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<論説> 回復請求における盗品・遺失物占有者の 主観的要件に関する考察

直井, 義典 筑波大学

2020.08.24

概要

論 説

回復請求における盗品・遺失物占有者の
主観的要件に関する考察

直 井 義 典
序論
第 1 章 フランス法
第 2 章 ボアソナード草案
第 3 章 旧民法典
第 4 章 法典調査会での審議
第 5 章 検討
おわりに

序論
⑴ 民法 193 条・194 条は、盗品又は遺失物の回復について定める。そして、
193 条は動産について即時取得を認めた 192 条の例外規定であり 1)、194 条は
193 条のさらに例外に当たると解されている 2)。すなわち、取引の安全を図る
べく動産の即時取得を認める 192 条に対して、193 条は真の権利者を保護する
規定として位置付けられる。このことは、193 条の対象となるのが盗品・ 遺失
物に限定されており、そこでは占有喪失に際して真の権利者の意思の関与がな
いことが理由とされる 3)。また 194 条は、競売・公の市場等での買受について、
193 条による静的安全の行き過ぎを是正して取引の安全を確保した規定であ

1)

舟橋諄一『物権法』
(有斐閣・ 昭和 35 年)250 頁、星野英一『民法概論Ⅱ』
(良書普及会・

昭和 51 年)75 頁、我妻栄著 有泉亨補訂『新訂物権法』
( 岩波書店・ 昭和 58 年)229 頁、
鈴木禄弥『物権法講義 5 訂版』
(創文社・ 平成 19 年)216 頁、河上正二『物権法講義』
(日
本評論社・ 平成 24 年)174 頁、安永正昭『講義物権・ 担保物権法 第 3 版』
(有斐閣・ 平成
31 年)
(以下、「安永・前掲①」とする)111 頁。

135

論説(直井)

る、というのである。
しかしながら、これらの規定を一体のものとして整合的に理解しようとする
とき、疑問を生じさせる文言がある。それが 194 条の「善意」という文言である。
⑵ ⒤ この文言をめぐってはすでに、192 条が「善意であり、かつ、過失が
ない」ことを要求している以上、194 条においても善意ばかりでなく無過失を
も要件とするのでなければ整合的ではない、との批判がなされていたところで
ある 4)。この論者によれば、この不整合は旧民法証拠編 144 条・145 条の「正
権原」を「無過失」とした際に、旧民法証拠編 146 条に「正権原」が明記され
ていなかったために放置されてしまった、いう立法技術上のミスによるものと
推測されている 5)。それならば、なぜ旧民法証拠編 146 条に「正権原」の文言
がなかったのかが問われるべきであるが、その点は検討されていない。このほ
かにも、おそらくは問題意識を共有して、194 条に善意のほか無過失も読み込
む見解が見られる 6)。しかし、なぜ条文にない無過失要件 7)を読み込むことが
できるのか、特に説明はなされていない 8)。
 このように 194 条においても無過失を要件とする見解は説明が不十分と
思われるのだが、そもそも 194 条で改めて「善意」を要求するのはなぜかが問
2)

舟橋・前掲 252 頁、我妻・前掲 229 頁、鈴木・前掲 217 頁。

 岡松参太郎『4 版 注釈民法理由 中巻』
(有斐閣書房・ 明治 31 年)88 頁は 194 条の表題
を「前条ノ場合ニ於テ所有者ノ負担スヘキ義務」としており、ここでも 194 条が 193 条の
例外であることが明確にされている。
 安永正昭「民法 192 条∼194 条(動産の善意取得)」広中俊雄=星野英一編『民法典の百
年Ⅱ』
(有斐閣・ 平成 10 年)
(以下、「安永・ 前掲②」とする)464 頁でも、旧民法と現行法
を比較して、盗品遺失物についての例外的な扱い、公の市場等における取得についての再
例外の扱いが、そのまま維持されている、とされる。
3)

河上・前掲 174 頁は、即時取得という制度は単純な占有の外観信頼保護ではなく、真の

権利者が自己の意思に基づいて動産を占有させた他人による裏切り行為があった場合に第
三者を保護する制度であるとする。
4)

川島武宜=川井健編『新版注釈民法⑺』
(有斐閣・平成 19 年)223 頁〔好美清光〕。

 なお、本稿に関連する限り、川島武宜編『注釈民法⑺』
(有斐閣・ 昭和 43 年)における
192 条∼194 条に関する記述は新版のそれと変わりがないので、注釈民法は新版をもって代
表させる。

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回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

われなければならない。なぜなら、193 条は「前条の場合において」と規定し
ていることから、
同条が 192 条を受けているのは明らかである 9)。
「前条の場合」

5)

川島=川井編・前掲 223 頁〔好美〕。もっとも、川島=川井編・前掲 224 頁〔好美〕には、

「取得者が善意である限り、その買受けの特別の状況からして類型的に無過失であると考
えられ、あえて無過失を成文上の要件として問題とするまでもない、との利益衡量だとも
いえよう」との記述も見られ、単純な立法上のミスと断定しているわけではない。佐久間
毅『民法の基礎 2 物権 第 2 版』
(有斐閣・ 平成 31 年)157 頁もまた、194 条に無過失が規定
されていないのは、競売等で善意で買い受けた者には過失がないためと考えられるからで
ある、したがって、194 条は 192 条の即時取得の要件を緩和するものではない、とする。「こ
の場合〔競売等において動産を買い受けた場合〕は、丙〔盗品・ 遺失物の購入者〕に対し
乙〔店舗経営者〕が無権利者だと疑うことを要求することはまずできず、そんなことをし
たら取引は実に危険となるので、丙は特に保護に値するからである」とする星野・ 前掲 76
頁も同様。末弘厳太郎『物権法 上巻』
( 有斐閣・ 大正 10 年)273 頁が、194 条で「善意」
のみが要求される趣旨を「占有者が其物の不正品なることを知らないのも至極尤もだから」
とするのも同趣旨と思われる。
 なお、最判昭和 39 年 5 月 29 日民集 18 巻 4 号 715 頁は、動産の競売においては「動産の強
制競売における競落人は、動産が占有者である債務者の所有に属し、執行吏にこれを競売
する権限があると信ずるのが普通の事例であるから、たとえ右動産が第三者の所有に属す
るとしても、競落人には、第三者の所有であることを疑うに足る特段の事情のない限り、
右動産の所有権者を確認するための調査をする義務がないものと解するのを相当とし、
従って、競落人が右調査をしないで右動産を債務者の所有に属すると信じたとしても、か
く信じたことにつき過失があつたものとなし得ず」として、原則として過失は認められな
いものとする。ただし、参照条文として挙げられているのは 192 条であって 194 条は挙げ
られていないことから、194 条で無過失が要件とされないことの直接的な理由と考えるに
適した判例ではない。
6)

石田穣『物権法』
(信山社・平成 20 年)289 頁、生熊長幸『物権法』
(三省堂・平成 25 年)

290 291 頁。
7)

本文では 194 条に独自の要件として無過失を要求するものとしてこの見解を位置付け

た。しかしこの見解を、193 条が「前条の場合において」として 192 条の善意・ 無過失を
そのまま移入しているのと同様に、192 条の無過失要件が 194 条においてもそのまま移入
されるに過ぎないとする見解であると解することも不可能ではない。もっとも、善意は
192 条と 194 条とで別途要求しておきながらそれと並置される無過失については 192 条と
194 条とで全く同じものと解するのが不自然であることは否めない。とりわけ、後述のよ
うに、192 条と 194 条とでは一応は善意の対象が異なることからすれば、このような理解
はすべきではないだろう。

137

論説(直井)

とはいかなる場合を指すのか見解は分かれる 10)ものの、いずれの見解に立って
も善意・ 無過失が 193 条の要件に含まれることに変わりはない。そして 194 条
は 193 条の特則とされるのであるから、193 条で要求される善意ならびに無過
失は 194 条でも要求されることとなる 11)。したがって、193 条が要求している
8)

これとは反対に競売・ 公の市場で買い受けたときは悪意であっても代価の弁償を受け

るとして、194 条の「善意で」という文言を無視する見解もある。その理由は、競売もし
くは公の市場における取引の信用を一層強固なものとすること、これらの売買は公然のも
のであって被害者・ 遺失者が他人に先んじて無償でその物を回復しうる機会を有するのに
それを怠って他人が購入するに任せたものであることにある(松波仁一郎=仁保亀松=仁
井田益太郎『帝国民法正解 第 3 巻』
(有斐閣書房・ 明治 29 年)325 327 頁)
。動的安全を強
化するために盗品・ 遺失物の例外を極力認めないという見解は現在でも存在するところで
あり、立法論としては傾聴に値するが、明文規定を無視する点で採用し難いことから、本
稿ではこれ以上は取り上げない。
9)

大判昭和 4 年 12 月 11 日民集 8 巻 923 頁。最判昭和 59 年 4 月 20 日判時 1122 号 113 頁も、
「民

法一九三条によれば、動産に関する盗品の被害者は、同法一九二条所定の善意取得の要件
を具えた占有者に対してその物の回復を請求することができるとしているから、同法
一九三条は、盗品の被害者が右の要件を具えない占有者に対してその物の返還請求権を有
することを当然の前提とした規定であるといわなければならない。」と判示する。
 すでに昭和 4 年判決以前に、『法典質疑問答 民法物権 全 第 4 版』
(有斐閣書房・ 明治
42 年)64 頁〔塚田達二郎〕は、遺失主が遺失物の回復請求ができるのは「遺失物ノ占有者
カ第百九十二条ニ依リ権利ヲ取得シタル場合ニ限ル」とし、中島玉吉『民法釈義 巻之二 
物権

上』
( 金指芳流堂・ 大正 3 年)192 頁は、占有が 192 条の要件を具備しない場合には

193 条は適用されないと明言していた。
10) 192 条の「前条の場合において」とは、前掲・大判昭和 4 年 12 月 11 日の言うように「平
穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者」が「善意であり、かつ、過失がないとき」に
係るものとするか、それとも 192 条の全体を受けて善意占有者が権利を取得する場合にお
いてと読むかは、文言のみから形式的に決することはできない(末川博「昭和 4 年判決判批」
法学論叢 24 巻 3 号(昭和 5 年)448 頁)。いずれであるかによって、回復請求以前の所有権
の所在が変わってくる。
11)「本条〔194 条〕ハ占有者カ善意ニテ第百九十二条ノ条件ヲ具フル場合ニ之ヲ回複スル
場合ニ適用セラルゝモノナルカ故ニ悪意ノ占有者ヨリ回複ヲ為ス場合ニハ本条ノ適用ナ
シ」とする中島・ 前掲 195 頁、「〔194 条の〕法文上は無過失は必要とされていないが、沿
革および民 193 条の例外という位置づけから占有者は民 192 条の要件を満たす必要があ
る。」との松岡久和=中田邦博編『新・ コンメンタール 民法(財産法)』
(日本評論社・ 平
成 24 年)333 頁〔松岡久和〕は、この点を特に明確にしている。

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回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

善意を 194 条で再度規定する理由はなく、無過失については、193 条が要求し
ている以上は改めて 194 条が規定しないのはむしろ当然であるようにも見え
る。すなわち、立法技術上のミスというならば、194 条に「無過失」を付加し
なかったことではなく、194 条の「善意」を削り忘れたことこそがミスであっ
たとも考えられるからである。現に、敢えて 194 条の「善意」という要件を無
視しているかのように見受けられる見解も存する 12)。
もちろん、立法技術上のミスなどと軽々に論じるべきものではない。まずは
192 条から 194 条を整合的に解釈する方法を追求すべきである。
 まず考えられるのは、192 条の「善意」と 194 条の「善意」とは異なる
内容であるから 192 条の「善意」に加えて 194 条の「善意」を要求することは
重複にはあたらないとの考え方である。
192 条の「善意」とは、
「動産の占有を始めた者において、取引の相手方が
その動産につき無権利者でないと誤信し」たことを指す 13、14、15)。これに対して
194 条の「善意」とは、買い受けた動産が盗品・ 遺失物であることを知らない
ことを指す 16)。
192 条の「善意」に加えて 194 条の「善意」が要求されることに独自の意味
があるのは、192 条の「善意」は満たすが 194 条の「善意」は満たさないとい
うケースである。そのようなケースはあるのだろうか。前述した定義によれば、
取引の相手方がその動産について無権利者ではないと誤信しつつ、当該動産が
盗品・ 遺失物であることは知っているケースが存するのかが問題となるわけ
12) 広中俊雄『物権法 第 2 版増補』
(青林書院・ 昭和 57 年)201 頁は「被告が 194 条にいう
「競売若クハ公ノ市場ニ於テ又ハ其物ト同種ノ物ヲ販売イル商人ヨリ……買受ケタル」こ
「公ノ市場」には

と(      
[後
広く店舗を含む )を立証して「代価」の弁償と引換に返還すべき旨を主張したときは、
略]」とするが、ここでは「善意ニテ」の 4 文字のみが省略されている。単にスペースの関
係であえて 4 文字のみを省略するとは考え難く、「善意」の位置づけに苦慮したことが窺わ
れる。
 田島順『物権法』
( 弘文堂書房・ 昭和 10 年)132 頁、星野・ 前掲 76 頁、七戸克彦『物権
法Ⅰ』
(新世社・ 平成 25 年)155 頁、河上・ 前掲 174 頁(ただし、同書 176 頁では、「194 条
の善意占有者による代価弁償請求」とする)も、194 条の要件から「善意」を外している。

139

論説(直井)

である。これを満たすためには、盗品・ 遺失物について処分権原を有する者
というものを観念しなければならなくなる。もちろん、盗品・ 遺失物の真の
所有者は処分権原を有するが、真の所有者が動産を処分することができたので
あれば、その動産は盗品・ 遺失物ではなくなっているから、この場合は除外
13) 最判昭和 26・11・27 民集 5 巻 13 号 775 頁。富井政章『民法原論 第 2 巻物権』
(有斐閣・
大正 3 年)692 頁、我妻・前掲 220 頁、松岡久和『物権法』
(成文堂・平成 29 年)210 頁等も
同様である。
 これに対して、「前主が所有権者でないことを知らず、それについて過失がないという
こと」とする星野・ 前掲 74 頁のように誤信の点を強調しない見解もある(田島・ 前掲 130
頁も同様。)。松波=仁保=仁井田・ 前掲 306 頁が 186 条の説明を参照させ、同書 245 頁が
186 条の「善意」を「占有者カ自己ニ占有ヲ為ス権ナキコトヲ知ラスシテ物ノ占有ヲ為ス
ハ善意ニ占有ヲ為スモノナリ」と説明するのもこうした見解に立つものである。この見解
では前主の無権利の側面が無視されているようにも見えるが、同書 307 頁には、「前例ノ如
キ場合ニハ占有者ハ通常相手方ニ権利ナキヲ知ルカ少クトモ心中之ヲ疑フヲ以テ多クハ悪
意ノ占有者ト為ル」とあるので、前主の無権利についても無視しているわけではない。
 舟橋・前掲 241 頁は「前主が無権利者であることを知らず(善意)、かつ、知らないこと
について過失のないこと(無過失)をいう」としており、後説に立つようにも見える。し
すなわち、善意・

かし、「権利外観(Rechtsschein)に信頼したならば(      
(同書 230 頁)、「前主

無過失ならば )
が占有して権利外観を有していることにより、取得者が、前主にこれに対応する権利ない
し権限があるものと誤信し、かつ、誤信するにつき過失がないときは、かような誤信を保
護し、その期待どおりの効果を与える」
(同書 241 頁)といった表現を用いていることから、
前説に立つものと見るべきである。
 占有者の善意概念に関する見解の相違については、乾政彦「善意占有ニ於ケル善意ノ意
義」法学志林 15 巻 9 号(大正 2 年)66 頁以下も参照。
14) 安永・前掲② 483 頁は、条文の成り立ちからは、取得者の占有が実は本権に基づかない
占有であるが、そのことを知らず(善意)、知らないことにつき過失がないこととし、善意・
無過失は次の 2 つの場合に基礎づけられることがありうるという。第 1 は、前主が本当の
所有者であるが取得の法律行為に瑕疵があり、その瑕疵について善意・ 無過失である場合
であり、第 2 は、無権利の前主と有効に所有権移転を基礎づける(または質権を基礎づける)
行為をなし、その前主の無権利について善意・ 無過失である場合である。そして同書 484
頁は、このうち第 1 の場合について、判例も 192 条を援用することで保護される善意無過
失ではないと考えているはずで学説でも異論はないとする。同書 485 頁は、このように第
1 の場合が除外されることは、善意取得を取得する動産占有の効果と見る構造理解から、
前主の占有の有する本権表象機能を基礎とする制度であるとみる理解へと展開した結果の
当然の帰結であるという。

140

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

される。そこで考えられるのが 192 条で即時取得をした者が盗品・ 遺失物を処
分する場合となる 17)。確かに、即時取得者が即時取得した動産を処分すること
15)「無過失」については、「過失ナシトハ物ヲ占有スルニ際シテ通常ノ注意ヲ加フルコト
ヲ言フ」
(松波=仁保=仁井田・前掲 306 頁)とされる。注意すべきは同書 306 307 頁で、
「親
友朋友其他縁故アル者ヨリ物品ヲ貰ヒ受ケテ所持スルハ過失ナキ占有ナルモ一面識モナキ
行路人ヨリ貴重ノ宝玉ヲ貰ヒ受ケ一応ノ理由モ糺サスシテ之ヲ所持スルハ多クハ過失アル
占有ナルヘシ」と、誰から取得するかという点に着目していることである。もっとも、こ
こでの記述では貴重な宝玉をもらい受けた場合が取り上げられているのであり、動産の高
価性と取引の無償性も無視できない。
16) 松波=仁保=仁井田・前掲 326 頁、岡松・前掲 89 頁、中島・ 前掲 196 頁。
 近時は 194 条の善意について一切説明を加えないものも多い(例えば我妻・前掲 233 頁)。
17) 盗品・ 遺失物に即時取得が認められるかについては争いがあった(小出廉二「盗品又
は遺失物の即時取得と回復請求権」法律論叢 17 巻 2 号(昭和 13 年)4 頁以下参照)。
 富井・前掲 707 頁以下は、古来の観念に符合すること、「回復」との語義に適合すること
を理由に消極説に立ち、同様の判例もある(大判大正 10 年 7 月 8 日民録 27 輯 1373 頁、大
判昭和 4 年 12 月 11 日民集 8 巻 927 頁)。これに対して岡村玄治「盗品又は遺失物と即時取得」
法学志林 32 巻 9 号(昭和 5 年)1092 頁は、古来の観念がわが民法に採用されたとは言いき
れない、「其ノ物ノ回復」といっても「占有の回復」といっているわけではないから消極
説の根拠とできないとして、積極説に立つ。しかし、消極説の理由からは、ここでの議論
は所有権の所在に関するものにとどまり、占有者は全くの無権利者というわけではないと
いうべきである。
 なお、『ボアソナード氏起稿 再閲修正民法草案

釈 第 5 編』
( 出版者・ 刊行年不明)

720 頁(G. Boissonade, Projet de Code Civil pour l empire du Japon, t.5, 1889,p.371 の翻訳)
には、「物カ占有者ノ手ニ接スルノ前ニ数人ノ手ヲ経タルトキハ占有者ハ他ノ総テノ場合
ニ於ケルト同様ナル保護ヲ受ケサルヲ得ス失ヒ又ハ偸マレタル物ノ特別ナル一部類ヲ形ツ
クルモノト看做サル可カラス故ニ此等ノ物ハ之ヲ物ノ区別中ニ掲ケス」とある。盗品・ 遺
失物を動産のうちの特殊な類型として扱うことを否定するものであり、他のすべての場合
と同様の保護を受けるとあるから、積極説をとるものと考えられる。
 これに反して、ここでの消極説の内容を、盗品・ 遺失物については即時取得が一切成立
しえない、すなわち、占有者は全くの無権利者であると解すれば、193 条・194 条の位置づ
けが変わってくる。すなわち、193 条は盗品・ 遺失物については即時取得は全く成立しえ
ないとの原則を示したもの、194 条は 193 条の例外として競売等によって盗品・ 遺失物を
買い受けた占有者のみが例外的に代価の弁償を受ける権利を有するとしたもの、というこ
とになる。この見解は、盗品・ 遺失物とそれ以外の動産とを別に扱うものであるから、後
述する 192 条と 194 条とを切り離す見解の一種ということになる。

141

論説(直井)

は認められるだろう。このことは、193 条に基づく回復請求がなされるまでの
動産所有権の所在が被害者又は遺失者にあろうと占有者にあろうと変わりはな
いはずである。なぜなら、回復請求を受けるまでは占有者はその動産上に所有
権 18)を有効に取得したものと信じていたのだからである。そうだとしても、そ
の動産が盗品又は遺失物であると知る者が、占有者にはその動産の処分権原が
あると信じることが許されるのだろうか。そのような動産を買い受けるのは回
復請求権の行使を困難にするのだから、許されないのではなかろうか。
以上のように考えると、194 条の「善意」は屋上屋を重ねたものということ
になり、192 条と 194 条の「善意」の内容が異なることをもって、194 条の「善
意」の存在意義とすることはできない。
 それでは、194 条が 192 条の例外の例外とされることの意味を考察する
ことによって、194 条の「善意」に意味を持たせることはできないだろうか。
例外の例外とは本則に復することを意味すると理解することもできる。この
ように解した場合には、194 条においては 192 条の要件が当然に課され、それ
に加えて 194 条に独自の要件・ 効果が付加されることとなる。前述のように
192 条の「善意」に加えて 194 条で「善意」を要求することに意味はないから、
この見解に立つのであれば、194 章では「善意」を削除すべきということにな
る 19)。
これとは異なり、例外の例外とは本則に戻るという意味ではないと解するこ
とも可能である 20)。すなわち、例外の例外には本則の効力が及ぶものではない
として、194 条を 192 条から完全に切り離して理解するというものである。こ
18) 質権や譲渡担保権も 192 条によって取得される権利であるが、ここでは所有権をもって
代表させる。
19) 岡松・後掲 89 90 頁は 194 条が占有者の善意を要求したのは当然のことであるとするが、
その理由は「悪意ニテ買受タルモノ即チ他ニ真正ノ所有者アルコトヲ知ルモノハ之ヲ保護
スルノ要ナキモノトス」というのみである。これでは 192 条の「善意」に対する 194 条の「善
意」の独自性は見えてこない。
20) なお、Boissonade, op.cit., p.372 は、草案 1483 条の説明において、フランス民法 2280 条
は例外の例外を設けたが全く原則に復したわけではなかったと指摘する。

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回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

のように理解すれば、192 条の要件と 194 条の要件とは全く無関係なのだから、
194 条が 192 条とは別個に「善意」を要求しても何ら問題はない 21)。
しかし、最判平成 12 年 6 月 27 日民集 54 巻 5 号 1737 頁は、「民法一九四条は、
盗品等を競売若しくは公の市場において又はその物と同種の物を販売する商人
から買受けた占有者が同法一九二条所定の要件を備えるときは、被害者等は占
有者が支払った代価を弁償しなければその物を回復することができないとする
ことによって、占有者と被害者等との保護の均衡を図った規定である」と判示
して、194 条は 192 条の要件を備えていることを要求しており、194 条の 192 条
からの切り離しを否定する。
さらに、194 条を 192 条から切り離して理解しようとすると、193 条の位置
づけがうまく説明できないように思われる。
前述のように 193 条が 192 条を受けたものであることは明らかである。これ
だけであれば、192 条・ 193 条という一連の規定と、194 条という別系統の規
定が存在すると説明することはできる 22)。しかし、平成 16 年法律第 147 号によっ
て条文の一部として付記されることとなった見出しが 194 条にはついていな
い。193 条と 194 条が一体となって「盗品又は遺失物の回復」という見出しの
下に置かれているのである。このことは、少なくとも平成 16 年に現代語化を
行った際には 194 条を 193 条から切り離して理解するという方針は採用されな
かったことを意味する。192 条と 193 条とが一連の規定であり、193 条と 194 条
が切り離せないものである以上、192 条と 194 条も切り離せないこととなる。
21) もっとも、無過失が要求されていないことから善意・ 有過失者の扱いに問題が生じる。
すなわち、192 条によれば有過失者については即時取得は成立しないのだから、動産の真
の権利者は代価弁償なしに動産を取り戻すことができる。しかし、194 条によれば盗品又
は遺失物を競売等において善意・ 有過失で買い受けた場合であっても、占有者は代価弁償
を求めることができることとなる。これでは 193 条が盗品・ 遺失物の真の権利者を他の動
産のそれに比べて保護したことと矛盾するわけである(石田穣・前掲 288 289 頁参照)。し
かし、だからこそ 194 条においても無過失を要求すべきだとの解釈が正当化されるのだと
の反論がなされることとなろう。
22) 後述のように、フランス民法の条文構成はこのようになっている。

143

論説(直井)

そこで平成 16 年改正の際の見出しの付記方針が誤っていたのだと理解する
ことも考えられる。しかしこれでは、競売等において買い受けられる盗品・
遺失物とその他の盗品・ 遺失物とが別のカテゴリーを形成するものとして分
断されることとなる。さらに、193 条で課されている 2 年の期間制限が 194 条
の場合にはかからないこととなって 23)、競売等で買い受けた占有者は取得時効
にかかるまではいつまでも代価弁償を伴う回復請求のリスクにさらされること
になってしまう。
以上のように、194 条を 192 条から切り離して理解する試みも成功していな
いと言わざるを得ない。
⑶ 本稿では、194 条の「善意」要件をどのように理解すべきかを明らかに
すべく、193 条・194 条の沿革をたどることとする。もっとも、本稿の目的は
この点に尽きるのであって、回復請求以前の盗品・ 遺失物の所有権の所在や、
盗品・ 遺失物について即時取得に関する特則を設けることの可否を検討する
ものではない。
192 条から 194 条の原規定は、旧民法証拠編 144 条から 146 条であり、これ
はボアソナード草案 1481 条から 1483 条の 2 に由来する。また、法典調査会で
は旧民法典の規定のほかに参照条文としてフランス民法旧 2279 条・ 2280 条を
初めとする諸外国法 24)が挙げられており、ボアソナードも草案作成に際してフ
ランス民法のこれらの条文を意識していたことが伺われる。
そこで以下では、現行民法典の形成過程における法文の変容を明らかにする
という観点から、第 1 章フランス法、第 2 章ボアソナード草案、第 3 章旧民法典、
第 4 章法典調査会における審議の順に 192 条から 194 条の形成過程をたどり、

23) 最判昭和 4 年 12 月 11 日民集 8 巻 923 頁は、194 条の場合に 2 年の期間制限がかかるとす
る。
24) フランス法のほかにはロシア法、イタリア法、スイス法、スペイン法が挙げられている。
このうち、イタリア法とスペイン法は、ドイツ法等の他の外国法と並んで、志田鉀太郎「民
法第百九十二条乃至第百九十四号ノ沿革並ニ法制比較」法学新報 15 巻 5 号(明治 38 年)24
頁以下で翻訳・紹介されている。

144

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

第 5 章で第 4 章までの分析結果に基づいて 194 条の「善意」要件の有する意義
を検討する。

第 1 章 フランス法
⑴ フランス民法において動産の即時取得ならびに盗品・ 遺失物について
定めるのは、2276 条と 2277 条である。それぞれ以下のように規定する 25)。
2276 条〔即時取得〕
「① 動産に関しては、占有は権原に値する。
② ただし、物を遺失し、又は盗まれた者は、遺失又は盗難の日から起算し
て 3 年間、その物がその手中にある者に対して、その物の返還を請求すること
ができる。ただし、この者が、その物を入手した者に対して求償することを妨
げない。

2277 条〔同前:市場を経由した場合〕
「① 盗品又は遺失物の現在の占有者が、
その物を不定期市若しくは定期市において、又は公売において、又は同種の物
を販売する商人から購入した場合には、本来の所有者は、占有者に、その物の
購入に要した代価を償還してでなければ、その物を自己に返還させることがで
きない。

⑵ わが国と比較すると、盗品・遺失物に関して特別の規定を設けている点、
盗品・遺失物については一定期間は真の権利者からの回復請求が認められる点、
占有者が盗品・ 遺失物を市場等で買い受けた場合には代価の償還がなされて
初めて回復請求が認められる点は共通している。大きな枠組みはわが国とフラ
ンスとで共通しているのである。
しかし、細かな点に相違が見られる。第 1 に、条文の構造に相違がある。す

25) 翻訳は、法務大臣官房司法法制調査部『フランス民法典 ─物権・債権関係─』
(法
務資料 441 号)
(昭和 57 年)によった。
 2276 条は当初の 2279 条、2277 条は 2280 条にあたり、2006 年の民法典改正によって条文
番号が変わったが、条文内容に変更はない。2277 条 2 項は 1892 年 7 月 11 日の法律によって
追加されたものであるが、わが国の民法典起草にあたって影響を及ぼしたとは言えないこ
とから省略する。

145

論説(直井)

なわち、日本民法が 3 か条に分けて規定を置いているのに対して、フランス民
法は日本民法 192 条・ 193 条にあたる規定を 1 か条にまとめて規定する。その
ため、動産一般に関して即時取得が認められることの例外として盗品・ 遺失
物については回復請求が認められていることが明確になっている。そして、盗
品・ 遺失物に関する規定が 2276 条 2 項と 2277 条 1 項とされていることにより、
後者が前者の例外であるといった位置づけが必然ではない構造となっている。
第 2 に、即時取得の成立にあたってわが国では善意・ 無過失・ 平穏・ 公然が
要求されているのに対して、フランス民法 2276 条 1 項は法文上はそれを要求
していない。また、2277 条 1 項も法文上は占有者の善意を要求していない。第
3 に、2276 条 1 項に即時取得の要件がほとんど示されていないこととも関係す
るが、2276 条 2 項は日本民法 193 条のように直接の規律対象が善意・ 無過失の
占有者に限定されることとはならない。とりわけ、
フランス民法 2276 条 2 項は、
同条 1 項のただし書きとして位置づけられることから、盗品・ 遺失物の占有者
一般に対して、すなわち占有者の主観の如何を問うことなく適用されることと
なる。
以上が条文の文言のみから導かれる比較ということになる。
⑶ それではこれらの条文はどのように解釈されているのだろうか。
これらの条文の関係については、2276 条 2 項と 2277 条 1 項は 2276 条 1 項の
例 外 を な す も の と さ れ る。 そ の 際、 ま ず、2277 条 1 項 は 合 法 的 な 取 引(le
commerce loyal)のみが保護に値するという意味で 2276 条 1 項に対する制約で
あると説明され、次いで、真の所有者の利益は無視されていないとして 2276
条 2 項を挙げ、真の所有者が物の占有を失った状況を無視することはできない
と 説 明 さ れ る 26)。 こ こ で は、2276 条 2 項 と 2277 条 1 項 と が 2276 条 1 項 の 例
外 27)として並置されているのであって、後者を前者の例外としては位置づけて
いない。また、合法的取引の保護が先行して説明され、その後に真の所有者の
26) G. Cornu, Droit civil, Les biens, 13e éd., p.307.
27) Ph. Malaurie=L. Aynès, Les biens, 7e éd., 2017, no580 は 2276 条 2 項のみを同条 1 項の例
外として明記する。

146

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

保護が説明されることからも、2277 条 1 項は 2276 条 2 項の例外とは考えられ
ていないかのように見える 28)。しかし、こうした理解は正しいものではない。
2276 条 2 項の要件が充たされるとしても常に取戻が可能なわけではなく 2277
条 1 項が真の所有者にさらなる負担を掛けていると説明する学説が見られるの
である 29)。もっとも、わが国における 193 条と 194 条の関係とは位置づけが異
なる。わが国においては、法文上 193 条と 194 条とで占有者の主観的要件が異
なっているが、後述するように、フランス民法では解釈論上も 2276 条と 2277
条とで占有者に要求される主観的要件は一致しているからである。そのため、
公売等による盗品・遺失物の買受の場合は 2277 条、それ以外の方法での盗品・
遺失物の占有取得の場合は 2276 条が適用されるのであり、盗品・ 遺失物を取
得した場の相異という客観的な要件のみによって適用条文が分けられる。
また、法文上は善意・ 無過失は要求されておらず、これらの要否が 18 世紀
には激しく争われていた 30)が、2276 条・ 2277 条のいずれにおいてもこれが要
求されるものと解されている 31)。したがって、悪意または有過失者については
2276 条 1 項の反対解釈によって即時取得が成立せず 32)、2277 条 1 項の適用もな
いこととなる。
⑷ フランス法においては、占有者が悪意または有過失の場合には、取得時
効が成立しない限りは回復請求にさらされる。これに対して占有者が善意かつ
無過失の場合は、盗品・遺失物の場合とそれ以外の動産の場合で異なる。盗品・
遺失物以外の動産であれば回復請求にさらされることはない。盗品・ 遺失物
であれば盗難・ 遺失から 3 年以内は回復請求を受けることとなる。これは真の
所有者が物の占有を失った状況を加味してのこととされる。ただし、公売等で

28) 盗品・ 遺失物について即時取得を制約する最大の理由が合法的取引の保護にあること
は、Cornu, op.cit., p.313 が、2276 条 1 項の目的は、信頼を裏切られた真の所有者を犠牲に
するといったサンクションにあるのではなく、同条 2 項の例外が示すように、良質な取引(le
commerce de bon aloi)の保護にある、としていることからもうかがわれる。
29) Cornu, op.cit., p.315.
30) Th. Huc, Commentaire théorique & pratique du Code Civil, t.14, 1902, no514.

147

論説(直井)

買い受けた場合は占有者は代価の償還を受ける。この点は、物の起源が不正な
ものであるとは疑いえないことによって説明される。
2276 条・ 2277 条のいずれにも占有者の主観的要件は規定されていないこと
から、2277 条 1 項を 2276 条 1 項の例外の例外と位置付けても、わが国におけ
るような善意要件の重複の問題は顕在化しないものと言える。

第 2 章 ボアソナード草案
⑴ 次にボアソナード草案について検討を加える。後述するように、ボアソ
ナードはフランス民法を基本としつつも、その規定が不明確である点について
語句を補う等して明確なものとし、さらに、内容面でも変更を加えている。
ボアソナード草案のうち本稿の対象となるのは 1481 条から 1483 条の 2 であ
31) 2276 条で善意・無過失が要求されることは判例(Cass. req., 22 mai 1906, D.1906.1.351.)

学説(Cornu, op.cit., p.310;Malaurie=Aynès, op.cit., no579.)とも認めている。Malaurie=
Aynès, op.cit., no579 は、2276 条の特則である 1198 条 1 項〔動産の二重譲渡に関する規定で
ある〕で「善意(bonne foi)」が要求されていることをここで善意を要求する理由として
挙げる。善意の意味につき Cornu, op.cit., p.310 は、占有者が、取得の時点で、自己が正統
な所有者から権利を取得したと信じたこと、Malaurie=Aynès, op.cit., no579 は、占有者が
真の所有者と契約したものと信じたこととする。
 2277 条で占有者が無過失でなければならないことについても判例がある(Cass., 17 mars
1856, D.56.1.393.)。また、同条で善意が要求されるべきことについては、学説がある。
Cornu, op.cit., p.316 は、〔2277 条の規定する公売などの〕動産が取得された状況と取得者
の善意とのつながりは明白である。こうした市場において非合法な取引を保護するのは法
外であるが、疑わしいところのない公売における取得者を保護するのは自然なことである。
取得の状況は善意の証拠を補強するものと言え、占有者を保護する理由となるとし、
Malaurie=Aynès, op.cit., no583 は、2277 条 1 項におけるような物の不正な起源を疑いえな
いという要件の下では盗品・ 遺失物の取得者の主観的要件は緩和されるが、取得者の善意
は問題とされうる、とする。
32) 悪意・ 有過失者に 2276 条 2 項の適用が排除されるのかは明確ではないが、少なくとも、
同項の定める 3 年の期間制限は取戻の相手方である占有者が善意の場合にのみ適用され、
占有者が悪意の場合、すなわち占有者が盗取者・ 隠匿者・ 遺失物の発見者・ 盗品又は遺失
物を悪意で譲り受けた者である場合には、3 年ではなく 30 年の期間制限が適用されるもの
と解されている。(Cornu, op.cit., p.315;Malaurie=Aynès, op.cit., no583.)

148

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

る。以下のように定める 33)。
1481 条「① 時効ノ利益ハ正名義(juste titre)及ヒ善意ニテ有体動産ノ占
有ヲ取得スル者ニ属ス。但第 1470 条及ヒ第 1471 条ニ記載シタルモノヲ妨ケス。
② 此場合ニ於テ若シ反対カ証セラレサルトキハ占有者ハ正名義且善意ニテ
占有スルモノト推定セラル。

1482 条「① 動産物ノ占有者カ正名義ヲ有シ且善意ナル場合ニ於テモ若シ
其物カ此ヨリ以前ニ所有者ノ盗取セラレ又ハ遺失シタルモノナルトキ占有者直
チニ(directement)盗人、共犯者、発見者又ハ是等ノ者ノ代人ヨリ物ヲ収受
シタルニ於テハ其所有者ハ遺失又ハ盗難ノ時ヨリ一ヶ年間ニ在リテハ占有者ニ
対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得。但占有者カ其物ヲ有償名義ニテ受ケタ
ルトキハ占有者ヨリ其占有ヲ譲渡シタル者ニ対スル求償ヲ妨ケス。
② 本条ハ背信ニ因リテ窃取シ又ハ詐欺ヲ以テ得タル物ニ之ヲ適用セス。但
其物ハ前条ノ規定ニ従フ」
1483 条「① 遺失シ又ハ盗取セラレタル物ヲ競売又ハ公ノ市場ニ於テ又ハ
此類ノ物ノ商人若クハ古物商人ヨリ善意ニテ(de bonne foi)買受ケタルトキ
ハ所有者ハ其物ノ回復ヲ為スコトヲ得ス
② 此場合ニ於テ右ノ代価ニ付キ所有者ハ売主ニ対シテ求償権ヲ有シ又売主
ハ譲受人ニ対シテ求償権ヲ有シ斯リ如クシテ盗者又ハ発見者ニ

ル可シ。」

1483 条の 2「① 所有者前二条ノ適用ニ因リ占有者ニ対シテ物ノ回復ヲ為ス
ヲ得サル場合ニ於テハ盗人、其従犯人、発見者又ハ是等ノ代人ニ対シ物ノ価額
ニ付キ対人訴権ヲ行フ

ヲ得

② 右ノ訴権ハ取得ノ善意ナル場合ニ於テハ遺失又ハ盗取ノ時ヨリ一个年ニ
之ヲ制限ス」
⑵ 動産について即時取得が認められること、即時取得を即時の時効として
位置づけること 34)、盗品・ 遺失物について回復請求が認められうることにつ
33) 翻訳は、前掲・ 再閲修正民法草案

釈によったが、訳が漏れている部分を適宜補った。

また、翻訳の際に条文番号が 500 条ずつ大きくされているが、条文番号についてはボアソ
ナードの原案を踏襲した。

149

論説(直井)

いては、
現行法ならびにフランス民法典と共通している。またボアソナードは、
「1482 条は、フランス民法の認めた 2 種の例外を維持したもの」と述べてお
り 35)、盗品・ 遺失物について即時取得の例外規定が置かれたとの位置づけも
共通である。
盗品・遺失物についてのみ特別規定を設けた点についてボアソナー
ドは、窃盗の被害に遭い、もしくは、偶然に自己の物を失う(遺失する)とい
うのは、所有者は通常の注意に拘わらずこの予防をなし得ないものとみなされ
るべき事実であること、すなわち真の権利者に帰責性がないことを理由とす
る 36)。
⑶ フランス法との相違点は、以下の 3 点である。
 第 1 は、1481 条 1 項等が「正名義及ヒ善意」と明記し、1483 条 1 項が「善
意」と明記した点である。フランス民法では、占有者の主観的要件については
一切規定がなかったところ、それでは曖昧である 37)ことから、ボアソナードが
占有の条件として必要十分な 2 つのものとして正名義と善意とを掲げたのであ
る 38)。ボアソナードは、ここで求められている占有とは自己のために有する意
思に物質上の所持を合わせた占有であるとし 39)、
「正名義及ヒ善意」を要求す
る理由を次のように述べる。不動産については、占有によって取得時効の完成
期間を短縮するためには、占有は正名義(juste titre)と善意という 2 個の資格
を有することが要件とされている 40)。そこでフランス民法旧 2279 条(現 2276 条)
34) Boisonade, op.cit., p.365. もっとも、即時時効と称する時効の真の基礎は占有にあると
する。
35) Boissonade, op.cit., p.370.
36) Boissonade, op.cit., p.370.
 盗品・ 遺失物の場合に占有者よりも真の所有者を保護するのは、この場合の所有者が買
主に比べると不注意なところがやや少ないとみなされるためであるとする Boissonade,
op.cit., p.371 も同様。ボアソナードが真の所有者の帰責性の低さを重視していることは、
1482 条 2 項の存在からも見て取れる。
37) Boissonade, op.cit., p.367.
38) なお、ボアソナードは 1481 条はフランス民法旧 2279 条(現 2276 条)に依拠したもので
あることを明言している(Boissonade, op.cit., p.365.)。
39) Boissonade, op.cit., p.367.

150

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

の占有もこのように理解すべきであり、この占有に値するのは正名義かつ善意
の占有である、というのである。
このようにボアソナードは、即時取得における占有者の主観的要件がフラン
ス民法では曖昧であったことから、それを明らかにするために「正名義及ヒ善
意」という文言を付加する。そしてその際、即時取得を即時の時効と位置付け
たことから、不動産の取得時効に合わせて要件を定めている。
1483 条 1 項で「正名義」が要求されない理由は明らかではないが、競売等に
よる買受が「正名義」に該当するものと判断したものと考えられる。
 第 2 は、1482 条で回復請求の相手方を盗人・ 発見者等から動産を直接
に取得した者に限定した点である 41)。なぜこのような限定を加えたのか。ボア
ソナードは次のように説明する。
盗取者または拾得者から占有を取得した者は、
一般に、自己に提供された物について隠し立てがあることに気づきうるのだか
ら疑念を抱くべきである。すでに疑わしい点がある以上は、譲受の約定をして
はならないのである。よって、たとえ占有者が正名義を有しかつ善意であって
も、その占有者に対する取戻請求を許すのである。これが例外規定に対する唯
一の説明であるから、フランス民法に対して修正を加え、取戻を占有者が窃取
され遺失した物の盗取者・ 拾得者・ その共犯者・ その名代人から直接に得た
場合に限定した。物が占有者の下に到達するまでに数人の手を経たときは、他
のすべての場合と同様の保護を受ける 42)。
このようにボアソナードは、盗取者・ 拾得者から直接に占有を取得するこ
と自体に過失があると考えている。そのために、正権原があり善意の占有者に
対しても 43)、その者が直接取得者である限りは回復請求にさらされるものと規

40) フランス民法旧 2265 条ならびに現 2272 条 2 項参照。
41) 安永・前掲② 462 頁は、この点を回復請求期間の相違と並んで、フランス民法典とボア
ソナード草案の相違点とする。
 また Boissonade, op.cit., p.370 は、フランス法に比べて占有者に損失を被らせるところが
少なくなっている、とする。
42) Boissonade, op.cit., p.370 371.

151

論説(直井)

定したのである。なお、正権原並びに善意の少なくともいずれかの要件を欠く
占有者に対して回復請求ができることは、1482 条 1 項が「場合ニ於テモ」と規
定していることから明らかである。
そして直接取得者以外の者が正権原を有し善意である限りはその者に対する
回復請求を認めない理由として、ボアソナードは以下の 2 種の損害を除去すべ
きことを挙げる。第 1 は、買受や受贈を通じて動産を占有することとなった者
が予想しなかった取戻に遭うときにその個人に生じる損害、さらにはこうした
損害を被る者が多数に上ることから生じる一般的な損害、第 2 は、非常に注意
をすればその損害を何とか回避できるとしても動産取引が稀有なものとなるた
めに拡大される損害である 44)。前者は占有取得者に事後的に生じる損害、後者
は動的安全が確保されず回復請求にさらされるのを嫌うことによって動産取引
が不活発になるという事前的な損害を意味する。
こうした目的から、ボアソナードは直接取得者以外の者についてはあえて無
過失を要求していなかったのである。
 第 3 は、盗品・ 遺失物を競売等により善意で買い受けた場合には、代価
弁償による物の回復請求を認めるのではなく、物の回復請求を一切認めない点
である。
フランス法と異なる規定を置いた理由につき、ボアソナードは次のように述
べる。
フランス法がこの場合に占有者は代価の償還を受けることによって計算上は
損害がないように手当てをしつつも動産を失うこととしたのはなぜか。それは
占有者が買い求めたときの状況で、占有者にその譲渡人が所有権を譲渡する権
利を有するか否かを疑わせることができないからである。よって占有者は過失
45)
を免れるものである(exempte de faute)
というのならば、なぜ旧所有者は占

43) Boissonade, op.cit., p.373 は、盗取者・ 拾得者から直接に取得した占有者は争いの目的
である物をいまだに占有しているのであれば取戻の請求を受けるのであるから、たとえ善
意であっても責任を免れないのは勿論であるとする。
44) Boissonade, op.cit., p.368.

152

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

有者から物を奪うのだろうか 46)。このようにボアソナードはフランス法の処理
では中途半端であるというのである。
そこでボアソナードが適切と考えたのは、
占有者を保護して取戻の憂いをなくすことなのである 47)。
⑷ 以上のようにボアソナード草案はフランス民法典とは異なる点を有す
る。
まず、即時取得を認めるに際しての占有者の主観的要件を明記した点につい
ては、ボアソナードはフランス民法で不明確であった点を明らかにしたものと
いう。フランス民法においても解釈論上は善意・無過失が要求されることから、
善意要件についてはフランス法と共通している。
フランス民法典と大きく異なるのは、回復請求の相手方を盗品・ 遺失物を
盗取者・ 拾得者から直接に占有を取得した者に限定していること、競売等に
よる買受人に対しては回復請求が一切認められないものとされていることであ
る。これらの点で、フランス民法典に比べて真の権利者の保護が手薄となって
いる。このように定めたのは、
占有者自身に過失がないと解されるためである。
逆に言えば、盗取者・ 拾得者からの直接の譲受人は過失があるものと定型的
に判断される 48)ことから、回復請求にさらされることとなっている。個々の占
有者の過失の有無ではなく、動産の占有開始状況からする規範的な過失の有無
によっているのが特徴的である。

45) 競売等の場合には、取得者は一律に無過失として扱われるということである。
 この点で、占有者の過失を前提とする 1482 条と対置されるのであり、ボアソナードの構
想には整合性があったものと言える。
 窃取者・拾得者からの直接の取得者は原則として 1482 条により取戻請求を受け、競売等
によって取得した場合にのみ 1483 条により取戻請求を受けない。転得者については規定が
なく、1481 条が直接に適用されることで常に即時取得が認められる。
46) Boissonade, op.cit., p.372.
47) Boissonade, op.cit., p.373.
48) なおボアソナードは、1482 条 2 項の説明において、詐取者・ 受託者・ 賃借人・ 不実の
受託者と善意で約定した占有者は、詐欺があったことを疑いうる状況にはないという
(Boisonade, op.cit., p.372.)

153

論説(直井)

第 3 章 旧民法典
⑴ 旧民法証拠編の関連規定は以下のとおりである。
144 条「① 正権原 49)且善意 50)ニテ有体動産物ノ占有ヲ取得スル者ハ即時ニ
時効ノ利益ヲ得但第百三十四条及ヒ第百三十五条 51)ニ記載シタルモノヲ妨ケス
② 此場合ニ於テ反対カ証セラレサルトキハ占有者ハ正権原且善意ニテ占有
スルモノトノ推定ヲ受ク」
145 条「① 動産物ノ占有者カ正権原ヲ有シ且善意ナル場合ニ於テモ其物カ
所有者ノ盗取セラレタルモノ又ハ遺失シタルモノナルトキハ其所有者ハ盗難又
ハ遺失ノ時ヨリ二个年間ハ占有者ニ対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得但占
有者カ其物ヲ有償ニテ受ケタルトキハ其譲渡人ニ対スル求償ヲ妨ケス
② 背信ニ因リテ隠匿シ又ハ詐欺ヲ以テ得タル物ニハ本条ヲ適用セスシテ前
条ノ規定ニ従フ」
146 条「① 盗取セラレ又ハ遺失シタル物ヲ競売又ハ公ノ市場ニ於テ又ハ此
類ノ物ノ商人若クハ古物商人ヨリ善意ニテ買受ケタル者アルトキハ所有者ハ其
買受代価ヲ弁償スルニ非サレハ回復ヲ為スコトヲ得ス
② 此場合ニ於テハ右ノ代価ニ付キ所有者ハ売主ニ対シ又売主ハ譲渡人ニ対
シテ求償権ヲ有シ終ニ盗取者又ハ拾得者ニ

ル」

⑵ ボアソナード草案との共通点としては、第 1 に即時取得の成立に「正権
原且善意」が要求されていること(144 条 1 項)52)、第 2 に即時取得を即時時効
49) 正権原の占有・無権原の占有は、旧民法財産編 181 条が定める。
 旧民法財産編 181 条「① 法定ノ占有カ占有ノ権利ヲ授付ス可キ性質アル権利行為ニ基
クトキハ譲渡人ニ授付ノ分限ナキヲ以テ其効力ヲ生スル能ハサルトキト雖モ其占有ハ正権
原ノ占有ナリ
 ② 占有カ侵奪ニ因リテ成リタルトキハ其占有ハ無権原ノ占有ナリ」
50) 善意の占有は、旧民法財産編 182 条 1 項が定める。
 旧民法財産編 182 条「① 正権原ノ占有ハ権原創設ノ当時ニ於テ占有者カ其権原ノ瑕疵
ヲ知ラサリシトキハ之ヲ善意ノ占有トシ此ニ反スルトキハ悪意ノ占有トス」
51) 配偶者間および財産の管理人と被管理者との関係についての規定である。

154

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

として位置づけていること、第 3 に「正権原ヲ有シ且善意ナル場合ニ於テモ」
(145 条 1 項)として無権原または悪意の占有者に対しては当然に回復請求がで
きるという条文構造になっていること、第 4 に競売等における買受者であって
も善意の者のみについて規定が置かれており、かつ、ここでは正権原の有無や
過失の有無は問われていないこと(146 条 1 項)である。
第 4 点に関連して、146 条で「無過失」が要求されない理由については、「占
8

8

8

有者カ其盗取物又ハ拾得物ナリシニ心付カサリシモ是レ決シテ不注意ナリト云
53)
フヲ得ス」
〔圏点原文〕
とされていることから、競売等での買受の場合は定型

的に過失が認められないものと解されていたと推測される。善意の内容は説明
されていないが、
「人民カ公ノ信用ニ因リ為シタル契約」と説明するものが見
られ 54)、また、
「其道ノ商人等カ盗贓又ハ遺失品ヲ売ルカ如キハ最モ非常ニシ
テ買主ノ意想外ノ事」とされる 55)ことから、その動産が盗品・ 遺失物である
ことを知らないことと解してよいだろう。
⑶ 他方、ボアソナード草案との相違点としては、第 1 に 145 条 1 項にはボ
アソナード草案にあった「直チニ」の文言が欠落していること、第 2 に競売等
における善意の買受人に対して代価の償還により回復請求が可能とされたこと
である。その結果、フランス法に近接することとなった 56)。
各条文の相互関係については、144 条の説明において、「第百四十五条及ヒ
第百四十八条ノ場合ハ特別ナリトス」とされ 57)、146 条の説明では、「前条ノ
52) なお、岸本辰雄『民法正義 証拠編』
(新法

釈会・ 刊行年不明(明治 23 年か?))609

頁は、144 条の説明において「買主等ニ至リテハ其売主ノ真所有者ニ非サル

ヲ知ラサリ

シトテ些兒ノ過失トモ云フ可カラサル」としており、無過失を要求するようにも見られる。
53) 岸本・前掲 616 頁。磯部四郎『大日本新典民法釈義 証拠編之部』
(長島書房・明治 26 年)
384 頁も同様。
54) 岸本・前掲 616 頁。
55) 磯部・前掲 385 頁。
56) 安永・ 前掲② 462 頁は、旧民法典において盗品・ 遺失物については、フランス法と同
様に例外的な扱いがなされているところ、相違点は、回復につき、フランス法が 3 年の期
間を認めるのに対し、旧民法は 2 年間とする点のみであるという。
57) 岸本・前掲 606 頁。

155

論説(直井)

場合ニ於テ」との表記が見られる 58)ことから、145 条・146 条は 144 条の例
外 59)、146 条は 145 条の例外と位置付けられている 60)。
このように 146 条は 145 条の例外とされるわけだが、第 1 の相違点があるこ
とによって、146 条が 145 条の例外とされることの意味が異なってくる。ボア
ソナード草案の場合は、原則としては盗取者・ 拾得者からの直接の取得者の
みが回復請求を免れるのに対して、中間者が介在していても、競売等で入手し
た場合は無過失だから例外的に占有者が保護されるとされる。すなわち、中間
者が介在していてもという部分が例外となる。これに対して旧民法典では、
145 条には占有者の直接取得という要件はないから、競売等によるときに限っ
ては代価の償還を要する点で占有者保護が手厚くなっている。すなわち、競売
等における買受であるという、占有者の動産取得手段が例外をなすことになる
のである。
また、第 1 の相違点があることによって回復請求の相手方は盗品・ 遺失物の
占有者一般に拡大されたわけであるが、回復請求が認められる理由は、正権原
を有し善意であっても商人等ではない素人から取得した占有者には過失がある
ことに求められている 61)。こうした説明自体はボアソナードにも見られたとこ
ろであるが、ボアソナードの場合は盗取者・ 拾得者からの取得者のみが回復
58) 岸本・前掲 615 頁。
59) 岸本・ 前掲 611 頁でも、「本条〔145 条〕ハ前条ニ対スル二個ノ例外ヲ規定」したもの
とされる。
60) 堀三友ほか『民法疏義 証拠編』
(岡島宝文館・ 明治 25 年)444 頁も、146 条は 145 条に
規定する例外法の例外であるとする。
61) 岸本・ 前掲 612 頁、磯部・ 前掲 382 頁。岸本は「素人ヨリ(第百四十六条ノ場合ニアラ
ス)取得シタル者」は過失があるとするのに対し、磯部はこのような説明を加えていない。
しかしながら磯部・ 前掲 385 頁は、146 条の説明において、145 条を「単ニ通常人間ノ授受
ヲ想像シタル」とするとしていることから、岸本と同様の見解であると言える。
 これに対して堀ほか・前掲 442 頁は、窃取者・拾得者から物の占有を取得した者は、「多
クノ場合ニ於テ此等ノ者ヨリ己レニ提供シタル物ニ付キ多少隠密ノ廉アル

ヲ発見シ従テ

胸中自ラ疑心ヲ起サヽルヲ得サルヘシ斯ク多少ノ疑点アルトキハ之ヲ譲受ケ占有スルニ於
テ憚カル所ナカル可カラス」とのボアソナードと類似の説明を加えるのみである。

156

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

請求の相手方であったから、これらの者の占有態様に疑わしい点があることが
過失の根拠となった。これに対して岸本や磯部においては、競売や公の市場等
を通じて取得しないこと自体が過失の根拠ということになる。146 条 1 項に列
記された状況以外での動産取引には慎重な姿勢がうかがえる。
他に、真の所有者に帰責性がないという観点からの説明も見られる。「是レ
如何ナル場合ニ於テモ所有者ニ過失ナキハ則チ同一ナレハ之ヲ保護セサル可カ
62)
ラサルカ為メニシテ修正其当ヲ得タルモノト謂フ可シ」
というのである。

以上からは、ボアソナードが占有者の過失の有無にのみ重点を置いていたの
に対して、旧民法典では占有者の過失の有無と同時に真の権利者の帰責性欠如
が盗品・ 遺失物について特則を置く理由となっていることが明らかとなる。
第 2 の相違点、すなわちボアソナード草案と異なりフランス民法典と同様に
代価の償還を認めた理由としては、146 条で認められた場合には相当の手を経
て目的物が移転してきており、かつ、購入時の状況も占有者に譲渡人の処分権
原について疑わせる廉がないのだから、占有者には過失がないことが挙げられ
ている 63)。占有者には過失がないことを理由とする点は、ボアソナードと同様
である。しかし、ボアソナードと異なる処理方法を規定した理由についての説
明は見受けられない。

第 4 章 法典調査会での審議
法典調査会に提出された草案は、現代語化される前の民法典の法文とほぼ同
じ 64)である。そこで法文を提示することはせずに、法典調査会での議論を検討
していくこととする。

62) 岸本・前掲 614 頁。
63) 堀ほか・前掲 445 頁。岸本・前掲 616 頁、磯部・前掲 384 頁も不注意がないとする。
64) 即時取得によって得られる権利を所有権としていた点が異なっていた。法典調査会で
は修正の試みはすべて否定されたものの、衆議院に提出された議案ではすでに平成 16 年の
現代語化以前の条文と全く同じものとなっている(広中俊雄編著『第九回帝国議会の民法
審議』
(有斐閣・昭和 61 年)294 頁)。

157

論説(直井)

⑴ 192 条から 194 条の起草を担当したのは穂積陳重のようである。
穂積はまず、即時取得の性質を説明する。穂積によれば、192 条は元々は即
時時効の規定として構想されたが、起草者たちは、占有の結果として所有権を
取得するのを時効の規定として整理するのは不都合であると考えた 65)。その理
由は、即時時効というのは自家撞着であること、すなわち、時の経過によって
効果が生じるのが時効であるのに、即時時効では時が経過していないことに求
められる。そして時効は時の経過であるというのが根本と定まった以上は、既
成法典のように即時取得規定を時効の箇所に配置することができなくなってき
たために、占有の効力の箇所に配置したものだという。ここに旧民法典に至る
まで一貫して見られた即時取得は即時時効であるとの見解からの一大転換が見
られる。
これに対しては、箕作麟祥が、192 条は所有権取得の方法の箇所に規定すべ
きではないかと質問する。これに答えた穂積は、起草者間で議論したわけでは
なく単なる私見であるが所有権取得の方法の箇所には所有権取得のみに関わる
ことを規定したのであって、192 条の主眼を所有権の取得に置くというのであ
れば、所有権取得の方法の箇所で規定してもよい 66)、即時取得は占有の最も顕
著な効果であることから占有権の効力の箇所に配置するのが便利であろうと考
65)『法典調査会民法議事速記録 一』
(商事法務研究会・昭和 58 年)
(以下「速記録一」とす
る)657 頁〔穂積陳重〕。
 もっとも梅は、立法後においても 192 条を時効規定と理解しているようでもあり、梅謙
次郎『民法要義 巻之二 物権編』
(有斐閣書房・ 明治 44 年)
(以下「梅・ 前掲①」とする)
8

8

8

8

8

8

8

8

59 頁には「本条〔192 条〕ハ所謂瞬間時効又ハ即時時効(prescription instantaneé)ニ関ス
ル規定ナリ」
〔圏点原文〕との表現が見られる。しかし梅・前掲① 60 頁は「時ヲ要セサル時
効アルヘキ謂レナキカ故ニ其不当ナルコトニ既ニ之ヲ述ヘタリ」として時効規定ではなく
占有の効力として理解すべきものと説明していることから、「所謂」という形で読者の理
解を簡便にしたにすぎず梅自身は 192 条を時効規定とは考えていないことは明らかである。
とはいえ梅・ 前掲① 61 頁は、192 条の要件は不動産の取得時効に関する 162 条 2 項と同じ
であるとのボアソナードと類似の見解を述べ、特別の保護を受けるべき占有者は動産につ
いても不動産についても同一であるのが当然だからとしており、時効規定との関連性を全
面的に否定するものではない。

158

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

えたのであるとした 67)。また梅は、起草者間では異議がなかったから協議をし
なかったのである。所有権取得の方法の箇所には、純然たる所有権取得だけの
問題を規定したのである、として占有権の効力箇所への存置を主張した 68)。箕
作はなおも遺失物に関する規定(240 条)が所有権の取得の箇所にあることか
ら、遺失物についてだけでも所有権の取得の箇所に入れた方が良いとした 69)も
のの、この直後に別の問題点が指摘されたため、即時取得の性質に関する議論
は終結した。ここで注目すべきは、即時取得は即時時効であるとの見解からの
反対論が全く見られなかったことである。
⑵ 次いで穂積は 192 条の趣旨を説明する。穂積は、192 条は自然の結果で
はなく、公益のために所有権取得の簡易な方法を設けたものである。こうした
結果をいかなる場合にも一律に及ぼすのは真の所有者にとって酷であるから、
真の所有者の保護と並んで善意かつ公然平穏な占有者も保護することができる
のであればそうした方が良い、という 70)。真の権利者保護と占有者保護の双方
のバランスを強調する見解であり、占有者の帰責性に重点を置いていたボアソ
ナードの見解とはやや重点の置き方を異にするものと言えよう 71)。
旧民法証拠編 144 条 1 項が「正権原」を要求していたのに対して 192 条は「無
過失」を要求する。この点については、162 条に関する法典調査会での議論の
中で説明がなされていた 72)。梅は、正権原では

子定規であるから過失の有無

66) なお、穂積は後述のように、192 条は公益のために所有権取得の簡易な方法を定めたも
のとする(速記録一 661 頁)。
67) 速記録一 657 頁〔穂積〕。
68) 速記録一 658 頁〔梅謙次郎〕。
69) 速記録一 658 頁〔箕作麟祥〕。
70) 速記録一 662 頁〔穂積〕。
71) 192 条の趣旨につき、松波=仁保=仁井田・ 前掲 310 311 頁は、占有者を保護すること
で占有者が動産取引を容易になしうるものとした(「取引ノ安全ヲ保ツ」)ものとして真の
権利者が害される場合があってもやむを得ない。他方で、真の権利者に過失があるとの理
由や、物を返還すべきものとすると物が転々流通していた場合には多くの訴訟を生じて面
倒であるとの理由は「寧ロ附随ノ理由ナリ」とする。ボアソナードの見解に比較的近いも
のと言えようか。

159

論説(直井)

を問う方が良い結果が得られると考え、ドイツ民法草案に言及する。これのみ
ではわかりにくいことから、後年の梅の著作も合わせて見ておく 73)。梅によれ
ば、正権原ある有過失者よりも正権原なくとも無過失の者を保護するべきであ
る。ローマでは初めは過失なき善意占有を要するとの意味であり、ただ過失が
ないとするためには通常は権原を要するとしたにすぎない。ローマ法には数多
くの例外があって、権原がなくとも占有者に過失がなければ時効の利益を受け
るものとしている、と説明される。以上の説明からは、正権原と無過失とは別
個の要件として理解されていた 74)こと、ローマ法の結論を維持するのに適切な
要件として正権原の代わりに無過失が選択されたことがわかる。
ところが 192 条の善意・ 無過失の内容に関しては全く議論がなされなかっ
た 75)。
⑶ 193 条について穂積は、192 条の例外として 76)真の所有者を保護するも
のという 77)。そして、旧民法証拠編 145 条と実質において少しも変わりはない
つもりであり、旧民法証拠編 145 条 1 項但書ならびに同条 2 項はわかりきった
ことだから省略したとする 78)。
このように起草者の主観では盗品・ 遺失物の回復請求に関しては旧民法典
72) 速記録一 515 頁以下〔梅〕。
73) 梅謙次郎『訂正増補民法要義 巻之一 総則編』
(有斐閣書房・ 明治 44 年)
(以下、「梅・
前掲②」とする)410 412 頁。
74) 後の見解であるが、横田秀雄『改版増補 物権法』
(清水書店・大正 7 年 20 版)224 頁は、
正権原の占有であることは、明文規定がないが善意無過失のうちに含まれており、法律の
主眼が権利を取得したものと信ずべき正当の理由を有する者を保護することにあることか
ら、正権原が必要であるとする。
75) これはおそらく、162 条 2 項と同様と解されたためであると考えられる。
 梅は 192 条の説明においては「善意」・
「無過失」の内容を明らかにしていない。162 条 2
項の「善意」とは「自ラ其所有者タルコトヲ信スルヲ云フ」、「過失ナキ」とは「普通人ノ
為スヘキ注意ヲ為スヲ云フ」とされる(梅・前掲② 409 頁)。
76) 梅は、一方では即時時効によって所有権を取得するが、193 条の場合だけはまだ所有権
は取得していないということを明らかにするために、192 条の例外として 193 条を掲げた
ものとし(速記録一 666 頁〔梅〕)、穂積は、193 条では所有権が移らないという点が 192 条
の例外であるとする(速記録一 669 頁〔穂積〕)。

160

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

と同様の規定とされている。しかしながら、以下の相互に関連する 2 点に注意
しなければならない。
第 1 は、冒頭に「前条ノ場合ニ於テ」という文言が付加されたことである。
穂積によれば、
「前条ノ場合ニ於テ」という文字は当初はなかったが、ことさ
らに付加したものである。通常 192 条で即時取得が成立して所有権を取得する
が、193 条の場合だけはまだ所有権は取得していないということを明らかにす
るためにことさらに前条の例外として 193 条を掲げたのであるという 79)。
「前
条ノ場合ニ於テ」という文言が付加されたことによって 193 条の適用範囲は占
有者が善意・無過失・平穏・公然な占有をする場合に限定されることとなった。
しかし、起草者は 193 条の適用範囲を限定することを目的としたのではなく、
192 条が適用される場合と対比して、193 条が適用される場合に限っては占有
者に所有権が移転しないことを明らかにしようとしたのである。すなわち、
192 条・ 193 条とも、善意・ 無過失・ 平穏・ 公然たる占有者のみを念頭に置い
た規定である。悪意または有過失の占有者は念頭に置かれていない。このこと
は第 2 点と関わってくる。
第 2 は、旧民法証拠編 145 条 1 項では「場合ニ於テモ」とされていたのが「場
合ニ於テ」とされたこと、すなわち「モ」の文字が削除されたことである。わ
ずか 1 文字であるが、この点は以下のように条文の内容に重大な変化をもたら
す。
旧民法証拠編 144 条 1 項・145 条 1 項のいずれにも「正権原ヲ有シ且善意ナル」
との文言があり、現行法の起草過程において 192 条の文言が「正権原」から無
過失と変更されたのであるから、193 条で「前条ノ場合ニ於テ」と規定しても
特段の問題点はないように見える。しかし「モ」が削除されたことによって、
77) 速記録一 662 頁〔穂積〕。梅・前掲① 62 頁、松波=仁保=仁井田・ 前掲 320 頁も同様。
 なお富井・ 前掲 687 688 頁は、192 条こそが所有者以外の者がした処分を有効とする点
で一般原則に対する例外であるとする(同書 692 頁も同様)。
78) 速記録一 661 頁〔穂積〕。
79) 速記録 666 頁〔穂積〕。

161

論説(直井)

旧民法証拠編 145 条 1 項が占有者に正権原がない場合や悪意の場合をも包摂し
た規定であったこと、
すなわちこれらの場合は当然に回復請求が可能であるが、
このほか、旧民法証拠編 145 条 1 項の要件を満たす場合においても占有者に対
する回復請求が可能という意味であったのが変容してしまったのである。193
条が直接適用されるのは占有者が善意かつ無過失の場合のみということにな
り、勿論解釈の部分が消えてしまったわけである 80)。
また、193 条が盗品・ 遺失物のほか詐取された動産等にも適用されるか 81)に
ついて穂積は、詐取とか受寄物消費とかよりも一歩甚だしい盗品・ 遺失物と
いうものは確かにわかることと、詐取・ 受寄物横領の場合は真の権利者に不
注意があるから 193 条の保護を与える理由がないと「見タモノデアラウト思ヒ
マス」から、盗品・ 遺失物に保護を止める「コトニナッテ居ルモノジヤラウ
ト思ヒマス」とする 82)。ここからは 2 つのことが明らかになる。第 1 に、本条
においてもやはり真の権利者の保護と占有者の保護の双方のバランスが重視さ
れていること 83)、第 2 に、もっぱら伝聞調の理由付けがなされていることから、
盗品・ 遺失物に限定して即時取得の例外を設けることについて穂積の独自性
はないこと、である。したがって、ここからも 193 条があえて悪意または有過
失の盗品・ 遺失物占有者に対する回復請求を否定したものではないと結論付
けられる 84)。
⑷ 194 条は旧民法証拠編 146 条 1 項に文字の修正を加えただけのものであ
80) とはいえ、前条の趣旨説明に見る如く、穂積は真の権利者保護と占有者保護とを同時
に目的としていた。したがって、善意・ 無過失・ 平穏・ 公然でない占有者に対する回復請
求をあえて否定する、すなわち、盗取者・ 拾得者・ それらの者の悪意または有過失の特定
承継人については占有訴権を行使すれば足りるとの見解を支持するものとは考え難く、旧
民法と実質的に変わりはないとの説明に偽りはないことになろう。
81) 土方寧の質問である。
82) 速記録一 662 頁〔穂積〕。
83) このことは、土方が遺失主には詐欺の被害者の場合と同等に落ち度があるから遺失物
の場合も真の所有者を保護するのは妥当ではないとするのに対して、穂積が全体としては
遺失物の場合の方が真の権利者の過失が少ないと評価できるとする(速記録一 663 頁)点
にも現れている。

162

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

り、実質において異なるところはなく、
「善意」のみが要求されており無過失
に言及されない点も変わりはない。法典調査会では趣旨等の説明もなされてい
ない 85、86)。ただ、横田國臣の質問を受けて 194 条は 193 条の例外であるとする
のみである 87)。これを受けた横田は、194 条を 193 条 2 項として「若シ競売若
シクハ公ノ市場ニ於テ又ハ其物ト同種ノ物ヲ販売スル商人ヨリ前項ノ物件ヲ買
受ケタルトキハ」とすれば 2 年という期間制限も当てはまるとする 88)。梅は条
文構成を変容させて 194 条を 193 条 2 項とする点については賛成しないものの、
194 条には 2 年の期間制限がかかるとの見解に立つ 89)。いずれも 193 条と 194 条
とを一体のものとして理解する。
84) さらに、横田國臣が、この「占有者」とは 192 条の善意かつ無過失の占有者を指すのか
確認したのを否定して、穂積は 193 条の「占有者」にはすべての者が入るとする(速記録
一 668 669 頁〔穂積〕)。もっとも、穂積も「前条ノ場合ニ於テ」の文言があるから、直接
に適用されるのは善意・ 無過失の占有者であることは認めており、この文言の挿入によっ
て生じる解釈の変化に全く無頓着であったわけではない。
85) 速記録一 669 頁〔穂積〕。旧民法証拠編 146 条 3 項〔2 項の誤りと思われる〕については、
特別にこうした規定を置く必要はないものと考えたとする。
86) 衆議院においては穂積が「本条ノ精神ト云フモノハ、盗品又ハ遺失品ヲ一己人ガ窃ニ
売渡ストカ云フノヲ防グ精神デゴザイマスカラ、何人ナリ買人ヲ集メテ大勢ノ真中デ売渡
スト云フヤウナコトデアリマスルト、其買主ニ於キマシテモ是ハ不正品デハナイ、相当ノ
モノデアラウト云フ信用ハ自ラアル」
(広中編著・ 前掲 153 頁)としており、194 条に規定
するような状況では買受人の信用が保護されるべきであることを指摘する。
 また、松波=仁保=仁井田・ 前掲 325 頁は、競売・ 公の市場における取引・ 商人となす
取引に関する信用を強固ならしめるものとし、無償で回復されてしまうのでは誰もが物を
買うのに不安の心を起こし一般の取引を遅緩ならしめ遂には商業の衰退を来すとする。
 このような取引の安全を強調する見解に対し、富井・前掲 709 頁は、「此等ノ場合ニ於テ
ハ占有者ハ買得ノ際其物ノ瑕疵(盗品又ハ遺失物ナルコト)ヲ覚知スルコト能ハサルヲ常
トス従テ之ヲ買受クルモ何等ノ過失アリト謂フコトヲ得ス」と買受人の無過失に重点を置
いた説明をする。梅・前掲① 64 頁も同様。
87) 速記録一 669 頁〔穂積〕。速記録一 666 頁〔穂積〕にも「尚ホ本条〔193 条〕ニ対シテ例
外ヲ出シマスル為メニ次ノ百九十四条ヲ置キマシタ」との発言が見られる。
 後の著書であるが、梅・ 前掲① 64 頁も、「本条〔194 条〕ノ規定ハ前条ノ規定ニ対スル
一ノ制限ニシテ稍々第百九十二条ノ本則ニ復帰セントスルモノナリ」とする。
88) 速記録一 670 頁〔横田〕。

163

論説(直井)

横田の発言には、もう 1 点注目すべきものがある。それが、「善意ト云フコ
トモ前ニナイカラシテ勿論ノコトニナラウト思ヒマス」との発言 90)である。こ
の発言が何を言わんとしたものであるかはわかりにくい。「前」というのは
193 条を指すと思われる。193 条にも善意という文言がないのだから、194 条の
内容を 193 条 2 項に入れるのであれば、
「善意」という文言を削除しても問題
はないと横田は考えているようである。すなわち、193 条では省略されている
「善意」の内容と 194 条の「善意」の内容とは同じものと考えているのではな
いか。したがって、この横田の見解は、194 条の「善意」は本来的には不要で
あるとの考えを示唆するものとも考えられるのである。同様の示唆は次のやり
取りからも得られる。横田の提案を受けた富井は、194 条をこのままで 193 条
の 2 項にしてはどうかと問い、それに対して横田は「此儘テモ意ハ同ジコトデ
アル」と答えている 91)。これによれば、
「善意」という文言のある 194 条をそ
のまま 193 条 2 項とするのと「善意」という文言のない横田の提案とは「意ハ
同ジ」ということだから、主眼は 194 条の場合であっても 2 年の期間制限がか
かることを明確する点にあるとしても、横田は 194 条に「善意」という文言を
残しておくことに意味はないものと考えていると思われるのである 92)。ところ
が横田の修正案には賛同がなくうやむやになってしまった。

第 5 章 検討
以上、フランス民法典からボアソナード草案・ 旧民法典を経て現行法の規
定が形成されるまでの過程を見てきた。
この中ではボアソナード草案が、盗品・ 遺失物を盗取者・ 拾得者から直接

89)「百九十三条ニ於テ盗品又ハ遺失物ハ二年間デナケレバ回復ハデキヌト云フコトハ極マ
ツテ居ルノデアル百九十四条ニモ斯ウ云フ事情ガアレバ代価ヲ弁償シナケレバナラヌト云
フノデ百九十三条ニ於テ特別ニ保護スベキ理由ガアツテモ代価サヘ払ヘバ十年デモ宜シイ
ト云フ解釈ハ出テ来ヤウ筈ハナイト思ヒマス」
(速記録一 670 頁〔梅〕)。
90) 速記録一 670 頁〔横田〕。
91) 速記録一 670 頁〔富井・横田〕。

164

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

に取得した者に対してのみ回復請求を認めていた点、が特筆される 93)。また、
即時取得の成立要件としてボアソナード草案と旧民法典では正権原と善意が要
求されていたのが、現行法では善意・ 無過失と変更されている。これは結論
の妥当性を追求したものである。なお、フランス民法典には即時取得における
占有者の主観的要件は規定されていないが、学説上は善意・ 無過失が要求さ
れている。
占有者の主観的要件が明記されたのはボアソナード草案に始まるが、194 条
に相当するボアソナード草案 1483 条・ 旧民法証拠編 146 条のいずれにおいて
も善意のみが要求されており、現行法はその系譜を引き継ぐものである。これ
らの規定において正権原が要求されていなかったのは意図的なものである。す
なわち、競売等における買受自体が正権原に相当するのだから、これに加えて
正権原の文言を付加する必要はない。したがって、旧民法典に正権原の文言が
なかったために正権原を無過失に置き換えた際に放置されてしまったという立
法技術上のミスとするのは適切ではない。立法技術上のミスだとするのであれ
ば旧民法証拠編 146 条 1 項に「正権原」の文言がないこと自体もミスだとされ
なければならないが、ボアソナード草案・ 旧民法典のいずれについても、競

92) 梅にも 194 条の「善意」に 192 条のそれと異なる独自の意味を持たせる趣旨ではないと
窺わせる発言がある。それは 193 条と 240 条との適用範囲の相違を論じた部分であり、
「百九十三条並ニ百九十四条ニアル規定ハ夫レトモ丸デ性質ノ変ハツタモノデアリマシテ
遺失シテ其遺失物ハ知レテ居ル遺失主モ知レテ居ル唯併ナガラ拾主カラシテ善意ノ第三者
ニ夫レヲ売ツテ仕舞ツタ其場合ニ善意ノ第三者ガ百九十二条ノ規定ニ依テ直グニ所有者ト
ナラレルカ何ウカト云フコトヲ極メタノデアリマス」
(速記録一 667 頁〔梅〕)とする。193 条・
194 条は、遺失物の善意の占有者が 192 条によって所有者となるか否かを定めたものだと
いうのである。それならば、192 条の「善意」と 194 条の「善意」とは同内容のものと解
するのが自然であろう。
93) 現行法の解釈としても回復請求の相手方を盗取者・ 拾得者から直接に取得した者に限
定する見解もある(石田文次郎『物権法論』
( 有斐閣書房・ 昭和 7 年)361 頁以下、小出・
前掲 23 頁以下)が、ボアソナード草案の文言を敢えて変更していること、194 条が適用さ
れるのが盗取者・拾得者が商人である場合など極めて限定された範囲にとどまることから、
この見解は採らない。

165

論説(直井)

売等における買受そのものが正権原に該当するとの説明がなされている 94)。こ
のように 194 条は系譜上、占有者の無過失という主観的側面に着目した規定で
はなく、競売等という公開の場における買受であることに着目した規定なので
ある。そのために、個々のケースにおいては占有者の過失の有無を問題視する
のではなく、規範的に公開の場における買受であれば過失はないものとの判断
が加えられているのである。したがって 194 条は個々の占有者を保護する規定
ではなく、取引の場に対する社会の信頼を保護した規定と位置づけられる。
しかし、このように 194 条では無過失要件は不要だと言ったところで、192
条で要求される無過失要件が同条と密接に関連する 193 条を介して 194 条にも
及んでいるのではないか、との疑念はぬぐえない。それはまさに本稿が善意要
件についても指摘した点である。この点はどう考えるのか。
占有者の主観的要件を規定しないフランス民法ではこの問題は生じない。ボ
アソナード草案以降に生じた問題である。ボアソナード草案 1482 条 1 項では、
占有者が正名義を有し善意である場合においても、盗品・ 遺失物を盗取者・
拾得者から直接に取得した場合には回復請求の対象となると規定されていた。
したがって、占有者が正名義を有しておらずまたは悪意の場合であれば当然に
回復請求の相手方となることは法文上明らかであった。こうした事情は旧民法
財産編 145 条 1 項でも全く同様である。
これが現行法の起草過程において、起草者が旧民法の内容をそのまま維持し
ようとしたにもかかわらず所有権の所在を明確にする目的で 193 条に「前条の
場合において」との文言を挿入してしまったがために変容が生じてしまった。
また、「も」の文言が挿入されなかったことから、193 条は善意かつ無過失の
占有者に限定して回復請求を認めた規定という位置づけとなってしまった。す
なわち、悪意または有過失の占有者についての規定がなくなってしまったので
ある。
この欠を埋めるべく 193 条の「前条の場合において」は「前条の場合であっ
94) 近時のフランス民法の説明でも同様である。

166

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

ても」と読むのが妥当である、と指摘する学説はすでに存在する 95)。この見解
は、193 条によれば 2 年以内に盗難又は遺失の事実を証明することで回復請求
が可能であるのに、過失ある占有者に対して回復請求権がおよそ発生しないと
すると、
盗取されたのが賃借人である場合には占有回収の訴えによるほかなく、
占有を奪われた事実と相手方が特定承継人である場合にはその者が侵奪の事実
を知っていたこととを証明して、1 年以内に提訴しなければならないために、
193 条による場合に比べて不利になるという。善意無過失の占有者に対して
193 条が適用されるのだから、悪意または有過失の占有者には当然に 193 条の
回復請求権が認められるべきだというのである 96、97)。この見解は結論の妥当性
からしたバランス論に依拠するものであるが、この結論は、起草過程からも正
当化することができる。すなわち、起草者には 193 条に「前条の場合において」
との文言を付加することによって同条の適用範囲を制約する意図は全くなかっ
たことから、文言の選択が適切ではなかったと考えることができるのである。
95) 安永・前掲① 124 頁。判例も同様である(前掲・最判昭和 59 年 4 月 20 日)。
96) 生熊・前掲 294 295 頁も同旨。
97) 果たしてこれが、193 条の直接適用を意味するのかは問題となりうる。
 安永・ 前掲① 123 頁は、193 条を直接適用するのであれば論じるまでもないにも拘らず
回復請求権の行使期間についてわざわざ論じていることから、「193 条の回復請求権」とい
う表現が見られるものの、これは回復請求の主体・ 内容が 193 条と同じものが認められる
かという趣旨に止まり、193 条を直接適用する趣旨ではなかろう。また、松岡・ 前掲 205
頁は、前掲・ 最判昭和 59 年 4 月 20 日によれば、「192 条の要件が不備の場合には、被害者
または遺失者は、当然に返還請求ができる」としており、193 条の直接請求を認めるもの
ではないと思われる。
 これに対して生熊・前掲 292 頁は、「バランス上、被害者等は、盗品等を悪意または善意
有過失で買い受け占有している者に対しても、193 条の回復請求権を行使し得ると解すべ
きである」とした上で、同書 294 295 頁は「193 条の盗品等回復請求権は、被害者等に無
償回復を認めるものであるから、回復請求の相手方につき 192 条の要件が充たされていな
くても差し支えないが、194 条の盗品等回復請求権は、相手方への代価弁償を伴うもので
あるから、相手方に 192 条の要件が充たされていることを要すると解すべきである」とする。
193 条と 194 条とを対比して 193 条については 192 条の要件を満たさない場合であってもよ
いとしており、悪意または有過失の占有者に対する回復請求を 193 条の直接適用によって
認めるものと思われる。

167

論説(直井)

このように 193 条の「前条の場合において」は「前条の場合であっても」と
読むのが適当だとすると、194 条の「善意」はどのように解されることになる
のか。193 条から「前条の場合において」という制約が外されることで、
193 条・
194 条とも悪意または有過失の占有者も対象とした規定と位置づけることがで
きるようになる。その結果 194 条は、動産の回復請求にあたり、善意者には代
価弁償が必要であるが悪意者には代価弁償は不要という意味を有することにな
る。
これは序論で否定した 192 条と 194 条とを切り離す読み方と同じことになる。
しかしそこでは 192 条と 193 条とが一体のものとして想定されていたが、193
条の「前条の場合において」を「前条の場合であっても」と読み替えることに
よって、192 条と 193 条の一体性は失われる。その結果、192 条と 194 条とを切
り離すことが可能となる。そして 194 条が 193 条の例外であることから、回復
請求は 2 年の期間制限にかかることとなる。
194 条は 192 条とは切り離された規定であるから、無過失が要件とされない
としてもそのこと自体には問題はない。しかし起草過程からは、占有者の無過
失の要素が完全に放棄されていると解するべきではない。競売等で買い受ける
ことが無過失と等置されているのである 98)。これは無過失が推定されるという
のとは異なる。仮に占有者が有過失であったとしても、占有者は代価弁償を受
けることができる。有過失の反証によって回復請求者は代価弁償を免れること

98) 注 5 に掲げた好美・ 佐久間・星野の見解を参照。
99) 本文のように解した場合、注 21 に掲げた善意・ 有過失者の扱いの点はどのように解さ
れることになるのか。結論から言えば、194 条において真の権利者の保護は 192 条におけ
るよりも弱体化していることは否めない。しかし、両条の目的の差異から、これは矛盾で
あるとは考えない。すなわち、192 条は占有者に善意・ 無過失を要求することによって、
前主には処分権原があるとの占有者の信頼を保護する規定である。これに対して 194 条は、
競売等の取引環境そのものに対する社会の信頼を保護することによって取引コストを低減
させることをも目的とした規定であって、前主の処分権原について特定の占有者が抱いた
信頼を保護する規定ではない。異なる目的を有する規定の適用結果を対比するのは適切で
はないということである。

168

回復請求における盗品・遺失物占有者の主観的要件に関する考察

はできないものと解すべきである 99)。なぜなら、前述のように、194 条は個々
の占有者が抱いた信頼を保護する規定ではなく、取引の場に対する社会の信頼
を保護することを通じて取引コストの低減を図った規定と位置づけられるから
である。この点で、公信の原則を採用したとされる 192 条とは意味合いが異な
る。
以上が現行法の解釈論である。しかし、悪意または有過失の占有者に対して
は 193 条の勿論解釈によって回復請求ができると解することができるとして
も、
「前条の場合において」との文言を軽視していることは否定できない。立
法論としては 193 条の「前条の場合において」は削除すべきものであろう。そ
うすると、所有権の所在を明らかにするという起草者の狙いが達せられないこ
ととなりそうである。しかし、2 年の期間が経過する以前における盗品・ 遺失
物所有権の所在をめぐっては争いがあるところであり、「前条の場合において」
という文言を挿入することによって解決される問題であったわけではない。し
たがって、
「前条の場合において」を削除しても問題はないものと解する。

おわりに
本稿は、現行法における盗品・遺失物の取り扱いを前提として、194 条の「善
意」要件の位置づけを中心に考察した。しかし、動的安全への配慮から、盗品・
遺失物について即時取得の例外を認めるべきではないとの見解も根強い。本稿
はこうした見解に対して回答するものではなく、現行の法制度を前提とするも
のにとどまっている。
本稿における起草過程の分析からは、競売・ 公の市場など、194 条が適用さ
れる場には来歴の確かではない盗品・ 遺失物は現れないとの信頼が強く保護
されていることが明らかとなる。そこでは、商人ではない素人からの取得にお
いては買主の過失が認められやすいといった相関関係も見られる。
しかし、現代においては、対面販売のみならずインターネット取引が活発に
なされるようになり、商人ではない者も売主として市場に登場するようになっ
てきている。そこでは売主の属性は必ずしも明らかなわけではない。そうした
169

論説(直井)

状況においてもなお、競売・ 公の市場等を特別視する 194 条の規定ぶりが維持
できるのかが改めて問われることとなろう。
(なおい・よしのり 筑波大学ビジネスサイエンス系准教授)

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