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A型色素性乾皮症の多発神経障害は長さ依存性で進行性である

Tsuji, Yukio 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
 色素性乾皮症(Xeroderma pigmentosum:XP)は、日光過敏性を特徴とする稀な常染色体劣性遺伝性疾患であり、7つの相補性群(XP-AからXP-G)と1つのバリアント型(XP-V)からなる。XPAからXPG遺伝子によってコードされるタンパクは、DNA修復機構であるヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair:NER)に関与し、紫外線によるDNA損傷を修復しており、主に初期症状として日光過敏症を認め、その後様々な皮膚症状が出現し、遮光をしなければ高率に皮膚癌を発症する。
 XP-A, XP-B, XP-D, XP-F, XP-Gは進行性の神経変性旁呈し、付随する合併症により30歳ほどで死亡する。XP患者において、皮膚癌と神経変性はともに生命予後を規定するが、皮膚癌が遮光で発症リスクを軽減できる一方で、神経変性を抑制する有効な手段はない。
 日本では、XP-AがXP患者全体の過半数を占め、非常に重症の皮膚症状と神経症状を呈する。神経症状に関しては中枢神経、末梢神経ともに障害され、中枢神経に関しては、大脳、基底核、小脳の萎縮を幼少期から認める。一方、末梢神経に関しては、感覚神経優位の軸索型末梢神経障害を呈すると報告されているが、障害される末梢神経の分布や加齢に伴う経過などは分かっていない。本研究では、我々はXP-Aにおける末梢神経障害の進行様式を調査し、XP-Aにおける神経変性の全体像を明らかにすることを目的とした。

【対象と方法】
 当院皮膚科において、遗伝学的にXP-Aと確定診断された日本人のXP-A患者17例に対し、末梢神経障害を評価するために神経伝導検査を施行した。神経伝導検査は診断時に全XP-A患者に対して行い、9人の患者に対しては経時的に検査を繰り返し行った。
 検査は、運動神経のうち右側の正中神経、尺骨神経、後脛骨神経に対して行い、感覚神経のうち右側の正中神経、尺骨神経、腓腹神経に対して行った。評価するパラメーターとして、運動神経、感覚神経ともに、活動電位振幅(運動神経:compound muscle action potential(CMAP)、感覚神経:sensory nerve action potentials(SNAP))、伝導速度(運動神経:motor nerve conduction velocity(MNCV)、感覚神経:sensory nerve conduction velocity(SNCV))を用いた。
 神経伝導検査と同時期に、脳神経内科専門医による神経症状(ADL、運動機能、認知機能)の重症度評価、皮膚科専門医による皮膚症状の重症度評価を行った。
 過去に我々が当院で行った、3テスラの頭部MRIを用いたXP-A患者の脳のボリューメトリーの研究(Ueda et al.J Neurol Sci.2017)から、XP-A患者の灰白質容積(Gray matter volume:GMV)のデータを使用し、末梢神経障害との相関を解析した。

【結果】
 運動神経では、CMAPは後脛骨神経で著明に低値であり、幼児期より進行性に低下し、20歳までには導出不能となった。MNCVは正中神経、尺骨神経、後脛骨神経で著明に低下していた。CMAP、MNCVの低下は青年期以降が大きく、上肢(正中神経、尺骨神経)に比して下肢(後脛骨神経)で著明であった。MNCVに比してCMAPの低下が顕著であった。
 感覚神経では、SNAPは正中神経、尺骨神経、腓腹神経で幼児期から進行性に低下した。下肢(腓腹神経)のSNAPは15歳までには導出不能となった。SNCVは全神経で著明に低値であった。SNCVに比して、SNAPの低下が顕著であった。
 重症度評価では、皮膚症状の悪化は認めなかった。一方、神経症状は経時的に悪化し、神経症状の重症度と後脛骨神経のCMAPは反相関(r=-0.81)を呈した。
 GMVは経時的に低下し、後脛骨神経のCMAPとは中等度の相関(r=0.47)を認めるのみであった。

【考察】
 本研究では、CMAP、SNAPともに、MNCV、SNCVと比して低下が顕著であり、軸索障害のパターンを呈した。また、異常値は上肢に比して下肢で顕著であり、長さ依存性の障害を示唆した。加えて、これらの障害は幼少期から認めた。以上の結果から、本研究の結果は、幼少期より始まる感覚・運動神経の長さ依存性の末梢神経障害を示唆するものであった。
 XP-Aの中枢神経病理では、神経細胞変性及びそれに伴う細胞脱落を全脳、脊髄に認めるとされる。成人例を対象にした少数の剖検例の報告では、脊髄では感覚神経細胞である後根神経節細胞と、運動神経である前角細胞の消失を認める。これらに伴い大径有髄神経は減少するが、前角細胞の減少の方が軽度であり、加えて運動神経では脱神経が起きた筋線維に対して残存する神経細胞が再支配する神経再支配も起こるため、大径有髄神経の減少は感覚神経より運動神経の方が軽度とされる。CMAP、SNAPは末梢神経における大径有髄神経の線維密度を反映するため、我々の研究において上肢のCMAPの低下がSNAPに比して軽度であったことは上記の報告を支持するものであった。一方、XP-Aの小児例では、末梢神経生検及び電気生理学的検査を用いて、大径有髄神経の減少、慢性的な脱神経と神経再支配が報告されているものの、部分的な神経に対する検討であり、中枢神経病理の報告との連続性は明らかでなく、XP-Aにおける末梢神経障害が軸索変性か、神経細胞体そのものの変性による軸索障害か明らかでなかった。今回、我々の縦断的研究において、XP-Aにおける末梢神経障害は、幼少期から長さ依存性の分布を呈して進行性に悪化しており、神経細胞変性による末梢神経障害とは異なる可能性があることを明らかにした。

 XPにおける神経変性の機序は不明である。紫外線は解剖学的に中枢神経に到達できない可能性が高く、実際にXP-A患者は遮光で神経障害を抑制できない。そのため、XP-Aにおける神経変性の原因として紫外線による直接作用ではなく、内因性の酸化ストレスによる細胞変性やミトコンドリア機能障害などが原因として挙げられている。我々の研究結果は、長さ依存性の多発神経障害を示唆するものであった。この所見は、中毒性・代謝性ニューロパチーに認めるものであり、神経細胞の代謝障害により末梢神経の遠位部から変性が始まり、長い神経から障害される(dying back process)。これは、神経細胞変性に伴う末梢神経障害の所見とは異なるものであり、ミトコンドリア機能障害などの代謝性障害がXP-Aにおける神経変性の原因である可能性が示唆された。

 また、XP-A患児は生後、健常児とほぼ同等の運動機熊を獲得し、歩行障害は12歳頃から認められるが、我々の研究において、電気生理学的な変化は幼少期より始まり、臨床症状と相関して悪化した。これは、XP-Aにおける神経変性が幼少期から始まる進行性の病態であり、ADL低下の要因となっていることを示している。神経伝導検査はXP患者における神経変性を幼少期から評価できるため、神経変性のバイオマーカーとしてだけでなく、治療効果判定にも有用である可能性がある。

【結論】
 XP-Aの末梢神経障害の電気生理学的特徴は長さ依存性の末梢神経障害であった。末梢神経障害は幼少期より出現し、縦断的検討から感覚神経優位に進行することを明らかにした。

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