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<論説>弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

森田, 憲右 筑波大学

2023.07.31

概要

論 説

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)1)

森 田 憲 右
第 1  はじめに(中立公正をめぐる事例とその問題意識)
  1  問題意識
  2  結論の概要
  3  遺言執行者にかかる懲戒事例
  4  破産管財人にかかる倫理
  5  責任調査委員会の委員にかかる裁判例
  6  検討課題(まとめ)
第 2  中立公正さが問題となる場面と利益相反の関係
  1  中立公正について
  2  利益相反について
  3  中立公正と利益相反との関係
  4  中立公正と利益相反を検討するにあたっての視座
第 3  利益相反を検討する上での出発点としての「依頼者」
  1  問題の所在
  2  依頼者を基点とする各国の制度と類型化
 3 
「依頼者」の確定
  4  前掲大阪高決について
第 4  中立公正を検討する上での「依頼者」とその類型化
  1  問題の所在
  2  中立公正の類型化







(以上、本号)

第 5 ‌ 
【類型 A:双方型】
(依頼者と別の依頼者との利益相反)について、弁護士の中立公
正さが問題となる場合
第 6 ‌ 
【類型 B:非双方型】
(依頼者と他の立場や役割との間の利益相反)について、弁護
士の中立公正さが問題となる場合
第 7  まとめ

1)

本稿は、原案について、諸先生方(肩書略・ 五十音順)(石田京子氏、柏木俊彦氏、加

藤新太郎氏、手賀寛氏、永石一郎氏、森勇氏、我妻学氏)から様々なご助言やご指摘をい
ただいた上で手を加えたものである。厚く御礼申し上げる次第である。

225

論説(森田)

第 1 はじめに(中立公正をめぐる事例とその問題意識)
1 問題意識
弁護士は、依頼者に対して誠実義務ないし忠実義務を負う。依頼者を代理し
て依頼者の利益を擁護することにより、基本的人権を擁護し、社会正義を実現
することを使命とする(弁護士法 1 条)

裁判官のような中立公正義務を負うものではない。
弁護士の本来的業務は依頼者に対する助言ないし代理行為ではあるが、弁護
士は法の支配の担い手として社会のあらゆる領域に活動の場を拡げ国民や公共
利益に貢献することが求められ、非常勤裁判官・調停委員・ADR 手続主宰者・
非常勤公務員・ 会社役員・ 相続財産管理人など代理業務とはいえない中立公
正さが求められる職務に就く場合が多くなった 2)。
これらの職務に関しては個別の制限規定や制裁規定などが設けられており、
弁護士であると非弁護士であると問わず各規定を遵守する義務を負う。もっと
も、弁護士は、弁護士の使命を果たすため高い倫理や責任を求められているか
ら(弁護士職務基本規程(以下「職務基本規程」という。)前文)、本来的業務
ではない職務に就任した際に、その前後を通じて、弁護士法ないし職務基本規
程(以下、両者をあわせて「弁護士法制」という。
)に抵触する場面が想定さ
れ得る。
懲戒事例などでは、依頼者を措定しない職務についたとき、職務の中立公正
さに対する信頼を損なったことを非難されて、非行といえるかどうかが問題と
なる事案が多い。著名な事案としては遺言執行者と受益相続人の代理人との兼
2)

司法制度改革審議会平成 13 年 6 月 12 日司法制度改革審議会意見書「第 3 弁護士制度の

改革」「弁護士の活動領域の拡大」において、「弁護士は、公職への就任が制限され(弁護
士法第 30 条第 1 項)、民間企業に所属する場合には所属弁護士会の許可を必要とされてい
る(同条第 3 項)。今後は、弁護士が、個人や法人の代理人、弁護人としての活動にとどま
らず、社会のニーズに積極的に対応し、公的機関、国際機関、非営利団体(NPO)、民間
企業、労働組合など社会の隅々に進出して多様な機能を発揮し、法の支配の理念の下、そ
の健全な運営に貢献することが期待される。」と述べる。

226

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

併が挙げられる。また、近時では、会社の責任調査委員会の委員と会社の訴訟
代理人との兼併について中立公正さを根拠に弁護士法の利益相反規定を類推適
用した裁判例 3)が現れた。
弁護士がこれまで以上に活動領域を拡大し、依頼者を措定しない職務に就く
とき、弁護士法制が捕捉できない事態に陥ることは避けなければならない。そ
の反面、中立公正は多義的であり、その意味や位置づけを曖昧なままにしてお
くと、マジックワードと化し、弁護士法制の適用範囲ないし懲戒事由の判断が
曖昧となり、弁護士の活動に萎縮的効果を生じさせるおそれがある。
そこで、本稿では、弁護士に求められる職務の中立公正さをできる限り類型
化して、各類型における理論的根拠を検討しつつ弁護士法制の適用範囲を画す
ることが適当な方法の一つであると考え検討を加える 4)。また、そのことと関
連して、弁護士法 1 条の誠実義務(職務基本規程 5 条にいう誠実義務と同義で
ある。)について、依頼者に対する誠実義務にフォーカスされてきたものを職
務の中立公正さに対してもその適用について必要な範囲で検討を加えるもので
ある。
2 結論の概要
結論を先んじて述べるとすれば、概要以下のとおりである。
弁護士法 1 条にいう誠実義務は、法律専門家として求められる高度な善管注
意義務をいうが、そのうち、依頼者を裏切らないという忠実義務を内包してお

3)

後掲令和 3 年 12 月 22 日大阪高決

4)

以前の拙稿(森田憲右「利益相反の概念についての一考察−遺言執行者をめぐって−」

(筑波ロー ・ ジャーナル 223 号 2017 年)218 頁)では、遺言執行者と相続人の代理人との兼
併について、「職務の中立公正の問題と利益相反の問題とを対置して捉えるのではなく、
統合的に捉えるべきであるとするものであり、弁護士は複数人に対して善管注意義務を負
う場合には、中立公正に職務を遂行する義務が導かれ、弁護士と各人との利益相反を回避
する義務が導かれると考えるものである。」としていたが、職務の中立公正の根拠や内容、
利益相反回避義務との関係について必ずしも理論的な分析が十分であったとは言い難かっ
た。本稿では、できるだけこれらの理論的分析を試みるものである。

227

論説(森田)

り、利益相反行為は忠実義務違反にあたる 5)。職務の中立公正さが俎上に載せ
られるとき、依頼者を措定する場合に問題とされている場合があれば、依頼者
を措定しない場合に問題とされている場合もある。
依頼者を措定する場合は忠実義務が問題となる。
これに対して、依頼者を措定しない場合、忠実義務は問題とはならないから、
忠実義務違反による利益相反は観念できない。しかし、弁護士の職務である以
上、弁護士法 1 条の誠実義務は適用される。具体的に言えば、中立公正さが求
められる各職務に関しては個別の制限規定や制裁規定が課されているから、弁
護士が各個別規定に違反した場合には、当該契約ないし法定に基づく善管注意
義務違反に問われ得る。その場合依頼者に対する忠実義務違反を観念すること
はできないが、弁護士が担うその職務の中立公正さに対する信頼を損ない、そ
れが忠実義務違反と同価値である場合には、
利益相反回避義務違反を問われる。
その意味で、弁護士法 1 条の誠実義務の内容となる。このように弁護士法 1 条
の誠実義務は、依頼者に対するもののほか、職務の中立公正さに対しても適用
される。
もっとも、弁護士法制における利益相反規定の拡大適用ないし類推適用につ
いては慎重であるべきであり 6)、みだりに類推適用がなされないよう手立てを
講じる必要がある。それを防ぐ手立てとして、弁護士に求められる中立公正さ
を類型化して各類型の理論的根拠と適用範囲を画していく必要がある。
検討の出発点として、比較的問題となる事例として、遺言執行者・ 破産管
財人・ 会社の責任調査委委員会の委員について、裁判例や懲戒議決例を概観
5)

誠実義務に関する議論状況としては、日本弁護士連合会調査室編著[条解弁護士法[第

5 版]2019 年 12 頁、加藤「弁護士役割論〔新版〕」2014 年 345 頁以下に詳しい。本稿では、
誠実義務について、弁護士には専門的知識・ 技能に応じて高度に専門的な仕事を遂行する
注意義務という側面と、依頼者から信任を受けて広範な裁量権を与えられることにより依
頼者に不利益を与えてはならない忠実義務という側面に分けて検討をするものである(能
見善久「専門家の責任−その理論的枠組みの提案」別冊 NBLNo.28(平成 6 年)4 頁参照)。
さらに、忠実義務をどのように分類するかについては諸説があるが、ここでは、依頼者を
裏切らないという忠実義務、すなわち利益相反回避義務を中心に論じる。

228

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

しつつ、どのような場合に中立公正さが問題とされているかについて疑問点や
検討課題を抽出した上で検討を加える。
3 遺言執行者にかかる懲戒事例
(1) 遺言執行者にかかる懲戒事例においては、中立公正と利益相反について
の言及がみられる。遺言執行者と特定の相続人の代理人との兼併が懲戒事
由にあたるかどうかに関する裁判例や日本弁護士連合会(日弁連)懲戒委
員会先例としては、主として、東京高等裁判所平成 15 年 4 月 24 日判決(判
例時報 1932 号 80 頁)
、日弁連懲戒委員会平成 18 年 1 月 10 日議決(弁護士
懲戒議決例集第 9 集 3 頁)
、及び日弁連懲戒委員会平成 27 年 10 月 19 日議決
(同議決例集 18 集 3 頁)が挙げられる。
ア 東京高等裁判所平成 15 年 4 月 24 日判決(平成 15 年東京高判)7)
 被相続人は、生前、対象弁護士と同行して、その遺産の全部を特定の相続
人 1 人(受益相続人)に相続させる旨の公正証書遺言を作成したが、その際、
同弁護士は公正証書の作成につき証人となり、かつ、同遺言により遺言執行
者に指定されていた。被相続人の死後、同弁護士は遺言執行者の就職を承諾
6)

加藤新太郎「原告訴訟代理人の訴訟行為の排除」(NBL1225.98 頁)によれば、懲戒処

分は不利益処分であるから、罪刑法定主義と同様の原則が妥当するとして、明確な定めを
要するほか、文理解釈を基本として、類推解釈など拡大解釈にわたる解釈は許されず、謙
抑的な解釈が要請されるとする。基本的な考え方として賛成である。私見によれば、弁護
士法 25 条、規程 27 条各号及び 28 条各号が「利益相反自体を要件とはせず、利益相反の蓋
然性の高い一定の行為の要件を定めて、その当該要件が充足されれば、それ自体利益相反
として予防的に事件受任および受任の継続を禁止している」のであり(柏木俊彦「弁護士
の利益相反」(
『法曹倫理』日本法律家協会編、2015 年)141 頁)、拡張規定である以上、み
だりに類推適用するのは謙抑的であるべきである(森田 219 頁)。ただし、類推適用が一切
許されないのかについて、後掲の令和 4 年 6 月 27 日最決によれば、「『弁護士法 25 条に違反
する弁護士の訴訟行為を排除する判断において』同条の規定についてみだりに拡張又は類
推して解釈すべきではない。」と述べており、懲戒処分の判断においてまで拡張又は類推
解釈の禁止を明示はしていない。そこで、本稿では、利益相反条項がみだりに類推適用さ
れないような理論構成を試みる。
7)

判例時報 1932 号 80 頁

229

論説(森田)

したにもかかわらず、他の相続人から受益相続人に対する遺留分減殺請求事
件の調停事件について、受益相続人の代理人となった。
‌ 上記事案について、日弁連が同弁護士を懲戒処分(戒告)としたことをう
けて、同弁護士が懲戒処分の取消しを求めて提訴し、東京高等裁判所は、平
成 15 年 4 月 24 日、
次のとおり判示して、
原告である同弁護士の請求を棄却した。
 「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義
務を有し(民法 1012 条)、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産
の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(同 1013
条)
。すなわち、遺言執行者がある場合には、相続財産の管理処分権は遺言
執行者にゆだねられ、遺言執行者は善良な管理者の注意をもって、その事務
を処理しなければならない。したがって、遺言執行者の上記のような地位・
権限からすれば、遺言執行者は、特定の相続人ないし受遺者の立場に偏する
ことなく、
中立的立場でその任務を遂行することが期待されているのであり、
遺言執行者が弁護士である場合に、当該相続財産を巡る相続人間の紛争につ
いて、特定の相続人の代理人となって訴訟活動をするようなことは、その任
務の遂行の中立公正を疑わせるものであるから、
厳に慎まなければならない。
弁護士倫理 26 条 2 号は、弁護士が職務を行い得ない事件として、「受任して
いる事件と利害相反する事件」を掲げているが、
弁護士である遺言執行者が、
当該相続財産を巡る相続人間の紛争につき特定の相続人の代理人となること
は、中立的立場であるべき遺言執行者の任務と相反するものであるから、受
任している事件(遺言執行事務)と利害相反する事件を受任したものとして、
上記規定に違反するといわなければならない。

イ 日弁連懲戒委員会平成 18 年 1 月 10 日議決(平成 18 年議決)8)
 被相続人は、生前、対象弁護士に依頼して、所有不動産の相当部分とその
余の遺産を相続人Aに相続させ、他の 4 人の子に他の不動産を相続させる旨
の公正証書を作成し、同公正証書において同弁護士が遺言執行者に指定され

8)

弁護士懲戒議決例集(第 9 集)3 頁

230

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

たが、被相続人の死亡後、同弁護士は平成 11 年 5 月相続人全員に財産目録
を交付して遺言作成の経緯と相続財産の内容について説明したところ、A以
外の相続人らから、遺言作成の経緯とともに現金がないことについての疑問
が呈せられ、現金調査して財産目録を再調整するよう求められたが、同弁護
士はこれに応じなかった。同弁護士の遺言執行業務が完了した後、他の相続
人のうち 3 名は、平成 12 年 2 月A及び相続人 1 名を被告として、遺言無効確
認請求訴訟を提起し、
同弁護士が被告ら訴訟代理人として受任して活動した。
上記事案において、日弁連懲戒委員会は、平成 18 年 1 月 10 日、
「遺言執行者
は、特定の立場に偏することなく、中立的立場でその任務を遂行することが
期待されているのであって、当事者間に深刻な争いがあり、話し合いによっ
ては解決することが困難な状況があった場合は、遺言執行が終了していると
否とに関わらず、遺言と相続財産を巡る相続人間の紛争について、特定の相
続人の代理人となって訴訟活動をすることは慎まなければならないというべ
きである。」、「本件は、旧弁護士倫理第 26 条第 2 号の問題ではなく、正しく
は旧弁護士倫理第 4 条、同第 5 条による、弁護士の信用と品位の保持、職務
の公正の確保の問題である。
」として、戒告するとの議決をした 9)。
ウ 日弁連懲戒委員会平成 27 年 10 月 19 日議決(平成 27 年議決)10)
 被相続人は、生前、対象弁護士が関与して、全財産を受益相続人に相続さ
せる旨の公正証書遺言を作成し、同遺言において対象弁護士を遺言執行者に
指定をしていたが、被相続人の死後、相続人間に相続財産の範囲について争
いはなかったものの、他の相続人が受益相続人に対して遺留分減殺請求の通
知をし、対象弁護士は受益相続人の代理人として交渉提案をした。その後、
他の相続人の代理人弁護士が対象弁護士に対し遺言執行者に就任するかどう
かの質問をしたところ、対象弁護士は遺言執行者に就任するよう迫られたと
理解して就任する旨回答をした。
9)

対象弁護士は、平成 18 年議決に対して懲戒処分取消請求訴訟を提起したが、東京高裁は、

日弁連懲戒委員会の判断理由と同様の理由で請求を棄却している(議決例集(第 9 集)9 頁)。
10) 議決例集第 18 集 62 頁

231

論説(森田)

 上記事案について、日弁連懲戒委員会は、平成 27 年 10 月 19 日以下のとお
り判断して、対象弁護士を懲戒にしないことを相当とすると議決した。
 「相続人間の相続を巡る紛争において、遺言執行者たる弁護士が一部の相
続人の代理人となることは許されず、たとえ遺言執行行為が終了した後で
あっても、遺言執行者としての職務の公正さを疑わしめ、遺言執行者に対す
る信頼を害するおそれがあり、ひいては弁護士の職務の公正さを疑わしめる
おそれがあるため、懲戒処分を免れない場合があることは、既に当委員会が
議決しているところである(当委員会平成 18 年 1 月 10 日議決−『弁護士懲
戒事件議決例集第 9 集』3 ページ)
。しかしながら、具体的事案に即して実質
的に判断したときに、遺言の内容からして遺言執行者に裁量の余地がなく、
遺言執行者と懲戒請求者を含む各相続人との間に実質的にみて利益相反の関
係が認められないような特段の事情がある場合には、非行に当たらないと解
すべきである(当委員会平成 22 年 5 月 10 日議決―『弁護士懲戒事件議決
例集第 13 集』19 ページ)

」とした。
(2) 中立公正と利益相反との関係(疑問点と検討課題)
平成 15 年東京高判は、遺言執行者の中立的立場から利益相反を論理的に導
いている。
平成 18 年議決については、原弁護士会の議決(懲戒せず)は「遺言執行が
完了した後は、遺言執行者としての立場と実質的・ 具体的に利益相反のない
事件(遺言執行者であるなら当然主張したであろう主張と同じ主張をなすよう
な事件)について特定の相続人の訴訟代理人となって事件を受任することは、
懲戒に値する倫理上非難すべき行為とはいえない。

としていた。これに対して、
平成 18 年議決は、旧弁護士倫理第 26 条 2 号(現行の職務基本規程 28 条 3 号に
対応)の問題ではなく、中立公正の任務を根拠に旧弁護士倫理 4 条・5 条(現
行の職務基本規程 5 条・6 条に対応)にいう弁護士の信用と品位の保持、職務
の公正の確保の問題であるとし、遺言執行の終了前後を同列に扱うとともに、
遺言執行者と受益相続人との間の実質的な利益相反の有無を適用範囲の検討対
232

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

象とは認めなかった。
平成 27 年議決は、平成 18 年議決を援用したものの、実質的に利益相反関係
の有無を検討し、中立公正と利益相反との間の論理的な連動を認めた。
平成 15 年東京高判、平成 18 年議決及び平成 27 年議決の経過をうけて、適用
法条については、概して、職務基本規程 27 条 1 号違反に準じるという考え方、
職務基本規程 28 条 2 号ないし 3 号違反とする考え方、職務基本規程 27 条 5 号違
反とする考え方のほか、職務基本規程 5 条・ 6 条の問題として捉える見解に分
かれている 11)。ただ、平成 27 年から令和 4 年に至るまでの遺言執行者に関す
る懲戒事例によると、職務基本規程 5 条、6 条の問題として捉える見解に固まっ
てきたといってよい 12、13)。
とはいえ、遺言執行者にかかる問題は、職務の中立公正さという独自の領域
の問題なのか、あるいは実質的には利益相反の領域の問題であり適用法条の違
いがあるだけなのかという検討課題がある。
4 破産管財人にかかる倫理
(1)
 破産管財人にかかる中立公正義務
破産管財事件については、破産債権者の中に顧問先があった場合に破産管財
11) 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著「解説 職務基本規程 第 3 版」
(2017 年)
(以
下「解説」という。)98 頁、柏木俊彦「弁護士が遺言執行者に就任した場合と利益相反の
問題」判例タイムズ 1283.30、加藤新太郎「遺言執行者に就任した弁護士の関連訴訟の受任
の可否」NBL1213.61
12) 永石一郎「訴訟制度内における弁護士倫理」(日本法律家協会『法曹倫理』2015 年)
169 頁によれば、個別の構成要件がない場合は、職務基本規程第 2 章「一般規律」や 5 条の
「信義誠実」違反という一般条項を用いる、これが現在の日本弁護士連合会懲戒委員会の
運用である、とされる。
13)「自由と正義」に掲載された懲戒公告において、京都弁護士会の 2020 年 12 月 21 日懲戒
処分によれば、同規程 5 条、6 条及び第 28 条 3 号に違反するとする。これは、共同事務所
における弁護士に対して第 57 条を適用することを意図してか 28 条 3 号の適用を肯定したも
のと推測されるが、同条を適用すれば一般条項としての 5 条、6 条の適用は不要となる点で、
論理的な整合性に疑問がある。

233

論説(森田)

人弁護士は利益相反回避義務を負うかについて問題とされる。通説は、職務基
本規程 28 条 2 号の問題ではなく、職務基本規程 5 条・6 条ないし 81 条にいう「職
務の公正を保ち得ない事由」の問題とする。そして、特定の債権者(自己の顧
問先)と全債権者との間に厳しい利益相反の関係がない場合には、直ちに破産
管財人を辞任するか、顧問関係を解消するかのいずれかを選択すべきであると
まではいえないとされる 14)。
(2) 中立公正と利益相反との関係(疑問点と検討課題)
通説は、
「公正」の問題としつつも、
実質的な利益相反をも考慮している点で、
中立公正と利益相反との論理的な連動を認めている。破産管財人について職務
基本規程 28 条 2 号を適用するとの見解によれば、利害関係者全員が同意をし
なければ債権者に顧問先がある弁護士は破産管財人に就任することができない
との結論が導かれ、事実上例外が認められないこととなるのに対し、通説によ
れば、中立公正の問題としつつ例外をある程度認める方向に働いているかのよ
うである。
これに対して、遺言執行者についての平成 18 年議決によれば「中立公正」
は利益相反の問題ではないとして例外を認めない方向に働いているかのようで
ある。一見すると中立公正という概念が、一方では例外を許す根拠となり、他
方では例外を許さない根拠となっているかのようであり、場当たり的に利用さ
れているかのような印象さえ受ける。
矛盾があるとすれば是正をすべきであろうが、矛盾がないとすれば、これら
を統一的に説明することのできる理論的根拠が検討課題となる。
5 責任調査委員会の委員にかかる裁判例
(1)
 会社の責任調査委員会の委員について利益相反を検討した裁判例が現れ
た。会社の不祥事に関して、第三者委員会が設置され、その後会社の監査
14) 解説 103 頁

234

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

役が金品受領問題に関して元取締役の会社法 423 条 1 項に基づく損害賠償
責任の有無を調査検討するために設置した責任調査委員会について、監査
役から委員の委嘱を受けた対象弁護士がその後会社の元取締役に対する損
害賠償請求訴訟の会社側訴訟代理人に就任した場合に利益相反規定に抵触
するかどうかが争われた事案について、大阪高裁は利益相反規定違反を認
めたが、その抗告審である最高裁はこれを否定した。
ア 令和 3 年 12 月 22 日大阪高決
 大阪高決は、責任調査委員会は会社から独立して第三者的職務を行う機関
であり、「独立性を確保した利害関係のない立場にある社外の弁護士からな
る取締役責任調査委員会」
「調査の中立性・ 公正性を担保する」旨の記載や
公表をもって中立・ 公正な立場で調査検討を行う機関であるとした上で、
対象弁護士が会社側の訴訟代理人に就任して訴訟行為をすることは、元役員
が責任調査委員であった対象弁護士らの独立性、中立・ 公正さに対して特
別な信頼に基づいて回答をしたことについて元役員の上記信頼を裏切ること
になり弁護士法 25 条 2 号の趣旨に反するし、対象弁護士らの立場は弁護士
法 25 条 4 号が想定する裁判官と変わるところはないから同条の趣旨に反す
るとして、25 条 2 号及び 4 号の類推適用により、対象弁護士らの訴訟行為を
排除する旨の決定をした。
イ 令和 4 年 6 月 27 日最決
 抗告審である令和 4 年 6 月 27 日最決は、責任調査委員会は会社から委嘱を
受けて上記調査を行うものであり、元役員は事情聴取の結果が会社の元役員
に対する損害賠償請求訴訟において証拠として用いられる可能性があること
を当然認識していたというべきであるとした上、元役員の回答が法律的な解
決を求めるためにされたに等しいということはできず、弁護士法 25 条 2 号
にあたらないし、責任調査委員会の設置目的や委員の職務の内容等に照らし
対象弁護士が裁判官と変わらない立場にあったということもできず、25 条 4
号にあたらないとした。

235

論説(森田)

(2) 中立公正と利益相反との関係(疑問点と検討課題)
前掲最決においては、責任調査委員会の委員について弁護士法 25 条 2 号・ 4
号の適用ないし類推適用は否定されたが、前掲大阪高決によれば、責任調査委
員会の委員の独立・ 中立公正さないしそれに対する信頼が利益相反規制 15)の
適用の根拠となっている。
責任調査委員会の委員の中立公正さと、遺言執行者や破産管財人でいう中立
公正さとは同じであるか、異なっているのかが検討課題である。
6 検討課題(まとめ)
以上の 3 つの事例について検討課題を抽出したが、これらをまとめると、弁
護士に求められる職務の中立公正さは利益相反の領域の問題であるのか否か、
中立公正の各種類型と利益相反との関係如何ということに収斂される。

第 2 中立公正さが問題となる場面と利益相反との関係
1 中立公正について
中立とは、字義によれば、対立が存在する際に、そのどちらにも与しないこ
とをいう。公正とは、字義によれば、公平で偏っていないことをいう。
中立と公正は多義的である。最高裁判例によれば、公務員としての中立公正

「中立かつ公正」)について、
「政治的偏向を排する」「一党一派に偏すること
がない」との言及がなされるが、それ以上に中立と公正の内容を明らかにして
いない。両者が同義であるのか異なるのかについても明らかではない。その中
立と公正の根拠として、議会制民主主義に基づく政治過程を経て決定された政
策の忠実な遂行及び全体の奉仕者性から導いている。また、最高裁判例によれ
ば、裁判官としての中立公正については、公正中立な審判者との言及がなされ
るが、それ以上に中立と公正の内容を明らかにしていない。ここでも両者が同

15) 以下では、「利益相反規制」を、明文のある場合のほか、広く利益相反禁止に当たる場
合を指して説明する。

236

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

義であるのか異なるのかについても明らかではない。その中立と公正は、三権
分立、司法の本質、司法権の行使主体から導かれるもので、より厳格な中立公
正であるとされる 16)。
中立と公正の定義や区別については、諸説がある 17)。公務員においてその中
立性の把握は千差万別である 18)。また、裁判官に求められる厳格な中立公正さ
についても、その広狭が議論される 19)。
もっとも、最高裁判例によれば、中立と公正を区別せずに、
「中立・公正」「中
立かつ公正」という複合語として使用されている(本稿においても、中立と公
正についてその相違を厳密に区別することなく、ほぼ同義のものとして、中立
公正という複合語を使用することとする。


弁護士法制には、中立という言葉はないが、公正については、職務基本規程
5 条、57 条及び 81 条等に規定がある 20)。職務基本規程 5 条にいう「公正」とは、
解説 16 頁によれば、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命に基づき
その職務を遂行するものであることから、弁護士は、いかに依頼者の利益のた
16) 最大決平成 10 年 12 月 1 日(民集 52.9.1761)は「憲法は、近代民主主義国家の採る三権
分立主義を採用している。その中で、司法は、法律上の紛争について、紛争当事者から独
立した第三者である裁判所が、中立・ 公正な立場から法を適用し、具体的な法が何である
かを宣言して紛争を解決することによって、国民の自由と権利を守り、法秩序を維持する
ことをその任務としている。このような司法権の担い手である裁判官は、中立・ 公正な立
場に立つ者でなければならず、その良心に従い独立してその職権を行い、憲法と法律にの
み拘束されるものとされ(憲法 76 条 3 項)、また、その独立を保障するため、裁判官には
手厚い身分保障がされている(憲法 78 条ないし 80 条)のである。」、「司法権を行使する主
体である」とする。
17) 田中成明「手続的正義からみた民事裁判の在り方について」
(法曹時報 55 巻 5 号、2003 年)
21 頁、ジョン・ ロールズ(田中成明ほか訳)「公正としての正義 再説」(2001 年・ 翻訳
発行 2004 年)384 頁、岩佐憲明「政治的中立の不可能性」(徳島大学総合科学部人間社会
文化研究第 21 巻、2013 年)51 頁
18) 田中守「行政の中立性理論」(1963 年)65 頁以下、嶋田博子「公務の『中立性』はどう
理解されてきたか」(政策科学 24-4.2017-3)37 頁
19) 田中成明 21 頁
20) そのほか、職務基本規程 64 条、65 条、74 条に「公正」が規定されている。

237

論説(森田)

めであろうと、不当な目的のために職務を行ったり、不当な手段を用いたりす
ることは許されないとされ、具体的に職務基本規程 21 条・ 31 条・ 75 条を挙げ
ている。職務基本規程 57 条にいう「職務の公正を保ち得る事由」とは、解説
169 頁によれば、客観的・ 実質的に考えたときに、依頼者の信頼確保、弁護士
の職務の公正確保という本条の趣旨に照らして、所属弁護士が、他の所属弁護
士(所属弁護士であった場合を含む)が職務基本規程 27 条または 28 条の規定
により職務を行い得ない事件について職務を行ったとしても、なお弁護士の職
務に対する信頼感を損ねるおそれがなく、弁護士の職務執行の公正さを疑われ
るおそれがないと判断される特段の事情(事由)をいうものとされる。職務基
本規程 81 条にいう「職務の公正を保ち得ない事由」とは、解説 219 頁によれば、
一般的には、客観的・ 実質的に考えて当該委嘱にかかる職務に対する信頼を
損ねる事情といえるとし、官公署委嘱にかかる職務は一般に公平・ 中立を求
められる面がある、その公平性・ 中立性を保ち得ない事情あるいは公平性・
中立性を疑われる事情であるとされ、当事者や関係者との利害関係がないこと
が重要な要素とされる。
このように職務基本規程においても「公正」は多義的に使用されており、各
条文の趣旨に応じて目的的に解釈されている。とはいえ、それでも解説 16 頁
にいう職務基本規程 5 条の公正の意味内容(不当目的不当手段の職務禁止)に
ついては、公正の字義からは著しくかけ離れているかのように思える。遺言執
行者についての裁判例や懲戒先例によれば、
「中立」と「公正」は区別なく同
義で使用されており、職務基本規程 5 条の「公正」を適用する。しかし、解説
16 頁のいう同条の公正の意味内容と同義に用いられてはいないと思われる。
そうすると、懲戒先例の解釈と解説 16 頁の解釈との間には飛躍や矛盾がある
との疑問が生じる。この点については、後記 3(4)で述べるが、同条は「誠
実かつ公正」に職務を行うと規定され、誠実義務の内容との関係で公正義務の
内容に広狭の解釈がなされ得るのであり、解説 16 頁の「公正」の解釈や遺言
執行者についての懲戒先例の「公正」の解釈適用は、いずれも相当であり矛盾
はない。
238

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

2 利益相反について
弁護士の利益相反については、各国において、その規定は統一されておらず、
その意義について明確に定められた規定は見当たらない。
日本の弁護士の利益相反規制については、弁護士法 25 条や職務基本規程 27
条、28 条などに定められているが、その趣旨は、①当事者の利益保護、②弁
護士の職務執行の公正の確保、③弁護士の品位と信用の確保にあるとされ、ア
ングロサクソン法系の依頼者と弁護士との信認関係に基づく忠実義務と大陸法
系(ドイツ)の弁護士の職務の公正に対する信頼の確保の両者の折衷型である
とされる 21)。
3 中立公正と利益相反との関係
(1)
 問題の所在
弁護士は弁護士法 1 条の誠実義務を負い、依頼者に対して専門家として高度
な善管注意義務を負う。誠実義務のなかには、依頼者を裏切らないという忠実
義務(利益相反回避義務)が含まれる。すなわち、弁護士は党派的な活動を行
う。これに対して、中立公正は、非党派的なものであるから、忠実義務と中立
公正は、対立する概念といえる。利益相反は忠実義務から派生するものである
から、利益相反と中立公正とは対立し、別個の領域の問題といえそうである。
(2)
 従前の取扱い
しかし、中立公正の役割と代理人の役割との兼併の問題については、後述す
るとおり、各国の弁護士倫理規制にあって利益相反の項において取り扱われて
いる。また、日本の弁護士倫理にかかる解説書においても利益相反の項におい
て取り扱われている。遺言執行者にかかる事例のように、利益相反として認定
されている議決例も多い。責任調査委員会の委員について、前掲大阪高決は、

21) 柏木俊彦「弁護士の利益相反」(日本法律家協会編『法曹倫理』平成 27 年)140 頁、加
藤新太郎「利益相反」(高中正彦・石田京子編『新時代の弁護士倫理』2020 年)62 頁

239

論説(森田)

中立公正に対する信頼を理由にして利益相反であると判断している。このよう
に中立公正は利益相反の問題として扱われている。
(3) 実質的観点
利益相反規制は本来的には依頼者に対する忠実義務違反の問題である。しか
し、弁護士の活動領域拡大により中立公正の職務を担うとき、中立公正な役割
は、依頼者代理人の役割と相容れない関係に立つ場合がある。このような場合
には、利益相反が本来想定する双方の依頼者代理人の兼併と近似する。また、
中立公正な職務を通して利害関係人や依頼者に実害を及ぼすほか職務の公正に
対する信頼確保を損なうこととなり、利益相反禁止の趣旨と同じくする。
(4) 職務基本規程 5 条の解釈
前記 1 のとおり、職務基本規程 5 条は、誠実「かつ」公正に職務を行うこと
を要請されており、誠実「または」公正に職務を行うことと規定されているの
ではない。誠実義務と公正義務は同時に要請されている。しかし、誠実と公正
は対立する概念といえるから、両者のバランスをはかる必要がある。
依頼者に対する誠実義務・ 忠実義務は弁護士の本質的な価値の高い義務で
あることからすると、
「公正」義務の内容は文理解釈からは大幅に後退し、解
説 16 頁のように、不当な目的や不当な手段を用いたりすることは許されない
という程度のものにとどまる。これは、弁護士が依頼者に対して忠実義務を負
うとしても、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命に基づきその職務
を遂行するものであるから(弁護士法 1 条 1 項)
、依頼者に対する忠実義務は
無制限ではなく、その歯止めないし内在的制約としての「公正」をいうもので
ある。
これに対して、遺言執行者のような中立的立場にある場合、その場合であっ
ても、職務基本規程 5 条にいう誠実義務は要請される 22)。しかし、その場合の
22) 解説 13 頁では、遺言執行者の問題について、誠実義務の項で言及している。

240

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

誠実義務は依頼者に対するものではないから忠実義務を含むものではない。依
頼者に対する誠実義務が存在するとき、第三者に対する誠実義務を認めるべき
かどうかについて議論されているが 23)、ここでは依頼者が措定できない場合の
誠実義務の内容を問題としている。依頼者が措定されていない場合であっても
弁護士の職務である以上誠実義務を負う。そして、後述するとおり、いわゆる
「中立公正義務」が利益相反回避義務を導くものであるとし、それが誠実義務
の内容をなすものと解するとき、職務基本規程 5 条の「公正」の内容は、
(忠
実義務の内在的制約として働くのではなく)中立公正義務にいう「公正」と同
義(
「誠実義務」⊃「中立公正義務」=「公正」
)となる 24)。このように解する
ことにより、遺言執行者についての懲戒先例が同条の「公正」に違反している
としていることを矛盾なく説明することができる。
遺言執行者についての懲戒先例が職務基本規程 5 条の「公正」に違反すると
の結論は、誠実義務の内容をなす中立公正義務から導かれる利益相反回避義務
に違反していることによる。
(5)
 まとめ
以上のとおり、中立公正さが問題となる場面は利益相反の領域の問題として
捉えるべきである。遺言執行者についての問題は、実質的には利益相反の領域
の問題であり、適用法条の違い(職務基本規程 27 条・28 条とするか 5 条・6
条とするか)にすぎない。

23) 誠実義務が依頼者に対するもののほか相手方その他第三者に対するものを含むかどう
かの議論がなされている(加藤「弁護士役割論」357 頁以下、永石 169 頁、田村陽子「弁
護士の誠実義務と職務の独立性」
(高中正彦・石田京子編著『新時代の弁護士倫理』2020 年)
34 頁)。本稿では、別の観点で論じるものであり、中立公正な職務に就いたときの誠実義
務を検討するものである。
24) 後述するとおり、例えば、調停委員に求められる「公正」と遺言執行者に求められる「公
正」とは、その意味内容は異なる。とはいえ、いずれも「誠実義務」に含まれる中立公正
義務が「公正」と同義となることには変わりはない。

241

論説(森田)

4 中立公正と利益相反を検討するにあたっての視座
前掲大阪高決のように、
「独立」
「中立公正」の多義的な概念をもって、弁護
士法や職務基本規程が安易に拡大解釈したり類推適用したりすることを許せ
ば、よってたつ具体的な基準がなく恣意的な運用のおそれがある。また、懲戒
議決例において適用される規程 5 条・6 条は一般条項であることから、その適
用範囲をめぐり具体的な行動指針となり得ず萎縮的効果を生むおそれがあ
る 25)。このことはひいては法の支配の担い手である弁護士の職務活動の自由(憲
法 22 条 1 項)を過度に制限することにもなりかねない。
そのようなことを防ぐ観点から、本稿では、弁護士がその職務上中立公正さ
を求められ、あるいは求められていたとき、利益相反規制に抵触する場合を理
論的な分析を通して検討する。その際、弁護士の中立公正さがどのような場面
で何を根拠にいかなる内容のものが求められ、それがどのようにして利益相反
規制に抵触することとなるのかについて検討する。
依頼者に対する忠実義務違反である利益相反は、主に依頼者との委任契約内
容から導かれ、いわば閉じられた構成要件であるのに対して、中立公正さが利
益相反規制(あるいはその趣旨)に抵触するかどうかは、中立公正が非党派的
であり、また、多義的であることから、いわば開かれた構成要件である。とす
れば、中立公正さが利益相反規制に抵触したというためには、忠実義務違反と
の同価値性を要すると解すべきである 26)。
仮に、弁護士の中立公正さが利益相反規制に抵触する場合、弁護士の中立公
正さは、法的義務を帯びることとなるので、その意味で、弁護士の「中立公正
義務」と表記することとする。
以下では、弁護士の利益相反規制を中心に、比較法的見地をも含めて、弁護
25) 規程第 2 版 86 頁、山田裕祥「利益相反(遺言執行者)」
『改訂弁護士倫理の理論と実務』
(平
成 25 年)109 頁
26) 後述のとおり、忠実義務違反との同価値性は、弁護士法 25 条 4 号の解釈適用において、
公務員が個々人において実質的に関与をすることを要件とすること等を導く根拠となる
し、破産管財人・遺言執行者・相続財産管理人が利益相反規制に抵触する理論的根拠となる。

242

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

士の中立公正義務を検討することとする。

第 3 利益相反を検討する上での出発点としての「依頼者」
1 問題の所在
遺言執行者に関する前掲懲戒議決例や責任調査委員会の委員に関する前掲大
阪高決(但し、前掲最決により否定されている)は、いずれも弁護士が依頼者
を一義的に措定することができていないものである。
利益相反を考えるにあたっては、
「依頼者」の措定は極めて重要なポイント
であり議論の前提となるので整理をしておく必要がある。
2 依頼者を基点とする各国の制度と類型化
弁護士の利益相反は、依頼者に対する背信(大陸法系)27)ないし忠実義務違
反(英米法系)を本質とし、いずれも依頼者を出発点とする。
そこで、弁護士の利益相反を検討するに際しては、第 1 に、依頼者と別の依
頼者との間において問題となる場合【類型 A:双方(代理)型】
、第 2 に、依
頼者と他の立場や役割との間において問題となる場合【類型 B:非双方(代理)
型】を分けて検討するのが便宜であり、各国においてもそれを前提とした法整
備がなされている 28)。
(1)
 日本の制度
弁護士法 25 条 1 号ないし 3 号及び 6 号ないし 9 号並びに職務基本規程 27 条 1
号ないし 3 号及び 28 条 2 号・3 号等によれば、複数の依頼者がいる場合に依頼
者の利益と別の依頼者の利益が相反する場合【類型 A:双方型】を規定してい
る。
また、弁護士法 25 条 4 号・5 号並びに職務基本規程 27 条 4 号・ 5 号及び 28 条
27) ウルリッヒ・ヴェッセルズ(訳 森勇)
「ドイツの実務における利益相反」
(森勇編著『弁
護士の基本的義務・弁護士職業像のコアバリュー』2018 年)170 頁
28) 解説 74 頁、ABA 模範規則 2.4 条

243

論説(森田)

1 号・4 号は、弁護士と事件ないし当事者の間に特別の関係がある場合【類型
B:非双方型】を規定している 29)。
「依頼者」の意義について、弁護士法 25 条 1 号、2 号は、「相手方の協議を受
けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」または「相手方の協議を受けた事
件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」とする。
「依頼を承諾した」とは事件を受任することの依頼に対する承諾をいうものと
解されている 30)。
会社役員や成年後見人など弁護士が本人に対して忠実義務を負う場合は、
「二
重の立場」31)を有することからこれに含まれると解される。
(2) ドイツの制度
2021 年改正 32)ドイツ弁護士法 BRAO(以下、改正ドイツ弁護士法を「BRAO」
という。)43 条 a(4)項によれば、弁護士は、同一の事件において、利害の対
立する他の依頼者にすでに助言又は代理をしている場合には、職務を行うこと
ができない、と規定する【類型 A:双方型】

また、同法 45 条によれば、他の業務と兼業する際の活動制限を規定する【類
型 B:非双方型】

なお、ドイツでは弁護士の利益相反には刑事罰が定められており、ドイツ刑
法 StGB356 条によれば、
(1)弁護士その他の法律専門家が、業務上依頼され
た事件に関して、同一事件において、その義務に反して、双方に助言または法
29) 解説 74 頁
30) 解説 80 頁
31) 柏木 33 頁
32) ドイツ弁護士法 BRAO は、2021 年 7 月大きな改正がなされ、2022 年 8 月施行された。
特徴的なところとしては、弁護士と他の職種の者との専門的協力に関して大きな変更が設
けられたこと、利益相反禁止が企業内弁護士等に拡大されたこと、コミュニティメールボッ
クスが導入されたことを挙げることができる。ただ、本稿の主題に関する限りでは、実質
的な変更は少ないので、改正前 BRAO の解説や注釈については改正 BRAO 下においても
妥当するものとして取り扱う。

244

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

的援助をしたときは、3 月以上 5 年以下の懲役に処する(2)前項の者が、相手
方と共謀して依頼人に不利益を及ぼしたときは、1 年以上 5 年以下の懲役に処
すると規定する。
依頼があったかどうかは、BRAO43 条 a(4)項によれば「助言又は代理」
とされている。通説によれば、具体的事件について一定の法的利益を擁護する
ことの申出を受け直ちにこれを拒絶しなかったことと解されている 33、34)。
もっとも、ドイツでは、独立役員の選任、成年後見人などは兼業という位置
づけであり、BRAO45 条または 43 条 a(6)項により規制される。
(3)
 EU の制度
CCBE 行動規範は、EU における弁護士の職業行動規則であり、EU におけ
る弁護士の国境を越えた移動を規制するものである。
CCBE3.2.1 条によれば、弁護士は依頼人の間に利益相反またはその深刻なお
それがある場合は、同一事件について助言または受任をしてはならないと規定
する【類型 A:双方型】

また、3.2.2 条によれば、弁護士は、利益相反が生じる場合、守秘義務違反
のおそれがある場合、または独立性が損なわれるおそれがある場合には、関係
する依頼人の事件を避けなければならないと規定する【類型 B:非双方型】。
(4)
 米国の制度
ABA 模範規則の前文(法律家の責任)コメント 3 によれば、依頼者との関
係にはない中立の第三者としての役割を認め、その規律について、1.2 条と 2.4
条を挙げている。
利益相反にかかる規定として、1.7 条は、複数依頼者間の利益相反を規定す
る【類型 A:双方型】

33) Satzger, Schluckebier, Widmaier, StGBStrafgesetsbuchKommentar, 5Aufl.2021, 2757, 2758
34) 弁護士法 25 条 1 号は、旧弁護士法 14 条と同様の規定であるが、旧弁護士法 14 条はドイ
ツ帝国弁護士法 31 条を継受したものとされている(条解 199 頁)。

245

論説(森田)

1.8 条は現在の依頼者との利益相反の特別規定【類型 B:非双方型】
、1.9 条
は過去の依頼者に対する義務【類型 A:双方型を含む】、1.10 条は共同事務所
における一般規律、1.11 条は政府弁護士の特別規定、1.12 条は裁判官・仲裁人・
調停人その他中立者の規定【類型 B:非双方型】
、1.13 条は依頼者が組織であ
る場合の規定を定めている。
ABA 模範規則 1.7 条のコメント 2 によれば、利益相反を検討する前提として
依頼者を特定することを求めている。
3 「依頼者」の確定
以上のとおり、各国においては、依頼者(その範囲については異なるが)を
前提として利益相反を規制する。典型的な弁護士業務は、依頼者を代理して、
依頼者のために誠実かつ忠実に職務を行い、相手方と対峙する。しかし、弁護
士は、このような典型的な業務に限られず、複数関係者が取り巻く業務を求め
られてその利害調整を目的とする法律業務を担うことがあり得る。例えば、契
約締結、共同事業の形成や解消、夫婦間調整、遺産分割協議などが挙げられる。
そのような場合、弁護士の「依頼者」は誰なのか、関係者全員であるのか、1
人ないし一部の関係者であるのか、あるいはいずれも依頼者ではないのか、に
ついて確定をしておく必要がある 35、36)。
4 前掲大阪高決について
前掲大阪高決は、弁護士法 25 条 2 号及び同条 4 号の類推適用をしたが、その
根拠として、元役員の責任調査委員会への回答をもって元役員を依頼者に準じ
るものと捉え、さらに、責任調査委員会委員を裁判官に準じるものと捉えた。
しかし、前掲大阪高決は、利益相反を考える上で必要不可欠な出発点としての
「依頼者」を確定することをしなかった点で論証の前提を欠いていた。前掲最
35) 職務基本規程 29 条、30 条、32 条、ABA 模範規則 1.2 条
36) 竹内朗「企業不祥事対応における調査委員会の実務上の課題と今後の展望」自由と正
義 Vol73No.8、32 頁

246

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

決のいうとおり、責任調査委員会委員の「依頼者」は、会社である。元役員は、
【類型 A:双方型】において依頼者ではないし依頼者と同視することはできな
いから、弁護士法 25 条 2 号の類推適用は認められない。また、元役員は、
【類
型 B:非双方型】における裁判官ではないし裁判官と同視することもできない
から、弁護士法 25 条 4 号類推適用は認められない。

第 4 中立公正を検討する上での「依頼者」とその類型化
1 問題の所在
責任調査委員会の委員に関する前掲大阪高決(前掲最決で否定された)は、
責任調査委員会の委員の職務の中立公正さを指摘した上で弁護士法 25 条 2 号
及び 4 号の類推適用を導いたが、その誤りは中立公正さの類型化が不十分で
あったことによる。中立公正は、対立当事者の一方に与しない、偏しないこと
をいうから、対立当事者すなわち「依頼者」を基点にして類型化を試みる。
なお、利益相反における「依頼者」概念は各国において異なることを踏まえ
ると、そもそも中立公正について検討する際の「依頼者」と、利益相反におけ
る「依頼者」を同義のものとして議論をしてよいかを踏まえておく必要がある。
利益相反は「依頼者」本人に対する忠実義務(党派的活動)から派生するもの
であり、中立公正の職務は非党派的活動であり両者は対立する。また、前述の
とおり、弁護士法 25 条ないし職務基本規程 27 条にいう「依頼」者ないし「依
頼を承諾」とは、本人に対して忠実義務を負う場合をいうものと解される。と
すれば、「依頼者」=「忠実義務を負う場合」に利益相反が検討され、それ以
外の場合に中立公正が検討されるものであるから、中立公正について検討する
際の「依頼者」は、利益相反における「依頼者」と同義のものとして議論を進
めてよいと思われる。
2 中立公正の類型化
中立公正については、以下のように類型化して検討する。

247

論説(森田)

(1)
 依頼者を措定することできる場合
 代理人活動など弁護士本来の活動において、依頼者を措定することでき
る場合、弁護士は「依頼者」との関係において、中立公正が俎上に載せら
れる場合がある。
その場合、
主体である複数依頼者間の中立公正【類型 X ①:依頼者同士型】
と依頼者の依頼内容における中立公正【類型 X ②:依頼内容型】に分ける
ことができる。
いずれも利益相反の【類型 A:双方型】の場面で検討することとなる。
(2)
 依頼者を措定することができない場合



 公務員その他の公益的な活動など依頼者を措定することができない場
合、弁護士は、その職務において、中立公正さが求められる。
その場合、大きくわけて、弁護士法 25 条 4 号・5 号ないし職務基本規程
27 条 4 号・ 5 号に掲げる主体の場合【類型 Y ①:規定型】と明文のない場
合【類型 Y ②:非規定型】が挙げられる。
いずれも利益相反の【類型 B:非双方型】の場面で検討することとなる。
(3)
 類型整理



 以上の類型を整理すると、下表のとおりである。
これらについて検討を試みる。
【類型 A】双方(代理)型

【類型 B】非双方(代理)型

【類型 X ①】
依頼者間の中立

(例)
複数依頼者・
調整型業務など

【類型 Y ①】
法 25 ④⑤

(例)
公務員・ 裁判官・
仲裁人など

【類型 X ②】
依頼内容の中立

(例)
【類型 Y ②】
独立役員・ 第三者 明文なし
委員会など

(例)
遺言執行者・ 破産
管財人など

【付記】本稿は、科学研究費補助金・ 基盤研究 C「弁護士の中立公正義務の理
論的分析」
(課題番号 22K01273)の研究成果の一部である。
【後記】本号は、故大塚章男教授の追悼号である。先生は、実務家教員であり
248

弁護士の中立公正義務の理論的分析(1)

ながら、豊富な研究業績を有し、また、筑波大学法曹専攻長、ビジネス研究科
長をそれぞれ歴任された。とりわけ先生が法曹専攻長の在任時に既修者コース
を新設されるなど多くの改革を断行されたことは、現在の本学法科大学院の礎
を築くこととなった顕著な功績である。
先生の急逝の報は今なお信じがたいが、
先生から数々の薫陶を受けた者としてあらためて謝意を申し上げる次第である。
(もりた・けんすけ 筑波大学ビジネスサイエンス系教授)

249

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