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大学・研究所にある論文を検索できる 「踵部褥瘡の創治癒に対する末梢動脈疾患の影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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踵部褥瘡の創治癒に対する末梢動脈疾患の影響

西尾, 祐美 神戸大学

2022.03.25

概要

踵部は褥瘡が発生しやすい部位であり、踵部褥瘡に末梢動脈疾患(peripheral arterial disease, PAD)を合併している症例がある。PAD と踵部褥瘡との関連が以前から指摘されているが単一施設からの報告数は少ない。非切断生存率(Amputation- free survival ,AFS)は生存率と下肢の非切断率を合わせた複合的な評価方法で、下肢の血行再建術の有効性の指標として一般的に用いられている。しかし創が治癒していなくても患者が生存していれば AFS は高くなる可能性があり、創治癒率と同じではない。創治癒が治療の唯一のゴールではなく、また創治癒する前に ADL を低下させ、予後を悪化させることは避けなければならない。しかしながら我々形成外科医は創が治るまでの期間を予測し総合的な治療を計画しなければならない。当院での創治癒に対する虚血の影響を調査した。末梢動脈疾患を合併している PAD 群と、合併していない non-PAD 群に分類し、創治癒率・創治癒期間,創治癒に影響を及ぼす因子に関して調査した。また PAD 群で血行再建方法による創治癒率の違いに関しても検討した。

2003 年 1 月から 2018 年 3 月までに新須磨病院で治療した踵部潰瘍患者 253 例を対象とし、後ろ向きに調査した。253 例中 186 例がPAD を合併していた(73.5%)。創治癒例はPAD 群が 41 例(22.0%),non-PAD 群が 35 例(52.2%)で、PAD 群の創治癒率は低かった(p<0.0001)。non-PAD 群は潰瘍の深さが創治癒率に影響し、潰瘍が深いほど創治癒率は低下した。一方 PAD 群では潰瘍の深い症例が多く、創治癒率への潰瘍の深さの影響は少なかった。PAD 群の中で創治癒率に影響を及ぼす因子を調査するために年齢や合併症(糖尿病・透析)・創の大きさと血行再建の有無を比較した。創治癒に影響を及ぼしたのは血行再建による血流量の増加であった。また我々の施設では透析症例が半数を占めているが、創治癒に対する透析の影響は少なかった(p=0.485)。また血行再建が施行できたのは PAD186 例中 80 例(43.0%)と少なかった。なぜなら認知症で安静保持が困難であったり、関節拘縮で下肢伸展制限を認めたり、全身状態が悪く血行再建ができない症例や血行再建を望まない症例も含まれていた。またカテーテルが通過できる血管がない場合やバイパスで末梢につなぐ血管がない場合も血行再建の適応外であった。これらが PAD 合併の高齢の踵部褥瘡患者における治療の難しさの要因に挙げられる。

血行再建方法に関しては Endovascular therapy(EVT)が 60 例でバイパスは 20 例で創治癒率は各々26.7%と 65.0%で、バイパスの方が創治癒率は高かった(p=0.003)。近年、足部全体ではなく踵部潰瘍のみの AFS は EVT よりバイパスの方が高いと報告されているが、当院も矛盾しない結果であった。EVT を行い創治癒した 16 例中 4 例が血管閉塞や狭窄を来し、創が治るまでに平均 1.44 回(1-4 回)EVT を要した。一方バイパス術は 13 例中グラフト閉塞を生じたのは 1 例のみで、閉塞部位に追加の EVT を施行した。有意差は認めなかったが EVT 例の方がバイパス例よりも血管閉塞率が高く創が治るまでに繰り返しの血行再建を要するものが多い傾向にあった。当院の過去の調査で血行再建前後の皮膚灌流圧を測定し、EVT と比較しバイパスは術後豊富な血流が得られることを報告した。また EVT はたとえ血行再建が成功しても創を治すために必要な十分な血流を得られない場合もある。EVT はバイパスより侵襲が少なく、全身麻酔がかけられないような状態の患者でも治療が可能である。近年 EVT が広く普及し、デバイスの進歩や技術の向上によりさらに EVT を選択しやすくなってい る。しかし飯田氏らは膝下病変で EVT は血行再建後 3 か月以内に血管閉塞や狭窄を 来すと報告している。そのため創の観点から言えば、3 か月以内に創治癒が期待される浅い症例や感染していない症例などが EVT を考慮する判断材料となる。一方深い潰瘍の場合は、選択基準を満たせば侵襲的であるが豊富な血流を長期にわたって提供するバイパス術を考慮するべきである。

アンギオソームは主要な血管の解剖学的な血液循環領域を表している。足部は 3 つの主要な血管(前脛骨動脈・後脛骨動脈・腓骨動脈)が走行している。そしてその動脈間に数多くのarterial-arterial connections が走行している。アンギオソームコンセプトに基づき創に直接栄養する血管に対して血行再建を行う方が、間接的な血行再建よりも救肢率が高いと言われている。踵部は後脛骨動脈と腓骨動脈から主に栄養される。そのため我々はその2つに対しての血行再建を考慮する。しかしながらその両方が閉塞している場合、間接的に arterial-arterial connections を通して血流を送ることができる前脛骨動脈や足背動脈に対して血行再建のアプローチを行った。膝下の血管病変で、創治癒した 7 例中、間接的な前脛骨動脈の EVT を施行し治癒したのは 1 例のみであったがバイパスの方は創治癒した 7 例中 4 例が足背動脈バイパスで治癒し た。Berceli らは、足背動脈バイパスは後足部に実質的に灌流し、前足部の病変と同じくらい踵部潰瘍の治癒率は優れていると報告している。我々の研究でも踵部に直接栄養する後脛骨動脈に遠位血管をつなぐ事ができなくても、足背動脈につなぐ事が来たら創治癒が期待された。我々の単一施設からの報告のため、施設間での血行再建の技術や治療方針の違いによる偏りはない。血管の状態や全身状態を評価し各々のケースでメリットとデメリットを考慮し血行再建方法を選択する必要がある

創治癒期間に関しては PAD 群も non-PAD 群も潰瘍が深くなるにつれ創治癒期間が長くなる傾向にあった。また 2 群間の比較では PAD 群が 128(中央値 88-196)日で non-PAD 群 79(中央値 35.5-187)日で、PAD 群の方が治癒までに時間がかかった
(p=0.0268)。深い潰瘍の治癒期間に関しては PAD で血行再建を行った PAD(r+)群は 133(中央値 80-212)日でnon-PAD 群は 91(中央値 61-220)日であった。 PAD(r+)群は non-PAD 群よりも血行再建の追加の治療が必要であり、両者を単純に比較することはできない。しかしこのデータが踵部潰瘍患者の治療の指標になると考える。PAD(r+)群は創治癒までに約 4.5 ヶ月かかり、特に stageⅣの深い潰瘍症例では、創治癒するまでに半年近くかかった。またバイパス例が 128(中央値 93- 174.5)日でEVT 例は 155.5(中央値 86-237.5)日で有意差はなかったが EVT の方が血行再建後の血流上昇が乏しくバイパスより治癒期間が長くなる傾向にあった(p=0.459)。

踵部潰瘍の創治癒率は全体で 30%であり、non-PAD 群でさえ創治癒率は半数程度であった。そしてPAD 群ではさらに創治癒率が低下した。踵部潰瘍は高齢者に多く、治療途中での転院や全身状態の悪化などで治療が完遂しないことが多い。また PAD 群では糖尿病と透析を合併している症例が多く、治療中に足潰瘍以外の合併症で亡くなる症例が多かった。踵部は足部の他の部位(つま先・前足部・中足部)よりも褥瘡が生じやすい場所であり、また踵という部位が創治癒遅延因子の1つと報告されている。

寝たきりで別の疾患で入院していた踵部褥瘡と考えられていた症例で PAD を合併していると診断されるケースもある。当院では踵部潰瘍患者の約 4 分の3がPAD を合併していた。PAD 群では創治癒するために豊富な血流を要し、血行再建の成功が重要となる。そのため早期に PAD のスクリーニングを行い、また治療途中での血管閉塞や狭窄を早期に発見するため毎日ドップラー聴診器で血管音を聴取することが重要である。そして創部の色調が蒼白に変化したり、治癒が停滞したりしている時も血管閉塞を疑う判断材料となる。

当施設ではEVT 症例が多く、創治癒率が低かった原因として EVT はバイパスよりも血管の閉塞や狭窄率が高く、また EVT で血管開存率が 100%に到達せずEVT が成功したとしても創治癒に必要な血流を獲得できなかった事が示唆される。透析症例でも、もしバイパス術の選択基準を満たすなら、現時点では EVT より豊富な血流を与え創治癒期間が短く創治癒率の高いバイパス術を考慮するべきである。

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