リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「微生物代謝産物サッカロスリオリドBに着想を得たプロドラッグ化に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

微生物代謝産物サッカロスリオリドBに着想を得たプロドラッグ化に関する研究

竹中, 慧 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23848

2022.03.23

概要

神経障害性疼痛や線維筋痛症(fibromyalgia:FM)など難治性の慢性疼痛疾患はNSAIDsなどの鎮痛薬が有効性を示さず、抗てんかん薬や抗うつ薬などの薬物が有効性を示すものの、その効果は十分ではなく、また副作用の観点からも満足のいく治療はなされていないのが現状である。

 私の所属する研究グループは、脂質メディエーターであるLysophosphatidic acid(LPA)が神経障害性疼痛モデルにおける神経損傷によって脊髄で産生され、LPA受容体を介するシグナルにより脊髄後根の脱髄を引き起こし、痛みの誘発及び疼痛維持に関与する重要な分子であることを報告してきた。しかし、病態時におけるLPA合成機構の制御が慢性疼痛疾患にどのような影響を及ぼすかについては明らかとなっていない。そこで私は病態特異的なLPA合成に関わる酵素群に着目し検討を行った。

第一章 マウス神経障害性疼痛モデルにおけるsPLA2の関与と阻害薬の探索
 LPA産生にはphospholipase A2(PLA2)が関与し、生合成機構の一部を担う。PLA2は分泌型酵素のsPLA2と細胞内酵素のcPLA2、iPLA2の3つのファミリーに分類され、神経障害性モデルにおける研究では、神経損傷後1時間を最大としてcPLA2とiPLA2の活性が上昇し、その後3時間でcPLA2とiPLA2の活性はほぼ元のレベル低下し、神経傷害前に髄腔内投与したcPLA2とiPLA2阻害薬は慢性疼痛を抑制することを報告してきた。しかし、cPLA2とiPLA2の活性は低下しているにも関わらず、LPAは神経傷害後でも持続的に疼痛に関与することから、新たにsPLA2の寄与を考え検討を行った。神経損傷後の脊髄後角の遺伝子発現解析を行ったところsPLA2の11種のアイソフォームのうちsPLA2-Ⅲの発現が神経損傷後6時間で最大となり、その有意な上昇は翌日でも観察された。そこで、脊髄のsPLA2-Ⅲのノックダウンの効果を検討するためにsPLA2-Ⅲに対するmiRNAを発現するアデノウイルスを脊髄後角実質内に投与したところ、digital von Freyテストによる機械性の疼痛やHargreaves testによる熱性の痛覚過敏が顕著に抑制された。またsPLA2-Ⅲに対するsiRNAやAS-ODNの髄腔内投与によっても同様に熱性の痛覚過敏の抑制が観察された。これまでsPLA2-Ⅲに対し、有効かつ選択的な阻害薬は報告されていなかったため、21,000の化合物ライブラリーを用いて創薬ハイスループットスクリーニングを行い、2つの候補阻害薬#29と#107を得た。比較実験としてsPLA2のその他のアイソフォームに対する阻害効果が報告されているluffariellolideとvarespladibも含め検討したところ、varespladibはsPLA2-Ⅲに対し阻害効果は発揮せず、luffariellolideおよび#29がsPLA2-Ⅲに対する阻害効果が観察され、その効果は#29の方が強かった。これら阻害薬の髄腔内投与による疼痛評価では#29とluffariellolideが疼痛抑制効果を示したのに対し、varespladibは何ら影響を及ぼさなかった。また#29はいったん形成された疼痛後に腹腔内投与することで疼痛抑制効果を発揮した。以上の結果より、sPLA2-Ⅲが神経障害性疼痛に関与し、病態形成及び維持に重要な役割を持つことが明らかにするとともに、sPLA2-Ⅲに対する阻害効果をもつ#29を見出し、病態形成後の治療効果を有することを明らかにした。

第二章 マウスFMモデルにおけるLPA合成酵素の関与の解明
 一方、当グループではこれまで心理ストレスによるFMモデルとして、intermittent psychological stress(IPS)-modelを用い、LPA1受容体欠損マウスで疼痛が完全に抑制されることや、いったん形成された慢性疼痛もLPA1受容体拮抗薬の脳室内投与による治療効果が得られたことから、FMモデルにおける脳内のLPAシグナルの重要性を報告してきた。しかし、FMモデルにおけるLPA合成経路に関する詳細なメカニズムは明らかになっていないため、同様にsPLA2の関与について検討を行った。心理ストレスへの反応に関係の深い視床下部における遺伝子解析を行ったところ、sPLA2-Ⅲの遺伝子発現がIPS開始後4日目からIPS後1日で顕著に増加していた。そこでsPLA2-ⅢのKOマウスを用いたところ、FMモデルにおける疼痛が顕著に抑制された。第一章で得られたsPLA2-Ⅲの阻害薬の脳室内投与による作用を評価したところ、#29とluffariellolideで疼痛反応を抑制したのに対し、varespladibは何ら影響を及ぼさなかった。このことから、FMモデルにおいてsPLA2-Ⅲが疼痛形成に関与することに加え、sPLA2-Ⅲの阻害薬の有効性が明らかとなった。

 以上、神経障害性疼痛およびFMモデルにおけるLPA合成酵素であるsPLA2-Ⅲの発現増加および慢性疼痛への関与を明らかにするとともに、慢性疼痛治療効果を有するsPLA2-Ⅲの新たな阻害薬を見いだすことができた。これらLPA合成酵素に関する新たな知見は、病態特異的なLPAシグナルの上流を抑制し、難治性慢性疼痛疾患に対する新たな標的に繋がることが期待される。

参考文献

(1) Lu, S.; Nishimura, S.; Takenaka, K.; Ito, M.; Kato, T.; Kakeya, H. Discovery of presaccharothriolide X, a retro-Michael reaction product of saccharothriolide B, from the rare actinomycete Saccharothrix sp. A1506. Org. Lett. 2018, 20, 4406-4410.

(2) Takenaka, K.; Kaneko, K.; Takahashi, N.; Nishimura, S.; Kakeya, H. Retro-aza-Michael reaction of an o-aminophenol adduct in protic solvents inspired by natural products. Bioorg. Med. Chem. 2021, 35, 116059-116064

参考文献をもっと見る

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る