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新型コロナウイルス感染症による日本の人種的・民族的マイノリティへの影響に関する臨床疫学的解析

野本, 英俊 東北大学

2023.03.24

概要

博⼠論⽂

新型コロナウイルス感染症による⽇本の⼈種的・⺠族的
マイノリティへの影響に関する臨床疫学的解析

東北⼤学⼤学院医学系研究科医科学専攻
新興・再興感染症学講座

野本

英俊

⽬次

1. 要約 …………………………………………………………………………… 1
2. 研究背景 ……………………………………………………………………… 4
3. 研究⽬的 ……………………………………………………………………… 8
4. 研究⽅法 ……………………………………………………………………… 9
5. 研究結果 ……………………………………………………………………… 13
6. 考察 …………………………………………………………………………… 17
7. 結論 …………………………………………………………………………… 27
8. ⽂献 …………………………………………………………………………… 28
9. 図の説明 ……………………………………………………………………… 35
10. 図 ……………………………………………………………………………… 36
11. 表 ……………………………………………………………………………… 41
12. 略語一覧 ……………………………………………………………………… 53

1. 要約

新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019: COVID-19)の世界的
な流⾏は 2020 年から⼤きな世界的健康危機を引き起こしている。その流⾏下で、
⼈種的・⺠族的マイノリティが⼤きな社会的・経済的影響を受け、健康格差の観
点からも不利な状況に晒されていることが主に欧⽶諸国から報告されている。
近年の⽇本では労働者や留学⽣として、⼈種的・⺠族的マイノリティが⻑期に在
留する例が増加しており、その多くが東アジア・東南アジア諸国やブラジルの出
⾝者である。⽇本においても彼らを取り巻く環境は COVID-19 流⾏下で⼤きく
変化した可能性がある。しかし⽇本における⼈種的・⺠族的マイノリティの在留
者に対する、COVID-19 流⾏の影響に関する報告は乏しい。
本研究では、こうした背景を基に全国規模の COVID-19 ⼊院症例の多施設レ
ジストリ(COVID-19 REGISTRY JAPAN: COVIREGI-JP)を⽤いて、⽇本の⼈
種的・⺠族的マイノリティに対する COVID-19 流⾏の影響を臨床疫学的に解析
した。特に⽇本の COVID-19 に対する医療体制の中で、⼈種的・⺠族的マイノ
リティの臨床的経過、曝露機会の種類、感染の流⾏にどのような影響が⾒られる
かに着⽬し解析を⾏った。
2021 年 3 ⽉ 31 ⽇以前に⼊院した COVIREGI-JP に登録された⼊院症例で、
2021 年 7 ⽉ 2 ⽇時点で主要なデータ項⽬が全て登録された症例について後⽅視

1

的に解析した。また時間経過に伴う症例分布を明らかにするため流⾏曲線を作
成した。解析には 28,093 ⼈の⽇本⼈と 1,335 ⼈の⼈種的・⺠族的マイノリティ
が含まれた。主な⼈種的・⺠族的マイノリティの背景は、東アジア⼈(n=521)、
南アジア⼈(n=260)、ラテンアメリカ⼈(n=270)だった。⼈種的・⺠族的マ
イノリティは⽇本⼈より有意に若く(年齢中央値は⽇本⼈が 58 歳 [四分囲範囲:
39, 74] 、⼈種的・⺠族的マイノリティが 36 歳 [四分囲範囲: 25, 48]、P <0.001)、
発症から⼊院までの期間は両群間で差がなかった。また⼈種的・⺠族的マイノリ
ティは COVID-19 症例発⽣国へ渡航し、他の⼈と⼀緒に⾷事をする傾向や、⼈
混みに滞在する傾向、飲⾷業やナイトクラブ等の夜間サービス業で働く傾向が
⾒られた。COVID-19 の重症化に関連する因⼦を調整した集団間の⽐較では、
臨床的予後に差は認められなかった。⼈種的・⺠族的マイノリティ症例の流⾏曲
線は第 1 波で⼩さなピークを⽰し、以降は明確な波を⽰さないものの、個別の
サブグループでは孤発のクラスターを推測させる⼀時的な症例数増加を確認で
きた。
⽇本で⼈種的・⺠族的マイノリティの COVID-19 ⼊院症例は⽇本⼈との⽐較
において重症化や転帰といった臨床的予後の差は確認できないが、⽣活習慣や
職業の観点で COVID-19 への異なる曝露機会を有することが⽰唆された。⼀⽅
で⽇本の医療制度は彼らに⽇本⼈と同等の⼊院治療への機会を担保していた可

2

能性がある。⼈種的・⺠族的マイノリティの⼈々における⼊院以外の医療や検査
の受診状況の調査や、COVID-19 症例への曝露機会を軽減するための⽅法につ
いては今後の検討が必要である。外来・⼊院問わず迅速な医療・福祉⽀援を提供
できる体制の構築が期待される。

3

2. 研究背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流⾏は 2019 年から現在
にかけて⼤きな世界的健康危機を引き起こしている。2019 年 12 ⽉ 1 ⽇に中国
の武漢で原因不明の肺炎症例が確認され、その後感染が急速に拡⼤した

1)



COVID-19 の原因は新型のコロナウイルスであり、国際ウイルス分類委員会に
よ っ て 、 こ の 新 型 の コ ロ ナ ウ イ ル ス は severe acute respiratory syndrome
coronavirus 2(SARS-CoV-2)と命名された。2020 年 1 ⽉ 30 ⽇には世界保健機
関(World Health Organization: WHO)によって国際的に懸念される公衆衛⽣
上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern: PHEIC)が
宣⾔された 2)。
⽇本における最初の感染者は 2020 年 1 ⽉ 16 ⽇に報告された武漢渡航歴のあ
る男性の症例である 3)。さらに 2020 年 1 ⽉ 25 ⽇には⾹港から⽇本に向かって
いた⼤型クルーズ船、ダイヤモンドプリンセス号を⾹港で下船した乗客が
COVID-19 陽性であることが判明し。同クルーズ船は横浜に停泊後、⽇本政府
の検疫下で管理された 4)。こうした状況下で 2 ⽉ 13 ⽇には COVID-19 による
国内初の死亡例が確認された 5)。その後、⽇本は 2022 年 10 ⽉時点で COVID19 の第 7 波までの⼤規模な流⾏を経験しており、累計感染者数 2100 万⼈以上、
死亡者数 4.5 万⼈以上が報告されている 6)。

4

このように国内の COVID-19 の感染状況が拡⼤している⼀⽅で、他国では⼈
種的・⺠族的マイノリティの COVID-19 感染リスクが⾼く重症化しやすいこと
が報告されている 7)。また COVID-19 の流⾏下で、⼈種的・⺠族的マイノリテ
ィは社会的ステータスや健康格差の観点からもより脆弱であることが報告され
た 8)。例として⽶国ではアフリカンアメリカン、ヒスパニック、アメリカンイン
ディアンなどの⼈種的・⺠族的マイノリティは密集環境や多世代世帯に住み、エ
ッセンシャルワーク等の遠隔で⾏うことが困難な業務に従事する傾向があり、
より⾼い感染リスクに晒されている可能性がある 9)。ヨーロッパの⾼所得国にお
いても COVID-19 流⾏初期の段階での⼈種的・⺠族的マイノリティの⾼い感染
リスクや死亡率といった健康格差が報告された

10)

。⼈種的・⺠族的マイノリテ

ィは糖尿病、⼼⾎管疾患、肥満、慢性呼吸器疾患、肝疾患、慢性腎臓病、ヒト免
疫不全ウイルス感染症などの COVID-19 の重症化に関連する併存疾患の頻度が
⾼いことに加え、低い医療リテラシーや医療保険の未加⼊など、医療アクセスの
障害となる複数の要素も関連し、より不利な健康環境に置かれる可能性がある
11)

。また⼈種間での遺伝的な素因の差が COVID-19 の重症化に関わっている可

能性も⽰唆されている。ネアンデルタール⼈から遺伝している第 3 染⾊体上の
ゲノムセグメントが COVID-19 の重量化リスク因⼦として報告されており、南
アジア⼈で 30%、ヨーロッパ⼈で 8%、混⾎のアメリカ⼈で 4%に保存されてい

5



12)

。またその後のゲノムワイド関連解析によって、抗ウイルス作⽤を発揮し

たり臓器特異的な宿主応答を制御するタンパク質をコードする遺伝⼦の多型が
報告されている。これらの例として SARS-CoV-2 の受容体であるアンギオテン
シン変換酵素と相互作⽤をする SLC6A20、Ⅰ型インターフェロンシグナリング
に関わる IFNAR1、IFNAR2 、RAVER1、⾃然免疫応答に関わる OAS1、OAS2、

OAS3、ウイルスの宿主感受性に関わる IL10RB といった因⼦がある 13)。
近年は⽇本でも労働者や留学⽣として外国⼈の⻑期在留者が増加している。
⼊国管理局によると 2019 年 6 ⽉時点での在留外国⼈数は約 282 万⼈と過去最
多となり、その⼤半が中国、韓国、ベトナム、フィリピンなどの東アジア・東南
アジア諸国の出⾝者とブラジル出⾝者である

14)

。2021 年には COVID-19 によ

る渡航制限の影響もあり在留外国⼈数は 276 万⼈と全体として減少したが、永
住者については増加した

15)

。⼈種的・⺠族的マイノリティを取り巻く環境は

COVID-19 のパンデミックの際に⼤きく変化した可能性があるが、⽇本におけ
る⼈種的・⺠族的マイノリティの在留者に対する、COVID-19 流⾏の影響に関
する報告は乏しい。
筆者の所属する国⽴国際医療研究センターは東京都新宿区に位置している。
新宿区は全国的に最も外国⼈⽐率が⾼い地域であり、2022 年 10 ⽉ 1 ⽇時点で
の外国⼈⼈⼝は 39,514 ⼈であり、全⼈⼝の 11.4%を占める 16)。加えて国⽴国際

6

医療研究センターは国際診療の対応部⾨を有する医療機関であることから、流
⾏初期から在留外国⼈の COVID-19 の診療を数多く担ってきた。
また、国⽴国際医療研究センターでは COVID-19 の⼊院症例の悉皆的な登
録を⽬指して、COVID-19 REGISTRY JAPAN(COVIREGI-JP)という全国規
模の多施設レジストリを構築した

17)

。COVIREGI-JP では参加医療機関から

COVID-19 の⼊院症例について、その基本情報、⼈⼝統計学的情報、疫学的情
報、⼊院及び治療に関する臨床情報、感染症学的情報のデータ収集をおこなって
きた。しかし研究開始時点で⽇本における⼈種的・⺠族的マイノリティの
COVID-19 感染者に関する全国規模の臨床疫学的解析は存在しなかった。

7

3. 研究⽬的

本研究では COVIREGI-JP を使⽤し、⽇本在留の⼈種的・⺠族的マイノリテ
ィに対する COVID-19 流⾏の影響を臨床疫学的に解析することを通じて、診療
に還元できるエビデンスを創出するとともに、現在の COVID-19 を取り巻く医
療体制がこうした⼈々に及ぼす影響を検討した。
COVIREGI-JP に登録された⼊院症例の多施設データを使⽤し、⽇本における
COVID-19 流⾏の第 3 波までのデータを⽤いて、⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイ
ノリティにおける流⾏下での COVID-19 症例の臨床経過を⽐較し、加えて医療
アクセスに関する指標の⼀つとして発症から⼊院までの期間を評価した。また
⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティの COVID-19 症例の感染曝露機会の種類
の⽐較を⾏った。最後に⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティの流⾏曲線を各々
作成し、各集団の第 3 波にあたる時期までの流⾏状況の特徴について⽐較を⾏
った。

8

4. 研究⽅法
研究デザイン

本研究は全国規模の多施設レジストリを⽤いた後⽅視的な症例⽐較研究であ
る。研究には 2020 年 3 ⽉ 2 ⽇に設⽴された COVID-19 の⼊院症例レジストリ
である、COVIREGI-JP のデータを⽤いた(https://covid-registry.ncgm.go.jp/)
17)

。2021 年 7 ⽉ 2 ⽇時点で COVIREGI-JP には⽇本全国から 594 の医療施設が

登録されていた。研究の症例の適格基準はレジストリへの登録基準である、医療
機関への⼊院時または⼊院前に COVID-19 の確定検査が陽性であった症例とし
た。ただし最初の⼊院までの期間の⽐較を⾏うために、他医療機関からの転院例
と特殊な状況下の感染であるクルーズ船の感染例については除外した。

データ収集

症例データは COVIREGI-JP ⽤に作成された症例報告書を⽤いて収集された
データを使⽤した。症例報告書は International Severe Acute Respiratory and
Emerging Infection Consortium Case Report Form を参考に作成された 18)。症例
報告書には⼊院時基本情報、渡航情報、COVID-19 の過去の感染歴、併存疾患、
⼊院時の臨床症状、検査、⼊院前の使⽤薬剤、病原体検査、⼊院中合併症、⼊院
時・⼊院中の⽀持療法、退院時転帰、⼊院中の治療に関する情報が含まれる。症

9

例登録医療機関の詳細、地理的情報や対象症例の保険加⼊状況に関する情報は
含まれていない。データ収集はオンラインでデータベースの構築及び管理がで
きるアプリケーションである、Research Electronic Data Capture(REDCap)を
⽤いて⾏われた 19)。2021 年 3 ⽉ 31 ⽇以前の⼊院症例で、2021 年 7 ⽉ 2 ⽇時点
で主要なデータ項⽬が全て登録された症例について抽出した。症例の背景情報
として基本的な⼈⼝統計情報(年齢、性別、Body mass index [BMI])、併存疾患、
発症前 14 ⽇以内の COVID-19 症例への曝露情報、COVID-19 の感染に関連し
得る職業に関してデータを収集した。また症例の臨床経過を評価するために発
症から⼊院までの期間、⼊院時の症状の有無、⼊院時及び⼊院後の⽀持療法の内
容、退院時転帰、⼊院中の合併症に関する臨床情報を収集した。

⼈種的・⺠族的マイノリティのカテゴリー

症例報告書に登録された症例情報から⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティ
を分類した。⼈種的・⺠族的マイノリティの細分類として東アジア、南アジア、
⻄アジア、ラテンアメリカ、⿊⼈、⽩⼈、アラビア⼈の 7 種類に分類した。症例
報告書には具体的な国籍・国名に関する情報がないため、⼈種的・⺠族的マイノ
リティの細分類については症例報告書における登録上の分類を使⽤した。

10

流⾏曲線

⽇本⼈症例と⼈種的・⺠族的マイノリティ症例の各々で流⾏曲線を作成し症
例の時間的分布の相違を可視化した。また⼈種的・⺠族的マイノリティの各サブ
グループについて流⾏曲線を作成した。ただしアラビア⼈は症例数が 10 未満と
少なく、流⾏曲線を作成しなかった。

統計解析

カテゴリー変数は症例数をパーセンテージと共に⽰し、連続変数は中央値お
よび四分位範囲を⽰した。⽇本⼈症例と⼈種的・⺠族的マイノリティ症例の群間
⽐較について、カテゴリー変数にはカイ⼆乗検定を、連続変数には MannWhitney U 検定を⽤いて評価した。なお発症から⼊院までの⽇数の解析におい
て⼊院時無症状の症例は解析から除外した。統計的有意差は P 値<0.05 で有意
であると規定した。⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティ全体について群間⽐較
を⾏った後に、年齢層別化して解析した。さらにそれぞれの背景因⼦の特性を最
⼩化するために、傾向スコアマッチングを⾏ってから臨床経過に関連する指標
を⽐較解析した。傾向スコアマッチングは⽇本⼈か⼈種的・⺠族的マイノリティ
かの確率として定義し、多変量ロジスティック回帰モデルを⽤いて推定した。モ
デルに含まれる変数はレジストリで収集された情報の中で使⽤が可能な、

11

COVID-19 の重症化に寄与する既知の因⼦とし、性別、年齢、肥満(BMI が 25
kg/m2 以上と定義)、および⼼⾎管疾患、脳⾎管疾患、認知症、慢性呼吸器疾患、
肝疾患、⾼⾎圧、糖尿病、腎機能障害(Cre 3mg/dL 以上)
・維持透析、固形・⾎
液悪性腫瘍、⽩⾎病・リンパ腫、ヒト免疫不全ウイルス感染症を選択した 20)。な
お地理的情報や症例の保険加⼊状況についてはレジストリ上の登録がないため、
モデルには組み⼊れなかった。症例は置換なしですべてのマッチ先を選択する
最適マッチング法を⽤いて、2:1 の固定⽐率でマッチングされた。これら全ての
統計解析は R version 4.0.2(R Core Team, 2020)を⽤いて⾏った 21)。

倫理的配慮

本研究は国⽴国際医療研究センター倫理審査委員会の承認を得て⾏われた
(承認番号:NCGM-G-004108-00)。症例情報の収集に関してはオプトアウト⽅
式を採⽤し、インフォームドコンセントは免除された。COVIREGI-JP の研究全
体の詳細については、専⽤のホームページで情報公開されている 17)。

12

5. 研究結果
⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティの COVID-19 ⼊院症例の背景

合計で 546 の医療機関から 29,428 ⼈の症例が解析に組み込まれた。対象症例
組み⼊れのフローチャートを図 1 に⽰す。症例のうち⽇本⼈が 28,093 ⼈、⼈
種的・⺠族的マイノリティが 1,335 ⼈だった。全症例の背景情報を表 1 に⽰す。
対象となった⼈種的・⺠族的マイノリティのうち、最も多かったのは東アジア
⼈(521 ⼈)、次いで南アジア⼈(260 ⼈)、ラテンアメリカ⼈(270 ⼈)だっ
た。⼈種的・⺠族的マイノリティは⽇本⼈より有意に若かった(年齢中央値は
⽇本⼈が 58 歳 [39, 74] 、⼈種的・⺠族的マイノリティが 36 歳 [25, 48]、P
<0.001)。有症状者は⽇本⼈で 90.6%、⼈種的・⺠族的マイノリティで 84.7%
(P<0.001)であり、⽇本⼈で有症状者割合が⾼かった。発症から⼊院までの
期間は両群間で差がなかった。

COVID-19 症例への曝露に関連する因⼦の⽐較

⽇本⼈および⼈種的・⺠族的マイノリティの約半数が発症前の 14 ⽇以内に
COVID-19 症例と接触した可能性があった(⽇本⼈の 56.1%,⼈種的・⺠族的
マイノリティの 56.8%)。COVID-19 症例との接触歴の詳細については,⼈種
的・⺠族的マイノリティのいずれも家族との接触が最も多かった(⽇本⼈の

13

21.9%、⼈種的・⺠族的マイノリティの 24.5%)。また⼈種的・⺠族的マイノリ
ティでは⽇本⼈よりも、⽇本以外の COVID-19 症例発⽣国への渡航(⽇本⼈
1.1%、⼈種的・⺠族的マイノリティ 7.7%、P<0.001)、他者との⾷事(⽇本⼈
14.6%、⼈種的・⺠族的マイノリティ 17.8%、P<0.001)、⼈混みへの滞在(⽇
本⼈ 14.1%、⼈種的・⺠族的マイノリティ 17.9%、P<0.001)が多くみられた。
特にラテンアメリカ⼈は家族の COVID-19 症例との接触が際⽴って多かった
(117 ⼈、43.3%)。⼀⽅で医療機関や介護療養施設での感染者への直接曝露は
⽇本⼈で多く(⽇本⼈ 14.5%、⼈種的・⺠族的マイノリティ 1.8%、P<0.001)、
感染者が⼊院している医療施設への滞在も多かった(⽇本⼈ 7.1%、⼈種的・⺠
族的マイノリティ 0.7%、P<0.001)。職業の特徴として⼈種的・⺠族的マイノ
リティで多いのは飲⾷店での勤務(⽇本⼈ 3.4%、⼈種的・⺠族的マイノリティ
6.6%、P <0.001)、ナイトクラブなど夜間営業のサービス業(⽇本⼈ 2.4%,⼈
種的・⺠族的マイノリティ 5.2%、P <0.001)だった。
年齢層別化した⽐較を表 2 に⽰す。年齢層別化した⽐較においても各年齢層
で医療機関や介護療養施設での曝露機会は⽇本⼈で多く、特に 60 歳以上の⾼齢
者では⽇本⼈ 24.6%、⼈種的・⺠族的マイノリティが 7.7%と差が顕著だった。
また家庭や家族以外の同居者との接触や⾷事、密集空間への滞在については、各
年齢層で⼈種的・⺠族的マイノリティで多い傾向が⾒られた。職業における⽐較

14

では飲⾷店での勤務や夜間サービス業が⼈種的・⺠族的マイノリティで多い傾
向が、20 歳以上の各年齢層でも同様に確認できた。

COVID-19 ⼊院症例の臨床経過の⽐較

表 3 に、⼊院症例における⼊院から退院までの重症度、⽀持療法の内容、転帰
を⽰した。⼤半の症例は酸素吸⼊を必要としなかったものの、⼊院時および⼊院
中は共に⼈種的・⺠族的マイノリティ症例の⽅が酸素吸⼊を必要とする割合は
少ない傾向にあった。さらに⼈種的・⺠族的マイノリティは集中治療室への⼊室、
強⼼剤の使⽤、腎代替療法、輸⾎といった⽀持療法を必要としない割合が⾼かっ
た。また転帰に関しては⽇本⼈症例より⼈種的・⺠族的マイノリティ症例で死亡
率が低く(⽇本⼈ 4.4%、⼈種的・⺠族的マイノリティ 0.7%)、⼊院中の合併症
として⽇本⼈では細菌性肺炎、急性呼吸窮迫症候群、菌⾎症の頻度が⾼かった。
次に⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティを傾向スコアマッチングした 2 群
間で⽐較した(表 4)。⽇本⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティは 2:1 でマッチン
グされ、⽇本⼈ 2,182 ⼈、⼈種的・⺠族的マイノリティ 1,091 ⼈を解析対象とし
た。マッチングに使⽤した因⼦を図 2 に⽰す。マッチングされた集団では⽇本
⼈と⼈種的・⺠族的マイノリティの間に⽀持療法、⼊院中の合併症について有意
差を認めなかった。ただし⽇本⼈は、⼈種的・⺠族的マイノリティよりも⼊院時

15

に有症状である割合が⾼かった(⽇本⼈ 91%、⼈種的・⺠族的マイノリティ 85%、
P <0.001)。

流⾏曲線

⽇本⼈、⼈種的・⺠族的マイノリティに分けて調査期間中の流⾏曲線を作成し
た(図 3)。⽇本⼈のこの期間における流⾏曲線は⽇本における COVID-19 の第
1 波、第 2 波、第 3 波に対応する 3 つの波で構成されている。⼀⽅で⼈種的・⺠
族的マイノリティの流⾏曲線は第 1 波に⼩さなピークを⽰すものの、第 2 波、
第 3 波に対応する明確な流⾏のピークは確認されなかった。累積症例数を図 4
に⽰す。⽇本⼈、⼈種的・⺠族的マイノリティともに累積症例数の推移は両群が
類似した傾向を⽰しており、第⼀波が過ぎて第⼆波までの期間に症例数の増⼤
が⾒られなかったものの、第⼆波以降は経時的な上昇が続いた。図 5 に⼈種的・
⺠族的マイノリティのサブグループごとの流⾏曲線を⽰す。東アジア⼈では第 1
波の⼩さなピークを認めるが、その後明確なピークや落ち込みはなかった。ラテ
ンアメリカ⼈と南アジア⼈では 9 ⽉と 11 ⽉に症例の増加を認めた。症例数の少
ない他のグループでは、明らかな流⾏のピークは確認できなかった。

16

6. ...

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