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もやもや病疾患感受性遺伝⼦多型RNF213 rs112735431と末梢性肺動脈狭窄症の関連の検証

尾崎, 弾 東北大学

2023.03.24

概要

博⼠論⽂

もやもや病疾患感受性遺伝⼦多型
RNF213 rs112735431 と
末梢性肺動脈狭窄症の関連の検証

東北⼤学⼤学院医学系研究科医科学専攻
神経・感覚器病態学講座神経外科学分野
尾崎 弾

1

⽬次
[1]要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3
[2]研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
[3]研究⽅法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
[4]研究結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
[5]考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
[6]結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
[7]謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
[8]⽂献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
[9]図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
<略語⼀覧>
RNF213; Ring finger protein 213
ATP; adenosine triphosphate
DNA; deoxyribonucleic acid
PCR; polymerase chain reaction

2

[1] 要約
【背景】もやもや病は、慢性進⾏性に内頚動脈終末部の狭窄・閉塞性変化と異常⾎管網

であるもやもや⾎管の増⽣をきたす脳⾎管疾患である。⼩児・若年成⼈の脳卒中の原因
として重要な位置を占めており、⾎管狭窄による脳虚⾎ともやもや⾎管の破綻による脳
出⾎の両者を引き起こす。頭蓋内⾎管の狭窄ともやもや⾎管の形成の原因は未だ不明で
ある。もやもや病疾患感受性遺伝⼦として RNF213 (Ring finger protein 213)遺伝⼦多
型 rs112735431 が同定されているが、この遺伝⼦多型の病態への関与は未だ解明され
ていない。⼀⽅で、頭蓋内⾎管の狭窄とともに全⾝⾎管の狭窄を併発する症例が相次い
で報告され、その背景に RNF213 遺伝⼦多型の関与が⽰唆されている。頭蓋外⾎管狭
窄症のうち、末梢性肺動脈狭窄症は、肺⾼⾎圧症をきたす原因不明の稀な疾患である。
もやもや病における末梢性肺動脈狭窄症の合併は、もやもや病に対する⼿術介⼊や周術
期管理に影響を与え、臨床的に重要である。しかしながら、もやもや病における末梢性
肺動脈狭窄症の合併頻度や合併例における RNF213 遺伝⼦変異の関連等は明らかでは
ない。そこで、本研究ではもやもや病患者における末梢性肺動脈狭窄症患者の発⽣率及
びその臨床経過を明らかにし、もやもや病と末梢性肺動脈狭窄症の関連を検証すること
を⽬的とした。
【⽅法】2015 年 1 ⽉から 2020 年 12 ⽉に、東北⼤学病院および広南病院に⼊院または
外来通院歴のあるもやもや病及び類もやもや病患者のうち、遺伝学的検査に同意した連
続 306 症例を対象とし、後⽅視的に解析した。リアルタイム PCR 法により、RNF213
遺伝⼦多型を同定した。もやもや病及び類もやもや病は特徴的な動脈狭窄画像を元に診
断され、動脈狭窄をきたす基礎疾患を有する場合は類もやもや病と診断される。本研究
では類もやもや病も含めることで末梢性肺動脈狭窄症と背景因⼦の関連を広く検証する
こととした。患者が⼼肺機能障害の徴候を⽰した際に、⼼肺機能検査を実施し、末梢性

3

肺動脈狭窄症の診断を⾏った。もやもや病及び類もやもや病における RNF213 遺伝⼦
多型別の末梢性肺動脈狭窄症合併の頻度を検証した。
【結果】末梢性肺動脈狭窄症は 306 例のもやもや病・類もやもや病患者のうち 3 症例
(0.98%, 3/306)に認めた。ホモ型の RNF213 遺伝⼦多型を有する患者の 40% (2/5)に末
梢性肺動脈狭窄症を認めたのに対し、RNF213 遺伝⼦多型を有さない患者の 0%
(0/101)、RNF213 遺伝⼦多型ヘテロ型患者の 0.5% (1/200)でのみ末梢性肺動脈狭窄症
の併発を認めた。ホモ型の RNF213 遺伝⼦多型と末梢性肺動脈狭窄症は統計学的に有
意な関連を⽰した(p = 0.0018)。末梢性肺動脈狭窄症を併発した患者 3 例は全例、⼩児
期に肺⾼⾎圧症を呈していた。⼼肺機能の著明な低下のため、もやもや病に対する全⾝
⿇酔下での⾎⾏再建術の施⾏が困難であった症例が存在した。
【結論】ホモ型の RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 を有するもやもや病及び類もやも
や病患者では、末梢性肺動脈狭窄症を発症するリスクが⾼い。肺⾼⾎圧症を呈すると、
もやもや病に対する全⾝⿇酔下での⾎⾏再建術が困難となるため、RNF213 遺伝⼦多型
rs112735431 を有するもやもや病及び類もやもや病患者に対しては末梢性肺動脈狭窄症
の検索、進⾏抑制を考慮した診療戦略の構築が必要である。

4

[2] 研究背景

もやもや病は慢性進⾏性に内頚動脈終末部の狭窄を来たし、側副⾎⾏路として脳底部に
異常⾎管網である「もやもや⾎管」が形成される脳⾎管疾患である 1), 2)。狭窄の進⾏に
よる脳虚⾎症状ともやもや⾎管の破綻による脳出⾎の両⽅を引き起こし、⼩児・若年成
⼈における脳卒中の原因疾患として重要である。特徴的な内頚動脈終末部の狭窄ともや
もや⾎管の増⽣を画像所⾒で認め、基礎疾患がない場合にもやもや病と診断される 1)。
もやもや病と同様の⾎管画像所⾒を⽰し、基礎疾患を有する場合は、類もやもや
病と診断される。背景疾患としては、全⾝性エリテマトーデスやリン脂質抗体症候群な
どの⾃⼰免疫疾患 3-5) 、神経線維腫症 1 型 6), 7)、脳腫瘍 8), 9)、Down 症候群 10), 11)、放射
線照射 12), 13)、甲状腺機能亢進症 14), 15)、Alagille 症候群 16-20)、Williams 症候群 21)、
Noonan 症候群 22,) 23)など、多数報告されている。

類もやもや病における⾎管狭窄と異常⾎管網発達のメカニズムは、その基礎疾患によって様々
である⼀⽅、基礎疾患を有さないもやもや病における病態メカニズムは明らかでない。もやも
や病が東アジア系集団での発症頻度が⾼いことに注⽬したゲノムワイド関連解析によって、

RNF213 (Ring finger protein 213)遺伝⼦での⼀塩基多型 rs112735431 (c.14576G>A,
p.R4810K)が、もやもや病の疾患感受性遺伝⼦として同定された24) ,25)。この⼀塩基多型のもや
もや病に寄与するオッズ⽐は、190.6であり24)、東アジア⼈もやもや病における約70-90%がヘ
テロ型RNF213遺伝⼦多型rs112735431を有し、約2-7%がホモ型のRNF213遺伝⼦多型
rs112735431を有する24) ,25)。RNF213遺伝⼦は、17番染⾊体⻑腕に存在し5256のアミノ酸から
なるタンパク質をコードする遺伝⼦である25)。RNF213のタンパク質はreally interesting new
gene (RING) fingerドメインとAAA ATPaseドメインを有しており、E3ユビキチンリガーゼと
ATP分解機能を有するタンパク質である26)。RNF213は全⾝組織に発現しているが、特に脾臓
やリンパ球などの免疫担当細胞に強く発現していることが知られている24)。RNF213の細胞⽣
理機能に関する研究が近年続々と報告されている。⾮ミトコンドリア性酸素消費27)、脂質代謝
5

28)

、抗原の取り込み処理と抗原提⽰29)などの多様な⽣理機能を果たすことが明らかにされてい

る。しかしもやもや病における⾎管狭窄あるいは異常⾎管の増⽣にRNF213遺伝⼦多型がどの
ように関与するか、詳細は未だ明らかになっていない。

RNF213 遺伝⼦の⼀塩基多型 rs112735431 (c.14576G>A, p.R4810K)は C 末端の機能未
知領域内に位置する 30)。しかし、RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 に相同する⼀塩基
多型をノックインした遺伝⼦改変マウスではもやもや病の発症には⾄らず 31)、⼀般の
⽇本⼈におけるこの遺伝⼦多型の頻度は 1-2%程度あること 25)などから、RNF213 遺伝
⼦多型 rs112735431 に加えた、もやもや病病態形成に関わるさらなる別要因の存在が
⽰唆されている 32-34)。
⼀⽅でコーカソイド⼈種にはRNF213遺伝⼦多型rs11273543はほぼ認めず、稀なヘテロ型

RNF213遺伝⼦多型が、コーカソイド⼈種における早期発症や家族性のもやもや病症例に複数
同定されているが、個々の遺伝⼦多型におけるもやもや病発症への有意な関与は検出されてい
ない35), 36) 。RNF213遺伝⼦多型rs11273543は⽇本⼈および韓国⼈におけるもやもや病の発症
に強く関与する最も頻度が⾼い遺伝⼦多型であり24), 25), 37)、これまでに臨床的重要性を⽰す知
⾒が蓄積されていることから38-40)、RNF213遺伝⼦多型rs11273543に着⽬した。

過去には頭頚部⾎管の変化に注⽬をした研究が報告されていたが、肺⾎管や冠動脈、腎
動脈などの頭蓋外⾎管に狭窄性変化を併発するもやもや病患者の症例が近年相次いで報
告されている 41-44)。⼀⽅で、⾮もやもや病の頭蓋内⾎管及び冠動脈の狭窄病変に

RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 が関与していることが報告された 45-47)。これらの報
告から、もやもや病という疾患集団とは別に、RNF213 vasculopathy と呼ばれる疾患概
念が提唱された 48-50)。これまでもやもや病と末梢性肺動脈狭窄症の合併例は 7 例報告
され、そのうち RNF213 遺伝⼦多型が調べられた症例は、すべてホモ型の RNF213 遺
伝⼦多型 rs112735431 を有していた 41-43)。⼀⽅で特発性肺⾼⾎圧症のうち 7.9 %にヘテ
ロ型の RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 を認めたが、もやもや病の診断に⾄った症例
6

は存在しなかった 51)。もやもや病および末梢性肺動脈狭窄症、RNF213 遺伝⼦多型関
係性を、統計学的⼿法を含めて解析した報告はこれまでにない。

今回我々が着⽬した末梢性肺動脈狭窄症は、Williams 症候群や Noonan 症候群、先天
性⾵疹症候群などの先天性⼼疾患や染⾊体異常を合併した⼩児に発⽣する稀な疾患であ
る 52), 53)。思春期や成⼈期での発症頻度は低く、その原因は不明である 54), 55)。末梢性肺
動脈狭窄症は肺⾼⾎圧症を来し、症状が重篤になる場合があり、⼼不全や突然死の危険
性がある 54)。もやもや病に末梢性肺動脈狭窄症が合併した症例が近年複数報告されて
おり、もやもや病に対する⾎⾏再建術後に、肺炎を来したことを契機に肺⾼⾎圧症の急
速な悪化を来し死亡した症例が報告されている。41-43)。もやもや病と末梢性肺動脈狭窄
症の併発が予後不良を来す可能性が考えられる 41)。⾼度の⼼肺機能異常により全⾝⿇
酔下での⾎⾏再建術が困難となり、もやもや病に対する治療が制限される可能性があ
る。もやもや病における末梢性肺動脈狭窄症の合併は、肺⾼⾎圧症の進⾏により致死的
となりうると考え、今回着⽬した。さらに最近の報告では RNF213 遺伝⼦多型
rs112735431 が特発性肺⾼⾎圧症の予後不良因⼦であることが報告された 51), 56)。これ
らの報告から、RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 がもやもや病患者における末梢性肺
動脈狭窄症の合併や肺⾼⾎圧症への進⾏や⽣命予後に重要な役割を果たしている可能性
が考えられたが、これまでにもやもや病における末梢性肺動脈狭窄症の合併頻度や

RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 との関連を⽰した報告はない。RNF213 遺伝⼦多型
rs112735431 と末梢性肺動脈狭窄症の関係を明らかにすることが、もやもや病症例への
治療戦略に影響を与える可能性がある。本研究ではもやもや病患者における末梢性肺動
脈狭窄症の発症率と臨床経過、そして RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 と末梢性肺動
脈狭窄症の関連を明らかにすることを⽬的とした。

7

[3] 研究⽅法

2015 年 1 ⽉から 2020 年 12 ⽉に、東北⼤学病院および広南病院に⼊院または外来通院
歴のあるもやもや病(523 名)及び類もやもや病患者(10 名)のうち、遺伝学的検査に同意
した連続 306 症例(もやもや病患者 300 名、類もやもや病 6 名)を対象とし、後⽅視
的に診療録及び画像診断記録を検証した。本研究では類もやもや病も対象に含めること
で末梢性肺動脈狭窄症と背景因⼦の関連を広く検証することとした。末梢性肺動脈狭窄
症と診断された患者の症例数とその臨床経過を検討した。
東北⼤学⼤学院医学系研究科倫理委員会(承認番号 2016-1-212、2018-1-675)および
財団法⼈広南会広南病院(承認番号 2020-0520-03)により承認された。参加者または
その保護者から書⾯によるインフォームドコンセントを得た。本研究はヘルシンキ宣⾔
を遵守したうえで施⾏した。

(1)もやもや病及び類もやもや病、末梢性肺動脈狭窄症の診断

もやもや病および類もやもや病の診断は,厚⽣労働省のウィリス動脈輪閉塞症研究班の
診断基準に基づいて⾏った 1), 2)。もやもや病と同等の⾎管造影所⾒を⽰しながら、全⾝
性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群などの⾃⼰免疫疾患、神経線維腫症 1
型、脳腫瘍、Down 症などの併存疾患がある患者を類もやもや病と診断した。患者が⼼
肺機能障害の徴候を⽰した際に、⼼肺機能検査を実施した。⼼肺機能障害などの臨床所
⾒と CT 肺⾎管造影、肺換気・⾎流シンチグラフィ、肺⾎管造影などの画像検査の所⾒
から末梢性肺動脈狭窄症と診断した。肺動脈性肺⾼⾎圧症は、右⼼カテーテル検査時の
安静時の平均肺動脈圧 ≧ 25 mmHg、肺動脈楔⼊圧 ≦ 15 mmHg と定義した。末梢性
肺動脈狭窄症に対するバルーン肺動脈形成術は、肺動脈圧の低下、肺⾼⾎圧症状の緩
和、肺⾼⾎圧症治療薬の減量が必要な場合に施⾏した。

(2)もやもや病疾患感受性遺伝⼦多型 RNF213 rs112735431(c.14576G>A )の同定

8

リアルタイム PCR 法を⽤いて、以前の報告 40), 57)と同様に RNF213 遺伝⼦多型
rs112735431(c.14576G>A )
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/snp_ref.cgi?rs=112735431) を同定し
た。RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431(c.14576G>A )は、TaqMan® SNP genotyping
assay (Assay ID: C_153120198_10; Applied Biosystems, Foster City, CA, USA) を⽤いて
同定された。解析には、末梢⾎または唾液から抽出した DNA を⽤いた。リアルタイム
PCR は、StepOnePlus(Applied Biosystems)を⽤いて以下のように⾏った。⼀次熱変
性は 95℃で 10 分間⾏い、その後 95℃で 15 秒間の熱変性と 60℃で 1 分間のアニーリ
ングと伸⻑を 40 サイクル繰り返した。患者の臨床情報を知らない研究者が、Applied
Biosystems® TaqMan® GenotypeTM ソフトウェアを使⽤して遺伝⼦型を決定した。

(3)統計解析

すべての統計解析は、IBM SPSS(version 24; IBM Corp)を⽤いて⾏った。RNF213
遺伝⼦多型 rs112735431 と末梢性肺動脈狭窄症の発⽣率との関連は、フィッシャーの
正確検定によって評価した。3 群の⽐較をボンフェローニ補正で⾏い、両側 p 値が
0.0167 以下の場合に有意性があると判断した。

9

[4] 研究結果
(1) もやもや病/類もやもや病患者における RNF213 遺伝⼦型と末梢性肺動脈狭窄症の
関連性

もやもや病・類もやもや病症例 533 例のうち、⼼雑⾳や⼼肺機能低下症状を来し造影
CT などの侵襲的な検査が施⾏された症例は 3 例のみであった。その 3 例が末梢性肺動
脈狭窄症を合併していた。その合併割合は、0.56 % (3/533)であった。遺伝⼦検査の同
意が得られたもやもや病・類もやもや病症例 306 例のうち、RNF213 遺伝⼦多型
rs114735431 が野⽣型である症例は 33.0 % (101/306)に認めた。ヘテロ型 RNF213 遺
伝⼦多型 rs114735431 を 65.4 % (200/306)、ホモ型 RNF213 遺伝⼦多型 rs114735431
を 1.63% (5/306)に認めた。RNF213 遺伝⼦多型 rs114735431 が野⽣型である症例のう
ち末梢性肺動脈狭窄症を合併した症例はなく、ヘテロ型 RNF213 遺伝⼦多型
rs11473543 を有する症例のうち 1 例(1/200, 0.50 %)と、ホモ型 RNF213 遺伝⼦多型
rs11473543 を有する症例のうち 2 例(2/5, 40.0 %)に末梢性肺動脈狭窄症の合併を認め
た(表 1)。
末梢性肺動脈狭窄症の発症率は、ホモ型 RNF213 遺伝⼦多型 rs11473543 を持つもやも
や病/類もやもや病症例が 40.0 % (2/5)で、⼀塩基多型を有さない症例やヘテロ型

RNF213 遺伝⼦多型 rs114735431 を有する症例より⾼い結果であった(表 1)。統計解
析の結果、もやもや病・類もやもや病症例においてホモ型 RNF213 遺伝⼦多型
rs114735431 を有する場合には、末梢性肺動脈狭窄症の合併が有意に多かった(p =
0.0018)。⼀⽅で、もやもや病・類もやもや病におけるヘテロ型 RNF213 遺伝⼦多型
rs114735431 と、末梢性肺動脈狭窄症の関連は認められなかった(p = 1.000)(表 2)。
もやもや病症例 523 例のうち末梢性肺動脈狭窄症を合併した症例は 2 例で、どちらも
ホモ型 RNF213 遺伝⼦多型 rs114735431 を有していた。類もやもや病症例 10 例のうち
末梢性肺動脈狭窄症を合併した症例は 1 例で、ヘテロ型 RNF213 遺伝⼦多型
rs114735431 を有していた(表 1)。
10

(2)末梢性肺動脈狭窄症を発症したもやもや病・類もやもや病患者の臨床症状

末梢性肺動脈狭窄症を発症したもやもや病・類もやもや病患者 3 名の臨床的特徴を表 3
にまとめた。類もやもや病患者(症例 3)は神経線維腫症Ⅰ型の診断を受けている。この
3 名はもやもや病の家族歴はなく、2 名は⼀過性脳虚⾎発作(症例 1、3)、1 名はくも
膜下出⾎(症例 2)でもやもや病あるいは類もやもや病を発症した。症例 3 のみ⼼肺機
能障害発現前にもやもや病に対する⾎⾏再建術を施⾏した。3 例とも⼩児または若年成
⼈期に末梢性肺動脈狭窄症による肺⾼⾎圧症を発症し、プロスタサイクリン作動薬の投
与とバルーン肺動脈形成術を施⾏した。代表的な症例(症例 1)を図 1 に⽰す。

代表症例(症例 1)

16 歳もやもや病患者。16 歳時に左上下肢の⼀過性脱⼒発作と労作時呼吸困難が頻
発し精査の結果、もやもや病(図 1a-b)および末梢性肺動脈狭窄症(図 1c)による肺⾼
⾎圧症と診断された。遺伝⼦解析の結果、ホモ型 RNF213 遺伝⼦多型 rs114735431 が
同定された。もやもや病は、脳循環不全を伴い、虚⾎症状を呈していたことから、全⾝
⿇酔下での⾎⾏再建術の適応と考えられたが、⾼度の肺⾼⾎圧症による⼼肺機能低下の
ため、全⾝⿇酔下での⾎⾏再建術はリスクが⾼いと判断し、抗⾎⼩板剤内服による内科
的治療を継続する⽅針とした。肺⾼⾎圧症は、プロスタサイクリン製剤の投与を開始し
たが難治に経過したため、バルーン肺動脈形成術を複数回施⾏した。

11

[5] 考察

本研究により、もやもや病・類もやもや病において、ホモ型 RNF213 遺伝⼦多型
rs114735431 と末梢性肺動脈狭窄症との間に有意な関連があることを統計学的に⽰すこ
とができた。もやもや病・類もやもや病におけるホモ型 RNF213 遺伝⼦多型
rs114735431 は、末梢性肺動脈狭窄症の発症素因となる可能性がある。

1)RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 のもやもや病への関与

RNF213 遺伝⼦は 2011 年に東アジア⼈におけるもやもや病の疾患感受性遺伝⼦として
同定された 24), 25)。RNF213 遺伝⼦多型 rs112735431 のもやもや病発症への寄与は、オ
ッズ⽐が 100 以上であり、重要であるが、その寄与メカニズムは未だ明らかになって
いない 24), 25)。RNF213 遺伝⼦がコードする 584 kDa のタンパク質はユビキチンリガー
ゼドメインと ATPase ドメインの2つの機能ドメインを有し 26)、その機能は多岐に渡
る。これまでに、⾮ミトコンドリア性酸素消費 27)、脂質代謝 28)、抗原の取り込み処理
と抗原提⽰ 29)、Wnt シグナル伝達を介した⾎管増⽣ 58) 等、さまざまな細胞⽣理機能へ
の関与が報告されている。RNF213 遺伝⼦多型 rs114735431 をノックインした遺伝⼦
改変マウスでは頭蓋内⾎管の狭窄を認めないものの 31)、Rnf213 遺伝⼦ノックアウトマ
ウスにおける T 細胞応答の低下と⾎管新⽣作⽤の亢進が報告されている 59), 60)。また、
もやもや病患者で炎症性サイトカインやマトリックスメタロプロテイナーゼの増加 6163)

、炎症と⾎管新⽣に重要なカベオリンの低下 64)を認めることや、類もやもや病患者

においては⾃⼰免疫疾患の併発率が⾼いこと 57), 65)から、⾃⼰免疫疾患や感染症による
炎症をトリガーに、RNF213 遺伝⼦変異を介したシグナル伝達が内⽪機能障害と⾎管新
⽣活性を増強し、⾎管狭窄を来すとの仮説が考えられている 30), 66)。
2)RNF213 遺伝⼦多型の頭蓋外⾎管狭窄への関与

12

これまでの研究において、もやもや病では頭蓋内⾎管狭窄が注⽬され、内頚動脈終末部
に狭窄が集中することから、⾎⾏⼒学的関与 67)や発⽣学的異常 68)が検証されていた。
しかし⼀部のもやもや病患者において頭蓋外⾎管狭窄を合併することが近年報告されて
おり 41-44)、特にホモ型 RNF213 ⼀塩基多型 rs114735431 が頭蓋外⾎管狭窄と関連する
ことが⽰されている 50)。 ...

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