書き出し
<研究ノート>日本相殺法概観(1)
概要
債務を相互に負っている者らがそれぞれの債務を差引清算し、残部について現実履行することを内容とする相殺制度は、日本のみならず、世界各国における私法の規律対象となっており、主に金銭債務の処理の手段として様々な場面で中核的な役割を果たしている。もっとも、一口に相殺といっても、その概念や要件、効果、あるいは保護の程度について、必ずしも一様ではなく、国ごとの特色がある。
日本法に目を向けると、平成29年に民法(債権法)が改正され、相殺法制に関してもいくつかの重要な修正が加えられている。これによる日本相殺法の変化が法解釈や法実務にどのような影響を及ぼしうるかについては、まだ定かではない。
本稿は、債権法改正後の日本の相殺法の特色を分析し、将来において指針となる法解釈の方向性や、それに伴って予想される法的問題を明らかにすることを最終目的とし、その準備作業として、現在の相殺を取り巻く法状況を整理するものである。その際、改正前後で変更のない点も確認していく。周知の事柄ばかりであり、あくまでも整理のための研究ノートである。
なお、相殺が果たす機能の真価は、紛争や相手方の倒産の場面においてこそ問われる。そのため、本稿では「相殺法」を民法505条から511条の2までの規定に限定することなく、訴訟や倒産などの関連規定を含むものとして、相殺の法的運用に関する現況を概観する。