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書き出し

ネパール・ポカラ市母子保健プロジェクトに携わった本邦関係者の質的変化

大野, 麻美 吉川, 里美 北原, 照美 信州大学

2023.08.22

概要

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

   ネパール・ポカラ市母子保健プロジェクトに携わった本邦関係者の質的変化
04-1
大野麻美、吉川里美、北原照美(ネパール交流市民の会)
キーワード:母子保健、質的変化、JICA 草の根事業

要旨:本プロジェクトに携わった本邦関係者の質的変化を明らかにすることを目的とし、結果①共通
点を発見し共感を得る喜び②自身の知識・技術を再認識し他者に伝えることで得るやりがい③互いに
関心を持ち “近所の人と関わるような感覚” で交流をすることの大切さへの気づきという質的変化を
もたらし、それらがプロジェクトの成果、持続性の一助になっていることが示唆された。

A.目的

口頭で「調査への参加の自由」「個人情報の保護

 本プロジェクトはネパールの母子保健改善の

(匿名化が困難である箇所は個人が不利益にな

ために、2015 年より駒ヶ根市と協働で、国内の

らないようにすること)」「学会での発表の可能

様々な保健医療関係者に協力を仰ぎ、かつ一般市

性」について説明し、書面にて同意を得た。

民と共に活動を重ねてきた(フェーズ1:2015

C.結果

年 3 月~ 2017 年 3 月、フェーズ 2:2017 年 6 月

 調査の結果、最も質的変化の発言が多くみら

~ 2021 年 5 月、フェーズ 3:2023 年 1 月~ 2025

れたのが協力医療機関の助産師であった。助産

年 6 月)。当初本邦関係者からは、「海外のこと

師は、本プロジェクトからの依頼で初めて国際

は分からなくて不安」といった思いが聞かれた

協力に触れていた。「今までは海外に行かなくて

が、活動を進めるにつれ「喜びややりがい」へ

もいいと思っていたが、助産師という仕事を通

と変化していく様子が見られた。そこから、興

じて日本以外の国の実際を見るのもいいかなと

味関心をもって協力活動を行う学生から高齢者

いう気持ちになった」「プロジェクトに関わった

までの住民の層を厚く広く持つことが、結果と

ことで自分でもこんな国際貢献ができるだと再

してネパール・ポカラ市の母子保健の改善につ

発見し、視野が広がった」と視野が世界へと広

ながるのではないかと考えるようになった。以

がった思いが語られた。また、ネパール研修員

上より、本調査はプロジェクトに携わった本邦

の熱心で真摯な受講態度に触れたことで、「自分

関係者に与えた影響を明らかにすることを目的

が教えるだけでなくネパールの事について知り

とし、それがプロジェクトの成果、持続性にど

たい、学びたいという姿勢で関わる」ようにな

のようにつながっていくのかを検証した。

ったり、ネパールのお産に関する知識、技術を

B.方法

教えてもらうことで、「お産は国が違っても共通

 調査期間は 2020 年 6 月~ 12 月だった。調査対

部分があると改めて感じることができた」「相手

象者は本邦研修受入医療機関の助産師 5 名、プ

に寄り添う気持ち、人のためにケアをするとい

ロジェクトマネージャー 1 名、母子保健専門家

う思いはネパール人も同じであり共感できた」

2 名の計 8 名で、「プロジェクトに関わったこと

という異なる文化習慣の国であっても、共通点

による気持ちの変化」「大変だったこと、どのよ

が存在するという実感へとつながっていた。さ

うに乗り越えたか」「今後取り組んでみたいと思

らに研修は、他者から自身の知識、技術が認め

うようになったこと」等を調査の問いとし、個

られる機会となり、「当たり前と思ってしていた

別もしくはグループインタビューにて半構成的

ことに感動、感心してくれ、改めて自分がして

面接を行った。面接で話した内容をコード化し

きたことは間違ってなかったと認識させてもら

帰納的に分析した。倫理的配慮として、文書と

えた」と自分のお産への向き合い方に他者が評
58

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. 1, August 2023

Shinshu Journal of Public Health Vol. 18 No. 1, August 2023

価してくれたことへの嬉しさを感じていた。あ

やりがい、③ネパール人に関心を持ち、国際協

わせて、「ネパールに限らず、日本の助産師にも

力と構えずに “近所の人と関わるような感覚” で

乳房マッサージの技術やお産の技術を教えるこ

交流をすることの大切さの気づきがみられ、質

とが大切だと思えるようになった」と後進へ自

的な変化をもたらしていたことがわかった。互

分の思いや技術を伝えていきたいという意識の

いに関心をもち、顔が見える関係で交流するこ

変化が語られた。

とで、信頼関係が生まれている。あわせて助産

 プロジェクトマネージャーおよび母子保健専

観や喜怒哀楽の共通項に目を向け、国という概

門家は「長期滞在をし、現地の人と苦労を共に

念を取り払うことで、相手をより身近に感じる

する経験をすることができ自分の人生にとって

ことができ、相互から学ぼうとする姿勢がプロ

核となるような体験ができたと感じている」「日

ジェクトの成果および持続性へとつながってい

本人は便利さを追求しすぎている感じがするが、

るのではないかと考える。さらに、プロジェク

ネパール生活を通して資源を無駄にしない、シ

トに関わったことで活動の幅が広がり自己成長

ンプルな生き方を学んだ」「喜怒哀楽は世界共通

へとつながっており、それらの影響は通常の事

であり、文化、宗教は関係ないと学んだ」「文化

業評価のみでは表しにくいプロジェクトの重要

習慣は違っても根本的なところではみんな同じ

な成果であると考える。JICA が作成した「簡易

であるという視点をもつようになった」という、

プロジェクト・エスノグラフィー(以降、プロ

長期在住したことによる、自身の考え方の変化、

エス)作成ハンドブック」の中で佐藤は、プロ

共通点の発見について語られた。また、「私にと

エスは「プロジェクト」に関わる人々が日々何

っての国際協力とは、ご近所付き合いの延長であ

を感じ、どのようにプロジェクトを受け止めて

り、それは “向き合っているあなたたちと共に良

きたのかを記述する作業であり、関係者の物語

い世界を目指したい” という思いである」と “支

を紡ぎだすことが、評価の現場でも意味がある

援する・される” ではなく、近所付き合いのよう

のではないかと述べている 1)。本プロジェクト

な関係性で国際協力を捉えて関わるようになっ

を通じて、ネパールの人々に関心を持つ専門職、

たことが語られた。同時に、ネパール人スタッ

住民が多く存在し、ネパールの母子保健の課題

フに母子保健・医療の知識、技術を伝えるうえで、

を自分事として捉えるようになっている。結果、

日本とは異なる技術や看護観への介入の困難さ

それらの関係性がプロジェクトの成果につなが

や地位が障壁となることでネパール人スタッフ

り、持続的な協力関係が現在のプロジェクト終

を巻き込む困難さも感じていた。そのような困

了後も続いていくことが予想される。このよう

難さを抱えながらも、多職種を交えたワークシ

な関わりこそが真の協力活動ではないかと考え

ョップを取り入れたり、健康教育で劇を取り入

る。

れたことでカーストや地位を乗り越え、かつネ

E.今後の展望

パール人の前向きな性格、アウトプットする力

 ネパール側にも本調査を実施しており、今後

が母子保健・医療の知識・技術の向上、看護観

は双方向から分析をし、総合的に評価を行って

によい効果をもたらしているのではないかと感

いく。

じていた。

F.利益相反 

D.考察

 利益相反なし。

 以上より、本プロジェクトに関わったことによ

G.文献

り、本邦関係者に①共通点を発見し共感を得る

1)
JICA:簡易プロジェクト・エスノグラフィー作成

喜び、②自身の知識・技術が世界へとつながる

ハンドブック(初版)
.pp4-8.JICA.2018.

ことを認識し、それを他者に伝えることで得る
59

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. ...

参考文献

り、本邦関係者に①共通点を発見し共感を得る

1)

JICA:簡易プロジェクト・エスノグラフィー作成

喜び、②自身の知識・技術が世界へとつながる

ハンドブック(初版)

.pp4-8.JICA.2018.

ことを認識し、それを他者に伝えることで得る

59

信州公衆衛生雑誌 Vol. 18 No. 1, August 2023

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