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大学・研究所にある論文を検索できる 「ADHD患者由来のiPS細胞から分化させた終脳オルガノイドでみられた大脳皮質の神経発生における変化」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

ADHD患者由来のiPS細胞から分化させた終脳オルガノイドでみられた大脳皮質の神経発生における変化

張, 丹夢 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Telencephalon organoids derived from an
individual with ADHD show altered
neurodevelopment of early cortical layer
structure

張, 丹夢
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8686号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100485870
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)

学位論文の内容要旨

Telencephalon organoids derived from an individual with ADHD show
altered neurodevelopment of early cortical layer structure
ADHD 患者由来の iPS 細胞から分化させた終脳オルガノイドでみられた大脳皮質
の神経発生における変化

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
精神医学

(指導教員:菱本 明豊教授)


丹夢

ADHD 患者由来の iPS 細胞から分化させた終脳オルガノイドでみられた
大脳皮質の神経発生における変化
研究背景と目的:
注意欠如・多動性障害(ADHD)は神経発達症の一つで、注意・集中の困
難、高い衝動性、多動を示すことが多い。患者の症状は乳幼児期から観察さ
れ、成人まで持続することが多い[Agnew-Blais et al., 2016; Hinshaw, 2018]。
ADHD はの最も遺伝性が高い神経精神疾患の 1 つとして知られているが、[Lee
et al., 2019; Thapar, 2018]、その病態は依然不明である。
過去の研究では ADHD 患者の大脳皮質に変化がある事が報告されている
[Bernanke, 2022]。前頭前皮質の構造変化と機能の低下は情緒、反応抑制と注
意力などに重要な役割を果たしている[Arnsten & Rubia, 2012; Dark et al., 2018]。
MRI を用いた研究では、ADHD 児の前頭前皮質の成熟は健常対照群と比べて
有意に遅いと報告されている[Shaw et al., 2007]。大脳皮質の形態変化、特に前
頭前皮質の発生と成熟は、ADHD の発症メカニズムに重要な役割を果たして
いる可能性が考えられる。
多くの場合、ADHD 患者の死後脳は使用できず、動物モデルは ADHD の臨
床的な表現型を完全に表現することはできない[de la Peña et al., 2018; Kantak,
2022]ことなどが、ADHD に関する研究を困難にしている。近年、人工多能性
幹細胞(iPS 細胞)を 3 次元組織に分化させたオルガノイド(organoid)が、
脳を含むヒトの臓器の発生過程を実験的に再現できると報告されている。こ
れらは ADHD の原因となるメカニズムを解明する可能性があると考えられる。
そのため、私たちは先行研究で用いられた無血清凝集浮遊培養法(Serum-free
Floating culture of Embryoid Body-like aggregates with quick reaggregation, SFEBq
法)[Kadoshima et al., 2013, Eguchi et al., 2018]を用いて大脳、特に将来の大脳
皮質になる終脳のオルガノイドを作成し、ADHD において終脳で起こる神経
発生の変化を明らかにすることを目的とし、実験を行った。

研究方法:

1

国際的な診断基準である DSM−IV−TR に従い ADHD と診断された患者(18
歳、男性)から提供された末梢血単核球を用いて iPS 細胞を作成した。健常
対照群の iPS 細胞は理化学研究所バイオリソース研究センター(RIKEN BRC)
から提供を受けた。SFEBq 法を用いて iPS 細胞を大脳皮質様組織に分化させ、
凍結切片を作成して免疫染色で形態的な解析を行った。

研究結果:
分化 35 日の組織で、終脳特異的に発現する FOXG1 が陽性となった。これ
らには神経特異的に発現する TUJ1、幹細胞特異的に発現する SOX2 が陽性と
なる細胞からなる層が含まれており、大脳皮質の初期の神経発達で観察され
る皮質板(Cortical plate, CP)や脳室帯(Ventricular zone, VZ)に相当する構造
と考えられた。
次に、大脳皮質様構造の層構造について検討した。層構造全体の厚さであ
る神経上皮様構造(NE)の厚さは、分化 35 日目には ADHD と健常群との間
に有意な差はなく、分化 56 日目には ADHD の方が健常群よりも有意に薄い
結果となった(p < 0.001)。さらに、健常群の NE は分化 35 日目から 56 日目
にかけて有意に増加していたが(p < 0.001)、ADHD では NE の厚さに有意な
変化は見られなかった。この結果は、ADHD では NE の成長が見られないこ
とを示唆している。
さらに、NE 中の CP、VZ について検討した。CP の厚さは分化 35 日目と
56 日目の両方で、ADHD の方が健常群よりも有意に薄かった(35 日目:p <
0.05;56 日目:p < 0.001)。一方、分化 35 日目には、ADHD と健常群の VZ
の厚さに有意な差は見られなかったが、56 日目には、ADHD の VZ は健常群
より有意に薄かった(p < 0.01)。分化 35 日目から 56 日目の間の厚さの比較
では、CP の厚さは ADHD と健常群の両方で有意に増加していたが(健常群:
p < 0.001; ADHD: p < 0.001)、VZ の厚さは ADHD では有意な増加は認められ
なかった(健常群:p < 0.001; ADHD: p > 0.05)。
次に、大脳皮質第 6 層および第 5 層の神経細胞に特異的に発現する TBR1

2

および CTIP2 が発現している細胞の数を解析した。分化 35 日目には、ADHD
で CTIP2、および TBR1、CTIP2 を共発現している細胞の数が健常群と比較し
て有意に多かった(CTIP2:p < 0.05; TBR1 と CTIP2 の共発現:p < 0.05)。ま
た、それらの細胞の数は健常群では分化 35 日目から 56 日目の間に有意に増
加したが(p < 0.001)、ADHD では有意な増加は認められなかった。
これまでの結果から、ADHD では神経細胞からなる細胞層は薄い一方で神
経細胞数は多く、さらにその後の神経細胞数や細胞数の増加、成長は乏しい
ことが示された。これらの結果を生じる原因として、神経細胞の増殖とアポ
トーシスに変化が生じていると仮説を立て、検討を行った。有糸分裂中の細
胞で陽性となる phospho-histone H3(pHH3)の発現を解析したところ、健常
群では分化 35 日目から 56 日目までの間の細胞分裂数に有意な変化はなく、
神経幹細胞の増殖が続いていることを示された。一方、ADHD では、分化 35
日目と 56 日目の間で pHH3 の発現が有意に減少しており(p < 0.05)、細胞分
裂数が減少していることが示された。
さらに、神経幹細胞の自己複製である対称分裂と、神経幹細胞から神経細
胞への分化である非対称分裂について検討した。細胞分裂面の角度によって
対称分裂、非対称分裂を定義し、その割合を解析した。分化 35 日目から 56
日目にかけて、健常群のみ細胞分裂の割合に有意な変化が認められ(p <
0.001)、非対称分裂が増加し、対称分裂が減少していることが示された。分化
56 日目には、健常群と ADHD との間で対称分裂と非対称性分裂の割合に有意
な違いが認められた(p < 0.001)。すなわち、健常群では ADHD より非対称性
分裂が多く、対称分裂が少なかった。これらの結果は、発生早期において、
健常群では細胞分裂の割合が徐々に対称分裂から非対称分裂へ、すなわち神
経幹細胞の自己複製から神経細胞への分化へと移行していくが、ADHD では
それが起こらないことを示唆している。
最後に、アポトーシスについて検討した。細胞のアポトーシスを示す
cleaved-caspase 3(CC3)と細胞分裂を示す Ki67 の発現を解析した。健常群で
は分化 35 日目から 56 日目の間に Ki67 の発現に有意な変化はなかった。一方、

3

ADHD では分化 35 日目から 56 日目の間に Ki67 の発現が有意に減少していた。
健常群および ADHD では、CC3 の発現量は分化 35 日目から 56 日目にかけて
有意に減少しており(健常群:p < 0.05; ADHD:p < 0.001)、また、分化 35 日
目での CC3 の発現は ADHD で有意に多かった(p < 0.01)。これらの結果は、
ADHD では発生初期に細胞分裂数が減少し、さらにアポトーシスも多いこと
示している。これらの細胞増殖とアポトーシスの変化が、神経細胞数や層構
造の変化を引き起こしている可能性が考えられた。

研究考察:
これまで ADHD に関する研究では脳機能イメージングなど in vivo での研究
が中心であった。我々の研究は、iPS 細胞を用いて ADHD の病態を in vitro で
検討することを示した最初の研究である。
ADHD に関連する遺伝子の神経分化に対する作用は、主に神経細胞の増殖、
遊走、シナプスの形成とシナプス可塑性などに現れている[Ribasés, 2008;
Rivero, 2013]。本研究では、ADHD モデルでは CP に多くの神経細胞が含まれ
ており、対照群より多くのアポトーシスが見られたことから、ADHD では神
経細胞の発生と細胞死の両方が多いことが示唆された。ADHD 患者の神経細
胞は、健常群の神経細胞より脆弱であるか、神経幹細胞への分化が早く、未
熟な神経細胞が生まれている可能性が考え得る。
また本研究では神経幹細胞の自己複製と分化に変化が生じていることが示
された。神経幹細胞は対称分裂による自己複製で数を増やし、次に非対称分
裂により神経細胞に分化し、大脳皮質の形成を制御する[Casas Gimeno &
Paridaen, 2022; Delaunay et al., 2017]。本研究の結果は、ADHD 患者由来のオル
ガノイドでは対称細胞分裂から非対称細胞分裂への移行が変化しており、大
脳皮質の発生における制御が適切に行われていない可能性が考えられる。

研究結論:
本研究で、ADHD 患者の大脳皮質において神経幹細胞の自己複製、神経細

4

胞への分化と、それらによる大脳皮質の形成が変化していることを示した。
我々が作成したオルガノイドは ADHD 患者の大脳皮質の発生を実験的に再現
した生物モデルになり得ると考えられる。ADHD の病態解明のためには更な
る研究が求められるが、本研究の結果は将来の ADHD 研究に貢献し得るもの
と考えられる。

5

神戸大学大学院医学(系)
研究科(博士課程)

論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
受付番号

甲 第 3288 号

氏 名

張丹夢

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ADHD患者由来のiPS細胞から分化させた終脳オルガノイドでみら
論文題目

1れた大脳皮質の神経発生における変化

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内匠



児玉

裕三

野津

寛大

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fExami
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審査委員

Exam
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Vi
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e・exam
i
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(要旨は 1, 000字∼ 2, 000字程度)

本研究は神経発達症の一つである注意欠如 ・多動性障害 (A
DHD) に注目し、その神経
発生を実験的に再現し、形態的な解析を行ったものである。国際的な診断基準である
DSM
-IV
-T
Rに従い ADHDと診断された患者 (
1
8歳、男性)から提供された末梢血単核球
を用いて i
PS細胞を作成し、これを分化誘導させ、健常対照群と比較された。
分化 3
5日の組織で、終脳特異的に発現する FOXGlが陽性となり、さらに神経特異的に
発現する TU
J
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、 幹細胞特異的に発現する SOX2が陽性となる細胞からなる層が含まれてお
り、皮質板(Co
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,CP)や脳室帯 (
V
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i
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,VZ)に相当する構造と考えられ
た。大脳皮質様構造全体の厚さである神経上皮様構造 (NE) の厚さは、分化 3
5 日目には
ADHDと健常群との間に有意な差はなく、分化 56日目には ADHDの方が健常群よりも有
意に薄い結果となった(
p<0
.
0
0
1)
。さらに、健常群の NEは分化 3
5日目から 5
6日目にか
けて有意に増加していたが(p<0
.
0
0
1)、ADHDでは NEの厚さに有意な変化は見られなか
った。 CPの厚さは分化 3
5日目と 56日目の両方で、 ADHDの方が健常群よりも有意に薄か
った (
35日目 :p<0
.
0
5;56日目 :p<0.
0
0
1)。一方、分化 3
5日目には、 ADHDと健常群
の VZの厚さに有意な差は見られなかったが、 5
6日目には、 ADHDの VZは健常群より有
意に薄かった(
p< 0
.
0
1)
。分化 35日目から 5
6日目の間の厚さの比較では、 CPの厚さは
ADHDと健常群の両方で有意に増加していたが(健常群 :p<0
.
0
0
1
;ADHD:p<0
.
0
0
1
)、VZ
の厚さは ADHDでは有意な増加は認められなかった(健常群 :p<0.
0
0
1;
ADHD:p>0
.
0
5
)。
大脳皮質第 6層および第 5層の神経細胞に特異的に発現する TBRlおよび CTIP2が発現し
ている細胞の数の解析では、分化 3
5日目には、 ADHDで CTIP2、および TBRl、CTIP2を
共発現している細胞の数が健常群と比較して有意に多かった (CT
I
P
2:p < 0
.
0
5;TBRl と
CTIP2の共発現:p< 0.
0
5)
。また、それらの細胞の数は健常群では分化 35日目から 56日
目の間に有意に増加したが(
p<0
.
0
0
1
)、ADHDでは有意な増加は認められなかった。 ADHD
では神経細胞からなる細胞層は薄い一方で神経細胞数は多く、さらにその後の神経細胞数
や細胞数の増加、成長は乏しいことが示された。

これらの結果を生じる原因として 、神経細胞の増殖とアポトーシスについて検討が行わ
れた。 ph
o
s
ph
o
h
i
s
t
o
n
eH3 (
pHH3)の解析では健常群では分化 3
5日目から 56日目までの細
胞分裂数に有意な変化はなく、一方 ADHDでは分化 3
5日目と 5
6日目の間で pHH3の発現
が有意に減少しており(
p<0
.
0
5
)、細胞分裂数が減少していることが示された。さらに、
神経幹細胞の自己複製である対称分裂と、神経幹細胞から神経細胞への分化である非対称
分裂について検討された。分化 3
5日目から 56日目にかけて、健常群のみ細胞分裂の割合
に有意な変化が認められ(
p<0
.
0
0
1
)、非対称分裂が増加し、対称分裂が減少していること
が示された。分化 56日目には、健常群と ADHDとの間で対称分裂と非対称性分裂の割合
に有意な違いが認められた(
p< 0.
0
0
1
)。 されにアポトーシスについての解析ではと Ki
6
7
の発現を解析した。健常群では分化 35日目から 56日目の間に細胞分裂を示す Ki
67の発現
に有意な変化はない一方、 ADHDでは分化 3
5日目から 5
6日目の間に Ki
67の発現が有意
に減少していた。健常群および ADHDではアポ トーシスを示す c
l
e
a
v
e
d
c
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pa
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e3 (CC3)
の発現量は分化 3
5 日目から 56 日目にかけて有意に減少しており(健常群 :p< 0
.
0
5;
ADHD:p<0
.
0
0
1
)、また、分化 3
5日目での CC3の発現は ADHDで有意に多かった(
p<0
.
0
1)

これらの結果から、 ADHDでは発生初期に細胞分裂数が減少し、さらにアポ トーシスも多
いことが示された。

以上、本研究では、 ADHD患者の大脳皮質において神経幹細胞の自己複製、神経細胞ヘ
の分化と、それらによる大脳皮質の形成が変化していることが示された。本研究で作成さ
れたオルガノイドは ADHD患者の大脳皮質の発生を実験的に再現した生物モデルになり
得ると考えられ、将来の ADHD研究に寄与し得る価値ある業績であると認められる 。よっ
て、本研究者は、博士(医学)の学位を得る資格があると認める 。

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