酸素感受性に寄与する候補遺伝子群がラット動脈管と肺小動脈から同定された (第137回成医会総会一般演題)
概要
【背景】
酸素感受性は血管を収縮・拡張させる重要な因子である.出生後,肺呼吸の開始に伴い血中酸素濃度は上昇する.そして,動脈管は収縮し,肺小動脈は拡張するという正反対の機能的変化を起こす.動脈管の収縮機序は,電位依存性及びAT P 依存性カリウムチャネルの不活性化による細胞膜の脱分極と,電位依存性カルシウムチャネルを介した細胞内カルシウムの上昇によることが解明されている.しかしながら,動脈管の酸素感知機構はいまだ不明である.高い酸素感受性を持つ動脈管と肺小動脈において,出生後に正反対の発現変化をきたす因子は,酸素感知機構に寄与している可能性がある.
【目的】
ラット動脈管及び肺小動脈の酸素感受性に寄与する因子を同定し,その分子機序を明らかにする.
【方法と結果】
胎生21日及び生後2日のWistar ラットから動脈管及び肺小動脈を摘出した.その摘出血管の網羅的遺伝子解析を,DNA マイクロアレイ(AgilentSurePrint G3 Rat GE 8x60K v2)により施行した.胎生21日と比べ生後2日に2倍以上発現が変化した遺伝子は,動脈管に2,536個,肺小動脈に301個あった.そのうち,動脈管で発現が上昇し,肺小動脈で発現が低下した遺伝子は19個あり,逆に動脈管で発現が低下し,肺小動脈で発現が上昇した遺伝子は21個あった.この動脈管と肺小動脈で正反対の発現変化を認めた40個の遺伝子から,これまでの文献を参考に血管収縮に関与する15個の遺伝子を選別した.さらに,動脈管及び肺小動脈でのmRNA 発現を,リアルタイムPCR により確認した.その結果,dgkg,scara5,abcc8,そしてnr4a1 の発現は,胎生21日と比べ生後2日の動脈管で上昇し,肺小動脈で低下した.また,kcne3 の発現は,胎生21日と比べ生後2日の動脈管で低下し,肺小動脈で上昇した.
【結論】
ラット動脈管及び肺小動脈で共に酸素感受性に寄与する5個の候補遺伝子を同定した.