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大学・研究所にある論文を検索できる 「Significant decrease in delirium referrals after changing hypnotic from benzodiazepine to suvorexant」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Significant decrease in delirium referrals after changing hypnotic from benzodiazepine to suvorexant

立花, 昌子 名古屋大学

2021.08.25

概要

【緒言】
総合病院では興奮・過活動や幻覚妄想を伴う重度のせん妄症例が、他科から精神科に依頼されることが多いが、せん妄の発症や重症化に使用されている薬剤の影響が疑われる症例も少なくない。特にベンゾジアゼピン系薬剤(以下、BZDs)は、高齢者ではせん妄を引き起こすことが報告されているものの、本邦ではいまだに不眠時の第一選択薬として頻用されている。一方、オレキシン受容体拮抗薬である suvorexant は、せん妄予防効果が無作為化対照試験(Randomized Controlled Trial,以下 RCT)で報告されている。RCT の重要な点は、無作為化により介入群と非介入群間に生じ得るバイアスを最小化することである。しかし、患者の RCT 参加への拒否や並存疾患により対象患者が限定されることでバイアスが生じ、RCT から得られた知見は実臨床での治療や予防の有効性を必ずしも反映していないという問題が指摘されている。以上を踏まえた本研究は、総合病院に入院中の 65 歳以上の患者に対し、不眠時の第一選択薬として BZDs が suvorexant に変更されたことにより、他科から精神科へのせん妄依頼件数がどのように変化するかを検討した。

【対象及び方法】
本研究は A 総合病院の倫理委員会で承認され、その承認事項に則り実施された。本研究の対象者は 2015 年 5 月から 2018 年 4 月までの 3 年間に、A 総合病院で他科から精神科に依頼され、The 5th edition of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders にてせん妄と診断された 65 歳以上の 272 名の患者である。診療録より、性別、年齢、体格指数(body mass index)、視覚・聴覚障害、認知症、精神疾患既往の有無、飲酒・喫煙歴、入院中の主科、手術・全身麻酔の有無、心肺蘇生の有無、集中治療室使用の有無、経口摂取の状況、入院前後に使用された薬剤、入院日数を抽出した。せん妄の重症度は日本語版の Delirium Rating Scale-Revised-98(せん妄評価尺度 98 改訂版、以下 DRS-R-98)を用いて評価した。不眠時の第一選択薬として BZDs の一つであるbrotizolam が使用された A 期(2015 年 5 月~2016 年 4 月)、BZDs に代わり suvorexantの使用が推奨された B 期(2016 年 5 月~2017 年 4 月)、不眠時の第一選択薬として suvorexant が使用された C 期(2017 年 5 月~2018 年 4 月)の 3 期間において、他科から精神科に依頼されたせん妄症例数の比較を行った。また、せん妄の発症や重症化に影響を及ぼす可能性のある交絡因子についても 3 期間で検討した。

【結果】
Table 1 は 3 期(A,B,C)の人口統計学的特徴と臨床的特徴の比較を示す。聴覚障害の割合、入院前の suvorexant 使用で 3 期間での有意差が認められた。DRS-R-98 の 10 項目の平均合計評点は 18.6、3 期間での有意差は認められなかった。また、全期間において中等度または重度の運動性焦燥が 90%以上、中等度または重度の思考過程異常が 80%以上のせん妄患者に認められた。

Figure 1 は、A 総合病院で 65 歳以上の入院患者に処方された brotizolam と suvorexantの1 年間ごとの総錠剤数と各期間のせん妄依頼症例の 3 ヶ月ごとの総数の 3 年間の推移を示している。期間 A では、せん妄を発症した 133 名のせん妄患者のうち 111 名に対して、他科から精神科に依頼される前に BZDs が処方されていた。そのうち、経口薬の第一選択薬は 90%が brotizolam であった。BZDs の使用はせん妄発症の危険因子であると報告されているため、A 総合病院では、2016 年 5 月から、BZDs の代わりに suvorexant が不眠時の第一選択薬として推奨された。その結果、期間 B では brotizolamの使用量が減少し、suvorexant の使用量は増加した。また、同時に他科から精神科へのせん妄の依頼件数の減少がみられた。BZDs の使用を控えたこと、あるいは suvorexantの使用が入院患者におけるせん妄予防として有用であることが示唆され、この知見に基づき、2017 年 5 月以降、65 歳以上の入院患者の不眠治療における第一選択薬を suvorexant とすることに全科、全病棟で統一された。期間 C では brotizolam の総錠剤数が、期間 A の 25,263 錠から 4,282 錠に減少した。せん妄依頼件数は、期間 A の 133から期間 B の 86、期間 C の 53 にまで減少し、3 期間を通じて有意に減少することが確認された(χ2 = 41.7、df = 2、p = 9 x 10-10)。

Table 2 は、入院後、精神科に依頼される前に主治医から新たに処方された薬剤を 3期間で比較したものである。brotizolam と suvorexant では有意差が認められたが、それ以外の薬剤では非 BZD 系睡眠薬、ramelteon を含め、処方頻度に有意差は認められなかった。

【考察】
不眠時に投与される睡眠薬の第一選択薬を BZDs である brotizolam から、オレキシン受容体拮抗薬である suvorexant に切り替えたところ、他科から精神科への 65 歳以上のせん妄症例の依頼件数が 3 年間の観察で有意に減少した。一般的に、総合病院では激しい運動性焦燥を示すせん妄症例が他科から精神科に紹介される。本研究でも対象患者のほとんどが重度の興奮、暴力、徘徊を呈し、軽度のせん妄症例は含まれていなかった。

せん妄の重症度は様々な要因によって影響を受けるため、本研究では 3 期間で 50 以上の潜在的交絡因子を検討したが、睡眠薬以外で有意差が認められたのは聴覚障害の割合のみであった。睡眠薬については、入院後に精神科に紹介される前に主治医から新たに処方された brotizolam と suvorexant の使用に有意差が認められた。また、入院前の suvorexant の使用にも有意差が見られたが、近年におけるプライマリケアでの不眠症治療の変化−BZDs 使用の減少と suvorexant 使用の増加など−も今回の結果に関与している可能性がある。本研究で観察された睡眠薬の変更による重度のせん妄への予防的効果は、suvorexant の予防効果のみならず、本邦での BZDs の頻用によるせん妄惹起が減少したことに起因している可能性がある。以前の研究では、高齢入院患者における非薬理的な睡眠プロトコール使用による鎮静系睡眠薬使用の減少の潜在的な利点が示唆されている。高齢患者の不眠症治療に対する最適な薬物選択に関してはさらなる研究が必要である。

本研究における限界は下記のものが挙げられる。第一に、単一の総合病院での実臨床下の後ろ向き研究であることから、サンプリングバイアスの可能性があり今回の結果を確認するには、他の総合病院の患者を含めたさらなる研究が必要である。第二に、不眠時の睡眠薬として BZDs を原則投与した期間と、suvorexant を原則投与した期間の患者群を比較したが、これらの比較は同時期に行われた並行群間比較試験ではなかった。第三に、今回の不眠時の睡眠薬変更の試みの過程で、BZDs 使用の問題が他科の医師や看護師に広く知られるようになり、せん妄の認知度が高まった可能性がある。主治医や看護師らのせん妄に対する非薬理的介入が重度のせん妄の予防につながった可能性がある。第四に、検討されなかった薬剤がせん妄発症の交絡因子として関与している可能性がある。

【結語】
臨床における高齢者の不眠症治療での BZDs 使用から suvorexant 使用への切り替えは、せん妄予防に有効であることが示唆された。

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