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大学・研究所にある論文を検索できる 「カラマツにおける材質指標形質の遺伝性の解明と育種的改良に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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カラマツにおける材質指標形質の遺伝性の解明と育種的改良に関する研究

武津, 英太郎 フカツ, エイタロウ 東京農工大学

2021.12.13

概要

木材は、再生可能な資源として重要であり、その生産量や材質は、近年では、炭素固定などの公益的機能とともに、向上が求められている。樹木の表現型のばらつきは、遺伝的な要因と環境要因に分けて捉えることができ、遺伝的ばらつきを利用する林木育種による改良は、施業と並び、木材の生産量と材質を向上する上で有効な方法である。カラマツは、日本の主要な造林樹種の一つであるとともに、海外でも造林や交雑育種の母材料として広く用いられている。本研究では、カラマツの材質の向上のために、材質育種を進める上での基礎情報として、材質指標形質の遺伝パラメータの把握、および特に材密度について、その遺伝的ばらつきの形成機構の解明を目指して行った。

 樹幹のカラマツ材の炭素貯留量の遺伝的変異に影響する形質である、木部中の炭素含有率を、カラマツクローンを供試材料として測定し、その遺伝性と遺伝的変異の大きさを検討した。その結果、広義の遺伝率が認められ、遺伝的形質であることが示された。一方、変動係数は小さく、炭素含有率について選抜を行っても、遺伝的獲得量は非常に少ないことを示した。材密度や胸高直径と比較すると、炭素含有率の広義の遺伝率は低く、またクローン平均値の変動係数も小さい値であった。このことから、カラマツの炭素貯留量の育種に取り組む上では、炭素含有率以外の要因である、材密度や材積の改良を進めるべきであることを示した。

 カラマツにおける材密度の遺伝様式を明らかにし、選抜手法を検討するために、カラマツの人工交配家系を供試材料として、材密度および年輪構造形質を測定した。その結果、材密度および年輪構造形質において、遺伝分散のうち一般組合せ能力の分散の割合が高く、特定組合せ能力や正逆差の分散が小さいことが示された。この遺伝様式より、カラマツの材密度において、親からの子への遺伝は相加的であることが示さた。材密度と年輪構造形質との遺伝相関の年次変動を解析し、若齢期には早材密度、成熟期には晩材率および晩材密度が材密度と高い正の値を示し、材密度の遺伝変異に影響を与える年輪構造形質を明らかにした。さらに、材密度の選抜について、早期選抜が有効であることを示した。

 カラマツにおける材質指標形質と成長形質の相互の遺伝的関係を明らかにすることを目的とし、人工交配材料を用いて、樹高・胸高直径・材密度・応力波伝播速度の遺伝様式と相互の遺伝相関を解析した。解析した形質では、遺伝分散のうち大部分が相加的であることを示した。また、樹高・胸高直径は、材密度・応力波伝播速度との間に高い正の遺伝相関があることを示した。Pilodyn貫入値と材密度の遺伝相関が高いことを示し、材密度の簡易推定が可能であることを示した。一方、残差相関は、胸高直径と応力波伝播速度で負の相関を示し、成長形質と材質指標形質との関連性を把握する上で、遺伝と環境の両者の観点から見ることが必要であることを示した。

 カラマツにおける材密度の遺伝変異の形成機構を明らかにすることを目的として、材密度と年輪構造形質の関係および年輪構造形質と材形成の季節性との関係を解析した。材密度は、晩材率と高い遺伝子型値の相関を持ち、また同一個体内では年輪幅と晩材率と負の相関があるクローンが多いが、同一年輪幅で比較した場合の晩材率のクローン間差も大きいことを示した。材形成の季節性の観察の結果、早材形成期から晩材形成期への移行は7月上旬であり、クローン間差はなかった。細胞分裂停止時期は、7月下旬から9月までバラついており、クローン間差が存在していた。細胞分裂停止期間の差異により、晩材形成期間の長さが異なっており、晩材分裂期間の長さと晩材率とに高い相関が認められた。

 材密度と年輪構造形質に対する遺伝と植栽環境の両者の影響を明らかにするために、長野・岩手・北海道で共通のクローンセットについて、年輪構造形質と材形成の季節性を測定し、解析した。材密度・晩材率・晩材密度は、遺伝と環境との交互作用の影響が少なく、特に、長野と岩手の間では、正の高い遺伝相関があることを示した。一方、環境の差が大きくなると、交互作用が大きくなる可能性も示唆された。どの植栽地でも、晩材形成への移行は夏至のあとの7月上旬までに確認された。

 本研究の結果より、カラマツの材質指標形質の育種について、以下の方向性が示された。材密度や応力波伝播速度、Pilodyn貫入値が、相互に高い遺伝相関を持つことから、剛性や強度、炭素貯留量等の遺伝的改良は同時に可能であり、簡易推定も可能である。また、材質指標形質、成長形質も含めて、遺伝様式は相加的であることが示されたことから、クローンを材料とした評価を採種園に適用することが可能である。また、材密度について早期選抜も有効である。

 本研究において、カラマツは日長の変化を捉えて早材から晩材へ移行する可能性が高く、その時期に遺伝的差異や地域間差は少ないこと、細胞分裂停止の時期に遺伝的差異があり、これが、晩材率および材密度の遺伝的差異を引き起こす要因である可能性を示した。本研究により、重要な材質指標形質である材密度の、遺伝的差異の形成メカニズムを明らかにする上での有益な知見が得られたといえる。

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