脳組織を免疫組織化学
的に解析したところ、大脳皮質に dTomato と FUS を共発現するドナーニューロンが観察された。さらにドナ
ーニューロンに隣接して、細胞質に FUS を発現するが dTomato 陰性のレシピエントニューロンが観察され、
この所見は FUS が神経細胞間を伝播した可能性を示唆するものと考えられた。AAV9-FUS 感染マウス脳に
UMA-FUS が存在するかについて、抗 UMA-FUS 特異抗体を用いて免疫組織化学的に検討すると、ドナーニュ
ーロンの核と細胞質、レシピエントニューロンの細胞質が抗 UMA-FUS 抗体に陽性を呈したが、AAV9-FUS 非
感染神経細胞に陽性構造物は認められなかった。これらの結果から、UMA-FUS が FUS の神経細胞間伝播に関
与する分子種である可能性を考えた。
2. FUS 伝播センサー細胞を用いた FUS のアルギニンメチル化と細胞間伝播に関する検討

次に、アルギニン残基の非メチル化が FUS の細胞間伝播を促すかを検討するため、bi-molecular
complementation assay を利用し、FUS 同士の会合に伴う split-luciferase の再構成を指標に FUS 伝播を定量化す
る FUS 伝播センサー細胞を作出した。NanoLuc のアミノ末端断片 (LgBiT-FUS)もしくはカルボキシ末端断片
(SmBiT-FUS)と融合させた FUS をそれぞれ HEK293 細胞に恒常発現させた FUS 伝播センサー細胞を共培養す
ると、時間依存的に細胞内での発光が増加し、FUS が FUS 伝播センサー細胞間を伝播した可能性が示唆され
た。アルギニン残基の非メチル化が FUS の細胞間伝播に与える役割を明らかにするため、FUS 伝播センサー
細胞にメチル化酵素阻害剤 adenosine-2’,3’-dialdehyde (AdOx)を投与すると、AdOx の濃度依存的に UMA-FUS

量が増加し、FUS の細胞間伝播が亢進した。さらに、アルギニンメチル基転移酵素 PRMT1 を FUS 伝播セン
サー細胞に一過性に発現すると、AdOx 投与による UMA-FUS 量の増加と FUS の細胞間伝播亢進は抑制され
た。これらの結果からアルギニン残基の非メチル化は FUS の細胞間伝播を亢進させる可能性が示唆された。
3.FUS の細胞間伝播に関わるアルギニン残基の探索

FUS の細胞間伝播に関わるアルギニン残基を同定するため、アルギニン (Arg)をアラニン (Ala)に置換した
変異体 FUS を発現する FUS 伝播センサー細胞を作製し、AdOx 投与による細胞間伝播の亢進が生じない変異
体を探索した。その結果、Arg495、Arg498、Arg503 の 3 残基を Ala に置換した変異体 FUS RA(495-503)は、野
生型 FUS に比して有意に細胞間伝播の程度が低下し、さらに AdOx 投与による細胞間伝播の亢進も認められ
なかった。一方、HEK293 細胞に野生型、或いは RA(495-503)変異型の LgBiT-FUS と SmBiT-FUS を共発現さ
せた場合の自己重合は同程度であった。これらの結果から、Arg495、Arg498、Arg503 は FUS の細胞間伝播に
関わる可能性が示唆された。
4.Proximity ligation assay を用いた FUS のオリゴマー化とアルギニン非メチル化に関する検討
FUS のアルギニン非メチル化が FUS のオリゴマー化に与える影響を明らかにするため、proximity ligation
assay (PLA)を用いて FUS オリゴマーを可視化することで検討を行った。PLA 法では 2 分子が 40 nm 以内に近
接すると蛍光を発する。そこで、FUS のアミノ末端とカルボキシ末端を認識する異なる動物種由来のモノクロ
ーナル抗体を用いた PLA 法により HEK293 細胞を染色したところ、核内に蛍光顆粒が観察され、FUS 遺伝子
のノックダウンによりその数は顕著に減少したことから、FUS はアミノ末端とカルボキシ末端が近接したオ
リゴマーを形成している可能性が示唆された。さらに、HEK293 細胞に AdOx を投与したところ、蛍光顆粒数
は有意に増加したことから、FUS のアルギニン非メチル化はオリゴマー化を促進する可能性が示唆された。
本研究において申請者は、AAV9-FUS 実験系を樹立し、マウス脳において FUS が神経細胞間を伝播するこ
と、UMA-FUS がドナー及びレシピエントニューロンに存在することを明らかにした。また、FUS 伝播センサ
ー細胞を用い、アルギニン非メチル化は、FUS の細胞間伝播を亢進させること、さらに PLA 法を用いて、ア
ルギニン非メチル化は、FUS のオリゴマー化を促進することを明らかにした。最近 FUS のカルボキシ末端の
アルギニン残基がアミノ末端のチロシン残基とカチオン-π相互作用することにより、液―液相分離を生じる
ことが報告された。本研究において、FUS のカルボキシ末端の Arg495、Arg498、Arg503 が細胞間伝播に関与
することが示されたことから、非メチル化状態のカルボキシ末端アルギニンがカチオン-π相互作用によって
オリゴマー化することで、FUS は細胞間を伝播する可能性が示唆された。
よって、本研究は ALS や FTLD の病因タンパク質である FUS の神経細胞間伝播がアルギニンメチル化とい
う翻訳後修飾によって制御されうることを示した点において分子神経病理学と創薬に新知見を加えるもので
あり、博士(薬科学)の学位請求論文として合格と認められる。

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