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<論説>質権における占有概念の日仏比較―自動車に対する担保に示唆を得て

直井, 義典 筑波大学

2023.07.31

概要

論 説

質権における占有概念の日仏比較
──自動車に対する担保に示唆を得て──

直 井 義 典
はじめに
第 1 章 フランスの自動車質
第 2 章 わが国の自動車抵当
第 3 章 考察

はじめに
わが国の民法上、
質権と抵当権とを分けるものは占有移転の有無である(342
条・ 369 条 1 項)。質権の特徴として占有移転が挙げられるのは、フランス法
においても同様である。
こうした共通性にも拘らず、自動車の担保化手段としてわが国が自動車抵当
を制度化したのに対して、
フランスでは自動車質という制度が用いられている。
こうした相違を生じさせるものは何か。それが占有概念の相違にあることを明
らかにし、わが国における質権の特質としての占有移転の通則的な位置づけに
ついて再検討をする手がかりを得ることとしたい。
以下、第 1 章ではフランスにおける自動車質制度について、そこにおける占
有概念を中心として検討をする。次に第 2 章では、わが国の自動車抵当制度に
ついて、なぜ質権ではなく抵当が自動車の担保手段として選択されたのかを考
察する。フランスの制度の説明を先行させるのは、自動車独自の担保制度の構
築についてはフランスが先行したこと、質権における占有の問題にフランスが
1

論説(直井)

いかに取り組んだのかについて説明してからの方が、わが国がこの問題を回避
したのがいかなる理由によるものであったのかが明確になると考えられること
による。そして第 3 章では、前章までの結果を踏まえて日仏の質権における占
有概念の相違ならびにこの相違が担保手段選択に与えた影響を明らかにし、わ
が国における質権の目的についての占有移転概念が果たして質権の通則と位置
づけるにふさわしいものであるのかを検討する。

第 1 章 フランスの自動車質
(1) 担保に関するフランス民法の規定は、2021 年 9 月 15 日のオルドナンスに
よって比較的大きな改正を受けた1)。2023 年 1 月 1 日に施行されたこの改正に
よって、自動車質は一般の有体動産質として位置付け直され2)、対抗要件に関
する 2338 条 2 項 3)を除いては自動車質に関する規定は存しなくなった。
現行規定では自動車が質権設定の目的となることと公示の手段、登録の効果
が明らかとなるのみであって、なぜ自動車に質権を設定することができるかは
明らかではない。自動車の担保化手段に関する日仏の相違をもたらした理由を
探るという本稿の関心からは 2021 年改正前の規定、すなわち 2006 年改正の規
定の方が有用である。
2006 年改正法は、第 4 部担保第 2 編物的担保第 2 小編動産上の担保第 2 章有
体動産質(gage de meubles corporels)の第 2 節として、自動車質に関する以
下 3 か条の規定を置いていた4)。
2351 条「登録がなされた陸上自動車又はトレーラーに質権が設定される場
合には、質権は、コンセイユ・ デタのデクレによって定められる条件の下に

1)

2021 年改正における自動車質規定の変容については、Ph. Simler, La réforme du droit

des sûretés, 2022, no69. もっとも、改正とは無関係であるためか、自動車質における占有の
位置づけについて論じるところはない。
2)

Y. Blandin, Réforme du droit des sûretés, 2022, p.163 にある新旧対照表でも、旧 2351 条

が 2338 条 2 項と対応するとされるものの、旧 2352 条・ 旧 2353 条については 2021 年改正後
は対応規定がないとされている。

2

質権における占有概念の日仏比較

公的行政機関になされた届出によって第三者に対抗可能となる。」
2352 条「届出受付証の交付によって、質権者は質権の設定された財産につ
いて占有を保持しているものとみなされる。

2353 条「質権の実行は、債務者の[商人か非商人かという]資格の如何を
問わず、2346 条から 2348 条に規定する規範に服する。」
ここでは、自動車については質権(gage)が設定しうること、届出が第三者 5)
対抗要件 6)であること、届出受付証の交付により質権者は質物を占有している
ものとみなされることが明らかにされている。
(2)
 ここで 2006 年改正におけるフランス民法における担保物権の分類、とり
わけその中での gage の位置づけについて整理しておく。
フランス民法第 4 部担保第 2 編物的担保は、第 1 小編一般規定、第 2 小編動

3)

2338 条 2 項「2342 条の場合を除き、登録がなされた陸上自動車又はトレーラーに設定

された質権は、コンセイユ・ デタのデクレによって定められる条件の下に公的行政機関に
なされた台帳への登録によって公示される。質権が登録されることによって同一の自動車
には新たに質権の登録をすることができなくなる。」
第 1 文にいうコンセイユ・デタのデクレは、2023 年 2 月 14 日のデクレ 2023−97 号である。
 なお、2342 条は、占有移転非移転型質権が設定された代替可能物が譲渡された場合の設
定者の義務に関する規定である。同条に言及されたことによって自動車質が占有非移転型
質権と位置付け直された可能性がある。また、2006 年改正の下において質権者は自動車売
主や購入資金提供者に限られていなかったことから、複数の異なる債権者間で質権の競合
が 起 き る 可 能 性 が 指 摘 さ れ て い た(M. –E. Mathieu, Les nouvelles guaranties de
financement, 2007, no130.)が、第 2 文によりその可能性が排除されている。このように、
2021 年改正は内容面での変更も伴っているが、この点の検討は 2021 年改正の全体像との
関係で後日に行うこととしたい。
4)

2006 年改正法の翻訳に当たっては、平野裕之=片山直也訳「フランス担保法改正オル

ドナンス(担保に関する 2006 年 3 月 23 日のオルドナンス 2006−346 号)による民法典等の
改正及びその報告書」慶應法学 8 号(平成 19 年)163 頁以下を参照した。
5)

後述する 1953 年のデクレに関する解釈であるが、この「第三者」には善意の特定承継

人が含まれる(Cass. civ1, 16 janv. 2013, no12 12. 226. )ばかりでなく、悪意の特定承継人
も含まれる(Cass. civ1, 3 juill. 1996, B. Ⅰ .no298.)。
6)

あくまでも対抗要件であって、効力要件ではないことは破毀院判決によっても確認さ

れている(Cass. civ1, 10 juill. 1996, no94−18. 324, B. Ⅰ . no312.)。

3

論説(直井)

産上の担保、第 3 小編不動産上の担保に分けられる。第 2 小編はさらに第 1 章
動産先取特権、第 2 章有体動産質(gage)
、第 3 章無体動産質(nantissement)
に分けられ、第 3 小編はさらに第 1 章不動産先取特権、第 2 章不動産質(gage)

第 3 章抵当権、第 4 章先取特権及び抵当権の登記、第 5 章先取特権及び抵当権
の効果、第 6 章先取特権及び抵当権の滌除、第 7 章先取特権及び抵当権の消滅
に分けられていた7)。
このようにフランス民法典はまず担保の目的が動産であるか不動産であるか
によって分類をする8)。その上で約定担保物権に限れば、動産については質権、
不動産については質権と抵当権、さらに担保目的での所有権移転を認める。動
産質は目的が有体動産か無体動産かによって区別がなされる。もっとも、無体
動産質についての 2355 条 5 項は債権質を除いた無体動産質権(nantissement)
については特則がない限り有体動産質(gage)の規定を適用することとして
いるから9)、おおむね、債権以外の動産質の規定と債権質の規定が置かれてい
るものと整理される10)。そして自動車質は、債権以外の動産質の中に位置づけ
られるわけである。
自動車について用いられる gage という法技術の観点から整理すると、有体
動産と不動産の gage が別々に規定されている。gage についての統一的な規定
は存在しない。
7)

その後 2009 年に第 2 小編第 4 章担保目的で留保又は譲渡された所有権と第 3 小編第 8 章

担保のために譲渡された所有権が追加されたが、第 3 小編のうち第 4 章から第 7 章は 2021
年のオルドナンスにより廃止され、2009 年に追加された第 8 章が第 4 章とされている。
8)

この点は 2021 年改正後であっても変わっていない。D. Legeais, Droit des sûretés et

garanties du credit, 13e éd., 2019, no481(以下、「Legeais, op. cit.」とは本書をさすものとす
る。)は、担保目的物の性質による区分がまずなされていることを、gage が占有移転型と
占有非移転型の双方を含むものとなっている原因としている。
9)

ただし、2021 年改正により擬制留置権に関する 2286 条 1 項 4 号は適用対象から除外さ

れている。
10) この点につき Mathieu, op.cit., no60 は、2355 条 5 項は「奇妙な準用(un curieux renvoi)」
の仕方をしている。有体動産質と無体動産質の共通規定の節を作り、債権質の余地を留保
しておけば良いのではないか、という。

4

質権における占有概念の日仏比較

不動産質(gage immobilier)が設定された場合には、設定者から不動産の占
有移転(dépossession)がもたらされ(2387 条)この点で抵当権と区別される。
これに対して有体動産質の場合、そこには設定者からの占有移転を伴うものと
伴わないものとが含まれ、両者は第三者対抗要件が異なる(2337 条 1 項・2 項)

このように、2006 年改正法の下では同じ gage の名称を用いていながら、不動
産質権と有体動産質権との共通の特徴として占有移転を位置づけることはでき
ない。しかし、占有非移転型の有体動産質権が導入されたのは 2006 年のこと
11,
12)
であり、それ以前は有体動産質は占有移転を特徴としていた(旧 2071 条)


もっとも、2006 年改正以前は不動産質には gage ではなく antichrèse という名
称が与えられていたことから、やはり占有移転が目的物を問わない gage 一般
の特徴であったとすることはできない。
(3) 自動車質に関する民法典の規定の起源は 1934 年 12 月 29 日の法律 13)にま


ることができる。その後、細かな修正を除けば、1953 年 9 月 30 日のデク

レ 53−968 号を経て14)、現行規定に至る。
1934 年の法律 2 条 1 項では、自動車の売主、売掛債権の譲受人、手形割引人、
購入資金提供者に質権が与えられていた15)。そして同条 3 項は、質権設定届出
の受付証は質権者に引き渡されなければならず、
この受付証の引渡しによって、
質権者は自動車を占有下に置き続けているものとみなす。すでにこの時点で、
占有とみなすという現在の 2352 条と同内容の規定が置かれていたわけである。
11) Legeais, op.cit., no454 は、2006 年改正によって gage から物的性質が失われたとする。
12) 2006 年改正法の下で不動産について占有非移転型質権を認めることができるかについ
ては、Mathieu, op.cit., no146。
13) 同法の立法の経緯については、伊藤英樹「フランスの自動車質(1)」愛知学院大学論叢
法学研究 23 巻 3=4 号(昭和 55 年)5 頁以下に詳しい。
14) 1957 年までの修正については、R. Sommade, La vente à credit, 1959, no417.
15) 2006 年改正によって、質権者に関する制約はなくなった。これによって後順位の自動
車質権者が登場する可能性が生まれ、自動車質の第三者対抗力についての理解に影響があ
る可能性が考えられる(2006 年改正以前の段階で、不動産公示に関する 1955 年 1 月 4 日の
デクレにいう意味での第三者の観念を継受することに疑問を呈する、伊藤・ 前掲(1)26 頁
以下も参照。)が、本稿では扱わない。

5

論説(直井)

ここでは自動車の物理的な引渡しはないものの、受付証の引渡しによって質
権者による自動車の占有が擬制されている16)。これは、質権との性質決定を正
当化するために擬制的な占有移転を規定したものと考えられる。
それではなぜ、自動車の担保手段として質権が選択されたのか。
1934 年の法律の目的は、買主倒産時の売主あるいは購入資金提供者の保
護 17)にある18)。世界恐慌により経済情勢が不安定な中、自動車の販売を促進す
るために売主保護手段を与えることが求められた19)。しかしながら破毀院 20)は、
停止条件付売買は第三者に対抗できないものとし、所有権留保付売買において
は買主が自動車を無断で転売してもそれに対するサンクションもなく、また買
主が倒産しても売主には自動車の取戻が許されていなかった21)。そこで自動車
についての新たな担保手段が求められたのである。
16) Note par H. G., D. 1936. 4. 89 は旧 2076 条の要求する債務者からの占有移転に代えて特
別な登録がなされると言うが、条文の文言に反してまで、この説明を、占有移転の要件を
不要としてそれに登録を置き換えたものと読む必要はないだろう。
17) Note par H. G., D. 1936. 4. 90 は、自動車の購入時にのみ質権が設定されるという点が航
空機抵当との相違であるという。
18) 倒産の増加については下院(Chambre des députés)におけるパレス(Parès)報告で指
摘 さ れ て い る(A. Ch. Dedé, Traité pratique de la vente à credit des automobiles, 1937,
p.179.)。
 この法律のタイトルが「自動車の取得を容易化する法律」であるにも拘らず質権設定に
よ る 自 動 車 売 主 の 利 益 の た め の 法 律 で あ る こ と に つ い て は、H. Capitant, La vente à
temperament des automobiles, D. H. 1935.9 も指摘する。
 なお、第 2 次世界大戦以後は、この法律のタイトル通り信用供与が得やすくなることに
よって購入者が利益を受けていることが指摘されている(Exposé des motifs, D.1953.401.)。
19) Exposé des motifs, D. 1953. 401; E. Le Corre−Broly, Le gage sur véhicule automobile
source d interrogations, D. 2014. 440, no1.
20) Cass. req., 27 juill. 1895, D. P. 96. 1. 57; Cass. req., 21 juill. 1897, D. P. 98. 1. 269; Cass. civ.,
28 mars 1934, D. H. 34. 249; Cass. civ., 22 oct. 1934, D. H. 1934. 569. これらの判例について
は、道垣内弘人『買主の倒産における動産売主の保護』
( 有斐閣・ 平成 9 年)108 頁以下、
114 頁以下で紹介されている。
21) ドイツが所有権留保の効力を認容していたのとは対照的であるとの指摘もなされてい
る(Capitant, op.cit., p.10.)。

6

質権における占有概念の日仏比較

しかし当初のマラングル(Malingre)の提案で付与されたのは、質権ではな
く動産先取特権(旧 2102 条)であった22)。この提案に対しては、債務者が目
的物を占有する限りでしか先取特権が存続しない、すなわち自動車が転売され
ると先取特権が消滅する点で売主保護が不十分だとの強い批判 23)が元老院でな
された。こうした問題点があるために、質権が付与されることとなったのであ
る24)。
この法律に対しては、後年、創設以来満足のいくような形で機能していると
の評価もなされた25)ところではあるが、当初、カピタンによって強く批判され
た。
カピタンは、第 1 に、この法律においては自動車質の内容が規定されていな
いこと26)を批判する27)。もっともこの点は立法の内容というよりも表現形態に
関わるものであるからそれほど大きな問題ではない。
カピタンの批判の第 2 点は、この法律が質権付与という方針によった点に関
わる。カピタンは、動産売買先取特権(旧 2102 条 4 号)に依拠するのではな
く質権を付与するという方針もあり得るものだとしつつも、留保所有権を第三
者に対抗できるとした方が明快であった、とする28)。そしてカピタンが、売主
は留保所有権を第三者、とりわけ債権に代位した者に譲渡することができない
22) マラングルの提案は、Dedé, op.cit., p.178 に掲載されている。そこでは旧 2102 条 9 号に「自
動車の販売代金又は代金支払いのための貸付から生じた債権」に先取特権を付与すること
が提案されていた。
23) Capitant, op.cit., p.11 によれば、パレス報告では先取特権の問題点として競売に費用が
掛かることが指摘されている。1934 年の法律 3 条は、この問題に対処すべく、質権は商法
93 条にしたがって実行されるものと規定した。
24) Note par H. G., D. 1936. 4. 89.
25) Exposé des motifs, D. 1953. 401. J. Hémard, Les droits du créancier au profit duquel un
véhicule a été constitué en gage, D. 1963. 49, no2 も同様。
26) 2 条は「質権を保存するために」すべきことを規定するものの、質権の内容そのものに
ついて定めるものではない。
27) Capitant, op.cit., p.12.
28) Capitant, op.cit., p.12.

7

論説(直井)

と立法者が考えたために所有権留保構成を推進しなかったのであろうと推測し
ていることからは、カピタンが留保所有権の譲渡は可能かつ第三者にも対抗で
きるものと考えていたことがうかがわれる。そしてカピタンは質権付与では仕
組みが複雑になるという。所有権留保に比べてどのような点が複雑であるのか
は必ずしも明らかではないが、所有権留保が当事者間の約定のみで設定できる
のに対して、質権の場合は質権設定の届出受付証の質権者への引渡しを要する
点を問題視するものだろうか。
カピタンの批判の第 3 点が本稿の関心に特に関連する。それは、1934 年の法
律が、質権者は質権の目的物を占有していなければ先取権を行使できないと定
める旧 2076 条を準用した点である。カピタンはこれを想定外であるとし、こ
こでは占有移転のない質権が規定されているとの指摘を行っている29)。すなわ
ち、質権においては目的物の占有移転が要件とされるにも拘らず、占有移転を
欠くということである。このようにカピタンは、質権においては目的物の物理
的な占有移転が不可欠であると解しており、なおかつ、暗黙の前提として、自
動車質についても質権である以上は民法上の質権の場合と同様の要件が課され
るものと解していた。これに対して、前述の通り 1934 年の法律 2 条 3 項は質権
者が自動車を占有するものとみなしているわけである。このみなし規定が
gage の本質を侵害するものということになるのかが問われる必要がある。
(4) 自動車の担保手段としては質権が選択されたわけであるが、1917 年 7 月
5 日の法律は河川運航船について、1924 年 5 月 31 日の法律 14 条は航空機につ
いて、それぞれ担保手段として抵当権を選択している。後者は前者に着想を得
たものである30)。1924 年の法律は 12 条 1 項で、航空機は民法の適用に関して
は動産であるとしつつ、所有権の移転に書面を要求し、登録を第三者対抗要件
とする。
確かに、ホテル証券・ 石油証券等の各種ワラントでは占有移転なき質権が

29) Capitant, op.cit., p.12.
30) Note, D. 1925. 4. 41
(1)4.

8

質権における占有概念の日仏比較

用いられてはいるものの、自動車質は自動車の信用売主の利益保護のために航
空機抵当に近い立法措置をとることが求められたために導入されたものである
との説明 31)に接し、さらに、わが国では自動車についても船舶や航空機につい
ても抵当権が選択されていることを思い起こす時、フランスでなぜ自動車につ
いても抵当権の設定を制度化するのではなく質権を選択したのかという疑問が
生じる。
この点については、1924 年の法律に対する説明が有益であると思われる。
そこでは、1924 年の法律における登録は自動車のそれと異なり単なる社会秩
序のための登録 32)ではなく、土地台帳と同様の登録台帳であり、航空機の所有
者は公権力によって、航空機を占有するものとして登録されるとの説明がなさ
れている33)。すなわち、それぞれの登録制度の有する意義が異なるということ
である。
こうした登録制度の目的の違いによって、担保手段としての質権と抵当権の
選択の相違が説明されるのである。
(5) それでは、自動車質において占有移転が要件とされ、かつ、ここには占
有移転があると言えるのだろうか。2006 年改正以前は民法典上の質権では占
有移転が必須であったためにこれが問題となる。自動車質においては占有移転
がないから自動車質という制度は体系上受け入れられないとするカピタンの批
判を回避するには 2 つの解答の方法がある。
1 つの解答としては、自動車質は特別法によって認められたものであるから、
民法典の定める質権とは異なる特質を有する質権、すなわち占有非移転型の質
31) Note par H. G., D. 1936. 4. 90.
32) 自動車の登録によって所有者を明確にすること通じて、事故の際の責任の所在等を明
確にするという趣旨である。
33) Note, D. 1925. 4. 42
(1). Capitant, op.cit., p.11 でも、各種ワラントの場合と同様に、自動
車の登録は権利関係を第三者に公示することを目的としていないとの指摘がなされる。な
お、Ph. Bihr, L opposabilité aux tiers du gage constitué sur un véhicule automobile, D. 1970.
70 は、1953 年のデクレと不動産登記に関する 1955 年 1 月 4 日のデクレにおける「第三者」
の意味の違いを指摘する。

9

論説(直井)

権も認められるのだとすることが考えられる34,35)。近時の学説の多くはこの見
解に立っており、2006 年改正によって民法典には占有非移転型質権が導入さ
れたことを想起するとき、改正以前と比べてもこうした説明には理由があるよ
うにも思われる36)。
しかし、そもそも占有非移転型質権は実質的には動産抵当である以上は
gage として整理したのは不適切であるとの批判がある37)ことから、自動車抵
当に対しても gage として整理するのは不適切だとの批判が当てはまりうる。
これに対しては、フランス民法典には gage の通則がないことから不動産質に
おいては抵当権との区別の必要上占有移転が求められるが、有体動産質におい
てはこうした必要性がないから gage が占有移転型と占有非移転型の 2 種を内
包すること自体はおかしくないとの反論も考えられるところであり、先の批判
は第 1 の解答を放棄するための決定打とはならない。
第 2 の解答は、自動車質についても占有移転が要求され、また、占有非移転

34) ここまで明確ではないが、P. Crocq, Le gage avec ou sans dépossession, après la loi du 4
août 2008 et l ordonnance du 18 décembre 2008, Cahiers de droit de l entreprise, 2009, no4,
p.27; J.−B. Seube, Droit des sûretés, 9eéd., 2018, no291; L. Aynès=P. Crocq, Droit des sûretés,
13e éd., 2019, no519 は、自動車質を占有移転なき質権と整理する。特にスーブはこのように
解するのは「当然(naturellement)」とする。
 また、Le Corre−Broly, op.cit., no1 は、2006 年改正までは質権については設定者からの占
有移転が要件であったことから自動車質について立法することが必要であったとしてお
り、自動車質は占有移転型質権に包摂されないものと理解している。
35) 近時も、民法典の gage や nantissement の規律が特別法上の gage や nantissement の規
律にまで及ぶものではないとの見解が見られる(Mathieu, op.cit., no76.)。
36) 2340 条 2 項は、占有非移転型質権が設定された動産が後に占有移転型質権の目的となっ
た場合、占有移転型質権者が留置権を有していても、占有非移転型質権の公示がなされて
いれば、こちらが優先するものと定めており、占有移転型質権としては物理的な占有によ
る留置権を生ぜしめるもののみが想定されているようにも見える。
37) Legeais, op.cit., nos 390 et 481.
 このことは、ルジェが占有移転の有無により担保の仕組みに変化が生じることから、占
有移転の有無による区分は妥当なものであり続けるとしている(Legeais, op.cit., no456.)
ことにもよる。

10

質権における占有概念の日仏比較

型質権は認められないとの理解を前提に、
自動車質においても占有移転がある、
と解するものである38)。1934 年の法律ですでに認められていた擬制占有を、占
有移転はないが占有移転があったのと同様に扱う39)というのではなく、物理的
な占有移転はないものの gage において求められる占有移転の範疇には入るも
のとして扱うわけである。この立場によれば質権において求められる占有移転
の中には物理的な占有移転と擬制的占有移転の双方が含まれることとなり、カ
ピタンの見解は、gage の本質であった占有移転を物理的な占有移転に限定す
るものと解する点で狭きに失する、と評することになろう。近時の学説のうち
にはこうした見解に立つものもある。ルジェは、自動車質を特殊な占有移転を
伴う質権のうちの特殊なものとして位置づけているのである40)。
ルジェが擬制占有による占有移転を認める大きな理由は、自動車質権者に留
置権を付与する点にある41,42)。これが第 2 の解答を支持すべき積極的理由とな
る。
38) 2006 年改正によって非占有移転型質権が認められたことから、この説明は改正前に妥
当するものとなる。改正後は、質権の定義はそれほど問題とならず、自動車質は占有移転
型質権に位置づけられることとなる。
39) なお、Legeais, op.cit., no486 は、占有非移転型質権の場合は公示が占有移転に代わる
(remplace)というように占有移転とは全く別物として扱っている。
40) Legeais, op.cit., no479. 書籍の章立てがこのようになっているばかりでなく、本文でも自
動車質が占有移転型質権であることを明言している。
 なお、Y. Picod, Droit des sûretés, 3eéd., 2016, no216 は、擬制によって質権者は占有移転
型質権者と同様の地位に置かれるとする(同様の記述は 2006 年改正以前の H., L. et J.
Mazeau=F. Chabas, Leçons de droit civil, Sûretés Publicité foncière, 7eéd. par Y. Picod, 1999,
no91 ですでになされていた)。自動車質についても占有移転があるとするもののようにも
読めるが、占有移転がないからこそ擬制によって占有移転があるのと同視するのだとも読
め、いずれの見解に立つものかははっきりしない。
41) D. Legeais, Le nouveau droit du gage portant sur un véhicule automobile, JCP E., 2007,
no1482, no8. Aynès=Crocq, op.cit., no446 は、ここで示された自動車自体についての留置権と
自動車登録証(carte grise)の留置権とは別物であることに注意を促す。後者は、登録証
という書面を物理的に手許においておくという意味で通常の留置権であって、目的物が自
動車そのものではない点と自動車質に優先権を付与する効果を持つものではない点で限定
的な効果しかないものとされる。

11

論説(直井)

もっとも 2008 年改正によって占有非移転型質権者に対しても留置権が認め
られるようになった(2286 条 1 項 4 号)ことから、2008 年改正後には自動車質
において占有移転があるという必要はないとも思える。しかし、商法 L.622−7
条 2 項によれば、観察期間内や再生計画実施中は占有非移転型質権者の有する
擬制留置権は倒産手続に対して対抗力を有しないものとされており、占有移転
型質権者の有する留置権よりも弱い効力しか認められない43)。そのため、擬制
占有においても占有移転があるとする必要があるのである。
ところが、2008 年改正法以前においても、占有移転を認めなければ留置権
が認められないというわけではなかった。擬制占有の効果として留置権が認め
られると言えば足りたからである。判例も留置権を認めており44)、学説にも擬
制的留置権が認められるとするものがある45)。
判例によれば自動車質権者の有する留置権には以下のような効力が認められ
る。国税当局が有する先取権との関係では、この先取権がほとんどすべての他
42) なお、Mathieu, op.cit., no151 は不動産質と抵当権を比較して、不動産質の利点は質権者
に留置権が認められる点にあるとしていた。
43) Legeais, op.cit., n o493. E. Le Corre−Broly, Le gage sur véhlcule automobile source
d interrogations, D. 2014. 440, no14 et s.
 なお、2021 年改正においてもこの擬制留置権が存置された点には批判がある(Ch.
Gijsbers, Le gage et les sûretés sur créances, Revue des contrats, 2021, Tirage special, no11.)

44) Cass. com., 15 janv. 1957, B. Ⅲ .no20(本判決は、伊藤・前掲(2)
5 頁で紹介されている。);
Cass. com., 13 janv. 1987, B. Ⅰ . no10. この留置権は登録した日から第三者に対抗可能である
(Cass. civ., 3 juill. 1996, B. Ⅰ . no298.)。
45) Aynès=Crocq, op.cit., no446, Mathieu, op.cit., no129. 伊藤・ 前掲(2)14 頁にも「擬制的留
置権」との表現が見られる。判例には「擬制的留置権」との表現は見られない。
 2008 年改正後において、この擬制的留置権の根拠条文はどこに求められることになるの
だろうか。エネス=クロックは擬制的留置権の根拠条文を明確にしていないが、2286 条 1
項 4 号だとすると自動車質を占有移転なき質権と位置づけていることとなり自動車質権者
には擬制的占有が付与されているとのエネス=クロック自身による説明と矛盾することと
なるから、ここでの擬制的留置権の根拠は 2286 条 1 項 1 号と見るべきであろう。エネス=
クロックは「留置権の非物質化」が見られるとするが、これは留置権の目的を物理的に占
有しているわけではないことを表現したものであって、留置権の根拠が有体物から乖離し
ていることを意味するものではなく、2286 条1項 4 号を根拠と解する必要はない。

12

質権における占有概念の日仏比較

の担保に優先するような強い効力を持つ先取権であるにも拘らず、自動車質権
者の留置権が優先するものとされている46)。他方で、擬制的占有に基づく留置
権であることによる弱さとしては、自動車が自動車質権者によって転売された
場合に留置権が失われ売却代金について他の債権者との競合にさらされるこ
と47)、また、自動車が修理された際に自動車修理業者が有する物理的占有に根
拠を置く留置権には劣後することが挙げられる48)。
もっとも、擬制占有の効果として特別な効果を有する留置権を認めたとの説
明が可能であることから、占有非移転型質権では留置権が認められていなかっ
たというだけでは第 2 の解答を積極的に支持するべき理由とはならない。
以上のように自動車質における占有移転の有無をめぐっては見解の相違があ
るわけであるが、私見としては占有移転があるとするルジェの見解に従ってお
きたい。確かに、判例の認める留置権の内容は自動車質に特有の面があり、特
別法によって自動車質という占有非移転型質権に独自の内容を有する留置権が
認められたと解することもできなくはない。しかし、2006 年改正によって自
動車質が民法典に包摂されたことから、特別法によって認められた質権である
ことを根拠とするのは適切ではない。そして自動車質権に基づく留置権の内容
として判例が認めるものは、占有非移転型質権者の有するそれよりも強力なも
のである。2021 年改正によって自動車質に関する規定が対抗要件に関するそ
れを除いてすべて廃止されたことから、自動車質についてのみ独自に留置権の
内容を観念することはもはや困難であると考える。
(6) 不動産質についても、設定者が目的不動産の収益ができないという不便
46) Cass. com., 15 janv. 1957, B. Ⅲ . no20.
47) Cass. com., 15 janv. 1957, B. Ⅲ . no21. したがって、自動車が売却される前に財の帰属を
受けておくことが他の債権者に先んじて債権を回収するためには重要であるとされる
(Aynès=Crocq, op.cit., no446.)。
48) Cass. com., 11 juin 1969, B. Ⅳ . no221. この判決については、伊藤・ 前掲(2)7 頁以下に紹
介がある。伊藤・ 前掲(1)20 頁以下は、この判決と自動車保険者は質権公示手続によって
対抗できる第三者には該当しないとする Cass. civ1, 17 juin 1969, D. 1970. 21 とに依拠して、
擬制的占有の実効性は決して十分とは言えないとする。

13

論説(直井)

を緩和するために質権の目的不動産を設定者が占有する制度が判例 49)によって
認められた50)。antichrèse−bail である51)。物理的な占有が設定者の下にありな
がら質権の効力を認める制度として自動車質と類似することから、ここで取り
扱うこととする。
2006 年改正法による 2390 条は、改正前の判例を取り入れて52)
「債権者は、占
有を失うことなしに、第三者又は債務者自身に対して不動産を賃貸することが
できる。
」と定める。
質権者は賃貸によっても占有を失わないものとされることから、antichrèse−
bail は占有移転を伴う約定不動産担保として位置づけられる53)。他方で、2388
条 1 項・ 2 項は抵当権に関する多くの規定を不動産質権に準用していることか
ら、約定抵当権の一種とも説明される54)。ただし、抵当権とは異なり質権者に
は占有があることから留置権も認められ、質権者は設定者に倒産手続が開始さ
れた場合に強い保護を得ることができる55)。antichrèse−bail の有するもう 1 つ
の利点として、抵当権が設定されるよりも安価に財を用益できる点が指摘され
ている56)。

第 2 章 わが国の自動車抵当
(1)
 わが国の自動車抵当は昭和 26 年に制定された自動車抵当法によって導入
49) Cass. civ.3, 18 déc. 2002, B. Ⅲ . no261
50) Mathieu, op.cit., no137; Legeais, op.cit., no646.
51) antichrèse−bail については、直井義典「動産質における占有移転の意義」筑波ロー・ジャー
ナル 31 号(令和 3 年)88 頁注 33 でふれた。
52) Legeais, op.cit., no646.
53) 仮に質権設定の後すぐに債務者に賃貸されたとしても、擬制的買戻し売買(vente à
réméré)と債務者から債権者への引渡しによって有効に設定される(Mathieu, op.cit.,
no150.)。
54) Mathieu, op.cit., no138. 旧 2072 条が nantissement の一種としていたのとは位置づけが異
なる。
55) Mathieu, op.cit., no138.
56) Mathieu, op.cit., no149.

14

質権における占有概念の日仏比較

されたものである。
この制度が導入された理由は以下のようなものである。本法制定以前は占有
を保持しながら自動車を担保に供するには所有権留保・ 譲渡担保によるしか
なかったが、これらの方法では権利関係の実態を外部から把握することが困難
であり、相手方の不信行為によって自己の権利を失う恐れがあるなどの欠陥が
あった。そこで自動車抵当を制度化したというのである。また、この制度の導
入への課題として、目的物である自動車の同一性を確保する方法および抵当権
の存在を示す適当な公示制度という技術的問題 57)を解決する必要があったが、
昭和 26 年の道路車両運送法制定により自動車登録ファイルによる自動車の登
58)
録制度(同法 4 条)
・ 車台番号の打刻(同法 29 条以下)による同一性の確認

方法が確立されたことでこの問題が解決されたために、このタイミングで自動
車抵当が導入されることとなった59)。さらに、第 2 次世界大戦に伴う経済的混
乱により、自動車買主への融資制度を確立することが求められたのも、この時
期に自動車を担保目的物とする担保制度が制定された理由である。
(2)
 自動車が民法上の動産である60)ことを前提としつつも、道路車両運送法
による登録を受けた自動車には原則として抵当権が設定できる(自動車抵当法

57) 山川一陽「自動車・ 航空機・ 建設機械抵当」加藤一郎=林良平編代『担保法大系 第 3
巻』
(金融財政事情研究会・ 昭和 60 年)173 頁も、この 2 点がもともと不動産を対象とした
抵当制度の目的物として動産を取り入れるにあたって解決すべき基本的な問題点であった
とする。
58) 登録原簿と自動車の物質的原状の同一性は、自動車検査制度(道路車両運送法 58 条以下)
によって確保される。すなわち、自動車検査に基づいて交付される自動車検査証が常に自
動車に備え付けることが要求され(同法 66 条 1 項)、自動車の登録申請に検査証の提示が
要求されることによって、自動車登録原簿の記載と自動車検査証の記載の同一性が確保さ
れ、結局、自動車登録原簿と自動車の同一性が確保されるわけである(山川・前掲 174 頁)。
このように、自動車の同一性確保については自動車検査制度も大きな役割を果たしている。
59) 酒井栄治『自動車抵当法』
( 特別法コンメンタール)
(第一法規出版・ 昭和 47 年)1 頁。
自動車登録ファイルに登録された自動車に限って自動車抵当の客体となりうる理由を、動
産たる自動車に抵当権の客体としての素地を与えるためとする槇悌次『担保物権法』
(有斐
閣・昭和 56 年)289 頁も参照。

15

論説(直井)

2 条・ 3 条)。同法 4 条が「占有を移さないで」と明記していることから、ここ
には占有移転はない。そのため、占有移転を要件とする質権を持ち出す余地は
なく、また、立法過程やその後の条文解釈において質権が出てくることもない。
擬制的占有は全く想定されておらず、フランス法とは前提が大きく異なるもの
と言えそうである61)。
もっとも、制度内容はフランス法と大きく異なるものではなく、同法 5 条は
道路運送車両法に規定する自動車登録ファイルに登録することが第三者対抗要
件であるとする。登録記録証書が抵当権者に引き渡されることなどは要求され
ていない。なお、自動車の登録に関しては、
「元来、自動車の登録は自動車に
関する実態の把握、自動車の安全の確保・ 盗難の予防等の陸運行政上の目的
から設けられたものであり、
所有権の公示手段としての意味は第二次的である。
したがって、自動車についての登録の申請は、所有者の任意によるものではな
く、義務として強制されている。
」62)との説明がなされている。
自動車に質権を設定することは禁止されている(同法 20 条)が、これは担
保権の優先順位確定基準が登記・ 登録と占有の二系列となって相互の優先順
位の決定において混乱を来すこと、質権を設定すると設定者が自動車を使用で
きなくなって社会的・経済的見地から望ましくないことによる63)。
自動車抵当と先取特権が競合する場合、抵当権は 330 条 1 項の第 1 順位の先
取特権と同順位とされる(同法 11 条)
。この点、動産質も 334 条に同様の規定

60) 酒井・前掲 1 頁、石井眞司=西尾信一編『特殊担保 その理論と実務』
(経済法令研究会・
昭和 61 年)133 頁〔石井眞司〕。
61) 五十嵐徹『各種動産抵当に関する登記』
(日本加除出版・ 令和 2 年)4 頁も自動車に質権
を設定できない理由を、
「質権は、債権者による継続占有が対抗要件となるため、設定者
が使用しながら担保化することができないから」と説明しており、ここでも設定者から物
理的に占有を奪うことが質権の要件とされている。
62) 酒井・前掲 5 頁。
63) 道垣内弘人編『新注釈民法(6) 物権(3)』
(有斐閣・ 平成 31 年)476 頁[直井義典]。道
垣内弘人『担保物権法 第 4 版』
(有斐閣・ 平成 29 年)265 頁は、自動車抵当の利用促進を
理由とする。

16

質権における占有概念の日仏比較

を有しているが、自動車抵当権は動産質権と同等以上の保護を受けるべきもの
だから、動産質権の先取特権に対する順位関係を自動車抵当権にも踏襲したと
説明される64)。また、自動車抵当権者が 330 条 1 項の第 2 順位・ 第 3 順位の先
取特権者が存することを知っていたとき、330 条 2 項の適用に関して、334 条
においては質権者が後順位となると解されていることから 334 条と自動車抵当
法 11 条とを同一に解し、抵当権者は優先権を行うことができないものと解す
べきであろうとの見解が見られる65)。この点は、自動車抵当を動産質権と同様
に解するものと言える。
設定者の倒産手続においても、質権と抵当権は同様の扱いを受ける(破産法
2 条 9 項・ 65 条 1 項、民事再生法 53 条 1 項・2 項、会社更生法 2 条 10 項)


第 3 章 考察
(1) 以上のフランスの自動車質権ならびにわが国の自動車抵当の概観からは
以下のような知見が得られる。
第 1 に、いずれも経済的な大混乱の時期に制定された制度であるという点で
は共通している。フランスは産業保護、わが国では融資の活性化という点で力
点に違いはある。しかし、フランスではその後に信用供与の容易化が主目的と
なっているし、買主の融資を活性化するためには買主倒産時の売主の債権回収
可能性を高めておく必要があるという意味で 2 つの目的は連動しているから、
それぞれの目的は大きく異なるものではない。
第 2 に、フランスでは質権、わが国では抵当権が選択された理由としては 2
点を指摘することができよう。
一方では、民法の体系の相違である。フランスではまず動産担保と不動産担
保とを分けて、それぞれについて担保手段が規定される。有体動産の gage と
不動産の gage とは別々に定められており、相互に共通の規律を設けるという

64) 酒井・前掲 19 頁。
65) 酒井・前掲 20 頁。

17

論説(直井)

発想は弱いものと考えられる。そのために、有体動産質については占有移転型
質権のほかに占有非移転型の質権が認められているのに対して不動産質におい
ては占有移転型質権のみが認められるというように、同じ gage であっても内
容には相違がある。これに対してわが国ではパンデクテン方式が採用されてい
ることもあって、質権や抵当権といった担保の手段が先に規定され、その中で
担保の目的ごとの規律がなされる。その結果として、質権の総則が形成される。
こうした体系の相違を前提とすると、フランスでは有体動産に用いられる担保
手段として抵当権を選択する余地がなく質権を活用することが考えられ、わが
国では質権の共通の要素として物理的な占有移転がある以上は質権を選択する
余地がなく抵当権を用いることとなる。
他方で、選択された担保手段の相違をもたらした理由としては、占有概念の
違いをも挙げることができる。フランスで自動車に質権の設定が可能であるの
は、擬制的占有移転が認められているためである。これに対して、わが国では
質権において求められる占有移転が物理的なそれに限られている、すなわち擬
制的占有移転は認められていないことから、当然のごとく自動車抵当が選択さ
れている。質権設定者による代理占有を禁止する 345 条は、わが国において擬
制的占有移転を認めないことの現れである66)。
第 3 に、自動車の登録が不動産登記とは異なり物権変動の対抗要件具備を主
目的とする制度ではないという点は両国で共通していた。フランスは航空機の
場合との相違により、自動車については質権の導入を選択した。これに対して
わが国では登記・ 登録制度の目的の相違は特に問題とされることなく抵当制
度が選択されている。これは、特別法についても民法典と異なる占有移転概念
は採用しえず、質権においては物理的な占有移転が要求されるのだという観念
の強さを反映したものと評価できる。
第 4 に、わが国では自動車の担保手段としては抵当制度を選択したものの、
66) 伊藤英樹「フランスの自動車質(2)」愛知大学論叢法学研究 24 巻 1=2 号(昭和 55 年)2
頁も、345 条と対比してフランスにおける擬制占有に現実の占有同様の効力が付与されて
いる点に注目する。

18

質権における占有概念の日仏比較

その効果は質権を設定した場合と同様である。これに対してフランスでは擬制
的占有移転を認めることによって質権者には留置権が認められる。占有非移転
型質権においても擬制留置権が認められることとなったが、倒産手続における
これらの留置権の効力には差異があることから、2006 年改正法の下において
擬制的占有移転を観念する学説が存在する理由は、倒産手続との関係にあった
と言うことができる67)。
以上より、わが国において自動車質ではなく自動車抵当が採用された最大の
理由は、質権における占有移転とは物理的占有移転のみを指すのであって擬制
占有を含まないという点にあることが明らかとなる。
(2) 質権における占有移転に擬制的占有が含まれないことは、わが国では
344 条・ 345 条で定められている。最判昭和 37 年 10 月 12 日裁判集民事 62 号
867 頁は、占有改定の方法による質物の引渡しでは 345 条の法意 68)に徴して質
権は成立しないと判示する。この理由づけについては所有権が占有改定で対抗
力を得ることとのバランスの悪さが指摘されるが、質権が留置権を本質とする
担保物権であるとの理由により、学説上も結論は支持されている69)。質権の成
立要件としての引渡しや占有移転の概念と留置権の有無が連動することは、フ
ランスにおいて擬制占有の場合は占有移転があることから擬制留置権ではなく
一般の留置権が付与され、他方で占有非移転型質権の場合、質権者には擬制留
置権のみが付与されることとも符合している。

67) 本稿ではフランスで自動車質が選択された理由について焦点を当てたために、自動車
質において擬制的占有が認められる効果としては留置権が付与されること以外は触れてい
ないが、追及権が認められている点では抵当権相当の扱いをされていることが指摘される
(伊藤英樹「フランスの自動車質(3)・(完)」愛知学院大学論叢法学研究 24 巻 3=4 号(昭和
56 年)2 頁)。なおカピタンは、即時取得が認められず自動車質の追及効が認められること
で中古車購入者がいなくなるであろう点も批判している(Capitant, op.cit., p.13.)。
68) なお、345 条はボアソナード草案・ 旧民法債権担保編・ 法典調査会提出原案のいずれに
も見られない、特異な規定である。そのため、元来いかなる趣旨で設けられた規定である
のかは明らかではない。
69) 道垣内編・前掲 479 頁[直井]。

19

論説(直井)

したがって、自動車の担保手段につき立法をするにあたって質権ではなく抵
当権を選択したことは、わが国の法解釈としては極めて妥当なことであったと
評価できる。
問題は、344 条・ 345 条が質権の総則規定とされている点である。
動産質・ 不動産質について、物理的な占有移転を観念できることは言うま
でもない。これに対して権利質において占有移転を観念できるかは、問題があ
る。物権はあくまでも有体物を目的とするものであって権利の上には質権類似
の準質が成立するにすぎないとの見解も当初は有力であり、法典調査会でも「権
利質」を「准質」とする提案が可決されている。そこで権利質を有体物質入の
場合に近接させるべく、旧 363 条・ 365 条は証書の移転をもって占有移転を観
念していた。現在でも 520 条の 7・520 条の 17 が同様の規定を置く。この点は、
証書の交付をもって占有とみなしていたフランスの自動車質と類似するとも言
える。このように権利質についてあたかも擬制的占有を認めたかのような扱い
がなされる場合もあるものの、一般的に権利質について占有移転が観念できる
というわけではない。
フランスにおいては債権質には有体動産質や債権以外の無体動産質とは別個
の規定が適用されるのであり、しかも書面による締結を効力要件とし(2356
条 1 項)、証書の日付により当事者間に効力を生じまた第三者に対抗できるも
のとする(2361 条)
。そのため、仮にわが国のように占有移転概念を狭く解し
たとしても、債権質については有体動産質等とは別個の説明が妥当するとの説
明が可能である70)。債権以外の無体動産質についても、擬制占有が認められて
いることにより、質権であることの正当化は容易である。ましてや 2006 年改

70) Legeais, op.cit., no514 によれば、占有非移転型質権の認められていなかった 2006 年改正
以前は、債権質は占有移転型質権として理解されていた。ここで占有移転の方法として考
えられていたのは、債務者に対する公正証書による通知又は公正証書による承諾と、債権
者に対する証書の引渡しである。もっとも、学説は一致してこれは技巧的なものとしてい
た。技巧的としつつも占有移転型質権に包摂している点で、本文での記述とは異なり、わ
が国よりも広い占有移転概念を採るものである。

20

質権における占有概念の日仏比較

正により占有非移転型質権が導入されているのであるから、この場合にも問題
は生じない。
これに対してわが国では、質権の総則で狭い内容の占有移転概念を採用して
いる。証書移転が可能な権利質については総則の例外と説明することはできる
が、権利移転に証書の移転を要しない場合 71)については総則の内容がそのまま
適用されることとなる。そのために、権利質について占有移転を物理的に観念
できるかが直接に問題とならざるを得ず、これを解決するために法典調査会で
は準質という区分を設けることが試みられたのである。
権利質における占有移転の問題を解決するためには、フランス法に倣ってわ
が国にも擬制占有概念を導入するか、344 条・345 条を動産質・ 不動産質にの
み適用される規定とするか、いずれかの選択をする必要があると考える。前者
の選択には、権利質の説明が容易なものとなり質権総則が真に総則たりうると
いう利点がある。しかし、フランスと異なり倒産手続において留置権の果たす
役割が小さいわが国では、不動産について質権と抵当権とを明確に区別してお
くことにも意義かあるのではないか。そこで、後者の選択によるべきものと考
える。
*本稿は、2022 年度科学研究費補助金・ 基盤研究(C)による研究成果の一部
である。
(なおい・よしのり 筑波大学ビジネスサイエンス系教授)

71) 特別法上の質権では、株式の登録質(会社法 146 条以下)や電子記録債権の質入(電子
記録債権法 36 条 1 項)などが考えられる。

21

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