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Cadherin related family member 3 (CDHR3)は好中球および好酸球のエフェクター機能を活性化させる

清水, 寿顕 東京大学 DOI:10.15083/0002002403

2021.10.13

概要

気管支喘息は気道の慢性炎症、可逆性のある種々の程度の気道狭窄と気道過敏性の亢進、そして臨床的には繰り返し起こる咳、喘鳴、呼吸困難で特徴づけられる変動性を伴った気道狭窄性の呼吸器疾患である。組織学的には気道上皮の剥離を伴う慢性気道炎症が特徴であり、好酸球、好中球、リンパ球、肥満細胞などの浸潤を伴う。この病態にはTh2細胞の活性化が深く関与しており、そこから産生されるIL-4、IL-5、IL-13などのサイトカインによりTh2細胞の分化増殖、好酸球の分化誘導・活性化、気道上皮の粘液細胞増生、気道過敏性亢進などの喘息病態が形成されると考えられてきた。また、抗原特異的な反応だけでなく、2型自然リンパ球を中心とした自然免疫系の重要性も指摘され、より広く2型炎症とそれに伴う好酸球性炎症が中心的役割を果たしていると考えられている。

 一方、気管支喘息における好中球の役割について近年指摘されつつあり、好中球は気管支喘息の重症化やウイルス感染による喘息の増悪と関係している可能性がある。その根拠として重症喘息では喀痰中の好中球数が増加していること、さらに喀痰中のIL-8と相関して喀痰好中球数が増加しステロイド内服下ではそれが好酸球性炎症と連動する可能性があること、IL-8で活性化した好中球が好酸球の走化性を誘導することなどがあげられ、またウイルス感染時の喘息病態の悪化の際に好中球によるNETosisが中心的な役割を果たすことが最近報告されたこともあげられる。

 これらとは別にCDHR3と気管支喘息の関連が報告されている。CDHR3は気道上皮に高発現しているカドヘリンファミリーに属する膜貫通型タンパクであるが、生体内でどのような物質と結合するかは不明で生理的役割も全くわかっていない。近年急性上気道炎の原因となり、重度の喘息発作を引き起こすことで知られるライノウイルスCの受容体がCDHR3であることが発見された。さらにゲノムワイド関連解析でCDHR3遺伝子の一塩基多型は小児喘息の重度の増悪と関連することが指摘され、この一塩基多型の変異は細胞表面上のCDHR3発現増加を伴い、ライノウイルスCの接着や増幅が亢進することが報告されている。このことからCDHR3遺伝子変異のある気管支喘息患者は重度な喘息増悪と関連するライノウイルスCに感染しやすく、それが重度の喘息増悪が起こりやすくなると考えられる機序が想定されている。しかしながら、CDHR3の遺伝子多型は慢性副鼻腔炎や日本における低肺機能の若年発症アトピー型気管支喘息と関連することなどが報告され、ライノウイルスC感染以外の要素が喘息増悪に影響する可能性も考えられる。

 好中球は感染部位に浸潤し、侵入した微生物を貪食し、殺菌する機能がある。感染局所に集合できるのは好中球が走化性因子と呼ばれる種々の物質の濃度勾配を感知することによるが、血液中から組織に移行するには血管内から血管外に移動する必要がある。特に刺激を受けていない好中球は血管内皮がバリアの役割を果たして血管外に出ることができないが、活性化した好中球は細胞外に接着因子を発現することで血液中での移動の停止と血管内皮細胞への接着が可能となり、血管内皮細胞間隙をすり抜けて血管外へ移動が可能となる。刺激物質などの違いはあるが、好酸球についても同様の機序であり、好中球や好酸球の接着能の亢進は活性化の指標となる。また、活性化した好中球や好酸球は活性酸素を産生し、殺菌などを行い、病原体を排除する際に利用していることが知られており、活性酸素産生増加も好中球や好酸球の活性化の指標となる。

 また、活性化した好中球にはネクローシスやアポトーシスとは異なるNETosisと呼ばれる細胞死が知られている。この過程では好中球は核内のクロマチンを細胞外に放出する。放出されたクロマチンはNeutrophil extracellular traps(NETs)と呼ばれ好中球エラスターゼやミエロペルオキシダーゼなどを含み網状になって細菌をとらえることが特徴的である。捉えられた細菌は好中球等に貪食されやすくなるだけでなく、NETsそのものに殺菌作用があることが知られている。この現象は感染防御において重要な役割を果たしており、さらにウイルス感染時の気管支喘息増悪でも重要であるとする報告は先に述べた通りである。

 このような背景の下、今回私はCDHR3が直接好中球および好酸球を活性化させる可能性についてin vitroの系で検討した。具体的には日本人の健常者の末梢血から好中球および好酸球を分離し、底部にCDHR3の細胞外ドメインを付着させた96穴プレートを用いて好中球および好酸球の接着能と活性酸素産生へ与える影響、NETosis誘導の有無、好中球からのロイコトリエンB4(LTB4)および血小板活性化因子(PAF)放出量について調べた。また、CDHR3により活性化した好中球が好酸球に直接働きかける可能性について評価するためにCDHR3で刺激しながら培養した好中球の上清が好酸球の接着能に与える影響を評価した。

 まずCDHR3が好中球および好酸球の接着能に対して及ぼす影響を調べたところ、CDHR3は濃度依存的に好中球および好酸球の接着能を亢進させることが判明した。さらにCDHR3は好中球および好酸球の活性酸素産生も増加させた。これらのことからCDHR3が好中球および好酸球を活性化させる機能を持っていると考えられた。

 NETosis誘導についてはCDHR3による刺激は無刺激の場合と明確な差はなく、少なくとも健常者の好中球においてはCDHR3はNETosis誘導は引き起こさないと考えられた。

 好中球からのLTB4放出量についてはCDHR3で刺激した場合、無刺激と比較して有意にLTB4放出量が増加していた。PAFについては今回の評価では明らかな変化は認めなかった。ただし、PAFは微量のために測定が難しいこともあり、今後測定法の改良あるいはPAF拮抗薬での評価を行い、再度検証が必要と考えている。

 最後にCDHR3で刺激しながら培養した好中球の培養液上清は無刺激での培養の上清と比較して有意に好酸球の接着を亢進させた。これによりCDHR3の刺激で活性化した好中球が好酸球に直接働きかけて活性化させる可能性が示唆された。またこの反応にLTB4が関与している可能性はあるが、単独で好酸球の活性化を引き起こすにはLTB4の濃度として低いと考えられ、他の刺激物質も寄与している可能性も考えられた。今後LTB4拮抗薬を用いた評価を行うとともにPAFなどの他のメディエーターについても拮抗薬を用いた評価を行う必要が考えられた。

 今回の結果からCDHR3はライノウイルスC感染を介した喘息増悪以外にも直接好中球および好酸球を活性化させることで気管支喘息の増悪・重症化に関与するという新規の機序が考えられた。特に重症気管支喘息やウイルス感染時には局所のIL-8濃度と相関して好中球の増加がみられており、IL-8の作用で気道に浸潤してきた好中球がCDHR3の刺激を受けて活性化し、局所の炎症を増悪させるとともに好酸球がCDHR3や活性化した好中球の放出するメディエーターで活性化し、喘息病態の増悪を引き起こすという可能性が検討される。

 また、CDHR3の生理的な役割として細菌や真菌、寄生虫などの病原体に対しての感染防御に際し、局所に浸潤してきた好中球あるいは好酸球を活性化させることで病原体の排除に寄与している可能性が考えられる。

 ただし、今回の実験はin vitroの実験であることに加え、本来細胞表面に発現しているCDHR3はプレートの底部に付着させている状態であり、生体内でも今回と同様の反応が見られるかは不明である。さらにCDHR3の好中球や好酸球への作用は濃度依存性があるが、喘息患者でのCDHR3の発現の程度はよくわかっていない。また、本実験は健常者の血球を用いており、喘息患者での血球とは反応が異なる可能性がある。さらに今回の実験の範囲内では検体の個人差による影響は実験のバラツキの範囲内と考えられる結果であったが、CDHR3に対する好中球や好酸球の反応に個人差がある可能性は否定はできず、特に人種の違いなどは評価できていない。

 今後CDHR3をHeLa細胞にtransfectionさせて好中球や好酸球の活性化が同様にみられるかという検討、気管支喘息患者、特に重症気管支喘息患者の血液検体を用いて今回と同様の評価を行うこと、PAFやLTB4について拮抗薬を用いるなども含めた評価方法を改良すること、CDHR3が好中球、好酸球に作用する際にどのようなタンパクを介しているのかを検討することなどは今後の課題と考えられる。

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