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書き出し

安静時マウス脳における特徴的な遺伝子発現を有するミクログリア亜集団の脳領域不均一性

三島, 零 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Microglial subpopulations with distinct
transcriptome signatures vary across brain
regions in the resting mouse brain

三島, 零
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8614号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100482362
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)

学位論文の内容要旨

Microglial subpopulations with distinct transcriptome
signatures vary across brain regions
in the resting mouse brain

安静時マウス脳における特徴的な遺伝子発現を有する
ミクログリア亜集団の脳領域不均一性

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
薬理学
(指導教員:古屋敷 智之 教授)
Rei Mishima
三島



【背景・目的】
中枢の免疫担当細胞であるミクログリアは、安静時では絶えず脳実質を監
視し、神経回路の発達や可塑性に寄与する。一方で神経変性疾患や精神疾患、
加齢に伴い、ミクログリアはその性質を変化させ、炎症性メディエーターの
分泌や貪食を介して神経機能に影響を及ぼす。近年、シングルセル RNA シー
ケンス (scRNA-seq) により、神経変性疾患におけるミクログリアのトランス
クリプトームの不均一性が示され、ミクログリア亜集団である疾患関連ミク
ログリア (Disease-associated microglia; DAM) が特定された。インターフ
ェロン応答遺伝子が高発現する interferon response microglia (IRM) やケモ
カイン CCL3/4 が高発現するミクログリアである少数細胞の亜集団も特定さ
れ、これらは老化とともに増加することが示された。多数細胞の亜集団の不
均一性は従来の遺伝子発現解析 (バルク RNA-seq) で示されてきた脳領域特
異性に寄与する可能性が示唆されている。
慢性ストレスなどの環境からの刺激は、自然免疫受容体である Toll 様受容
体 2 および 4 (TLR2/4) を介してミクログリアを活性化することが示されて
いる。しかしながら、安静時の脳におけるミクログリアの不均一性を複数の
脳領域にわたって一細胞レベルで検討した報告は少なく、ストレスによるミ
クログリア活性化と不均一性の関連性は不明である。そこで本研究では、脳
領域毎および複数の脳領域にわたってミクログリア遺伝子発現の不均一性を
調べ、それらの不均一性と TLR4 リガンドであるリポポリサッカライド
(LPS) および慢性社会挫折ストレスによるミクログリア活性化との関連につ
いて検討した。
【方法】
単離ミクログリアは、C57BL/6 を遺伝的バックグラウンドにもつ CX3CR1EGFP マウスの、前頭前皮質、眼窩前頭前皮質、一次体性感覚野、側坐核、
視床下部、扁桃体、海馬から、FACS で EGFP 陽性細胞を回収し用意した。
マルチプレックス技術である CellPlex を用いて各脳領域から単離したミクロ
グリアを異なるバーコードで標識した。HEK293 様細胞(AAV-HEK)および
マウスミクログリア細胞株 N9 は、L-トリプシンにより単離し、同様に
CellPlex で標識した。これらの細胞は Chromium システムを用いたライブラ
リに供した後 、 HiSeq X でシーケンス解 析を行った 。 データ 解析は、
CellRanger でマッピング後に、Seurat 4 を用いて、クラスタリング及びサブ
クラスタリング、マーカー遺伝子の検出を行った。Gene Ontology (GO) エン
リッチメント解析は、マーカー遺伝子を対象として実施した。Gene Set
Enrichment Analysis (GSEA) は、各ミクログリア亜集団とその他集団の遺
伝子発現比の順位をもとに実施した。

初代ミクログリアは、CD11b ビーズによる MACS 法を用いて C57BL/6N
マウスから単離した。初代培養ミクログリアは、LPS で 4 時間刺激後に回収
した後、RNA を精製し、SMART-Seq v4 及び Nextera XT でライブラリを作
成し、HiSeq X でシーケンス解析を行った。
慢性社会挫折ストレスによる遺伝子発現変化は、慢性社会挫折ストレスに
供した野生型および TLR2/4 二重欠損マウス (TLR2/4-DKO) から単離した
ミクログリアの DNA マイクロアレイデータ (GSE115996) を解析し用いた。
【結果】
EGFP 発現細胞、N9 細胞、HEK-293 様細胞の特徴を調べるために、クラ
スタリング解析を行った。その結果、EGFP 発現細胞、N9 細胞、HEK-293
様細胞はそれぞれ異なる集団に分類された。EGFP 発現細胞はミクログリア
関連遺伝子を高発現し、中枢神経系マクロファージ関連遺伝子(CAMs)や好
中球関連遺伝子をほとんど発現しておらず、ミクログリアであることが示さ
れた。また、単離ミクログリアと N9 細胞のマーカー遺伝子は一部しか重複
しないこと、GO 解析の結果、単離ミクログリアは N9 細胞、HEK-293 様細
胞とは異なる GO term に関連した遺伝子を濃縮することから、単離ミクログ
リアと N9 細胞は異なる性質を持つことが示された。
単離ミクログリアの不均一性を調べるために、複数の脳領域から単離した
ミクログリアでサブクラスタリング解析を実施した。その結果、特徴的な遺
伝子発現を有する C0、C1、C2、C3 の 4 つのミクログリアの亜集団に分類さ
れた。このうち、C0 および C1 ミクログリアはミクログリアの大部分を占め
る連続した亜集団であり、C2 および C3 ミクログリアは少数細胞の亜集団で
あった。ミクログリア亜集団の機能を推測するために、Gene Set Enrichment
Analysis (GSEA) を行ったところ、各亜集団が有する特徴的な遺伝子発現は
異なる機能に偏ることが明らかになった。C0 ミクログリアは、ミトコンドリ
ア呼吸鎖複合体や電子輸送鎖の Complex I、III、IV、V をコードする遺伝子
が相対的に高発現しており、電子輸送活性が高いことが示唆された。C1 ミク
ログリアは、スプライソソームや RNA 安定性を制御する RNA 結合タンパク
質をコードする遺伝子が濃縮しており、mRNA 代謝が変化していることが示
唆された。C2 ミクログリアは、Ifit3 や Ifitm3 などの IRM に特徴的な遺伝
子を含むインターフェロン応答に関連する遺伝子が濃縮しており、インター
フェロン応答の亢進が示唆された。C3 ミクログリアはケモカイン反応に関連
する遺伝子が濃縮し、Ccl3 や Ccl4 など既報の CCL3/4 が高発現するミクロ
グリアに特徴的な遺伝子が含まれていた。これらの知見は、安静時脳では特
徴的な遺伝子発現を有する複数のミクログリア亜集団が存在し、これらは異
なる生物学的機能を持つ可能性を示唆する。さらに、各脳領域におけるミク

ログリア亜集団の分布を調べたところ、一次体性感覚野、前頭前皮質、眼窩
前頭前皮質、扁桃体では C0 ミクログリアが濃縮し、視床下部では C1 ミクロ
グリアが濃縮していた。側坐核および海馬は C0 ミクログリアと C1 ミクログ
リアが同程度含まれていた。
LPS および慢性社会挫折ストレスによって活性化されるミクログリア亜集
団を探索するために、これらの刺激がどのミクログリア亜集団のマーカー遺
伝子の発現を変化させるかを調べた。その結果、初代培養ミクログリアにお
ける LPS 刺激は C2 マーカー遺伝子の遺伝子発現を増加させ、C3 マーカー
遺伝子の遺伝子発現も増加させる傾向にあった。慢性社会挫折ストレスは
TLR2/4 非依存的に C1 マーカー遺伝子の発現を増加させ、TLR2/4 依存的に
C3 マーカー遺伝子の発現を増加させた。従って、LPS と慢性社会挫折ストレ
スはそれぞれ異なる C2 と C1 マーカー遺伝子を増加させるだけでなく、共通
して C3 マーカー遺伝子も増加させることが示された。
【考察】
本研究では、scRNA-seq 解析を用いて、電子輸送活性に関連する特徴的な遺
伝子発現を有する C0 ミクログリアおよび mRNA 代謝に関連する遺伝子発現
を有する C1 ミクログリアの亜集団を含む 4 つのミクログリア亜集団を同定
した。C0 と C1 ミクログリア亜集団の比率は脳領域によって変化し、この比
率の変化は特に大脳皮質と視床下部の間で認められた。これらの結果は、大
脳皮質から視床下部にわたり C0 ミクログリアと C1 ミクログリアが連続的
に分布し、これらのミクログリア亜集団の存在比率の違いがミクログリアの
脳領域特異性に寄与することを示唆する。少数細胞の亜集団である C2 ミク
ログリアと C3 ミクログリアのうち、C2 ミクログリアはすべての脳領域に分
布していたが、C3 ミクログリアは前頭前皮質と海馬でのみで検出した。これ
らのミクログリアは脳領域特異的に存在する亜集団である可能性があるが、
本解析では各脳領域当たりのミクログリア数が十分でないため、少数細胞の
亜集団である C3 ミクログリアを検出できていない可能性も考えられる。ま
た、本研究では LPS と慢性社会挫折ストレスは、それぞれ C2 および C1 ミ
クログリアの異なるミクログリア亜集団のマーカー遺伝子の発現を増加させ
ることを示した。視床下部は血液脳関門透過性が高いことから、慢性社会挫
折ストレスが視床下部で多く存在する C1 ミクログリアのマーカー遺伝子を
増加させることは、反復ストレスが血液脳関門の破綻と関連することを示唆
しているかもしれない。一方、TLR4 リガンドである LPS によって増加する
C2 マーカー遺伝子は、反復社会挫折ストレスによる TLR2/4 刺激の影響を受
けなかった。TLR4 シグナルの応答はミクログリアを取り巻く環境(培養条
件や神経細胞を含む他の細胞の有無など)により変化する可能性が考えられ

た。
【結論】
本研究では、scRNA-seq 解析を用いて、ミクログリアには複数の亜集団が
存在すること、このミクログリア亜集団の分布が脳領域で異なることを示し
た。さらに、LPS と慢性社会挫折ストレスはそれぞれ異なるミクログリア亜
集団を活性化させる可能性を示した。ストレスや神経炎症など様々な状況に
おけるミクログリア亜集団の役割やその変化のメカニズムを調べることで、
神経変性疾患や精神疾患におけるミクログリアを中心とした脳内微小環境変
化の実態に迫ることができるかもしれない。

神戸大学大学院医学(
系)
研究科(博士課程)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
受付番号

I
甲 第 3279号

氏 名

三島 零

安静時マウス脳における特徴的な遺伝子発現を有するミ
クログリア亜集団の脳領域不均一性
論文題目 I

M
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主 査
審査委員

Examiner

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fExaminer
副 査

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副 査

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1
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r

和応諺羞


喜条 帆》

\付心

(要旨は 1
, 000字∼ 2, 000字程度)

【背景 】
中枢の免疫担当細胞であるミクログリアは 、安静時では絶えず脳 実質を監視 し
、 神経
回路の発達や可塑性に寄与する 。一方で神経変性疾患や精神疾患、加齢に伴い 、ミクログ
リアはその性質を変化 させ、炎 症性メディエーターの分泌や貪食を介して神経機能に影
響を及ぼす。近年 、シングルセル RNAシーケンス (
s
cRNA
s
e
q
) により、 神経変性疾患に
おけるミクログ リアの トランスクリプ トームの不均一性が示され、ミクログリア亜集団
である疾患 関連ミクログ リアが特定された。 インターフェロン応答遺伝子が高発現する
ミクログリアやケモ カイン CCL3/
4 が裔発現するミクログリアである少数細胞 の亜集団
も特定 され、 これらは老化とともに増加する ことが示された。多数細胞の亜集団の不均
一性は従来の遺伝子発現解析 (RNA-s
e
q
) で示されてきた脳領域特異性に寄与する可能
性が示唆されている 。
慢性ス トレスなどの環境からの刺激は 、 自然免疫受容体 である Tol様受容体 2および
4(TLR2
/
4
) を介してミクログリアを活性化することが示されている 。 しかしながら 、安
静時の脳におけるミクログ リアの不均一性を複数の脳領域にわたって一細胞レベルで検
討 した報告は少なく、ス トレスによるミクログリア活性化 と不均一性の関連性は不明で
ある。そこで本研究では 、脳領域毎および複数の脳領域にわたってミクログリア遺伝子
発現の不均一性を調べ、それらの不均一性と TLR4 リガンドであるリポポリサッカライ
ド (LPS)および慢性社会挫折ストレスによるミクログリア活性化との関連について検
討した。

結 果】
CX3CR1-EG
FPマウスの前頭前皮質、眼商前頭前皮質、一 次体性感覚野、側坐核、視床
下部、扁桃体、海馬 から単離した EGFP発現細胞、マウスミクログリア細胞株 の N9細

、 HEK-293 様細胞にマルチプレックス技術である Ce
l
l
P
l
exを用 い て個別に標識し 、
scRNA-seqを行った。クラスタリング解析の結果、 EGFP発現細胞、 N9細胞、HEK-293
様細胞はそれぞれ異なる集団に分類された。EGFP発現細胞はミクログリア関連遺伝子を
高発現し 、ミクログリアであることが示された。また、単離ミクログリアと N9細胞のマ
ーカー遺伝子は一部しか重複しないこと、 GeneO
n
t
o
l
o
g
y(GO)エンリッチメント解析の
結果 、単離ミクログリアは N9細胞、 HEK293様細胞とは異なる GOt
e
r
mに関連した遺
伝子を濃縮することから、単離ミクログ リアと N9細胞は異なる性質を持つことが示さ
れた。
単離ミクログリアの不均一性を調べるために、複数の脳領域から単離したミクログリ
アでサブクラスタリング解析を実施した。 その結果 、それぞれ異なる機能に関連する特
徴的な遺伝子発現を有する CO、Cl、C2、C3の 4つのミクログリアの亜集団に分類され
た。 この結果は 、安静時脳では特徴的な遺伝子発現を有する複数のミクログリア亜集団
が存在し、これらは異なる生物学的機能を持つ可能性を示唆する 。さらに、各脳領域にお
けるミクログリア亜集団の分布を調べたところ 、COと Clミクログリア亜集団の比率は
脳領域によって変化し 、 この比率の変化は特に大脳皮質と視床下部の間で認められた。
この結果は、大脳皮質から視床下部にわたり COミクログリアと Clミクログリアが連続
的に分布 し、これらのミクログ リア亜集団の存在比率の違いがミクログリアの脳領域特
異性 に寄与することを示唆する 。

LPS および慢性社会挫折ストレスが関与するミクログリア亜集団を探索するために、
これらの刺激によるミクログリア亜集団のマーカー遺伝子 の遺伝子発現変化を調べた。
その結果、初代培養ミクログリアにおける LPS刺激は C2マーカー遺伝子 の遺伝子発現
を増加させ、C3マーカー遺伝子の遺伝子発現も増加させる傾向にあった。慢性社会挫折
/
4非依存的に Clマーカー遺伝子の発現を増加させ、 TLR2
/
4依存的に
ス トレスは TLR2
C3マーカー遺伝子の発現 を増加させた。従って 、LPSと慢性社会挫折ストレスはそれぞ
れ異なる C2 と Clマーカー遺伝子を増加させるだけでなく、共通して C3マーカー遺伝
子も増加させることが示された。

結論】
本研究では s
cR
NAs
eq解析を用いて、ミクログリアには複数の亜集団が存在すること 、
このミクログリア亜集団の分布が脳領域で異なることを示した。 さらに 、LPS と慢性社
会挫折ストレスが異なるミクログリア亜集団を活性化することを示唆した。今後ストレ
スや神経炎症など様々な病態におけるミクログリア亜集団の役割やその変化のメカニズ
ムを調べることで、精神・神経疾患におけるミクログリアを中心とした脳内微小環境変
化の実態に迫ることが期待できる 。
以上、本研究は、安静時脳内におけるミクログリアの亜集団とそれらの脳内分布と刺
激応答の選択性を示したものであり、脳内恒常性維持および精神 ・神経疾患病態の分子
細胞生物学的機序を理解する上で重要な貢献をしたものとして価値ある集積であると認
める 。 よって、本研究者は、博士(医学)の 学位を得る資格があると認める 。

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