Potential use of arts activities as a　community-based health resource in super-aged societies ： Qualitative research

概要

［課程－２］
審査の結果の要旨
氏名 三道 ひかり
本研究は、東京都内の地域を拠点とした芸術活動の一つである地域合唱団に所属する高齢
者が合唱活動を通じて得る健康への影響、そして合唱活動の地域保健資源としての活用の
可能性について参与観察を含む人類学的手法を用いた質的ケーススタディ調査を行い、以
下の結果を得た。
1. 本研究で対象とした合唱団に参加する高齢者は、高齢化に関連した課題、合唱活動
を通じた健康とウェルビーイングに関連する経験、合唱活動特有の活動を通じた健
康とウェルビーイングに関連する経験を得ていた。
2. 高齢化に関連した課題として、調査対象とした合唱団に所属する高齢者は自身の高
齢化に伴うアイデンティティー維持の困難、身体的限界、社会心理的困難を抱えな
がら合唱活動に参加していたことが明らかになった。
3. 合唱活動の社会活動的側面を通じた健康とウェルビーイングに関連する経験とし
て、調査対象とした合唱団に所属する高齢者は、身体的、心理的、社会的健康を増
進する影響を得ていた。社会的健康への影響として、合唱への共通の興味を通じて
構築される人間関係を通じて団員は互いの健康を確認し合い、社会的交流の深まり
に応じて合唱以外の生活に関連する学びや自己成長機会を得ていた。また身体的健
康への影響として、合唱活動において取り組まれていた歌唱とダンス活動によって
身体機能と認知機能が刺激されていた。さらに心理的健康への影響として、歌唱活
動はムードの向上、ストレス発散を促した。特に合唱パフォーマンス機会は合唱団
員達に人生の目標を再発見する機会を与え、闘病や人生の苦難を経験した団員達に
とって合唱団は精神的支えとして機能していた。
4. 合唱活動の芸術的側面を通じた健康とウェルビーイングに関連する経験として、研
究対象とした合唱団に所属する高齢者は、音楽の美的経験と創造的経験の喜びを経
験していた。合唱活動では舞台衣装や化粧、美的音楽、また美しい振付など様々な
美的経験があり、団員達は日常生活では得られない美的経験を得ていた。また合唱
活動内で取り組む音楽練習や振付制作過程では、合唱団指揮者と共に団員全員が音
楽創造に関わることで、共に作る喜び、音楽創造による自由な自己表現機会を得て

いたことが分かった。
以上、本論文は、地域合唱活動は合唱団員の高齢者の身体的、心理的、社会的健康に影響
を与え、かつ合唱活動内で取り組まれる音楽独自の美的表現や創造的経験が高齢者健康を
支援していることを明らかにした。本結果より合唱活動は高齢者健康を支援する有用的な
ヘルスプロモーションの一つとして位置付ける可能性を持つことを明らかにした。本研究
は、合唱活動が超高齢社会における地域健康資源として有用的である可能性を示唆する重
要な知見となる考えられる。
よって本論文は博士（保健学）の学位請求論文として合格と認められる。