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大学・研究所にある論文を検索できる 「放射線治療を施行した頭頸部癌患者における放射線性顎骨壊死に対する歯科介入:単一群前向き研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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放射線治療を施行した頭頸部癌患者における放射線性顎骨壊死に対する歯科介入:単一群前向き研究

Muraki, Yumi 神戸大学

2020.09.25

概要

【緒言】
放射線性顎骨壊死 (Osteoradionecrosis of the jaws: 以下ORN) は頭頸部癌に対する放射線治療 (Radiation therapy: 以下RT) の深刻な晩期有害事象の一つである。進展例では顎骨の病的骨折や皮膚瘻・排膿・激しい疼痛・栄養摂取障害等を発症し、癌治癒後の患者の生活の質 (Quality of life : 以下QOL) を著しく損なうことがある。発症率は数十年前には約 20%と非常に高かったが,近年放射線照射技術の進歩等により5%前後にまで低下している。具体的には 2016~2017 年の間に報告された強度変調放射線治療 (Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT) 症例のみを含んだ大規模コホート研究において発症率は 3.9~6.2%であった。また IMRTと RT 前後の歯科介入により ORN の発症を完全に予防できたとする前向き研究も存在する (症例数 : 176・RT後経過観察期間 : 中央値 34 か月)。

ORN は自然発症することもあるが、最も良く知られた誘因は抜歯等の外的侵襲である。よって RT 後の抜歯を回避するための RT 前予防的抜歯の重要性が示唆されて来た。一方、RT 前の抜歯が逆に ORN 発症を有意に増加させ(症例数:190・ORN発症率:15.3%)、予防的抜歯本数が多いこと(8 本以上)が RT 後の患者の QOL 低下に有意に相関していたとの報告もある。

RT 前の頭頸部癌患者における歯科介入の有用性を前向きに評価した報告は少ない。我々は、以前血液悪性腫瘍に対し造血幹細胞移植や化学療法が施行されている易感染性患者における抜歯基準を設けたが、今回同様に、頭頸部癌患者における ORN 発症予防や発症時の治療方法を検討していくため当科独自の抜歯基準を設け、予防的歯科介入を行った単一群前向き研究を施行した。

【対象と方法】
対象は 2015 年 7 月から 2016 年 7 月までに神戸大学医学部附属病院耳鼻咽喉頭頸部外科および歯科口腔外科において RT を施行した頭頸部・口腔癌患者 88 人である。全患者において、RT 前に歯科口腔外科で口腔内環境を抜歯基準に基づいて評価し、抜歯が必要な予後不良な歯を認めた場合、RT 前に予防的抜歯を施行、RT 前後にわたり定期的な口腔内清掃を施行した。

我々が設けた独自の RT 前抜歯基準を以下に示す:
• 周囲歯肉に炎症があり、8mm 以上の歯周ポケットを有する辺縁性歯周炎罹患歯
• 周囲組織に発赤,疼痛,自発痛,腫脹などの症状を呈する、もしくは画像所見にて5mm以上の根尖透過像を有する根尖性歯周炎罹患歯
• 現状で炎症症状がある、もしくは炎症症状の既往がある埋伏歯
• 大きなう蝕を伴う保存不可能なう歯
癌に近接している歯は抜歯時の出血や腫瘍播種のリスクに鑑み保存とした。

放射線照射範囲において、詳細なリスク分類を設定したものを以下に示す:
• 高リスク部位:口腔癌患者および上中下咽頭癌患者の上下顎骨・鼻腔癌患者および副鼻腔癌患者の上顎・顎下腺癌患者およびレベルⅡリンパ節転移患者の下顎骨・耳下腺癌患者の患側上下顎骨。
• 低リスク部位:喉頭癌患者、甲状腺癌患者および頸部照射のみの患者。

高リスク部位に上記の抜歯基準を満たす歯を認めた場合抜歯、低リスク部位では上記基準を満たしても、患者の希望に合わせ原則として保存とした。RT 後半年までは 3 か月ごと、その後は 1 年、1.5 年、2 年と経過観察した。経過観察時には、疼痛などの症状の出現した歯を確認し、レントゲン撮影を 1 年ごとに実施した。症状出現時にも原則として対症療法を行ったが、症状が消失しない場合には抜歯した。RT 後 2 年間の経過観察中に口腔内に顎骨の露出を認めた症例の頻度(顎骨露出率)と、顎骨露出が RT 後 2 年の時点で残存していた症例の頻度を評価した。

【結果】
20 歳未満患者 1 例、2 年経過観察中に転院した患者 16 例、RT 未完了で死亡した 4例は除外した。計 67 例の内 39 例で RT 前での抜歯を要した。RT 前抜歯本数は 144本、抜歯理由の内訳は重度歯周炎:92 本(64%)、根尖性歯周炎:10 本(7%)、智歯周囲炎:6 本(4%)、保存不可能なう蝕:36 本(25%)であった。4 例で RT 後計7本の抜歯を実施した。

対象患者 67 例の 2 年経過観察中 5 例で顎骨の露出を認め、顎骨露出率は 7%であった。5 例中 3 例で RT 前に予防的抜歯が施行され、予防的抜歯部から骨露出が生じた症例は 1 例のみであったため、予防的抜歯に関連した顎骨露出は 3%(1/39 例)であった。
以下に顎骨露出を認めた各症例の詳細を示す。

Case5(下咽頭癌患者)は RT 前に埋伏智歯を抜歯、抜歯窩は治癒したものの、瘻孔の残存、排膿が継続した。Case4(中咽頭癌患者)では RT 後に施行した抜歯窩の治癒不全と骨露出の遷延化を認めた。Case1(中咽頭癌患者)は RT 前診断では予防的抜歯の適応と判断されなかった根尖性歯周炎から発症し、顎骨露出を認めた。Case2(下咽頭癌患者)は照射範囲内の舌側の顎骨が露出したが、歯との関連性はなかった。 Case3(中咽頭癌患者)では、RT 前には症状を認めなかった埋伏智歯部が、RT 後より激しい疼痛やオトガイ神経支配領域の知覚麻痺・開口量 20mm 以下となる開口障害を伴う感染を認め、全身麻酔下での抜歯および腐骨除去術を要した。顎骨露出を認めた 5 例全例で、腐骨除去や洗浄、抗菌薬使用による消炎処置などにより顎骨露出は治癒した。その結果、RT 後 2 年経過した時点で顎骨露出が残存していた患者は認めなかった。

【考察】
頭頸部癌患者における放射線治療の有害事象である ORN の予防および発症時の治療方法の基準を検討することは我々口腔外科医にとって今後の重要な課題である。

上述したが、Ben-David らによると、ORN リスク低下のためには歯科介入の重要性および IMRT 使用が有用であると報告している。Schuurhuis らは RT 後 2 年間の前向き研究を実施しており、RT 前に治療が必要な歯の処置を施行しているが顎骨壊死発症率は 7%であったと報告している。Kojima らは、根尖性歯周炎に罹患している下顎大臼歯が ORN の発症リスクとなる可能性を指摘している。Beech らは、①健全歯の抜歯は RT 後の患者の QOL 低下につながるため抜歯すべきでない、②RT 前に抜歯すべきか決定が困難な場合は対症療法(根管治療など)を選択すべきこと、③健常者でも抜歯の必要性があるほどの歯は迷わず抜歯すべきであると報告しているが、最適な抜歯の時期に関しては検討されていない。Schuurhuis らの抜歯基準は、RT 前に根尖性歯周炎罹患歯に関しては、根管治療を実施するか除去する、歯髄に近接するほどの深いう蝕や 6mm 以上の歯周ポケットを有する、重度の動揺もしくは齲蝕が歯肉縁下まで進行している、根尖部腫瘍がある、失活歯、炎症症状のある骨被覆のない智歯、嚢胞のある歯に関しては抜歯としている。我々の抜歯基準は、過去のものと類似しているものの、より非侵襲的である。

本研究では、Case1 では保存した根尖性歯周炎罹患歯部位から骨露出が発生した。 Case3 では RT 前予防抜歯をしなかった部位から骨露出、Case5 では RT 前予防抜歯をした抜歯窩相当部に排膿を伴う瘻孔が発生した。また、Case2 のように顎骨露出は歯と無関係の部位にも自然発症することから、RT 前抜歯のみでは完全に予防できないかもしれない。よって RT 前予防的抜歯は、侵襲的ではなく健常者に対するのと同程度の基準に依拠すれば充分ではないかと考える。

本研究では RT 後 2 年経過後の ORN 罹患率は 0%であった。いずれも局所麻酔下での腐骨除去や頻回の局所洗浄等の保存的治療で顎骨露出は治癒したことからも、ORNの発症を予防するためには RT 前の予防的抜歯と同様に RT 後の丁寧な経過観察や顎骨露出を認めた際の適切な早期介入が必要である可能性が示唆された。我々の抜歯基準は上述した先行研究のものとは少し異なるが、本研究でも RT 後 2 年間の顎骨露出発症率は 7%であった。これは、最近の他施設における RT 前に歯科処置を済ませ RT後 2 年間を前向きに評価した研究における ORN 発症率(7%)と類似した結果であり、我々のプロトコルの妥当性を支持する結果と考える。Nabil、Samman らによると、放射線照射後の 2~3 年で ORN の自然発症リスクが高く、照射後 2~5 年で、照射後の抜歯を含む侵襲的処置からの ORN 発症率が高いと報告している。Schuurhuisらは、照射後 2 年以上の経過観察を推奨している。しかし、我々の研究では、まだ 2年という短期間での研究結果にすぎず、今後も経過観察を継続する必要がある。対象者数も少なく、今後は対象患者数を増やして、長期的研究継続を実施し、評価を継続すること、患者の QOL にも着目して研究継続していくべきであり、RT 前予防的抜歯基準と同様に適切な RT 後歯科介入プロトコルを検討していく必要があるだろう。

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